日曜朝１０時３０分。
日曜の朝。
心の中は陽気だけど、空はあいにくの曇り空。
さわさわ、さわさわ。
冬の冷たくて強い風が吹いてきて。
せっかくのお気に入りの服も髪の毛も風にひっぱられて、乱れてしまいそう。
せっかく朝早く起きて、がんばってきちんと決めてきたのに。
早く、来てほしいです。
早く。
「おーっす」
「え？」
すぐ後ろから、聞きなれた声。
どうして、ちゃんと普通に来てくれないんですか？
「祐一さん」
「どうした？」
そんな不思議そうな顔で見ないでください。
わたし、怒ってるんですから。
「どうしたじゃないです」
「なにかあったのか？」
「遅刻です。大遅刻ですよ」
「約束の時間は？」
「１０時です」
「今は？」
「１０時半です」
「名雪に比べればマシだろ？」
他人と比べないでください。
それに、待たされたのはわたしなんですよ。
「あいつと待ち合わせたら、２時間はざらだぞ」
それは、お姉ちゃんからよく聞かされるけど。
それとこれとは話が別です。
「ひどいです」
「まぁ、悪かった」
絶対に、最初からは素直に謝ってくれない祐一さん。
女の子がこんなに寒い中で待ってたのに、絶対にひどいです。
だから。
「嫌ですよ。許してあげません」
ぷん、だ。
本当に謝ってくれるまでダメですからね。
「悪かったって。ちょっと秋子さんに頼まれたからさ」
秋子さんに？
でも、ちゃんと断ってくれてもいいと思う。
デートの約束より、秋子さんのほうが大事なんですか？
「なにをですか？」
「名雪を起こすこと」
「ひどいです」
「素直に謝る。許してくれ」
絶対に許してあげません。
私とのデートは、名雪さんが起きることよりも大事なんですね。
「ホントに許してくれって。あいつ、今日が大会らしいんだよ」
大会、陸上のでしょうか。
「で、このままだと危ないからって起こすの頼まれたんだよ」
「でも……」
私はひとつ疑問があります。
「大会って、朝早いんじゃないですか？」
「すごく早い」
「何時ですか？」
「９時集合だったらしい」
「起こしたのは？」
「起きたのが１０時だったから１０時過ぎくらいか」
「ひどいです」
「え？ あ……謀ったな」
そういう時は素直に寝坊って言ってください。
「もう、今日は許してあげません」
頭をおさえてる祐一さんを無視して、私は駆け出しました。
「おい、栞っ」
後ろからおっかけてきます。
「こら、待てっ」
思いっきり走っても、やっぱり祐一さんのほうが速いです。
「ほら、そんなに怒るなって」
「嫌です。祐一さんのバカ」
「バカって……。だから、ホント悪かったって」
「さっきから全然悪そうじゃありません」
「はぁー。解った。今日は栞の好きなもの全部おごってやる」
「んー。それだけじゃダメです」
遅れたのと、嘘ついた罰です。
それだけじゃ許せない。
「じゃぁ、今日のデートは栞の行きたいとこ連れてってやる」
「んー。そうですねぇ。もうちょっとですね」
「おいおい」
「ダメですよ、ちゃぁんと反省してください」
「はぁー。解った解った。じゃぁ、これが最後のお詫びな」
「はい？」
これってなにかな？
「え？」
そう思った時、祐一さんが私の肩を掴みました。
「栞……」
祐一さんの顔が、どんどん、私に近づいてきて。
ベチッ
「ぶっ」
「そんなことでごまかさないでください。嫌いですっ」
「鼻、鼻、鼻だってば」
「これも罰ですよ、祐一さん」
「あいたーっ。ここまでするか!?」
もうキスじゃごまかされませんよ、祐一さん。
「じゃぁ、最後は私が出しますね」
だから、罰の最後は。
こうして。
「今日は、ずーっと手を繋いでてくれますよね？」
「え？」
断っても、絶対放してあげません。
だって、これは重ーい罰、ですから。
「お、おい。栞？」
「ふふ。今日は最後までずーっと、一緒ですよ。祐一さん」
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