『ｆｌｏｗｅｒ』
花が、美しいと最初に言ったのは誰だったのだろう？
それは人間にとって、とても素晴らしいことだ。
初めてその美しさを見つけた人はえらい、と彼はよく思う。
彼は花が好きだ。
どのあたりが好き、と聞かれても彼ははっきり答えることはできないが、多分、その気高さをその身で支える茎や葉が成長していく過程と、最後に無邪気に笑って見せてくれるような花が咲く瞬間を見るのが好きなのだろうと、彼はいつも自分の中でなんとなく気づいている。
さすがに、どこぞの南国の島にあるような、不気味で馬鹿でかい花に対してはちょっと嫌悪感を感じるが、やっぱりどんな花でも彼は好きなのだった。
彼は、彼が通っている学校で、いつも自分で花の世話をしている。
クラスの後ろの、窓際に置かれたひとつ花瓶。
いつもカーテンの隙間から差し込む光に当てられているそれは、目立たないながらも穏やかな雰囲気と心地よい緊張感をクラスに同時に与えてくれている存在だった。
クラスの他の者は、その花をいったい誰が世話しているのか知らない。
彼はいつも、皆が登校してくるよりも前に、朝早く来て水を替えたり適当に見栄えを整えたりしている。
誰にも言っていないのは、気恥ずかしいから、というのの他にも、ただなんとなく言わずにいるのだった。
彼は一応、クラスでは "おふざけ" 者で通っている。
最近、彼のクラスに転校してきたある男子生徒と含めて、クラスでもトップの痴れ者の名を欲しいままにしていたりもする。
彼の学年である二年生の間でも、けっこう有名なほどだ。
例えばそんなギャグの中で
「この花、俺が育ててるんだぜ」
とかいって、"本当のこと" を言ってみたとしても、
「だはははは、そりゃケッサクだ！ じゃあ俺は、職人に弟子入りして、この花瓶を山小屋に篭って焼き上げたってところだな」
とか爆笑されただけで、誰も本気にはしない。
まあそんなわけで、誰がその花を管理しているのか知っているのは彼のみ。
同じクラスの者たちも、ただなんとなくきれいな花がある、くらいにしか思っていない。
クラスの誰もそのことを気にしていないのだから、知られることなんてありえないのだった。
そしてその日も、彼は枯れかけた花を代えるために、普通の登校時間よりも早く教室に来て準備していた。
ただし、その日はいつも使っている花屋の主人が寝坊したとかで、花を用意するのが少しばかり遅れていた。
枯れている花を捨てたり、花瓶を水道場まで持っていって洗浄したり、外見が悪くならないように葉っぱを適度にハサミで切りそろえたりと、彼はいつもの作業をこなしていく。
今日も誰もこないうちに、とテキパキ作業を進めていって、ちょうど新しいバラを花瓶に挿し終えたところだった―――
「―――あら、北川君。なにやってるの？」
…………！！
背中からいきなり声を掛けらた。
俺は慌てて伸ばしていた手を引っ込める。
「よ、よう」
そのまま、ぎりぎりがりがりと音の聞こえてきそうな仕草で挨拶を返す。
振り返ると、俺のすぐ後ろにクラスメイト―――登校してきたばかりらしい美坂香里が微笑んで立っていた。
「おはよう。珍しいわね、北川君がこんな時間にもういるなんて」
今日も相変わらず、ウェーブの髪が似合う佇まいだ。
彼女とは、よく話をしたりもする間柄なのだが、いかんせんいきなり声を掛けられたので、驚いて声が上ずってしまった。
それでもまあ、今日も何とか作業は終わっている。ギリギリで間に合ったようだった。
「いや、ちょっと気分転換にいいかなと思って……」
他にもっといい言い訳はないのか、と思いつつも苦しい弁解をする。
「ふーん……」
何か珍しいものでも見るかのように俺を見つめてくる。
いつも、朝早く来たときは、花の準備が終わると教室から出ているのだ。別の場所で時間をつぶしてから、クラスの他の奴らが集まってきた頃に改めて教室に入っている。だから俺は "普段は" 授業開始ちょっと前に来ていることになっているのだ。
こういう事している理由は、やはりこれといってないのだが、まあなんとなく習慣となっているわけで。
「美坂も早いなあ、今日は部活ないのか？」
話を変えるために話題を振ってみる。たしか彼女は、部活で朝からいつも何処かに寄ってから教室に来ているはずだ。時間をずらしている俺ともよく同時になるか、あるいは俺よりも遅いことが多い。
「今日はあたししかいなかったからね。集まる予定もなかったし、最近は大きな企画もないから」
「へえ、結構アバウトな部活なんだな。部長とかも来なかったのか？」
「あれ、言ってなかったっけ？ あたしが、その部の部長よ」
しごくあっさり、と言われる。
彼女はこういうふうに、何かを鼻に掛けたようなところが全くない。
彼女は、その大人っぽい見た目に申し分なく適合した性格をしていて、ちゃんとはっきりとした自分の意志を持っているタイプだ。それなのに、こういう人間にありがちな "嫌味" とかは全くといっていいほどない。
ドラマに出ててもおかしくないんじゃないかっていう、そういうキャラクター。
クラスの男子どころか、女子からも結構人気があるほどだ。
そして、彼女の "そういうところ" が、俺の好きになった理由でもあるわけで……。
「へえ、なるほど、似合ってるなあ」
俺はどっちとも取れない言い方で評価した。
「……それって、ほめてるの？」
「さあ？ どうぞ、どちらでもお好きなように」
もちろん、俺としてはほめているつもりだけど。
照れくさくて、いつもこういう態度になってしまうのだった。
「ふーん。まあ、いいわ」
言うと、彼女は俺がさっきまで触っていた花へと視線を向けた。
「きれいよね、この花」
唐突に言った。
「ああ、なんていう花なんだろうな」
俺は反射的に返した。が、すぐにそれが間違いだと気づく。
「なに言ってるのよ、北川君。こんなの、バラに決まってるじゃない」
笑ったように言われる。
……そうだ、そういえば今日は、時間がなかったから花をじっくり選ばないで買ってきたんだった。
「はは、そういやそうだな」
相変わらず、こういった演技に関してはどうにも上手くない。
俺が"花を世話していること"を、バレないようにする演技。
理由もないのに、なんでこんなことをやっているのか、ともし聞かれると、多分俺は背徳感みたいなものを楽しんでいるんだ、と答えるんじゃないかと思う。
べつに悪いことをしているわけでもないのに、なぜか緊張感を感じる。その辺のところも、なかなか楽しい。まあ、実際は、本当に悪いことをする勇気が俺にはない、というのもあるんだけれども……。
とにかく、こういう風に言葉選びに失敗しても、やっぱり俺が花を管理しているなんてばれないのだった。
「そういえば、この花って誰が管理してるんだろうな」
こんな話題を簡単に振ったりもできる。
「さあ、そういえば誰なのかしら……多分、女の子じゃない？ いつ見ても花のセンスはいいし、丁寧に掃除とかもされてるみたいだし」
「うーん、やっぱりそうか」
そう思うもんだよな、普通は。
でも、センスがいいか……。よかった、なかなか、他の誰かの感想なんて聞けないから。
「美坂でも知らないのか？ 誰か、これを管理してそうなやつとか」
花をひとつ、手にとりながら聞いてみる。
「どうかしらね〜。この前、一度『彼女じゃないか』っていう話題が出たことあるんだけど、本人に直接聞いても『さあ、ぜんぜん知らないわよ』って。お花を習っているから、多分彼女だと思ったんだけど。でも、嘘をついている雰囲気はなかったし……」
こんなたわいのないことを話しながら、彼女との時間が過ぎていく。
普段、話すといっても、だいたい三人から四人以上で談笑するだけで、こうやって二人きりになれることなんて滅多にないのだ。
この楽しい時間を噛み締めるように、俺の朝のひと時は過ぎていった。
ちょっとひと悶着あったのは、その日の昼休みのことだった。
「おい、北川、学食行こうぜ」
俺の主な栄養補給場所は学生食堂だ。
食堂のアルジ、とは自他共に認める俗称なのだが、いかんせん今日は少しばかり状況が違った。
「……すまん、相沢、今日はひとりで行ってくれ」
「は？ なんだよそれ」
あまりにも意外だったのだろう、声をかけてきた彼は、そんな俺の言葉に公園でヘビにでもあったかのような顔になった。
「どうしたんだ、身体はとこも悪くないようだが……食べなくてどうする、そんなことじゃ、これからの午後の戦いを生き延びられないぞ」
なかなか平然と言ってくれる。
しかし、俺にはそんな相沢に取り合っているヒマはなかった。
……というか、むしろ教室後方で起こっている事態に気付いてもいいと思うのだが。
「いや、大丈夫だよ。ついさっき霞を食ったんだ。不老長寿も夢じゃない」
「仙人じゃあるまいし……まあいいか、気が変わったら来いよ。相手がいないんじゃ、賭けも成立しやしない」
何を賭けるんだよ……と突っ込みたかったが、そろそろ本気でどうするか考えないといけない。事態は、着実に危機へと近づいている。
まだ何かいいたそうな相沢を半ば無理やり追い出すと、俺は教室の後ろ―――美坂と、軽快な口調で彼女に話しかけている野郎に意識を向けた。
「さあ、どうです美坂さん？ そろそろ僕と付き合ってくれる気になりました？」
「う〜ん、そうねえ……」
実は、そいつは昼休みが始まるとほぼ同時に、うちの教室へ何の気負いもない様子で入ってきていた。
確か、同じ学年の中崎とかいうやつだ。街ひとつを牛耳れるくらいの金持ちで、この辺の会社や商店で彼の家の息をかけられていないものは１コもないんだとか、めちゃめちゃインビジブルな噂の。
ヤツに目をつけられていない女もこの学校にいないとの話もあるが、しかし美坂に話し掛けているのは初めてのようだ。おそらく彼女が最後の三人くらいだろう。
話は、さっきから耳をパラボラにして聴いているから判っている。俺だけではない、教室の注目の約七割を集めているほどだ。黒い紙だったら、たぶん火がついて燃える。
どうやら、こういうシチュエーションに完全に定番だが、ヤツは美坂を落とそうというわけらしい。
さっきから必死で話している。自分がいかにいいヤツだとか、これまでは遊びの気持ちがあったけど今回は本気だとか、あなたが映画デビューしてないのは日本の映画監督が間違っているとか……男が聞いたら吐き気を覚え、一部の夢見がちな女子だったら一瞬でついていってしまいそうな、そんなシュガーケーキのようなセリフ。
美坂の方は、とりあえずヤツに向き合って話を聞いている。果たして聴いていてイライラしないのか。
もともとポーカーフェイスがモナリザの絵よりも上手いヤツだから、その状況をあまり直視できていない俺には全く判別がつかない。
どうしたものか……と、俺は悶々としたまま迷っていた。
もしかしたら、彼女はヤツに対し"ＹＥＳ"と答えるかもしれない。美坂に限ってそんなこともないと思うのだが、しかし今まで浮いた話を聞かない彼女にはどういう男がタイプなのかちっとも見当がつかないのだ。
止めに入るべきか―――とも思う。
この場でカッコよく間に入っていって、いつも男子女子両方から嫌われているあいつを罵ってやれば、少しは美坂の中の株も上がるかもしれない。
しかし、やはりというか当然というか、学年首席並みの成績を持つ美坂にたかだか国語六十二点が記録の俺なんかが加勢してなんになるというのか。
そもそも、彼女が少しでもヤツのことを気に入っていたらどうする。人のことを馬鹿にするのが嫌いな彼女だ、うっかり打ちミスすれば跳ね返った弾が自分に帰ってくるぞ。
いやいや、だからそんなこと気にしてどうする。美坂があんな歯の浮くような喋り方するヤツを好きなもんか。あいつは映画なんか観るような性格の女子じゃないだろう。
いやいやいや、だから、そもそも俺なんかが出ていってどうする。そのうち誰か、たぶんクラスの仲のいい女子が突っ込みを入れるはずだ。あんたなんか、うちの学級委員はあいてにしませんよって。
―――俺が、いかんともしがたいループ現象を脳内で引き起こしていたとき。
……ふと。
視界の隅で、ヤツが教室に飾ってあった花を一本、花瓶からするりと抜き取った。
……間違うなんてことはない、あれは絶対、確実に、１００パーセントの割合で俺が飾ったバラだ。
俺は、さすがにこそこそ見るのをやめて、ふたりを凝視した。
「あなたは、おそらく自然界で一番美しい……そう、こんなバラなんか、決して比べ物にならないほどに、ね―――」
俺が丹精込めて生けた花を、ヤツはなんでもないかのように美坂に差し出した。
おいおい、その花は俺が早起きして買っきたんだ、てめえなんかに女の子や自然を評価する権利なんかあるか―――
しかし、そんな俺の心の叫びも、ヤツには届くはずもなかった。
「これを、あなたに捧げます。できればあなたの美しさで、そのバラの魅力を自然界にありえないほどまで引き上げてください」
美坂は、胸の高さに掲げられたバラを見詰めている。
「…………」
―――さすがに。
さすがに、美坂もこのセリフには呆れたのだろう。
そのとき、始めて美坂の顔が引きつった。
これまでなかなか表情を変えたりしなかった彼女だ。中学からで付き合いの長い俺でも、これほどまでにハッキリと嫌悪を示した顔はなかった。
―――ああ、よかった、やっぱり、美坂もあいつのことは苦手なんだ。
俺は心の底から安心した。
同時に、さっきまで心配していた自分が恥ずかしくなってくる。何を馬鹿なことを考えていたんだろう。だいたい、いままでどんな奴の申し出も断ってきた彼女が、今更こんな簡単な口説き文句でなびく筈がないじゃないか。
さあ、美坂よ、ヤツにいってくれ。
どうせヤツはすぐに立ち直ったりするんだろうが、それでもクラスにいる大衆の面前でゴメンナサイされて恥をさらすがいい。
……しかし、その時美坂の口から出てきた言葉は、ヤツだけではなく耳をそばだてていた折れをも、ひと突きで軽〜く叩きのめしてくれた。
美坂は言った。
「ごめんなさいね、中崎君。申し出はたいへん嬉しいんだけど、あたし―――今は、誰とも付き合う気なんてないから」
「おーい、北川、帰りにゲーセンでも寄って……っておい、どうした」
机に突っ伏してかんぴょうになっている俺に、昼と同じく相沢が声を掛けてきた。
しかし、俺はさっきと同様―――というかむしろ、さっきよりも数段脱力しているわけだが―――相沢の申し出を丁重に断ることにした。
「うっせえバカ、てめえなんてどっかいけ」
「おっ、なんだどうした。機嫌悪そうだが、もしかして誰かに告白してフられたか？」
「天竺の遠さと有り難さを、身をもって実感したところだよ」
しかし、本当に三蔵さまがサルやカッパを連れて旅したわけじゃないというのなら、それはそれで逆に凄いかもしれない、などと全く無関係なことを考えながら。
「とにかく今日はひとりにしてくれ……そんな気分じゃないんだ。帰って寝たい」
「まあ、今流行りの引き篭りを所望するのなら、俺は止めないけどな。悩みがあるなら言ってくれよ、相談に乗れるかもしれないが、むしろ肩透かしを喰らわせてドブ川に突っ込む可能性のほうが高い」
「いらねえ、金輪際おまえの助言はいらねえ……」
そんな俺の捨て台詞を聴いてから、相沢は水瀬さんと突っつきあって帰っていく。
はあ……と、５・６間に何度ついたか見当もつかない溜め息をまたつく。
どうしたもんだろうなあ……やっぱり、あいつがなかなか異性と付き合わない性格なのはわかっていたけど、ああもキッパリと告げられると精神的ダメージがあまりにも大きすぎる。
ハードルの高い徒競走だよなあ……しかも、障害物レースはまだまだ始まってすらいないし。
未来の展望をどうしようかなあ、やっぱ相談するならハッブル宇宙望遠鏡かなあ、いやいやでもあそこはハワイだから電話代が高くつきそうだなあ。
などと、また螺旋回廊で行き詰まろうとしていたとき。
ふと、腕に顔をうずめている俺に、話し掛ける声があった。
「どうしたの、北川君。もしかして、気分でも悪いの？」
とても優しい声―――それは一瞬、本気で誰かわからなかった。
頭の中で反響していた声と重なったから、ともいえる。
とにかく、事態を察するのに数秒かかった俺だが、そのままバッタが跳ねるような勢いで顔を上げた。
「え、と、美坂……？」
「もう授業は終わってるわよ。それとも、今日も早起きしたからまだ眠いとか？」
マヌケな顔をしてさらに呆けている俺に対し、美坂はちょっと見たことないくらいイイ感じの微笑みで俺を見ていた。
ていうか、マジでやっぱ可愛い……
「あんまり無理しないほうがいいわよ。テストが近いわけじゃないけど、いつまでも寝てたりしたら、すぐ置いてかれちゃうんだから」
いつも言われていることだ。しかし、今日はいつもとなんだか違う気がする。
「……あ、ああ、いや、大丈夫だよ、ちょっと疲れただけだ。すぐによくなる」
「そう、じゃあ、できればこれからちょっと付き合って欲しいんだけど、花屋」
「おう、いいぞ、わかった……」
……って。
え、ちょっと待て。いま彼女、なんて言った……？
「綺麗な花のある店を教えて欲しいのよ。ちょっと最近、うちの内装に凝ってきてね。いい店ないか探してたんだけど、なかなか見つからなくって」
彼女は更に、俺の心臓を飛び出させるようなことを言ってくる。
いやいやいやいや、まさか、俺が花の世話をしていることがバレた……？
俺の非常な困惑の表情を悟ったのか、美坂は腰を曲げると、耳打ちするようにして俺に囁きかけた。
「……北川君でしょ、いつも教室に花を飾ってくれてるの。すごいわ、素敵な花ばっかり」
聞き間違い、では間違いなくありえない。
彼女は確かに、俺が花の世話していることを知っていると言った。
誘導尋問ですらない。ゆるぎない確信をもった言い方だった
「……なんでだよ。どうしてわかったんだ？」
彼女は俺から顔を離して言う。
「なーんとなく、なんだけどね。ほら、北川君、今朝あたしと話しているときにバラを手に取ったでしょう？」
その仕草の真似をしながら、美坂は微笑む。
俺は頷く。
「ああ、確かにそうだけど……」
「その持つ手がね、なんだかとても花を大事にしている人の持ち方に見えたのよ。さっき、誰だか知らないけどあたしを口説こうとした男子が花を持ったとき、その違いにハッキリと気付いて」
―――ああ、なんだよ、美坂のやつ、相手の名前も知らなかったのか。
俺は心の中でヤツに同情した。美坂はそういえば、昔からこんな風だったかもしれない。
「よくそんなのでわかったな……普通わかんねえぞ、今まで誰にも気付かれなかったのに」
「そんなことはいいわよ。それで？ 今日、あたしには付き合ってくれるの？ せっかく部活もパスしてきたから、できればすぐにでも行きたいんだけど」
俺は笑顔で答える。
「ああ、もちろんだ。このことをバラされたら、俺は学校いちの似非ロマンチストだからな。そんな地位にはまるで興味がない」
むしろ美坂と花屋なんてデートまがいのことをできるのだから、嬉しくないはずがなかった。
おまけに、美坂の方は、
「ふーん、脅迫のネタができたってわけね。いいわ、しばらく使わせてもらおっと」
などと実に嬉しそうでもある。
「さてと……ところで、俺の知っているお勧めの花屋は市内だけで十軒以上あるが、どれだけ行きたい？」
「え、そんなにあるの？ ……うーん、まあいいわ、せっかくだから、今日回れるだけ全部行ってみる」
「よっしゃ、それじゃあこれで決まりだな。それじゃさっそく出発しよう。先ずは、駅前のビルの一回に産地直送のいい店があってだな……」
「ああ、ちょっと待ってよ、そんなに急がないでって……」
ヤツを含む男子殆どが羨むような言動をしながら、俺たちは教室を去っていく。
明日になったら、もしかしたら教室で噂になっているかもしれない。
ついでに相沢あたりからヘッドロックを喰らってもがいているかもしれない。
しかし、そんなものは酢豚の中にうっかり入ってきたパイナップルも同じ。目の前に並べられた料理のアクセントでしかないのだ。
これから―――果たして誰とも付き合う気がないっていっていた美坂との関係がどうなるかわからないけど、それでも、俺は自分の人生を自分で飾れる気がした。
今日、教室でひときわ目立っていた、赤い赤いバラの花のように。
投票結果
まちゃる (採点:3)
北川君と花の組み合わせが意外性ありました。…それはそうとなんで中崎いるんだろう？（苦笑）
神代 悠 (採点:4)
うん、北川が格好良いですね。こういう北川は好きです。
Ｇすぽると (採点:5)
この年頃の男の子の気持ちがきっちり書かれていて良いですね。
ヘキサ (採点:4)
数少ない『繊細な北川君』でしたね。内容もありがちなものでなく面白かったです。
Alice (採点:4)
新鮮だった！これが最初の一言。北川と花でくるとは予想してませんでした。好き♪これが二言目。けれども、ここまでやるなら、もうちょっとやって欲しかった。薔薇っていうのが少し安易だったかな？と。香里がヒロインに当てられているからわかるけれど、北川の花好きをもうちょっとだけでも掘り下げて欲しかったかな？でも、充分面白かったです♪
kin (採点:4)
何気ないやり取り、仕草―それが「何か」を与えてくれる。そう言ったものを感じさせる内容でした
藍翔 (採点:5)
僕がこの話の翌日に北川に会ったら、間違いなく彼にチョークスラムを喰らわすだろう・・・。
せいる (採点:4)
北川くんと花。うん。北川は、そういうヤツだよなぁ。多分。
taka (採点:3)
やっぱり、香里と北川はお似合いですね・・・。北川の意外な趣味もいい感じですし。
ASKA (採点:5)
格好いいという言葉は、今回の北川のような奴にある言葉だと思う
プリン＝アラモード (採点:4)
喜多川君の意外な一面を見れた。
かずき (採点:5)
北川のかっこわるい所がいい。
hiro (採点:4)
北川の心理がよく書かれていた。祐一との絡みがうすかった。ｂ
荒野草途伸 (採点:4)
組み合わせは気にくわないけど、二人の特徴はよく出てると思うから、特別に４点。
十七夜 (採点:4)
うん、面白い！こういう北川君も良いですね。
ugen (採点:3)
北川がイメージと違うが話はそこそこ
naoki (採点:5)
素敵なお話ですね、きれいです、とても。
Kanade (採点:4)
北川くんって、いい男の子だと思うのだけれど。うん。
アクア (採点:5)
綺麗にまとまったラブストーリーがいいですね。祐一ではできない話だと思います。
グＥ (採点:4)
作品のほのぼのとした雰囲気がよかったです。あと、’花’の使われ方がうまいな、と感心しました。
研究員Ｄ２ (採点:3)
少し北川が情けないのが残念。ただ、引込思案な点とか、意外性とかはばっちりだったので、ＯＫな感じです。続編希望（ぉ
ふーふぁいたーず (採点:4)
さわやかで良かったです。
竹仙人 (採点:5)
花という小道具が何とも言えないアクセントになってて非常に良いです！
Manuke (採点:5)
北川君の『らしくなさ』が不思議と彼らしい感じがしました。
橘征五郎 (採点:2)
ところどころ日本語がおかしい。花を「ひとつ」と言ったり、ポーカーフェイスのモナリザだとか。北川のキャラクターとして敢えてそう書いているのか、それとも単に間違っているのか。前者なら説明と思い切りとセンスが足りないし、後者なら怪しい知識は即調べる癖をつけるべき。言動にも矛盾がある。ばれたら困るようなことをクラスメイトがいる教室で堂々と話したりはしない。ラストも弱い。バラが目立っていたという伏線が途中に欲しいところ。
十七夜 (採点:3)
ああ、男って単純だよなぁ（笑）とか思いました。
コーダイ (採点:3)
すごくほのぼのしていてなんだかホッとしました。
匿名希望 (採点:4)
良いですねえ。そこかしこの比喩表現が北川君らしくって。というか青くって(笑) 前半、少し説明が多くなってしまったのがやや残念でしたが、他は文句なしでした。
ありたけ (採点:4)
こーゆー北川君もいいですね。
ケイ (採点:3)
ネタ的にはかなりいいものだと思います。北川の意外な面をかいまみたような気がして面白かったです。ただ、「香里に告白していた男のところ」や「酢豚に〜同じ。」というところなど、細かいところがしつこいかな？って思いました。作品自体の雰囲気はすごくいいので、そういったところをあっさりめに仕上げればより良いものができると思います。ありがとうございました
Ｂ・Ｃ (採点:5)
なんかいい感じですね。実際のところ香里と北川の距離はどれくらいあるんでしょう？まだまだ友達以上、ってとこですかね（笑）。
烏賊悪魔 (採点:4)
文章力は高いと思う。だがシナリオはも少し練りこむ必要があったのでは？
ちいーゆ (採点:3)
ちょっとだけ、余計な文が多すぎた気がしました。よって、その分だけ減点。内容は面白かったと思います
kuryu (採点:4)
花をテーマにして、心打たれるものがありました、これからもかんばって下さい。
白 (採点:4)
純情・・・っていうのかな？これ・・・花屋に行った時のもみたいです。
神崎隆一 (採点:4)
落ちついた文章、そして雰囲気。冒頭から引きずりこまれるような良いＳＳです。
舞耶 (採点:4)
意外性がとってもよかったです。花と北川君て・・・意外と似合う?（爆）
Tanzo (採点:5)
北川と花の組合せのギャップもいいが、北川と香里の関係も私の好みに合いました。
じゃがいも (採点:4)
ロマンチックな北川がすごいかっこ良かった！
浮動明王 (採点:5)
北川のキャラが生きていて原作ゲームと違和感の無いところがよいと思います 教室に花を飾るな
ひゅう (採点:5)
良いと思った所、文章・構成。すごく上手。悪いと思った所、中崎君。こんなヤツいません。
Ｖｉｓ (採点:3)
言葉の使い方に凝っていますね。すこし読みにくさも感じますが、面白い修辞だと思います。話としては、北川君が少し内向的にみえる運び方でした。
Time (採点:4)
えっと…、Ｇｏｏｄ♪ 北川がいい感じよん。 最初は祐一かと思ったけど（笑）うん、設定が憎らしいほどはまってる！ 花好きの北川…。 いいねぇ〜難しい話はなしにして、とにかく良かった。印象的な表現の一つは、『酢豚の中にうっかり入ってきたパイナップル』思わず、笑ってしまいました。初めの三人称で、北川の意外性をだし（最初に書いたけど、初めは祐一かと思った）一人称に変わった時点で、今度は北川の味を、よく引き出していた作品だった思います。最後に、出汁に使われた中崎に合掌（爆
すなふ (採点:3)
いいですね。こう、主人公に好感が持てる話。
SHIKOH (採点:5)
この二人って名雪と祐一のような関係だなぁって感じる作品でした。
ANJU (採点:4)
設定もまとめ方も上手いです。でも誤字多いです。
ＪＩＭＭＹ (採点:5)
「ごめんなさいね、中崎君」と、名前を呼んでいる癖に、その後北川には「誰だか知らないけど」。これから察するに「北川君には『どうでもいい奴だったんだ』と思わせたい」という意思が感じられますね。北川は素直に信じてますけど、実は香里さん、結構意識してくれている様で。ほのぼのしたムードが良かったです。
はぐ (採点:1)
採点不能「読むのやめました」
シューマン (採点:3)
こんな北川もいいですね。 香里との会話もいい味をだしていたと思います。
あきらくん (採点:5)
なんか良いですね。人知れず続けてきた善行が、やがて自分に返ってくる。自分はあまり北川Ｘ香里派ではないのですが、この話の北川は祝福したくなります。
全採点
5点 : 30
4点 : 80
3点 : 66
2点 : 20
1点 : 6
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転載、無断引用を固く禁止します。
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