Trivial Story
授業中。
何気なく窓の外を見る。
空はよく晴れた良い天気。
今は授業中。
でも教室の中は喧噪に包まれている。
『自習』
黒板には大きくそう書かれていた。
そんな中で、不気味なほどに静まり返った一角があった。
それはあたしの周囲。
前を見れば、青紫色の物体が寝息を立てている。
親友の水瀬名雪。
空いている時間があれば…違った。
空いている時間が無くても寝てるわね。
最近、暖かくなってきたから名雪の睡眠時間がさらに増えてる気がするけど…まぁ、それも個性よね。
名雪が寝ていて静かなのはいつものことだし。
問題はあたしの左サイドの二人……。
相沢君と北川君。
自習の時間があれば、いつも真っ先に騒いでいるこの二人。
今日は二人とも一心不乱に何かを書いている。
ちょっと耳を澄ましてみると、相沢君はなにかぶつぶつ言いながら書いてるわね。
前に座ってる男子が少し震えてるのも見える。
…一体なにが起きているの？
窓の外を見るフリをして北川君を横目で覗いてみた。
北川君は、真新しいノートに何かセリフのようなことを書いてる。
それも１ページに１つのセリフだけ。
…なんて勿体無いことをしてるのかしら……。
おそらくは相沢君も同じことをしてるんでしょうね。
そう結論付けたあたしは興味を失って机の中から１冊の文庫本を取り出して読み始めた。
「できた！」
相沢君がいきなり大声を上げた。
教室内が一瞬静まる。
この瞬間、聞こえるのは名雪の寝息だけ。
あたしも本から目を離し、相沢君の方を見た。
ふと周りを見ると、みんながあたしの方をみてる。
…あたしに訊けって言ってるのね……。
名雪は寝てるし、北川君はまだ書いてる途中。
あたしは本に枝折りを挟んで机の中にしまう。
はぁ、あたしってなんて不幸なのかしら……。
「あなたたち、いったい何をやってるの？」
自分でも驚くくらい呆れた声がでた。
「まぁ、もう少し待ってろ」
帰ってきた返答はこれ。
つまり、北川君も終わるまで待ってろということね。
「よし、俺も終わったぞ」
パタン、とノートを閉じて北川君が顔を上げた。
「それじゃあ、説明してもらおうかしら？」
腕を組んで相沢君を促す。
「おう。これから俺たちが、このノートを使って会話をする」
相沢君が自分の机からノートを取ってあたしに見せつける。
「だが俺は北川の書いたセリフを知らない。そして北川も俺の書いたセリフを知らない」
「会話を成立させるには、いかに相手の裏の裏の、さらに裏まで読みきることが出来るか、というのがポイントだな」
北川君が相沢君の後に続いて説明してくれた。
「じゃあ、俺から行くぞ」
相沢君がノートを開いた。
その１ページ目に書いてあったことは…。
『今日もいい天気だな』
ピクッと北川君が身震いをする。
予想が外れたわけね。
北川君のノートは…。
『納豆を食ったぞ』
……見事に食い違ってるわね…。
相沢君がページをめくる。
『俺もそう思う』
次いで北川君が。
『そんなことないさ』
『もう無理だろ、それは』
『何言ってるんだ。美味いじゃないか』
『そんな時期じゃない。まだまだだろ』
『まだまだアマちゃんだな』
…相沢君が天気の話、北川君が朝食の話…かしら？
どっちも読みきれてないじゃない…。
お互いに自分で書いたセリフを声に出して、さらに感情を込めて喋っている。
北川君はかなり落ち込んだ口調、対して相沢君は異常なまでのテンションの高さ。
…二人とも、演劇部に入ればいいのに…。
そのくらいセリフと感情、表情がマッチしてる。
会話になってないけど…。
思えば、あたしが…あたしたちが相沢君と出会ってからまだ数ヶ月しか経ってないのね。
それなのに、いつの間にかクラスの空気に馴染んで…。
違う。
クラスが相沢君の空気になってきてるんだわ。
それほどまでに大きな存在になっている。
このクラスにとっても、あたしにとっても。
相沢君がこの街に来てから色んなことがあった…。
奇跡。
あたしは奇跡なんて信じなかった。信じられなかった。
でも、心の中では奇跡を望んでいた。願っていた。
２月１日。
栞の誕生日。
医者には、次の誕生日まで生きられないだろうと言われてた。
あたしは栞を避けてた。
死ぬとわかってるなら…辛いとわかってるなら…。
最初から妹なんていなかった…そう思いたかった…。
でも、相沢君はそれを全て受け止めて、最後まで栞に接してくれていた。
もう一度栞と向き合うことができたのも相沢君のおかげだった。
そして、奇跡は起きた。
治療法も、治る見込みも無い病気のはずだった。
でも、栞の病状はどんどん良くなっていった。
今でもたまに通院してるけど、もう死に怯えて生きていくことは無くなった。
多分、相沢君がいなかったら栞は助からなかったと思う。
そして、あたしも今みたいに普通に生活できなかったと思う…。
なんとなくそう思った。
前に名雪が言ってたっけ。
『不思議な人』だって。
今思えば、前よりも本当にそうだって頷ける。
いつごろからだろう。
いつも知らないうちに相沢君を目で追っていた…。
あたしは相沢君が好き…？
…まさかね。
でも……。
『相沢！お前があいつを殺したのか！』
そろそろ会話も佳境に差しかかってるのかしら…？
見ると、ノートのページも残り少ない。
『ああ、結構美味かったな』
…普通に聞いてたらちょっと恐い会話ね…。
……それ以前に、なんでこんな会話になってるのかしら？
あとで二人のノートを見せてもらいましょう。
それにしても…よくこんなくだらないことを思いつくわね…。
『相沢…お前、美坂のことどう思ってるんだ！？』
ガタン！！
教室中があたしたちを注目する。
い、いきなり何を言い出すの！？
北川君、どこをどう読み違えたらそんな話になるのよ！
「………………」
相沢君もなんで黙るの！？
「き、北川…お前って奴は……」
相沢君のその口調からは感情が読み取れない。
呆れているのか、怒っているのか。
今のは相沢君の口から直接出た言葉みたい。
またしばしの沈黙…。
そして、意を決したのか、相沢君はページをめくる。
それをあたしと北川君に見えるようにこちら側に向けた。
「言っておくが…俺はこういう時に嘘とか冗談とかは言わないからな」
相沢君がそこに書かれていたセリフを口にした……。
『多分、好きだと思う』
投票結果
まちゃる (採点:3)
読んでたのか？その質問を読んでたのか祐一ぃっ！？
神代 悠 (採点:3)
展開もよし。オチよし。キャラも良し、と。
空明美 (採点:3)
もう少しノート会話を見たかたっです。
璃亜 (採点:4)
北川と祐一の掛け合いが良かった、それと・・・オチが予想できなかった^^;
名夜 (採点:4)
こういう展開は個人的に好きです。最後の祐一の台詞、ナイス！（笑
Alice (採点:2)
つい笑ってしまった。メインである香里の心情よりも、アホなやりとりが印象に残った作品。というか、ギャグパートが強過ぎて、香里が語っている部分が弱い。ここマイナスの大部分です。う〜ん、どうせならギャグ一辺倒にして欲しかったかな？
姫ちゃん (採点:5)
ギャグを混ぜつつのほのぼの、よかったです〜♪
ヘキサ (採点:3)
相沢・北川両名のボケはｇｏｏｄでした。ただ、決め手に少し何かが足りないような気がしました
神月祐 (採点:4)
おもしろい話だと思います。ギャグとシリアス、ほのぼのがいい感じで構成されていたと思います。
藍翔 (採点:5)
タイトルと内容が会っててとてもいい作品だと思います。ハードの方に落として何度も読みたくなります。
荒野草途伸 (採点:4)
あと３行欲しかったですぅ〜
taka (採点:4)
話のテンポが最高です。それにしても、凄い心理戦ですね。普通だったら滅茶苦茶になるでしょうに。
ASKA (採点:4)
稀にこういう無意味な行動って起こしたくなりますね
YOSHI！ (採点:4)
祐一の大胆な告白がとても印象的でした。
プリン＝アラモード (採点:5)
突っ込みたい所はありますが、終わり方が素晴らしい
かずき (採点:1)
最後がばらばら。変。
Tomy (採点:5)
一言「やられた」
KOU (採点:5)
祐一と北川、なにやってんの？と言いたくなるような所がグ〜！
いしす (採点:4)
こーゆーのわりと好き。
hiro (採点:4)
笑激の作品だった
十七夜 (採点:5)
偏見かもしれないんですが、こういうの好きです。
ugen (採点:5)
話の仕掛けが良かった
naoki (採点:4)
巧いっ！ アイデアの勝利、って感じです。
ぬべを (採点:5)
上手い！ Bravo!
Kanade (採点:4)
こういう、のっぴきならない状態での本心っていうのは、格好良いと思う。
グＥ (採点:4)
途中多少、展開が急に感じましたが、オチがよかったです。…うまいですね。
アーリマン (採点:2)
面白くもつまらなくもありません
はまのじ (採点:4)
ノートの文字で会話するというおバカなアイデアに完敗。そして乾杯。４点。
piro-suke (採点:5)
いやあ、北川は意識なのか無意識なのか・・・最後の瞬間に名雪が起きてひと騒動ありそう？ノート会話の完全版も見てみたいです。
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。なぜ祐一がいきなり香里のことを好きになっているのか？ 説明不足で意味不明。文章のレベルも低く、話自体もつまらない。
十七夜 (採点:5)
脱帽。よくもまあこんなネタを思いついたものです。
コーダイ (採点:2)
ちょっと良くわかりませんでした。
紅 虹葉 (採点:3)
ひじょ〜に続きが気になりますねぇ・・・
Doll (採点:4)
先の展開にわくわくしながら、とても楽しく読ませていただきました。タイトルはもう少しひねってみてもよかったのではと思います。
今井 秀平 (採点:5)
まさかああいう展開になるとは（笑）
雨音 (採点:1)
判断の難しい切り方・・・（汗
Ｂ・Ｃ (採点:4)
相手の裏の裏の、さらに裏まで・・・。祐一の台詞。本当なのか、はたまた偶然なのか？曖昧なまま終わるのもまた一興ですね。
zero (採点:4)
あの２人ならやりそう
ＪＩＭＭＹ (採点:4)
「こういう時に嘘とか冗談とかは言わない」。この台詞がどういう意味なのか。この後の香里の「聞きたいけど…なんて聞けばいいのよ！」という葛藤が目に浮かびますね。先の気になるＳＳです。
神崎隆一 (採点:2)
オチだけの作品。それが率直な感想です。
り〜だ〜 (採点:3)
なんともいえない・・・
kuryu (採点:4)
なんか、思い出される日常って感じがいいです。
舞耶 (採点:5)
イイ！もう最後はやられたって感じです。
みちやづき (採点:4)
面白いです。ノートの会話。落ちもいいです。
musu (採点:3)
栞を枝折りと書くとはいい度胸だ
浮動明王 (採点:2)
話の発端でしかない シリーズの第1話を読んだ感じ
Ｖｉｓ (採点:3)
AHHさんの『馬鹿礼賛』を思わせる掛け合いがステキです。ただ、掛け合いの場面と中盤の香里のモノローグとが絡んでいないような気がします。
ひゅう (採点:3)
北×香な俺だから点数は低く低くしてありますが、文章は満点も満点、うまいです。ノート会話の説明は分からなかったですが。北川君×香里で書いてほしー！
Time (採点:5)
とにかく最初は笑わさせてもらいました。フィーリング会話…、最後は見事にあってましたね…。何と言うか、子難しい感想はなしです、本当に面白かったから…、最後の祐一の告白もです
すなふ (採点:2)
着想は面白かった。あとは味付け次第かと。
Silly Talk (採点:4)
相沢と北川の掛け合いって個人的に好き、かみ合ってないようで合ってるところ読んでて楽しかった
はぐ (採点:4)
「良かったです」 もったいない…あのモノローグがなきゃ、出来のいいコメディなのに。でも、それ以外は○、な印象です。
シューマン (採点:4)
この後、祐一達はどうなったんだーと、思うだけでも楽しくなるような終わり方だったし、文章自体にぎこちないところもなかった上に、こういう感じの馬鹿をやっているssは、まさに僕のツボなのでとても気に入りました。
全採点
5点 : 28
4点 : 88
3点 : 61
2点 : 30
1点 : 10
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