わたしの恋は
「名雪・・・」
「俺には、奇跡は起こせないけど・・・」
「でも、名雪の側にいることだけはできる。」
うにゅ〜、ゆういち？
ゆういちのこえがする。
「名雪が悲しいときには、俺がなぐさめてやる。」
「楽しいときにはいっしょに笑ってやる。」
ふつうよりもやや低い音程、でもとても暖かい声。
わたしの胸の奥で、なにかがうずいているのがわかる。
だんだんと目が覚めてきた。
「白い雪に覆われる冬も・・・」
「街中に桜の舞う春も・・・」
祐一の声を聞くだけで・・・
祐一の瞳を見るだけで・・・
祐一の事を思うだけで・・・
わたしの胸はこんなにも高鳴ってしまう。
「俺は・・・」
「名雪のことが、本当に好きみたいだから・・・」
わたしも・・・
わたしも祐一のことが、本当に大好きだよ。
もう完全に目は覚めてしまっている。
でもまだ、祐一は部屋に入ってこない・・・
いつもは目覚ましが鳴り出すと、慌てて駆け込んできて、
真っ赤になりながらわたしに文句をつけてくるのに・・・
ああ・・・
思い出した。
今は春休み、祐一は百花屋にバイトに行ってるんだった。
昨日も一昨日も、わたしは百花屋まで祐一に会いに行った。
そう、あくまで祐一に会いに行ったのであって、
イチゴサンデーを食べに行ったわけではなかった。
それなのに祐一は・・・
時計を見るともう朝の１０時だ。
わたしは今日の予定は何も無い。
とりあえずお腹がすいてきたので、着替えて下に降りることにした。
「おはよう、お母さん。」
「おはよう、名雪、もうご飯できてるわよ。
珍しいわね、名雪がこんなに早く起きてくるなんて。」
「う〜、わたしはいつも早起きしてるよ〜」
「あらあら、本当にそうだと祐一さんも助かるのにね。」
お母さんとのいつもの会話。
あの事故からたった１週間で退院してきた。
今わたしの目の前にあるのは、なぜか焼きたてのパンとあったかいスープ。
祐一がいたら、またお母さんの謎を探ろうとするかもしれない・・・
でも、わたしは気にしてない。
お母さんはお母さん。
わたしにはそれが一番大事なこと。
「名雪、これから仕事に行かなくちゃならないの。
それで、今日ちょっと帰りが遅くなるわ。
だから晩御飯は祐一さんと二人で食べてね。」
パンにたっぷりとイチゴジャムをのせて食べていると、お母さんが言ってきた。
「え〜、今日は何も予定が無いからお母さんと一緒にいようと思ってたのに・・・」
「ごめんなさいね、急に仕事が入っちゃって。
祐一さんのバイト先には今日は行かないの？」
「う〜、祐一があんまりバイト先には来るなって言うの・・・」
「あら、どうして？」
どうしてだろう・・・
やっぱり働いているところを、知り合いに見られたくないからかな？
わたしはいつも祐一の側にいたいのに・・・
「よくわからない・・・」
「あらそう、じゃあ名雪にお願いがあるの。」
「何？」
「祐一さんのバイトの様子をチェックしてくれないかしら？」
「えっ？」
「一応、人様からお預かりした大事な子ですからね。
きちんと育てないと姉さんが文句を言ってきますから。」
「うん！
わかった、ちゃんと調べてくるよ。」
「じゃあ、お願いね。
ついでに晩御飯の買い物も一緒にすればいいわ。」
ありがとう、お母さん。
どうやらわたしは、相当寂しそうな顔をしてたらしい。
そんなわたしに気をつかってくれたようだ。
だから、お母さんは大好き。
とにかくこれで、堂々と百花屋に行ける。
カランカラン
「いらっしゃいませ・・・
げっ・・・名雪・・・」
「おはよう、祐一。」
「ああ、おはよう・・・もう昼だけどな・・・
じゃなくて！
何しに来た！」
「う〜、ひどいよ〜
せっかく会いに来たのに・・・」
そう、せっかく会いに来たのに、その言い方は少しひどいよ。
でも口調はきついけど、そんなに嫌がってないのもわかる。
とりあえず、席まで案内してもらう。
「あんまり来るなと言っただろうが。」
「今日はお母さんに頼まれてきたんだよ。」
「秋子さんに？」
「そうだよ。
祐一がちゃんと働いてるか、お母さんがチェックしてきてねって。」
「ぐっ、秋子さんの名前を出すとは・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はあ、注文は？」
祐一は長い間何かを考えていたようだけど、結局あきらめたように聞いてきた。
わたしの答えはもちろん決まっている。
「イチゴサンデー。」
「またか、たまにはこのショートケーキなんてどうだ？
上にイチゴが乗ってるし、値段も３００円とお買い得だぞ？」
「イチゴサンデーのほうがイチゴがたくさん乗ってるもん。
それに祐一のおごりだから少しくらい良いよね？」
言いながら祐一の顔を上目づかいで確かめてみる・・・
うん、大丈夫。
怒ってる様子も無いし、嫌がってもいない・・・
「ちくしょう、何でこんなにかわいいんだ・・・
は〜、これでまた俺の血と汗と涙の１時間にもわたる労働が、
たった１０分で名雪のお腹に消えてしまうのか・・・」
何か祐一がぶつぶつ言ってるけど、独り言を言うのはいつものこと。
顔が赤い気もするし、かわいいとか聞こえた。
それってわたしのことかな？
「まあいい、今日こそ一個だけだぞ。」
「うんっ、ありがとう祐一。」
わたしはうれしくなって祐一に笑顔を向けると、
祐一は「うっ」とうめいて顔を真っ赤にしながら奥の方に行っちゃった。
残念、もっと祐一と話がしたかったのに・・・
そう、祐一がここでバイトを始めてから、わたしは毎日のように来ている。
このあいだは、栞ちゃんとあゆちゃんの退院パーティー。
その前は、佐祐理先輩と舞先輩の卒業記念パーティー。
さらには、北川君を慰める会。
それ以外でも、クラブの後や時間が空いたときにはここに来ている気がする。
ここに来れば祐一に会えるから・・・
もちろん家でも一緒だけれど、働いてるときの祐一は何かかっこいい。
接客の態度もさまになってるし、
マスターと立ち話をしているときなんかは祐一がものすごく大人に見えてくる。
なにより「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」のときの笑顔。
あれを見るだけで、わたしは心臓がどきどきして倒れそうになってしまう。
写真に撮って額縁に入れて飾っておきたくなる。
そのまま押し倒して祐一の体中にキスしたくなる。
・・・最後のはさすがに冗談だけどね・・・
そういえばこのあいだの栞ちゃんのパーティーのとき、香里泣いてたな・・・
泣きながら栞ちゃんに謝ってた・・・
何があったのか知らないけど、多分大丈夫だよね。
栞ちゃんはあんなに良い子だし、香里はなんたってわたしの親友なんだから。
・・・でもあの時栞ちゃんは、けたけた笑ってたような・・・
やっぱり祐一が出したお酒のせいなんだろうな・・・
香里って単なる泣き上戸なのかな〜
よくわからないけど大丈夫だよね、うん。
「あれ？」
イチゴサンデーが無い。
「あれれ？」
ううん、器はちゃんとあるけど中身が入ってない。
「あれれれれ？」
ううん、中身が入ってたようすはあるけど、もう食べた後みたい。
えっ、ひょっとしてさっき考え事してたときに、
無意識のうちに食べちゃったのかな？
確かに口の中に甘い感じが残ってる。
「う〜〜〜」
なんだかものすごく損した気分だよ〜
朝御飯を寝ながら食べるのはよくあることだし、
変わりにゆっくり寝ることが出来るから実は自慢の特技だったりするけど、
こんなのは全然うれしくないよ〜
「う〜〜〜」
「おっ、どうした名雪？
なにうなってんだ？」
祐一がわたしの席の前に座りながら聞いてきた。
どうやら休憩時間みたい。
「ってまさか・・・」
「ね〜ゆういち〜」
「駄目だ！」
「まだ何も言ってないよ〜」
「どうせイチゴサンデーおかわりとか言うんだろ？」
「わっ、どうしてわかったの？」
「おまえな〜
毎日毎日、俺が駄目だといってるのに２杯も３杯も食ってるのは誰だ？」
「だって〜」
「今日こそは１杯で終わりだ！」
「う〜〜〜〜」
祐一が冷たいよ〜
わたしだって祐一には悪いと思ってるからこそ、よく味わって食べたかったのに〜
あれじゃ、食べた気がしないよ〜
「ぐぁ、泣くなよこんなことで。」
「泣いてないよ〜、ひどいよ祐一。」
と思ったら目の前がにじんできた・・・
わっ、本当に泣いてるよ、わたし。
だめだよ、こんなことで泣いたら祐一に変な子だと思われちゃうよ〜
とりあえず涙がこぼれ落ちるのだけは必死でこらえないと・・・
「ぐぁっ、わかった。
今すぐイチゴサンデー持って来てやるからとりあえず泣きやめ。」
「本当に？」
「ああ、だから泣きやんでくれよな。」
「うん！
ありがとう祐一。」
「くそう、また負けた・・・
でも俺が悪いんじゃないぞ・・・
名雪があんなにかわいいから・・・」
あっ、また祐一赤い顔して行っちゃった・・・
せっかく休憩時間なんだからもっと一緒にいたかったのに・・・
ぶつぶつ独り言も言ってたけど、かわいいってわたしのことなのかな？
２杯目のイチゴサンデーを食べる。
やっぱりおいしいよ〜
幸せだよ〜
祐一のおかげで食べれるんだから祐一にはお礼しないとね。
何がいいかな〜
あっ、そうだ！
今日お母さんがいないからわたしが晩御飯作るんだった。
祐一の好きなものたくさん作ってあげよう。
うん、それがいいよね。
ちょうど祐一が通りかかったので声をかける。
「ね〜、祐一。」
「もうだめだぞ！」
「違うよ〜
あのね、今日お母さん帰りが遅くなるんだって。
それで晩御飯わたしが作るの。
だから今日のお礼に祐一の好きなものたくさん作るね。」
「おっ、それはありがたいな。
あと１時間ぐらいでバイトも終わるから、いっしょに買い物もするか？」
「うんっ・・・
でも１時間て中途半端な時間だよね・・・
家まで帰るのも、どっかで遊ぶのも・・・」
「まあたしかにな・・・」
「ね〜、祐一？」
「もうだめだぞ！」
「でも〜」
「あんまり食べると晩御飯が入らなくなるぞ。」
「だって〜」
１時間て本当に中途半端だよ〜
それに晩御飯が出来るまでにお腹がすいて倒れちゃうよ〜
あっ、
指の先にクリームがついてる・・・
わたしは何の気なしにそれを口にくわえてなめる。
甘くておいしい・・・
「ぐぁ・・・だめだ・・・ここは店の中・・・
名雪を抱きしめてキスして押し倒してあんなことをしたりしたら、
俺は一生この店に入れない・・・
くそう、なんでこんなにかわいいんだ・・・」
ふと顔を上げてみると、祐一がぶるぶる震えながらまた独り言を言ってる。
かわいいってわたしのことなのかな？
「だ〜、わかった！
今すぐ持ってきてやる。」
「えっ、ほんとに？
ありがとう祐一、大好きだよ！」
「ぐっ！・・・
がまんだ、がまんしろ。」
あっ、また祐一真っ赤な顔して行っちゃった。
なんだか自分の腕をつねっていたみたいだけど、どうしたのかな？
でもあと１時間もすれば、祐一と一緒に買い物にいける。
ゆっくりお話も出来る。
同じテーブルについて御飯を食べれる。
祐一にいっぱい甘えられる。
祐一、わたしが抱きついても文句言わないかな？
お母さん何時ごろ帰ってくるんだろう？
お母さんが帰ってくるまでに祐一と・・・その・・・えっと・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
う〜、なんだか今からドキドキしちゃうよ〜
ＥＮＤ
投票結果
まちゃる (採点:3)
名雪にメロメロ＆ゾッコンな祐一が見てて面白いです。
神代 悠 (採点:3)
うう〜、天然ですね、名雪。悪魔だけどｗ
Ｇすぽると (採点:2)
私の主観で申し訳ないが、祐一の都合も考えずに奢りを要求する、この名雪はなんか嫌。女性が一番嫌うぶりっこタイプに見えて仕方ない。
名夜 (採点:3)
体中にキスして下さい。（萌
Alice (採点:3)
名雪に対してすんなりと好感が持てた。作者が丁寧に書いているからだと思う。名雪の一人称のビジョンがイメージし易いのは素直に上手いと思った。私ではあまり書けないジャンルですが、良いものは良い。ちょっとこっ恥ずかしいと思いながらもすんなりと読まされてしまった私の負けです。今作に限っては、あまり言うことはないっぽいけど、印象が薄いってのが最大のネック…かな？。ともかく、名雪に身銭を絞られてる祐一に愛の手を……
久慈光樹 (採点:3)
後半のやりとり、面白かったです。ただちょっと前半部分が退屈かも。
naoki (採点:3)
相沢君の台詞が蛇足かな。ない方がより萌えたと思います。
藍翔 (採点:4)
甘い。極甘です。
taka (採点:2)
ラブラブですね・・・。熱すぎてちょっと引いてしまいましたが。
烏賊悪魔 (採点:4)
話のノリの『ちょびっツ』的な可愛さ（萌え）が○、マル、まる。ただ・・・注文をつけるとするならば・・・一言でも心に残るセリフが欲しかった。萌えはそれだけでイイのだけれども、印象に残る一言でさらに上を狙って欲しい。
かずき (採点:1)
名雪が我侭すぎて、名雪嫌いになりそう。
KOU (採点:4)
祐一・・・・・・襲っちまいな（ニヤソ）
荒野草途伸 (採点:4)
ちょっと名雪がガキっぽい気もしますが、かわいい。しかし祐一は哀れですな
ヘキサ (採点:2)
ほのらぶは結構好きなんですけど良くも悪くも”よくある”ほのらぶになっちゃっているのが残念です。
十七夜 (採点:4)
よっ、相沢君男前！ｗ
ASKA (採点:4)
祐一じゃないけど、名雪、可愛すぎ
影 (採点:3)
ほんわかしている可愛いく感じられました
殺陣倉Xp (採点:5)
くそう！なんてかわいいんだこんちくしょう！！なぁぁぁぁぁぁああゆううううぅぅぅ〜〜〜〜〜！！なんだかんだ言ってもちょっとおとぼけな名雪がすきだぁ！！
akira (採点:5)
名雪のほのラブ・・・・・と、言うよりは、完璧な甘々ラブですねｗ でも、あんな感じで名雪に涙ぐまれたり、笑顔を見せられたりしたら、祐一でなくてもイチコロですよ（汗
Lv2 (採点:4)
ほのぼの感がうまく描かれていて良かったと思います
音丸 (採点:4)
私的な意見が入ってますが、名雪がかわいい。＆祐一の葛藤がうけた。ということで４点です。
ugen (採点:4)
名雪が自然に祐一にあまえていて楽しめた
naka (採点:4)
名雪は多いですよね。こういう感じのが。やはりキャラか・・・。
きこ〜もと☆ゆに (採点:5)
読んでて恥ずかしくなるくらい、名雪の恋心が気持ち良かったです♪ 祐一くん、良い彼女を持ったね(^^;
研究員Ｄ２ (採点:3)
祐一＆名雪の甘甘っぷりに完敗（汗） 個人的にはもう１エピソードほしかったです
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。ストーリー性もなければ文章のレベルも低い。恐らく名雪萌えを狙って書いたのだろうが、この名雪は（少なくとも私にとっては）魅力を感じない。
SYN (採点:2)
名雪がただの食い意地の悪い人間に思えてしまうのですが……
コーダイ (採点:4)
名雪、いいですね〜 文章も文句なしにいいです。
ケイ (採点:3)
バカップル認定！（笑） 面白かったんですがちとキャラを壊しすぎなような気がするので点は低め^^;（栞のケタケタ笑いとか） でも今後この作者さんに注目してみたいですね〜（まだまだ伸びるところがあると思いますので）
Rebyu (採点:4)
なんか、甘い感じがいいですね
kuryu (採点:1)
もう一ひねり欲しかったです。がんばってください。
白 (採点:3)
最後の６行が少し弱い？かと・・・エラそうですみません。
グＥ (採点:4)
こういうほのぼのとした作品、私は非常に好きです。祐一のもうそうっぷりもよかったです。
神崎隆一 (採点:1)
読みにくい文章です。他の読みやすい人の文章を参考にして練習するべきです。
り〜だ〜 (採点:3)
名雪の甘え方がよかったです。もう少し祐一に理性があれば・・・。
ぷぢ２〜 (採点:3)
う〜ん、なんと言うか小悪魔的ですね・・・名雪が・・・。
舞耶 (採点:3)
ズキューン（爆）
神月祐 (採点:3)
話自体はとても良いと思うのですが、終わり方がちょっと中途半端だと思いました
コータ (採点:5)
ラブラブですね〜。
Ｖｉｓ (採点:2)
名雪を主人公にしているのは失敗かもしれません。全開の甘えは可愛いのですが『祐一に奢ってもらって当然、祐一の財布の中身は気にしない』という姿勢が非常に読後感を悪くしています。可愛い名雪に祐一が自主的に無理して奢るという話ならほのぼので通ると思います。
Time (採点:4)
ラブラブ〜、照れてる祐一が可愛いかったです〜（爆）。ただ一つ言えば、香里と栞の話は、特に必要なかった気もします。それ以外は、グッドですね♪
SHIKOH (採点:5)
めちゃくちゃ甘いお話ですねぇ。悶えそうでした。けど、ホント名雪は可愛いです。
ひゅう (採点:2)
なんだか特徴が無く、ありふれた話。
はぐ (採点:1)
「読むのは疲れました」 この内容なら、もう少し話の流し方と会話を工夫したほうがいいかな。名雪には「名雪じゃない誰か」がミエミエでした。
シューマン (採点:2)
この二人、近所では馬鹿ップルとして有名に違いないと思わせる作品でした。
全採点
5点 : 13
4点 : 49
3点 : 77
2点 : 55
1点 : 18
このSSは、作者の方に二次著作権が存在します。
転載、無断引用を固く禁止します。
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