SSこんぺ No.020 : ～イチゴ色の思い出～

～イチゴ色の思い出～

いつもの百花屋にて俺はいつものように名雪にイチゴサンデーを奢っていた。
今回は商店街で俺が名雪を置いてけぼりにしてしまったその罰である。
「おい・・・名雪。」
「うん？どうしたの祐一。」
美味しそうにイチゴサンデーを頬張る名雪に不意に問い詰める。
「なんでお前そんなにイチゴサンデーが好きなんだ？」
「え・・・、それはね・・・・。」

話は７年前の私の誕生日まで遡る。

「おかあさ～ん、今日何の日か知ってる？」
「ゴメンね、名雪忙しいから後にしてくれる？」
「う、うん・・・」
この日、私は７歳の誕生日を迎えていた。
幼い私は朝起きてすぐに「誕生日おめでとう」と言われたくて
お母さんにわざとらしく何度も同じ台詞を言っていた。
（もしかしてお母さんは私のたんじょうびなんか覚えてくれてないのかな・・・）
とても悲しい気持ちになった。
大好きなお母さんに「おめでとう」と言って欲しかった。
そして、せめて一緒に住んでいる祐一だけでも・・・
いや、祐一にも「おめでとう」を言って欲しかった。
「後にして」とお母さんから言われた私は辺りをきょろきょろとして祐一を探した。
そしてすぐリビングにいる祐一を見つけた。
何故か一生懸命ポケットの中身を探っていたが、気にせずに声をかけた。
「ゆういち、今日が何の日か知ってる？」
「！な、名雪？どうしたんだよ。」
「今日が何の日か、ゆういちは知ってる？」
「クリスマス・イブイブだ。」
「確かにそうだけど違うよ～。」
「ならいっつーさんの日か？」
「そんな人いないよ～。」
いつもの様にふざける祐一にいつもの様に返事を返す私。
「いつも」ならこのやり取りも楽しいのだけれど「この日」は悲しかった。
（祐一も私の誕生日を覚えてくれていないんだ・・・）
とても悲しかった。
二人の大好きな人が私の誕生日を覚えてくれていないということが・・・
「なぁ、名雪商店街に行かないか？」
「え？」
「今日はどうせひまだろ。」
「う、うん・・・。」
「よし、なら決定だな。」
「秋子さん、名雪と一緒に商店街に行ってきます。」
「分かったわ、夕方までには帰ってくるのよ。」
「分りました。」
私はその時あまり乗り気ではなかった。
誕生日を忘れられているというショックが大きくて、胸のうちが悲しみで被われていた。
「何やってんだー、名雪。　置いてくぞー！」
「あ・・・うん、今行くよ～。」

白く彩られた空と周りの景色までもいつもより寂しく見えた。
祐一が話してきても、私は上の空で返事をするだけだった。
「なぁ、名雪。」
「え？」
「お前なんだか元気ないんじゃないか？」
「そ、そんな事ないよ。」
「そうか？」
「うん、元気だよ♪」
小さくガッツポーズをとる。
「ならいいけどな、・・・お、商店街についたぞ。」
「あ・・・本当だね。」
商店街は人通りも多くて賑わっていた。
特に最近オープンした喫茶店は、安くて美味しいとの評判だったので結構人が入っていた。
「ねえ？ゆういち、そういえば今日は何が目当てで来たの？」
「さ、さ～な？」
「さ～なって・・・特に用はないの？」
「い、いやそういうわけじゃないんだが・・・。」
「わたし・・・おうちに帰る」
「い、いや、ちょっとまってくれ。　あそこに入ろう！な？名雪。」
そういって祐一が指差した先には評判の喫茶店だった。
「う・・・うん、分かったよ。」
そういって私たちは店の中に入っていった。
「いらっしゃいませー、あらお嬢さんたち二人だけ？」
「ハイ、二人です。」
祐一が女性店員さんに答える。
「ふふふ、分かったわ。　こちらのお席へどうぞ♪」
窓際のちょうど二人座れる席に案内してもらった。
お母さんと一緒にこういう所に行ったことはあったけれど、子供だけで来たのは初めてだった。
「ゆういち・・・私そんなにお金持ってないよ。」
「大丈夫だよ、いざとなれば食い逃げする。」
「食い逃げって・・・犯罪だよ～。」
「名雪、食い逃げは犯罪じゃなくて実は詐欺なんだぞ。」
「どっちにしても罪になるよ・・・。」
「いいから、ここでちょっと待ってろよ。　絶対だぞ。」
そう言うと祐一は席を離れ店員さんになにやらぼそぼそと話をしていた。
そしてしばらくするとまたすぐに戻ってきた。
「何を話していたの？」
「なんでもない。」
「またそうやって隠す・・・。」
「別に隠しているわけじゃないんだぞ。」
「じゃあ話してよ～。」
「しばらくしてからのお楽しみだ。」
「ゆういちのいぢわる・・・。」
そうやって話をしたりしていると私達の席にウェイターさんが来た。
私は最初「何も頼んでいないのに？」と思っだけれど、祐一の先程の行動から
祐一が頼んだのだ、と気づいた。
「お待たせいたしましたー、イチゴサンデーです♪」
「あっ・・・。」
テーブルの上には私の大好きなイチゴがたくさん付いたパフェがトン、と一つ置かれた。
「ゆういち・・・これ。」
「お前、好きだろ？イチゴ。」
「うん・・・でも、どうして？」
「バーカ、お前自分の誕生日も忘れたのか？」
「えっ・・・。」
（ゆういち・・・覚えててくれたんだ。）
「名雪・・・誕生日おめでとう。」
私が聞きたかった、たった一言の言葉。
大好きな人にどうしても言って欲しかった、たった一言の言葉。

「誕生日おめでとう」

失意の後の歓喜は、例えきれない感動を私に与えてくれた。
あまりの嬉しさに私は涙を流してしまった。
「うっ・・・くっ・・・。」
「な、泣くなよこんな所で。」
「だって・・・だって嬉しいんだもん・・・。」
「え？」
「ゆういちに『誕生日おめでとう』て言ってもらえて嬉しかったんだもん・・・。」
「ば、馬鹿、そんな事でいちいち泣くやつがいるか。」
「そんな事なんかじゃないよ、本当に嬉しいよ。」
「・・・・」
恥ずかしかったのか、祐一は頭をぽりぽりとかいてそっぽを向いていた。
「ほら、泣いてばかりいるとイチゴサンデー溶けちまうぞ、早く食べろよ。」
「うん♪」
眼元にたまっていた涙を拭い、私はイチゴサンデーに手を付けた。
食べ始めてからしばらくして、私はあることに気づいた。
「ゆういち？」
「ん？」
「ゆういちは何も食べないの？」
「俺はおなかが一杯なんだよ。」
『ぐうぅ～～～～』
「・・・・」
「ゆういち。」
「何だ？今のは俺じゃないぞ。」
「ゆういちも一緒に食べよ♪」
「だけどそれはお前の・・・」
「私とゆういち、二人のものだよ。　だからいっしょに食べよ♪」
「あ、ああ・・・」
そうして私と祐一は一緒にイチゴサンデーを食べた。
子供だったから一つで充分二人分の量くらいだった。
代金は祐一が店を出るときに払ってくれた。
「私も半分出す。」と言ったのだが、
「今日はお前の誕生日だから俺が払う。」と言ったので好意に甘えることにした。
家を出る前にポケットを探っていたのはこのためだったのだと思う。
「おいしかったね～♪」
「ああ、またいつか来ような。」
「うん♪　・・・ねぇゆういち？」
「うん？どうした、名雪。」
「私、このことずっと覚えてるからね♪」
私は満面の笑みで祐一に言った。

出かけるときと同じ空。
同じ白。
何も変わっていないはずなのに、何も変えられたはずはないのに
帰り道での白く彩られた空はとても綺麗で、素晴らしいものに見えた。
大好きな人の一言で、たった少しの一言で
私は今日この日がとても素晴らしいものに思えた。

その後、家に帰って私を待っていたのは大きイチゴのショートケーキと
プレゼントを用意して待っててくれたお母さんだった。
そしてこう一言言ってくれた。

「お誕生日おめでとう、名雪。」

再び私は涙を流し、お母さんに抱きついた。
「ありがとう。」と言いながら・・・・

「それは・・・なんだ？」
「・・・やっぱり秘密♪」
「何だと・・コラ、白状せい！うりゃうりゃ♪」
「キャ！くすぐったいよ～祐一～。」

私はきっと忘れない。
大好きな人達から貰った言葉を。
「誕生日おめでとう」という短い一言を。
イチゴ色の思い出と一緒に貰ったその言葉を。
きっと、きっと・・・・・。

～Ｆｉｎ～

投票結果

久慈光樹 (採点:3)
可も無く不可も無くといった感じかも。文法うんぬんはあまり触れたくないのですが、やはりちょっと気になりました。

烏賊悪魔 (採点:3)
名雪と祐一のイチゴネタはありがちといえばありがちだが、それでもこのネタは秋子さんと誕生日が絡んでいて新鮮。『おなかいっぱいでケーキが食べられなかった』とかのオチが着くとなおいいかも。

taka (採点:4)
昔の思い出。それは、時を重ねるごとに輝きを増すものだと信じています。なので、このＳＳには共感がもてました、

ヘキサ (採点:3)
数ある『イチゴ狂』の理由物の中では良作だと思います。

十七夜 (採点:2)
脱字発見、それ以外は普通

神代　悠 (採点:3)
正統派！　いいですね。

Alice (採点:2)
う～ん、予想できた。話は誕生日まで遡る…ってところで「だいたいこんな感じだろう？」と思っていたが、ぴったしかんかん。展開読め過ぎです。キャラゆえに、想いの強さもわかるのですが、この内容をSSにするのならば、もっとひねって欲しいです。もっとも、Kanonキャラの特徴が強過ぎるので、そこから逸脱するのが難しいっていうのもあるんでしょうけれど、作者さん。がんばって！

naoki (採点:5)
なんでもない一言が、すごく嬉しかったりしますよね。

ASKA (採点:4)
名雪の思い出もやっぱりイチゴなんですね

ugen (採点:3)
ありがちな話だけどうまく書けていると思う

藍翔 (採点:4)
880円という一般の高校生には高価なデザートを奢らされる祐一の悲劇はここから始まったと考えると、7年前の罪は消えてないですね。

橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。話の展開がありきたり。文章力が足らず、名雪の哀しみが充分に表現できていない。

SYN (採点:5)
あったかい感じのする。すてきな話だと思います。

コーダイ (採点:4)
小さな幸せがとても大きな幸せに

naka (採点:5)
かなり良いＳＳです、イチゴサンデーについて書いてあったのは初めてです

ケイ (採点:5)
最後の５行にこのお話の全てが集約されているような気がしますね～。　上手くまとまっていてとてもいい作品だと思いました。　ありがとうございましたm(__)m

かずき (採点:2)
どっかで見たような話だ。

グＥ (採点:3)
最後のほうの文章に、だから私はイチゴがますます好きだったんだよ♪というような台詞があったほうがいいと思いました。

kuryu (採点:3)
名雪らしさがでてて、いい感じです。

神崎隆一 (採点:1)
内容はいいのですが、ちょっと描写を端折っていて展開が早過ぎる感があります。あと「～～。」は一般的に読みにくいとされているので書かないほうが無難です。

舞耶 (採点:3)
結局サンデーの後もケーキのイチゴは必須!?w

musu (採点:1)
いっつーさんって、誰？というか、詐欺は犯罪じゃないのだろうか。

Ｖｉｓ (採点:4)
ほのぼのです。祐一のひねくれ具合がまだ素直で可愛らしいのも良いですね。

はぐ (採点:3)
「いい感じです」ライトな読み応えときちっとまとまった話に好感。中身も二次創作らしさがあるし、いい感じ

シューマン (採点:3)
人の何気ない行動が他人に強い影響を与えると言うことは、意外とある事ですがそういうのって、何か良いですよねー。　そんなわけでこの話も良かったと思います。

全採点
5点 : 10
4点 : 42
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