最後のレース、そして未来（あす）へのスタート
（今日が最後なんだ・・・・・なんか寂しいな。
ううん。寂しがってる時じゃないよね。
今は、集中しないと。うん、ふぁいと、だよ。）
「Ready？・・・」
審判の合図とともに姿勢を正す。
バンッ！
スターターがピストルを鳴らす。
一斉にランナーがトラックへと飛び出す。
始まったんだ。私の高校での最後のレースが。
私はいつもの通り集団の中をマイペースで走る。
先頭を走るのはいつもの子。
いつも私とTOPを争っている子。
（やっぱり、綺麗なフォームだなぁ）
流れるような腕と足の運び。
まっすぐに伸びた背筋。
一定のリズムで刻まれるピッチ。
その子の走りを見ると私まで、がんばろうと思えてくる。
（こういうのって、ライバル関係っていうのかな）
そう考えるとなんか楽しくなってくる。
私は走っているときにいろいろ考えるのが好き。
みんなは何も考えたりしないって言ってるけど。
私っておかしいのか？
「名雪〜頑張れ〜！」
祐一の応援が聞こえる。
「名雪お姉ちゃん、負けるんじゃないわよ〜！」
「名雪さん、頑張って」
それに、真琴やあゆちゃんの声援が聞こえる。
みんな血は繋がっていないけど、私の大事な家族。
残りあと半分。
ペースを少し上げる。
先頭はあいかわらずあの子。
ペースの乱れもなく、フォームに乱れもない。
私は集団から抜けだした。
そして彼女との差を少しづつ詰める。
部員の子は
「なんで、いつも半分ぐらいからペースあげるの？それでよく最後までもつね」
って言うけど、私にしてみれば最初のペースが遅いだけ。
毎朝、走って学校に行っているおかげかな？
祐一にはいつも迷惑かけてるけど、どうしても起きれないんだよね。
何でだろう・・・
昔はちゃんと起きれてたのに。
気付くと、先頭の子との差が２メートルぐらいになっていた。
お互いの足音や呼吸が聞こえる。
（あ、今私を見た・・・なんか笑っていたような気がする）
先頭の子が振り返って私を見た。
その表情はどこか楽しそうだった。
それをみて私もなんか楽しくなってくる。
今回も最後までこの子と走れるのかと思うと。
（きっと、あの子も同じ気持ちなんだ）
名前しか知らないライバル。
話をしたことはほとんどない。
レースのあと、一言二言話すだけ。
「お疲れさま、また一緒に走ろう」
「うん、お疲れさま」
高校に入って3年間、同じ会話があった。
短い会話だけど、お互いの気持ちはわかるような気がする。
私も彼女も走るのが好き。
それだけは絶対に間違いないと思う。
でないと、私と走ってるときにあんなに楽しそうに走るわけないから。
いつしか私は彼女と並んで走っていた。
チラッと横を見る。
彼女もこっちを見た。
そしてお互いに微笑みあう。
あと、１０周。
私はペースをあげる。
彼女も同じようにペースをあげる。
3年間、同じレースで走ってきたからお互いの行動がわかる。
いつもぎりぎりの勝負だった。
私と彼女で1位と2位を言ったり来たり。
「あと少しだね」
「そうね」
走りながら話しかける。
「あなたには負けないわよ」
「私も負けないよ」
「がんばりましょう」
「うん」
残り５周。
最後のスパートをかける。
彼女もスパートをかけてきた。
ここからは最後まではお互いの気力の勝負。
（気持ちで負けたらだめ。気持ちで負けたらだめ、気持ちで・・・））
私は走りながら呪文のように頭の中で繰り返す。
とうとう、最後の周回。
彼女との差は無い。
（あ！？）
彼女の走りが変わった。
今までより、大きくダイナミックな走りになった。
（すごい）
そのフォームは男子顔負けの走りだった。
私との差が徐々に開きはじめる。
（私、負けちゃうのかな・・・）
心の中で弱気な私が顔を出す。
「名雪ー！諦めるな！まだ頑張れるだろう！」
（祐一！？）
祐一がスタンドの一番前に出て大きな声で応援してくれている。
もちろん、真琴やあゆちゃんも一緒だ。
諦めかけた私を祐一の声が励ましてくれる。
（目立つのが好きじゃないのに）
祐一やみんなの応援が私に力をくれた。
（うん。諦めちゃだめ。まだまだ頑張れる。ふぁいと、だよ）
そう思うと急に体が軽くなった気がした。
今までの疲れがなくなったみたいに。
まっすぐに前を走る彼女の背中を見つめる。
あとから見ていた人が言っていたけど最後の周回の私の走りもいつもと違っていたみたい。
彼女が力強い走りなら、私の走りは軽快な走りだったそうだ。
開きかけた彼女との差が再び詰まる。
そして、残り２００メートル。
彼女と並んだ。
チラッと横を見る。
楽しそうな表情だった。
うん、私も楽しい。
（でも、今日は絶対に勝ちたい）
そう思ったのは初めてだった。
今日だけは違った。
応援にきてくれた、真琴やあゆちゃん。
なにより祐一の為にも勝ちたかった。
（あとすこし。もう少し頑張れ私）
彼女のペースがここにきてさらに上がる。
わたしも負けないようにそれについていく。
「名雪ー！いつもの朝のように走れば勝てるぞ！」
祐一がとんでもないことを言う。
回りの人が祐一の声援で笑う。
（もう、祐一ったら・・・でも、なんか安心できるな）
祐一の声援で高ぶっている気持ちの中にも余裕ができた。
ゴールのテープが見えた。
あと少し。
（もう本当に終わりなんだ。まだ、このまま走っていたいな）
どっちが最初にテープを切ったかは私にはわからなかった。
「おめでとう、水瀬さん」
両手を膝におき呼吸を整えてると声をかけられた。
彼女だった。
「え？」
「何をびっくりしてるのよ。あなたの勝ちよ」
彼女に言われて電光掲示板を見る。
１位 水瀬 名雪 タイム・・・・
２位 加藤 弘美 タイム・・・・
３位
「あ・・・私が勝ったんだ・・・」
タイムの差はコンマ１秒。
ほとんど同着だった。
「ふふふ。あなたらしいわね。でも、本当におめでとう」
「ありがとう、加藤さん」
お礼を言って握手を交わす。
「結局、最後に負けちゃったわ。ま、原因はわかるけどね」
「え、え？」
「彼には敵わないものね」
加藤さんはそういって、スタンドにいる祐一を見る。
「そ、そんなんじゃないよ。祐一はただのい、従兄弟だよ〜」
「ふ〜ん、祐一君って言うんだ。じゃ、私がもらっちゃおうかな。彼結構かっこいいし」
「だ、ダメだよ」
「ふふふ。冗談、冗談よ。でも、そんなにむきになるところを見ると好きなんでしょう、彼のこと」
「ひ、秘密だよ」
「そういうことにしておきましょう。さ、優勝インタビューが待ってるよ」
加藤さんは私の肩をインタビューが待っているほうへ押しだした。
「おめでとう、名雪。よくやったな」
全てが終わって競技場をでると祐一達が待っていた。
「ありがとう、みんな。今日勝てたのもみんなの応援のおかげだよ」
心からそう言える。
本当に今日はみんなの応援がとても励みになったから。
「あたりまえでしょう。なんたって、真琴が応援したんだから！」
「もう、真琴ちゃんったら」
「お前たちはただ騒いでいただけだろが」
祐一が二人の頭を軽く叩く。
「「なにするんだよ、祐一君（するのよ、祐一）」」
二人が祐一を追い掛け回す。
「あらら。賑やかね」
お母さんが言う。
「あ、お母さん」
「おめでとう、名雪。頑張ったわね」
「うん。みんなの応援のおかげだよ」
「そう、良かったわね」
今日で、高校でのレースは終わったけど、まだ私のレースは終わってない。
これから陸上を続けていくかどうかはわからないけど、
陸上だけでなくてこれからは私の人生のレースがあるんだ。
一人ではくじけちゃうかもしれないけど、
お母さん。
「さ、そろそろ帰りましょう。今日はご馳走にしましょう」
真琴。
「わ〜い。早く帰ろう！」
あゆちゃん。
「うぐぅ・・そうだね。お腹すいたしね」
そして、祐一。
「お前らは、食い地ばかりがはってるなぁ・・・」
みんなと一緒ならきっと頑張っていけると思う。
「「「「名雪（お姉ちゃん）（さん）、帰るわよ（ぞ）」」」」
そう。
まだ私のレースは始まったばかり。
目の前にはまだ未来（あした）へ続くゴールへの道がある。
そのスタート地点にようやく立ったのだから・・・・・
投票結果
久慈光樹 (採点:4)
満点じゃないのは私がオリキャラ嫌いだというだけのことです。いい話でした。
ヘキサ (採点:2)
名雪の頑張りが目に浮かぶＳＳでした。
十七夜 (採点:2)
同時に喋るところが変かなー、と。
naoki (採点:3)
お話はｇｏｏｄ。もっと走るときの爽快感、スピード感が欲しいです。
Alice (採点:3)
良い感じでした。なんというか、そういうものなのかな〜とか思ってたりして。レースの緊迫感があまりなかったような気もしたんだけど、名雪らしいかな…とも。雰囲気は充分につたわってきました。ワンシーンに絞ったのも間違ってないとも思います。
荒野草途伸 (採点:3)
呼称にはちょっと違和感有りだけど、まあまあかな
ugen (採点:4)
競技のシーンは現実的でないところもあったけど物語としての現実感はある
藍翔 (採点:5)
どことなくＴｏ Ｈｅａｒｔぽい話が良かったです。
taka (採点:3)
緊張感のない名雪。ある意味、名雪らしいですね。あののほほんとした雰囲気とか。
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。口調・性格・思考など名雪のキャラが掴みきれておらず、違和感を覚えさせる。あるジャンルを描こうと思ったら、ちゃんとそれに関する取材や資料集めをすること。常識で考えてもわかりそうなものだが、レース中に走りながら話す人はいない。普通高校最後のレースというとインターハイだが、これは全国決勝の舞台だったのだろうか？ 優勝したのだから予選なら次があるはずで、決勝だったのなら日本一になったわりには周囲のリアクションが薄いし、名雪の今後の進路にも触れていない。もし推薦またはエスカレーターで進学が決まっていて部活を続けていて、高校最後に地方のレースに出ただけなら筋は通るが、その説明もまたされていない。文章力も低い。
ASKA (採点:4)
やっぱり、名雪は速いんだろうな……想像できないけど
かずき (採点:4)
名雪がちゃんとトラックを走っているのは珍しいけどうまく書けてます。
コーダイ (採点:3)
読みやすくてさらっと読めました。
グＥ (採点:3)
面白いアイデアのＳＳでした。余談ですが、途中の後から〜の部分がないほうがいいと思った.
ケイ (採点:4)
「人生のレース」ってところ、心にきました！名言ですな（笑） ということで４点です。ありがとうございました。
暇人 (採点:5)
名雪の頑張りが伝わってきて、非常に面白かったです。
まちゃる (採点:3)
他の作家さんとは一線を画した着目点とそれを描ききった表現力に惹かれました。
Ｇａｒａ (採点:4)
雰囲気良し。
神崎隆一 (採点:1)
もっと他のキャラとの絡みを入れた方が。
神代 悠 (採点:4)
名雪を思わず応援したくなっちゃいますね〜
みちやづき (採点:4)
こういうエピソード――ライバルという二人の関係は、まったくそうだと感じます。言わなくても通じ合えること、足音でわかること。同じように、頑張ってきたんだ、と。このSSコンペも、もしかしたら……そうなのかも知れませんね。
浮動明王 (採点:4)
原作ゲームにあってもいいくらい良いできですね
はぐ (採点:1)
「読むのは疲れました」 実際にトラックで走った人間なので、かなり読んでいてこれはという感じでした。もちろんフィクションだから、というのはあるでしょうが。まさにドラマ的な流し方でしょう
全採点
5点 : 11
4点 : 48
3点 : 85
2点 : 32
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