「なーす らぷそでぃ」
それは、とある日曜日の朝の出来事だった。
いつも通りのリビングに、いつも通りの朝食風景が広がっていた。
そのさなか、突如その平穏を打ち破るものがあった。
「うっ…！」
ガタン。祐一が、奇妙な声を上げたかと思うと、椅子から転げ落ちた。
『？』
その場にいた他の面々…これまたいつも通りの顔ぶれ。秋子、名雪、真琴の三人は、突然の事に唖然とする。
「ぐっ…」
そこへ、二度目の呻き声。
ここに至って、ようやく三人の頭に事態が浸透し始めた。
「祐一さん、大丈夫ですか？」
まず動いたのは秋子。
それにやや遅れて、名雪と真琴も倒れ込む祐一を覗き込んだ。
「ゆ、祐一…。どうかしたの？」
「もう、何やってんのよ祐一っ。朝ご飯の時ぐらい静かにしてよねっ」
「……」
返事がなかった。
「わ、わ、わ。祐一〜」
「ちょ、ちょっとぉ、朝からつまんない冗談は止めてよねっ、祐一」
「…３８度４分。これは立派な風邪ね」
祐一が寝かされたベッドの傍らで、秋子が体温計を見ながらそう呟いた。
「どうしましょう。私は、今日は用事で出掛けないといけないし…。名雪は？」
「わたしも、今日はお出掛けだからダメだよ〜。多分、帰ってくるの夕方ぐらいになると思う」
心配げに話し込む親子に、祐一が声を掛けた。
「…俺は大丈夫だから、気にしないで行ってきて下さい。これぐらい、寝てれば治りますから」
「そうは言ってもね…。やっぱり心配だわ」
その時、考え込んでいた名雪が何かを閃いたように、ぽん、と手を打った。
「あ、そうだ！ お母さん、あゆちゃんに頼んでみようよ」
「そうね、頼んでみましょうか」
そう言いながら、水瀬親子は部屋を出ていった。
その後に残された真琴は、何やら不満げな顔でブツブツと文句を言っている。
「何よぉ…。真琴だっているのに」
「…お前につきっきりで看病なんかされたら、良くなるものが余計に悪くなるぞ」
「大丈夫よっ！ 真琴がいるんだから」
祐一の言葉の意味が分かっているのかいないのか、胸を張る真琴。
「お前がいるってこと自体が、一番大丈夫じゃないような気がするが…」
祐一の密かな呟きは、密かすぎて真琴の耳には届いていなかった。
「おはようございま〜す」
それから十数分後、名雪からの連絡を受けたあゆが水瀬家に現れた。
「いらっしゃい、あゆちゃん」
「折角の日曜日なのに、ごめんなさいね。いきなり呼び出したりして」
「ううん、祐一君の一大事だもん。気にしないで下さい、秋子さん」
いそいそと上がり込み、早速祐一の部屋に向かうあゆ。
「祐一君、もう大丈夫だよ。ボクがついてるから、気を確かに持ってね」
寝ている祐一の手をそっと握り、あまつさえ瞳を潤ませながらあゆが呟く。
（何を大袈裟な…。俺は難病に冒された重病人か？）
祐一はそう思った。
あゆの中では、もはやただの風邪ではなくなっているのかも知れない。
「…頼むから、何もしないでくれ。それだけで充分だ」
「何遠慮してるの、祐一君。大丈夫、全部ボクにお任せだよっ！」
「俺の周りにいるのは、何でこんなやつばっかりなんだ…？」
その呟きも、やはり密かすぎてあゆには聞こえていなかった。
「それじゃ、後はお願いね。なるべく早く帰ってくるから」
「いってきま〜す」
そう言い残して、秋子と名雪は出掛けていった。
「いってらっしゃ〜い」
玄関先で手を振って二人を見送り、あゆと真琴の二人はリビングへと戻ってきた。
「さて、これからどうしたらいいのかな？」
「あんた何言ってるのよ。祐一の看病に決まってるでしょ」
「うぐぅ…それぐらい分かってるよっ」
「まったく…。いてもいいけど、真琴の邪魔はしないでよね」
「それはボクの台詞だよっ。ボクの邪魔しないでね、真琴ちゃん」
「何よっ！」
「何だよっ！」
言い合いを始める二人。
その時だった。
ピンポーン。
チャイムが鳴り、二人ははっと顔を上げた。
「？ 誰だろ…。まぁいいや、は〜い！ 今出ま〜す」
あゆはとたとたと廊下を歩いていき、玄関のドアを開けた。その向こうに立っていたのは…。
「…？ あゆ？」
舞だった。
不思議そうな目であゆを見つめる舞。
「…どうして？」
「え？ う、うん、ちょっとね。それより、舞さんこそ何でここに？」
「…遊びに来た。祐一は？」
「え、えっと、実は祐一君が…」
「祐一は今病気で寝てるの。だから、あんたと遊んでる場合じゃないのよ。分かった？」
その時、丁度後からやって来た真琴が口を挟んだ。
「病気…」
その単語を聞いた途端、舞の表情が一変した。
「ちょ、ちょっと！ 何勝手に上がりこんでるのよっ」
「うぐぅ、何するんだよ〜」
二人の声を背中に聞きつつ、舞は一直線に祐一の部屋へと向かう。
「祐一！」
「ん…。舞、か」
浅い眠りについていた祐一が、ドアを開く気配に目を覚ました。
「悪いな…。風邪引いたらしくてな、今日はちょっと遊んでやれないんだ」
ふるふる。舞が首を横に振る。
「私がついてるから」
「え」
「看病する」
「い、いや…。大丈夫だよ、寝てれば治るから」
「私はウィルスを討つ者だから」
「それは何か違うぞ…って、そう言う問題じゃない。いいから、俺のことはそっとしといてくれ」
こくん。舞が頷く。
「おお、分かってくれたか。やっぱり、あの二人とは違うな」
「私に任せて、祐一」
「……」
分かってくれてなかった。
祐一の安堵は束の間…いや、ほんの一瞬の煌めきだった。
「だから、任せた方が心配なんだってば…」
もはや言うまでもないが、密かすぎた彼の呟きはやっぱり舞の聴覚を捉えていなかった。
「とにかくっ！ 任されたのはボクなんだから、真琴ちゃんと舞さんは座って見ててくれればいいから」
「何言ってるのよっ。祐一と真琴は家族なんだから、真琴が看病するのが筋ってもんでしょっ！」
「…私がする」
「何だよっ、祐一君はボクが責任持って看病するんだよっ」
「ふ〜んだ！ 部外者は引っ込んでなさいよう」
「祐一の面倒は私が見る」
「何でそんなに我が儘なんだよっ！ ボクが看るからいいのっ」
「我が儘なのはあんた達でしょ！ 真琴に任せておけば問題ないわよっ」
「…私でないとダメだから」
舞を加えた三人は、リビングで言い争っていた。
何のことはない、先ほどまでの二人の言い合いに舞が参戦しただけのことである。
人数が増えても、やることは全く変わっていなかった。
"みんなで分担して看病する"という考えは、すでに思考の遙か彼方へと追いやられていた。
いや、最初からなかった、と言った方が正確だろうか。
「ホントに仕方ない人達なんだからっ。ちょっと、一つ提案があるんだけど…どう？」
自分のことは完全に棚に上げて、真琴が言い出した。
「提案？ なになに？」
「んっとねぇ…。今日の看病で一番上手くできた人が、祐一とデートできる！って言うのは？」
「祐一君とのデート権を賭けて勝負ってことだね？ いいよ、ボクそれに乗った！」
「…望むところ」
「決まりっ！ じゃあ、今この時から勝負開始よっ！」
祐一の意志とは全く無関係なところで、少女達の熱いバトルが始まろうとしていた。
「真琴…本当にありがとう。お前の看病のお陰で助かったよ」
「い、いいのよ。真琴は、祐一のために頑張っただけなんだから」
「何て嬉しいことを言ってくれるんだ、お前は。よし、今日は俺の奢りだ。好きなものをいくらでも買ってやるぞ」
「え、でも…」
「気にするな、俺の感謝の気持ちだ。それぐらいさせてくれ」
「う、うん…じゃあ…。肉まん１００個！」
「よし、それじゃ早速買いに行こう。そんで、後で一緒に食おうな」
「うんっ！」
「あゆ。今回は色々世話になっちまったな」
「いいんだよ、そんなこと。ボクは、祐一君が元気でいてくれれば、それだけで充分だから」
「ああ、お前の気持ちはよく分かってる。俺のために頑張ってくれたなんて、嬉しいよ」
「そ、そんな…。ボクは…」
「さ、今日はどこに行こうか？ 折角のデートなんだ、好きなとこに連れてってやるぞ」
「ホントにどこでもいいの？」
「当たり前だろ、今日の俺はあゆの貸し切りだ。どこにだって行くさ。…二人っきりで、な」
「ゆ、祐一君…。ボク、世界一の幸せ者だよっ」
「舞…。お前が看病してくれたお陰でこんなに元気になったよ」
「…別に何もしてないから」
「何言ってるんだ。舞に救って貰ったこの命、是非お前に捧げさせてくれないか」
「祐一…」
「俺…こんな事でしかお前の気持ちに応えられないけど、受け取ってくれ」
「あっ…。だめ、祐一…そんなこと…」
「愛してるぜ、舞…」
「……私も、愛してる…。祐一…」
（※ 以上は彼女達の妄想です）
「うふ、うふ、うふふふ…」
「えへ、えへへへへ…」
「……………」
完全に自分の世界に入り込み、だらしなく歪む三人の顔。
とは言っても、舞は普段とさほど変わっていないが…誰もそれを見ていなかったのは、不幸中の幸いだっただろう。
あくまでも同レベルな三人なのである。
「とっとにかく！ これからは敵同士よっ！ いいわねっ？」
じゅるっと口元の涎を服の袖で拭いながら、真琴がそう言った。
敵同士も何も、最初から仲間ではなかったような気もするが…それはさておき。
「よぉし！ ボク頑張るからね、祐一君っ」
「祐一…待ってて」
ここに、勝負の火蓋は切って落とされた…と言うほどのものでもなかったが。
「それじゃ、お先に〜」
まず先陣を切ったのは真琴。
その手には、水を張った洗面器とタオルを持っている。
「祐一、大丈夫？ 真琴が濡れタオル持ってきてあげたわよ」
「おっ、悪いな。なかなか気が利くじゃないか」
上体を起こしながら、祐一が嬉しそうに言った、その時。
「当然よっ！ …って、きゃああっ」
「ちょ、ちょっと待て！ うわああああっ」
真琴はドアのところで見事に躓き、その手を離れた洗面器は宙に緩やかな放物線を描いて祐一に向かって飛んでいく。
バシャーン。当然、洗面器に入っていた水は祐一に襲いかかり、一瞬にして濡れ鼠と化してしまった。
「おいっ、真琴！ 何すんだっ！ これじゃ、余計に風邪が酷くなっちまうじゃないか…」
「あ、あぅ…。ごめん、祐一」
「…はぁ。分かった、ここはいいからお前は下で大人しくしてろ」
「うん…」
真琴は、がっくりと肩を落としてリビングへと戻っていった。
「よ〜し、次はボクだよっ！」
「何するつもりなの、あゆ」
「じゃ〜ん！ これだよ」
自慢げに真琴に見せたのは、氷枕だった。
「うっ…。なかなかやるわね」
「今行くよ、祐一君〜」
氷枕に氷を詰めながら、うっとりとした表情を浮かべるあゆ。
そして、意気揚々と祐一の部屋へと向かう。
「祐一君、調子はどう？ ボクね、氷枕持ってきたんだよ」
「ほう。そりゃいいや…って。ちょっと待て」
「うん？ 何かな」
「…何だその異様な氷の量は」
祐一の言うとおり、あゆがぶら下げるように持っている氷枕は氷の詰めすぎではち切れんばかりの様相を呈していた。
「結構重かったよ」
「いや、そういうことを訊いてるんじゃなくてだな」
「まあまあ、そんな細かいことは気にしないで。はいどうぞっ」
「どうぞ、って言われても…。どうすりゃいいんだ、こんなもん」
「祐一君、使い方知らないの？ ボクがやってあげるね」
そう言いつつ、持っていた氷枕…いや、氷風船とでも言うような代物を祐一の頭にセットすべく、持ち上げる。
その時だった。
「うぐぅ！？」
「ぬわっ！」
あゆの腕はその重さに耐えきれず、思わず氷枕を落としてしまった。
そして、その真下にはそれを見上げていた祐一の顔が。
パチンッ！ 更に追い打ちをかけるかの如く、氷枕の口を止めていた留め金がその衝撃で弾け飛び、同時に中身がベッド上に散乱してしまった。
「ぐあ…」
落下の衝撃と氷の冷たさのダブルパンチを受けた祐一は、もはや何を言うことも出来なかった。
「う、うううっ…。さ、寒いぃぃぃ…」
震えながら呟く祐一。
先ほどの真琴がぶちまけた水との相乗効果で、祐一の体感温度が一気に低下した。
「あ、あのその、ボク…」
「あのなぁ…。お前らは、俺を看病しに来たのか？ それとも悪化させに来たのか？」
「うぐぅ…ゴメン…」
「もういいから、お前も下で大人しくしててくれ…は、は、はっくしょんっ！」
あゆも真琴に引き続き、がっくりと項垂れてリビングへと戻っていった。
「…今度は私」
「あんたは何する気なの？」
「…卵酒を作る…」
「卵酒？」
こくん。舞が頷く。
「あっ、ボク聞いたことあるよ。卵酒って、風邪の時によく飲むんだよね」
「えぇ〜！？ そんないいものがあったなんて…。黙ってるなんて卑怯よっ」
最初に"敵同士"だと言い始めた真琴が、一番早く文句を言い出す。
「祐一とデート…。待ってて、祐一」
どことなくぽわっとした表情を浮かべながら、舞が呟いた。
そして、出来上がった卵酒をお盆に乗せて祐一の部屋へと向かう。
「祐一」
「今度は舞か…。お前は何をしに来たんだ…」
熱のせいもあって、さすがに元気がなくなってきた祐一。
その声にも、張りがなくなってきていた。
「卵酒を作ってきた」
「卵酒か。なるほど、それなら大きな間違いは…」
そこまで言って、祐一の言葉が途切れる。
何故かと言えば、舞が持ってきたものを見てしまったからだ。
「…何だそれは」
「だから、卵酒」
舞が卵酒と呼んだものは、ビールジョッキになみなみと注がれたビールに生卵を落とした代物だった。
「おい…。これを俺に飲めと言うのか」
こくん。頷く舞。
「…奮発して、卵１０個」
「そう言う問題じゃないだろ…。飲めるか、そんなもんっ」
「我が儘を言ってると、病気が良くならない」
「って言うか、そんなもんを飲んだら余計に…むぐっ！？ んぐぐぐぐぐうっ」
祐一の抵抗も空しく、半ば強制的に口の中へ注がれる卵酒…と称されるモノ。
「ぷはぁっ、う、うっぷ…。な、何てもんを飲ませるんだ、舞っ！ お前は俺を殺す気かっ！」
「…そんなつもりはない」
「だったら、もうちょっとまともなもん作ってきてくれよ…。お粥とかさ、他にも色々あるだろ？ 何でよりにもよってこれなんだ…」
これ以上ないというほどに疲れ切った祐一の声。今にも倒れてしまいそうだ。
頭がクラクラするのは、熱のせいだけではないだろう。
その時、下にいたはずの真琴とあゆも姿を現した。
「ちょっと、あんた！ 何してんのよっ！？」
「舞さんっ、そんなもの飲ませたら祐一君が死んじゃうよ！」
「…二人とも、うるさい…」
「何がうるさいよっ！ 元はと言えば、あんた達が悪いのよっ！ 最初から真琴に任せておけば良かったのにっ」
「な、何言ってるんだよっ。真琴ちゃんだって、失敗してたくせにっ！」
「何よっ！」
「何だよおっ！」
「二人とも、けんかは良くない…」
「うるさいわねっ！ あんただって同じ様なもんでしょ？」
二人の間に仲裁に入ろうとした舞の腕を、思わず払いのける真琴。
その拍子に、例のビールジョッキが横倒しになり、まだ半分以上残っていた中身が床に広がってしまった。
「あ……」
「うぐぅ〜、何なんだよこれっ！ 人間の飲み物じゃないよっ」
「…祐一のために作ったのに…！」
そして、その言い争いに舞も加わり、祐一の部屋は今や戦場と化した。
「だ、誰か助けて…。早く帰ってきてくれ、名雪、秋子さ〜ん」
その光景を余所に、這々の体で脱出を果たした祐一は、仕方ないのでリビングのソファで毛布を被って寝ることにした。
その後…。
「ただいま。みんな、ちゃんと看病してるかしら？」
そう独りごち、何気なくリビングを覗き込んだ秋子が見たのは、何故かソファで毛布にくるまった祐一の姿だった。
「あら、祐一さん？ ちゃんとお部屋で寝てないとだめでしょう」
「…あ、秋子さん…。よかった、これで助かった」
「助かった、ってどういうことなの？」
その時、秋子は気付いた。祐一の衣服が冷たく湿っていることに。
そして、二階から聞こえてくる怒声と罵声の入り交じった声に。
「！ あの子達ったら…」
事態を察したのか、秋子は急いで二階へと向かい、祐一の部屋のドアを開け放つ。
「まあ…」
そこで秋子が見たのは、想像を絶する有様であった。
床に広がった異様な液体と散乱した氷、びしょびしょに濡れきったベッドのシーツ。
そして、その光景を前に激しく言い争う三人。
「いい加減にしなさい、あなた達！」
あまりと言えばあまりの光景に、滅多に聞くことのない秋子の怒声が響いた。
その途端、祐一の部屋は水を打ったように静まり返った。
そして、秋子が部屋を片づけ、掃除し、ベッドのシーツを新しく変えたところで祐一はようやく部屋に戻されることとなった。
その間、真琴とあゆ、舞の三人はリビングで項垂れたままだった。
その三人を余所に、秋子は手早く雑炊を作ると、祐一の部屋へと運んだ。
「ごめんなさいね、祐一さん」
「いえ…」
「こんなことなら、私が残るべきだったわ」
「……」
「まさか、こんなことになるなんて思ってなかったから」
「…すいません、色々と面倒かけて…ごほっ、ごほっ」
「いいのよ。それより、大丈夫？ 悪くなってなければいいけど。とにかく、これを食べたらお薬を飲んですぐに寝なさいね」
「…はい。…あ、あと…」
「…あなた達、一体どういうつもりなの？」
『……』
並んでソファに座っている三人の前で、秋子が腕組みをしながら立っていた。
その表情は、今までに見たことがないほど厳しかった。
「私は、祐一さんの看病をお願いしたはずよね？」
『……』
鋭い秋子の物言いに、三人は顔を上げることさえ出来ないでいる。
ただ、居心地が悪そうに項垂れるばかり。
「それなのに、何なのあれは？ 祐一さん、朝よりも熱が上がってたわ。余計に酷くしてどうするの」
「あ、あぅ…」
「うぐぅ…」
「…ごめんなさい…」
「…ふう、私に謝っても仕方ないでしょう。あと、祐一さんからあなた達に言伝があるわ」
『えっ』
思わず顔を上げる三人。だが、それを聞くのが怖かった。
何しろ、自分達はあれだけのことをしてしまったのだ。祐一は怒っているに決まっている。
それを思うと、とても聞くことができない。
「…祐一さん、何て言ったと思う？ 私にね、"あいつらはあいつらなりに一生懸命やってくれたんだから、あんまり怒らないでやって下さい"って言ったのよ」
『…！』
「それから…"治ったら、みんなでどっかに遊びに行こう"って」
「あぅ…祐一ぃ…」
「祐一君…」
「…祐一…」
「今日の所は、祐一さんに免じて許してあげるわ。でも、祐一さんが治ったら、ちゃんと謝るのよ」
そこまで言って、ようやく秋子の顔にいつも通りの笑顔が戻ってきた。
「うんっ」
「はいっ」
「…はい」
彼女達の胸に、祐一の優しさが染み込んでいく。じわじわと、じわじわと。布が、水滴を吸い取っていくように…。
祐一を看病する、という当初の目的は達せられなかったものの、改めて各々が祐一への想いを再認識した一日だった。
投票結果
空明美 (採点:5)
いい話です
carbuncle (採点:2)
こんなの秋子さんじゃねぇってとこかな。
KOU (採点:3)
祐一、災難っすね。香里や佐祐理さんだったらよかったのに。あ、でも栞は加わっても一緒かな？風邪にはアイスが効くんですー！とかなんとか
ugen (採点:4)
実際に想像できそうな三人と秋子さん祐一の行動だった
殺陣倉Xp (採点:4)
おお……祐一が何とか話をまとめている（笑）でも、真琴はやはり色気より食い気なのですね。舞があそこまで妄想を広げるとは思いませんでしたが（爆
qawsed (採点:4)
栞は？
naoki (採点:3)
こういう秋子さんのほうが、人間っぽくて好きです。
ヘキサ (採点:3)
怒った秋子さんがgoodでしたｖ
taka (採点:4)
心の広い祐一が良いですね。あの３人もいい味出してました。
烏賊悪魔 (採点:2)
同人誌（マンガ）ちっくなニオイがしますねぇ。マンガにしたら結構面白いのではないでしょうか？
橘征五郎 (採点:2)
まずは基本的な文章作法の勉強を。「良くなるものが余計に悪くなる」など日本語が怪しい。正しい表現を覚えよう。全体的に中途半端。ギャグがお約束でしかなく切れ味も鈍い。ラストもほのぼの度が足りない。三人で協力して看病するという締めにした方が良かったのでは？
Alice (採点:4)
笑わせてくれるだろうか…ギャグならそう思って読み始めるのだが、笑ってしまった。単純で予想が付くネタに笑ってしまった。その次点で高得点でしたが、ＳＳ本分もかなり読み易く、あっさりとしているのがとても良かった。秋子さんの使い方も良かった。惜しむらくは、病気っ娘の栞がいてくれれば、もっと悲惨…もとい、もっと面白い内容になったのでは？と思った。とはいえそれを抜いても充分に面白かったです。「今度は舞か…。お前は何をしに来たんだ…」←これが一押しの台詞だったりする。
コーダイ (採点:5)
面白いです、出来れば名雪も加えて欲しかった。
グＥ (採点:3)
途中の３人の妄想とか非常に好きなのですが・・・、秋子さんが怒るシーンがなぁ・・・、引っかかったのが残念でした。（怒るのがあたりまえなんだけど、秋子さんだからなぁ…）
暇人 (採点:4)
こういうSSを読みたいと思っていました。
かずき (採点:3)
怒ってる秋子さんが良い感じです。
ちいーゆ (採点:3)
途中まで『壊れ』っぽい展開だったけど、最後がきれいにきまってよかったです
しゅう兵衛 (採点:1)
???
naka (採点:5)
文句なし、満点ですね。「私はウィルスを討つ者だから」が特に◎
ＪＩＭＭＹ (採点:4)
よりにもよって精神年齢の低い方から３人。三者三様のボケぶりが楽しかったです。
kuryu (採点:3)
どたばたコメディで、めずらしい取り合わせで結構ないすでした。
藍翔 (採点:4)
未成年に並々とビールを飲ませる・・・。やっぱり舞はいいです。
おーふな (採点:2)
あ、もっとドタバタになるのかと思った。最後はちょっとキレイにまとめ過ぎた感じ。
神崎隆一 (採点:3)
うまーくまとめたな、と。いい感じです。
TOM (採点:3)
最後の展開は意外でよかったです。
舞耶 (採点:3)
酷〜!!（笑）
神代 悠 (採点:3)
祐一、災難でしたねぇ…それにしても…舞も同レベルなのね（苦笑
浮動明王 (採点:2)
キャラの壊し方が間違っている あゆや舞は祐一の迷惑になることは絶対にしないはず
Ｖｉｓ (採点:4)
良い雰囲気なんだけど、健気すぎる祐一が可哀想です（笑）
Time (採点:5)
ばればれの、ドリフコントのようなギャグだけど、つかみはＯＫ。他作品でもめったに見ることのない、秋子さんの怒るシーンに、最後は、ばっちり祐一の優しさを見せ終了。まとまったストーリーと展開、よかったです♪
はぐ (採点:1)
採点不能「読めません」
シューマン (採点:5)
祐一優しすぎですやんと、思わず言ってしまいそうですよ。 それにしても、ほのぼのは読後の気持ちよさがいいですよねー。
全採点
5点 : 11
4点 : 43
3点 : 73
2点 : 46
1点 : 15
このSSは、作者の方に二次著作権が存在します。
転載、無断引用を固く禁止します。
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