幸せのために
『奇跡』
本当にこんな言葉がぴったりだと思う、そのおかげか私は今もこうして生きている。
本当なら奇しくも誕生日に終えてしまうはずだった私の命。
それを救ってくれたのはやはり彼だったのだろうか？ それとももっと何か超常的な力？
私と彼の愛の力だとしたらドラマッチクだと思いませんか？
尤も彼はかなりの朴念仁なのでそんな気の利いた発想をしてくれるかどうか……
現に彼を狙うライバルは多いわけで。
あろうことに我が姉である美坂香里も彼に惹かれ始めたというではないですか！
「姉さん一大事です」
思わず呟いてしまいました、それもライバルである姉に向かって。
それにしても妹の命の危機に……姉は何をしていたんでしょう。
あれでしょうか、つり橋の上で出会った男と女はカップルになり易いとか。
危機的状況では恋が芽生え易いとか―――尤も命の危機にあったのは私の方なんですけど。
彼は彼で人が良いというかなんというか……
（まぁそこが彼の魅力でもあるんですけど）
その所為で恋のライバルが大量発生していることも否めない事実。
とりあえず強敵となりうるのは―――
『彼の居候先の従妹、水瀬名雪さん』
『七年の想い人、月宮あゆさん』
『姉、美坂香里』
の３人でしょうか。
まだお嬢様の先輩とか剣の達人の先輩とかいますけど先輩方は今年で卒業。
パワーダウンは避けられないでしょう。
あぅーと鳴くかわった狐とおばさ―――物腰が上品な同級生もいますが……
恋愛ごとに疎そうなのでとりあえず度外視。
分が悪いことに名雪さんとあゆさんは彼と同じ家に住んでるし、姉は同じクラス。
おまけにスタイルでは完敗。
あゆさんとならタメを張れますが七年の眠りから覚めた彼女の成長は未知数です、侮れません。
どうにかしてアドバンテージを取りたいところですけど……
何か私に有利なことってないですかね？
アイスクリーム早食いとか？―――でもこれでは勝負に乗ってきてくれないですね。
うーん、どうしたものでしょう？
…………
……
「そうだ！」
私は思わず手を打ちました、妙案です♪
「待っててくださいね祐一さん！ 皆さんに勝って私のものにしてみせますよっ♪」
＜後日＞
「で？ こんなところにあたし達を呼び出してどうする気かしら？ 栞」
「うにゅ……けろぴーはここ」
「名雪さん！？ 寝ぼけてるのっ？」
いつもの噴水の前に私その前にはお姉ちゃん、名雪さん、あゆさんの３人が立っていた。
お姉ちゃんはちょっと不機嫌そうに腕を組んでる。ちょっと怖いですよ、お姉ちゃん。
名雪さんは何故か寝ぼけているのか大きなカエル……？ のぬいぐるみを持っている。
あゆさんは立ったまんま寝てる名雪さんを起こすのでいっぱいいっぱいみたい、大変ですね。
「えーとですね、雪合戦しましょう」
「帰るわ」
「えう〜お姉ちゃん酷いですーそんな即答しないでもいいじゃないですか！？」
私の提案を聞いてコンマ何秒で帰ろうとしたお姉ちゃんの制服の裾を慌ててひっぱります。
……ここで逃がすわけにはいきません。
「でも栞ちゃんなんでボク達となの？」
「わたしにんじん食べれるもん……」
「名雪。いい加減におきなさい」
「それはですね……」
私は言葉をいったん切った、３人の視線が集まるのがわかる。
……名雪さんは糸目になってますけど。
「祐一さんを賭けて勝負です！」
「「「は―――！？」」」
さっきまで糸目だった名雪さんも祐一さんの名前を聞いて完全に目を覚ましたみたいです。
名雪さんこういうときは寝起きいいんですね、こんど祐一さんに教えてあげましょう。
「ちょっと栞？ なんで相沢君のためにあたしが戦わなきゃならないの？」
「え？ だってお姉ちゃんもでしょ？」
「なっ！？ 何がよ……」
「ふふ、言葉通りですよ」
まったくお姉ちゃんは素直じゃありません。
でもそんなことはわかりきったことなのでちゃんと手も考えてありますけど。
「あ、あたしはやらないわよ！？ 相沢君のことなんて……べ、別にどうでもいいんだから」
「名雪さん、香里さんすごいどもってるね……」
「香里って隠し事上手だったはずなのに」
「お姉ちゃん今まで恋愛沙汰にはあまり縁がなかったですから、慣れてないんですよ」
「ちょっとあんた達何をっ！？」
お姉ちゃんが焦りまくっている姿っていうのも見慣れてないので楽しい。
でもあんまり怒らせると後が怖いしね……せっかく助かったのだ命を無駄にしたくない。
そろそろ最初の勝負をしかけるとしましょうか。
「じゃあいいです、お姉ちゃんは祐一さんを諦めるってことでいいんですね？」
「う゛……」
「どうしたんですか？ 勝負する気がないならとっとと帰っていいんですよ？」
「―――わかったわよ、じゃあね」
お姉ちゃんは何か言いたそうな顔で帰ろうとしました、予想通りです。
「はい、戦う意思のないものは去るべし……です。“逃げた”お姉ちゃんはほっときましょう」
ピタリと足を止めるお姉ちゃん、まさしく私のシナリオ通りです。
お姉ちゃんって頭も良いし綺麗ですけど結構単純なところがあるんですよね。
「……栞」
「なんですか？ まだいたんですか」
「あたしも参加するわ」
「あ、やっぱり香里も祐一が好きなんだ」
「うぐぅ……強敵だよ」
ちょっと離れたところで名雪さんとあゆさんが話している。
そこをギンッと音がしそうな目線で睨みつけた。
「いいかしら名雪？ あたしはね自分のプライドのために戦うの」
「か、香里ぃ……」
「う、うぐぅ！ 怖いよ香里さんっ！！」
我が姉ながら恐ろしいですね、思わず１歩下がってしまいました。
背後に禍々しいオーラとゴゴゴ……っていう音が見えます、やりすぎましたかね？
でもプライドを刺激すれば乗ってくるっていうのは成功でしたね。
ふふふ、お姉ちゃんのプライドの高さを利用する作戦……我ながら秀逸でした。
「……栞？ この際だからあたしを怒らせたらどうなるかしっかり思い出しなさいね」
「祐一さんは渡しませんよー」
「だからちっがぁ―――う！！」
お姉ちゃんが吼えてますけどあえて無視しましょう。
……からかい過ぎても命に関わりますし。
「ねぇ栞ちゃんどうやって雪合戦で決めるの？」
「はい、バトルロイヤルです。簡単に言えば生き残ったもの勝ちです」
「は……はは、生き残るって」
「そうか、名雪とは雪合戦したことなかったわね」
「―――え？」
「うぐ……なんかとてつもなく嫌な予感がするよ」
そういうとお姉ちゃんは足元の雪で雪玉を作りはじめました。
この際後ろを向いて２人に作ってるところを見せないのがポイントです。
少し経ってお姉ちゃんが一つの雪玉を持って立ち上がりました。
「……いいところに」
お姉ちゃんがニヤリと笑ったような気がします、あくまで気がするだけです。
その視線の先に金色のアンテナが歩いていました。
「えいっ！」
振りかぶって雪玉を投げます。
あ、お姉ちゃん制服のスカート短いからあんまり足上げると見えますよ？
そうこう思ってる間に雪玉はものすごいスピードで飛んでいきます。
……１４０ｋは軽く出てそうですね、プロ野球顔負けです。
……ガンッ
「「―――！？」」
「ふぅ、命中ね……」
「相変わらずのコントロールですー」
「「いやそうでなくて！」」
２人してすごく驚いてますね……まぁ当然ですか。
雪玉が当たったとは思えない鈍い音がして人が血を流しながら倒れたんですから。
まぁあの人ならたぶん３分で生き返るでしょう、インスタントです。
「か、香里？ 今何投げたの？？ 雪玉？ 鉄球！？」
「うぐぅ……せっかく目覚めたのにまた植物状態は嫌だよ―――」
あまりの驚きに名雪さんは錯乱状態、あゆさんは地面にのの字を書いている。
普通の人には刺激が強すぎたでしょうか？
「あら、大丈夫よ。名雪とあゆちゃんには手加減してあげるから」
(私は手加減無しなんですね？ お姉ちゃん)
「もちろんよ」
「はっ！？ もしかして私の思考を読みましたか？」
「言葉通りよ」
はぅっ……お姉ちゃんがいつもの冷静さを取り戻してます。
これはちょっと予想外ですね、つけこむ隙がなくなるということは勝利が遠のきます。
「さぁ殺るなら殺るわよ！ 栞覚悟しなさい？」
「お姉ちゃん物騒な字を使わないでください！」
「祐一、わたしもう笑えないよ……」
「うぐぅボクの事忘れてください……いやマジで」
こうして私達の―――女の戦いが始まった。
＜あゆの視点＞
うぐぅ！ とりあえず香里さんはまずいんだよ！
近づくことさえ危険だよ……とりあえず視界に入らないようになるべく身を隠そっと。
戦うなら栞ちゃんだね、一番弱そうだし。
……香里さんの妹であるのがすごく気になるけど。
とりあえずやるからにはボクだって！ 祐一君は渡さないよっ！！
＜名雪視点＞
……香里が……香里が……
長年親友やってたのにあんな……あんな……
とりあえず香里には近づかないでおこう、うん命は大事だ。
とりあえず栞ちゃんかあゆちゃんあたりを狙っていこう、運動神経なら負けないし。
……祐一、これからがわたしの本気だよっ♪
＜香里視点＞
ふぅ、栞の挑発に乗っちゃたけど……変な事になったわね。
まったくあの子何考えてるのかしら？
あたしの雪合戦の強さは知ってるはずなのにこれで勝負を挑むし。
ダメだわ理解不能。
まぁ始まってしまったことだしね……とことん乗ってあげましょうか。
「……とりあえず作戦成功ですね」
私は公園の隅っこで１人雪玉のストック作っていた。
公平を保つため３０分後にスタートということにして皆それぞれに散ったのだ。
私は時計に目を向ける、そろそろ時間。
とりあえず今までに作った雪玉をポケットにしまう。
「さて……まずはあゆさんあたりから行きますか」
―――第２作戦始動です。
公園の入り口付近に広がる林に罠を仕掛けました、あゆさんなら絶対引っかかります。
なんせ真っ白な雪の上にはたい焼きが置かれているんですから。
……単純過ぎる？
大丈夫です、相手はあゆさんですから。
「―――ほら来ました」
入り口の方からあゆさんがたい焼きの匂い(？)に釣られてふらふらとやってきました。
それでも周りには警戒してるようですけど。
「うぐぅ……たい焼きが冷めちゃうよ、温かいのが一番なのに」
なにやらぶつぶついいながらたい焼きを手に取りましたね。
落ちてるもの食べるとお腹壊しますよ？
しかしチャンスなので攻撃させて頂きます、祐一さんのために逝ってください。
ビュッ！ ヒュッ！
「う、うぐぅ！」
スカッスカッ
「避された！？」
あゆさんは私が意表をついて投げた雪玉を紙一重で避けてしまいました。
たい焼きをしっかり咥えているところがすごい執念ですね。
「やっぱり罠だったんだね！ 食い逃げで鍛えたボクの足をなめないでよっ！」
「それ自慢していいんですかね？」
「う、うぐぅ……」
「隙ありっ！！」
私はポケットから雪玉を取り出して４つ間髪いれずに投げつけます。
しかしこの４つの雪玉もあゆさんの華麗なフットワークで避けられてしまいました。
「栞ちゃん……そのポケットって四次……」
「あゆさん、この世には知ってはならないことがあるんですよ？」
秋子さんの年齢然り、謎ジャムの材料然り。
「わかったよ、じゃあ今度はこっちから行くよっ！！」
あゆさんは背負っていた羽のついたリュックの中から雪玉を取り出しました。
しかしやっぱりあゆさんはもう既に私の策中なのです、合掌。
「あゆさん、初めて会ったときのこと憶えてますか？」
「？ 祐一君といっしょのときだよね？」
「そうです、あのときはどうも」
「？」
あゆさんは何を言ってるのかわからないといった表情で雪玉を持ったまま固まってます。
そんな隙だらけは命取りですよー
私は一番そばにあった木に体当たりを……全身で。
……ドンッ
「な、何をしてるの？」
「私と同じ目にあってくださいね」
「？」
……メキメキバサバサ……ドサドッサ―――バサァ―――
「う、うぐぅぅぅぅぅぅぅ！！！！！！！！」
私が木に体当たりしたことで木が揺れ、枝の上に積もっていた雪が一斉に落ちていきました。
重なりあった枝に積もっていたものもいっしょに落ちていったので相当量が……
あゆさんは完全に埋まってしまいました。
「……あゆさん脱落ですね」
第２作戦成功、ついでにあのときの仕返しも完了です。
ただあのときのことがなければ祐一さんに出会ってない可能性がるので少し感謝もしてますけど。
「せめて掘り出しましょうか」
『桜の下にはうぐぅが埋まっている』じゃ洒落になりませんからね。
次の作戦の準備もしなきゃならないんですけど……名雪さんがお姉ちゃんに潰される前に。
とりあえずはあゆさんを救出しましょう。
数分後、あゆさんを雪の下からひっぱり出した私は次の作戦に移りました。
―――第３作戦始動ですよ。
さらに数分後……
「あゆちゃんを倒したんだね……」
「はい、次は名雪さんを倒させてもらいます」
私と名雪さんは公園の中央から少し離れたところで対峙しています。
周りにはブランコ、ジャングルジム、滑り台ｅｔｃ……
「わたしは簡単には負けないよっ！ 陸上部の部長さんの名にかけてっ！」
「ふふ、どうですかね？」
バサァッ！！
名雪さんが足で雪を蹴り上げました。
―――煙幕ですか。なかなかやるようですね……名雪さんは。
ビュッ！ ビュッ！
「３時の方向……２発ですね」
私はヒラリと避けました、この程度ではあたりませんよ。
しかし名雪さんが走りながらも煙幕を上げていくので場所がつかめません。
このままではいつかやられてしまいますね。
ビュッ！ ビュッ！
「うー不利ですー」
バシンッ！ バシンッ！
飛んできた雪玉をストールで叩き落とします。
とりあえず名雪さんの描く円からでましょう、対名雪さん第一の策発動です。
「名雪さーん、これが見えますか？」
私はポケットから緑色のふさふさしたものを取り出します。
どうでもいいですけどずいぶん大きいですね、これ。
「け……けろぴぃぃぃ―――！！！」
名雪さんの動きがぴたりと止まります、さっき拾っておいて正解でしたね。
「けろびー返してよぉぉぉっ！！」
「いいですよ、ほーら」
けろぴーを力いっぱい投げます、うまくジャングルジムの上の方に引っ掛かかりました。
これで隙ができるという作戦だったんですけど―――
「け、けろぴぃぃぃ―――」
「……隙だらけですね」
予想以上に隙だらけです、このまま勝てるかもしれませんね。
ポケットから雪玉を取り出します、名雪さん……祐一さんのために散ってください。
ビュッ！ ビュッ！ ビュッ！
とりあえず避けられることはないでしょう……！？
「甘く見ないほうがいいよっ！！」
う……嘘です―――！？
名雪さんはすごい跳躍力でジャングルジムを上っていきます。
私の投げた雪玉は全部避けられてしまいました。
でも……なんて言うか丸見えですけど。それに雪で滑って落ちても知りませんよ？
「これがわたしの本気だよっ！！」
名雪さんはジャングルジムの上でけろぴーを抱えたまま雪玉を投げてきます。
ビュッ！ ビュッ！ ビュッ！
上から投げ下ろす形になるので勢いがついてますね……思わぬ作戦ミスです。
使いたくはなかったですが……奥の手を使いますか。
ヒュッ！ ヒュッ！ ヒュッ！
「そんなの当たっても―――」
ガキィィン！ ガキョン！ ボスッ！
「ええ―――！？」
「当たると痛いですよ？」
お姉ちゃんほどコントロールが良くないので全部外してしまいました。
２発がジャングルジムに、１発がけろぴーを直撃しました。
……ジャングルジムにいる所為で狙いにくいですね。
「し、栞ちゃん……も、もしかして石入ってない？」
「はい、エキサイティングでしょう？ お姉ちゃん直伝なんですよ」
「か、香里ぃぃぃ―――！！！」
そんな大きな声で呼んだらお姉ちゃん本当に来ますよ？
そうなる前に倒してしまいましょう……対名雪さん第２の策発動です。
「名雪さんあれ―――」
私はオーバーリアクションで雪が山になっているところを指差します。
名雪さんは素直にそれに反応して目線を山の頂上に移します。
「ね、ね……ねこさんだお―――！！」
「真っ白な猫ですよー」
名雪さんはこれまた信じられない跳躍力でジャングルジムから飛び降りました。
そして一目散にその猫に近づいて―――
「ねこ―ねこーねこおぉぉぉぉぉ―――！！！？？」
ドッス―――ン！！ ……ドサドサ
視界から消えました。
「……面白いぐらい綺麗にはまってくれますね」
名雪さんが消えたところには大きな穴が開いています。
第２の策は名雪さんを落とし穴(？)に落とす作戦だったんです。
あの雪山は頂上に大きな穴があって中は空洞になってるんです、よくあるでしょう？
「さて、助けますか……」
ライバルとはいえこのまま放ってはおけませんからね。
穴の上から覗き込むと名雪さんはちゃんと意識があるようでした。
きっと雪とけろぴーがクッションになってくれたのでしょう、安心しました。
「……ねこー、ねこさんは？」
「あれは私が雪で作ったんですよ♪」
「え……？」
驚いてますね、当然ですね。
完璧な作戦、完璧な猫の作り物……きっと開いた口もふさがらないでしょう。
あまりに驚いて声にならないのか口がぱくぱくしてます。
「う、う……よ」
「嘘だよ……し、栞ちゃんにあんな美術センスがあるなんて嘘だよっ―――！！」
……埋めておきましょうか？
「来たわね」
「はい、お待たせしました―――お姉ちゃん」
公園の中央に位置する噴水。
スタート位置であり一番目立って隠れる場所すらないところ。
そこで最初から動くことなくお姉ちゃんは待っていました。
「名雪とあゆちゃんは倒してきたみたいね」
「はい、あとはお姉ちゃんを倒して祐一さんをＧＥＴです」
「……その前に一つ聞かせてくれるかしら？」
「なんですか？」
お姉ちゃんと私は向かい合って話をしています。
誰もいない公園に噴水の水の音だけが響いてちょっと幻想的な空気です。
「栞の真意はなんなの？」
「祐一さんＧＥＴですよ」
「ごまかさないで、あたしを見くびらないでちょうだい」
険しい視線で私を睨んでます、怒っているのとは違うもっと深い瞳。
ふぅ……私の企みもばればれですか。
思わずため息がでてしまいました。
「で？ なんのつもりだったのかしら、栞」
「……お姉ちゃんの呪縛を解くためです」
「な、何を言うのよ！？」
「お姉ちゃんが私に遠慮してるからです」
「べ、別にそんなことは―――」
「ありますっ！」
「！」
ぴしゃりと言い切ったらお姉ちゃんが黙ってしまいました。
今の私結構迫力あるんですね。
「だったら何故素直に祐一さんが好きだと言えないんですか」
「だから別に相沢君のことは……」
「好きじゃないんですか？」
「え、ええ。別になんとも思ってないわよ」
嘘ですね、お姉ちゃんが祐一さんに惹かれ始めてることなんてお見通しなんです。
だって私は今までもずっとお姉ちゃんのことを見てきたんですから。
「私を見くびらないでください、これでも美坂香里の妹です」
「…………」
「お姉ちゃん……私はもう未来のない可愛そうな妹じゃないんですよ？」
「……っ！！」
お姉ちゃんが目に見えて動揺した、それは触れないほうがいい領域だったのかもしれない。
……でもこのままではいけないんだ。
私達姉妹が幸せになるためには―――
「だから私に遠慮してなんでも譲るのはやめてください」
「そ、そんなこと―――……」
「それはとても嬉しいことです、でも同時にとても苦しいことなんです」
「し、栞……」
「私に未来がないと知ってからお姉ちゃんはなんでも私を優先してくれました。
でも私はお姉ちゃんに何もしてあげられません……それどころかお姉ちゃんの枷になっていた。
それは私にとってとても苦しかったんですよ？」
「じゃ……じゃあっ―――！」
『あたしのしてきた事は間違っていたの？』
……いいえ、そんな事はありませんよお姉ちゃん。そんな事言わせません。
だから私はお姉ちゃんの言葉を途中で遮った。
「ごめんなさい。でもそれが迷惑だったわけではありません、むしろ嬉しかったんですよ。
お姉ちゃんがした事は間違ってませんし、私はお姉ちゃんを誇りに思ってます」
「……栞」
「ただもう自由になってもいいと思うんです、私には未来があるんですから。
自分の力で歩くことも、生きることも……愛する人を振り向かせることだってできるんです」
そう私には未来がある、自分の足で歩いていける。
今まで支えられるだけだった私は支えることだってできるのだから。
「でも今更―――あたしは……どうしたらいいかわからないわ」
今までに見たことがないぐらい弱々しいお姉ちゃん。
私を支えるためにいつも強くあろうとしたお姉ちゃんのココロ。
それは硝子のように強く、そして脆いココロ。
「そのための勝負だったんでしょ？」
「ボク達を巻き込んで……ね？」
「「名雪（さん）……あゆちゃん(さん)」」
振り向くとそこには笑顔のふたりが立っていた。
「香里、この勝負の本当の意味……わからない？」
「―――えっ？」
「まずはスタートラインに立つことなんだよ、ね？ 栞ちゃん」
「そうですよ、私達とお姉ちゃんの違いわかりますか？」
「違い？」
お姉ちゃんは首を傾けて考える、自分では気付き難いことなのかもしれない。
「わたしは祐一のために、祐一が好きだから勝負を受けた」
「もちろんボクも栞ちゃんもね！」
「でもお姉ちゃんは“プライドのために”って言いましたよね？」
勝負を受けた理由、それはたんなる勢いだったと思う。
そうなるように仕組んだのは私、お姉ちゃんの性格を考慮した計画。
「だからこの時点でほんとは勝負はついてるんですよ、祐一さんは私の―――」
「いいの！？ 香里」
「戦わずに……栞ちゃんに譲っちゃうの？」
「……待ちなさい、栞」
お姉ちゃんがクスっと笑いました、いつものような笑顔。
私の大好きなお姉ちゃんの―――『笑顔』
「相沢君は渡さないわ、あたしも……そ、その―――す、すす、好きだから」
そう言ったお姉ちゃんは赤くなって俯いてしまいました。
う―――可愛いです！ 思わず抱き締めたくなってしまいますね。
あの初々しさ……いけない妹になってしまいそうですー
「じゃあ勝負ですよ！ お姉ちゃん」
「わたしだってまだ諦めてないよ〜！」
「ボ、ボクだって！」
「ふふっ、かかってきなさい！」
「な、なんでお姉ちゃんが一番強気なんですかっ！？」
「栞……眠れる獅子を目覚めさせたこと、後悔しないでね？」
「えうーもしかして最強のライバルですかっ！？」
「そんなことないもん！ 祐一君はボクが―――」
「祐一はわたしのだよっ！」
…………
……
それから私達は泥だらけになってべたべたになるまで雪合戦をしました。
結果的に祐一さんを狙うライバルが１人増えてしまいましたがそれも必然。
だって『恋はいつだって唐突だ』ですから。
皆がこれぐらいで勝負を降りる人たちでないのはわかりきってますから。
だから明日からも祐一さんをめぐって私達は戦います。
でもこれで何の気兼ねもなく祐一さんに迫れますね―――ふふふっ♪
「覚悟してくださいね、祐一さん♪」
私は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
そんな良く晴れた幸せな幸せな一日、私とお姉ちゃんの幸せのための第一歩。
笑顔でいっぱいの―――雪まみれな日でした♪
投票結果
氷雨雅樹 (採点:5)
なかなか素直になれないかおりんいいです
Lv2 (採点:4)
ギャグと見せかけてシリアス要素も上手く含んでいる文構成に感心しました。
荒野草途伸 (採点:5)
さわやか小学５年生！
ugen (採点:4)
キャラをうまく減らしているので一人一人をうまくかけていて無理がない。さらにネタも面白い。惜しいのは落ちが直ぐ読めるところ
naoki (採点:4)
あゆの栞の作品に対する感想に激しく同意いたします（笑
taka (採点:3)
栞の猫作戦。猫に見えないと思う・・・。名雪は思い込みが激しかったりするからなぁ・・・。
研究員Ｄ２ (採点:3)
こういう発想、大好きです。この後どうなるかが気になるところです……個人的に、北川を酷く扱って欲しくはなかったですけど（汗）
橘征五郎 (採点:2)
中途半端。ネタがありきたりであり、またネタを活かすための文章力も足りない。具体例を一つあげると、祐一が好きだと告白する香里の様子を単に「可愛い」と表現するだけでは手抜き。香里の表情、仕草、声、その他諸々の要素を描写して、読者に「可愛い」と思わせるようにしなければならない。あとはタイトルも一捻りほしい。
Alice (採点:3)
ちょっとごちゃごちゃしすぎかな？なんというか、ギャグなのか、普通の内容なのかどっち付かずって感じが強くて。文章のまとまりが悪いっていうのが厳しかったかな。情景描写の不具合ではなくて、作品全体のプロットがワンテンポずれている気がしました。読ませてやろうという雰囲気はあるのですが、ちょっと勢いが良過ぎちゃったかな？
コーダイ (採点:5)
『何処がほのぼの！？』って思いましたが最終的にほのぼのになりましたね。
グＥ (採点:4)
途中は経過は面白かったですし、オチがよかったんですけどオチにいたるための伏線がほしかったです。（見逃しただけ？）
フール (採点:4)
石入れるのはホントに危険なのでやめませう（笑）
かずき (採点:1)
北川の扱いが許せん。
はまのじ (採点:3)
セリフが説明臭いのと、あゆと名雪の存在理由がイマイチ希薄なのが気になりましたが、いいお話です
雨音 (採点:3)
面白かったです。…でも、結局雪合戦しただけ（苦笑
ＪＩＭＭＹ (採点:4)
美坂姉妹の姉妹愛、と、祐一争奪戦のドタバタ。あまりひとつのＳＳで同時に語られる事の無いテーマをまとめているのは新鮮でした。それだけに初読の時には訳判らなくなりかけましたが。
Ｇａｒａ (採点:4)
ドタバタで最後まで行くのかと思ったら、いい話に持っていかれて良い意味で意表を突かれました。
神崎隆一 (採点:2)
最後の取って付けたような展開はちょっと……。
十六夜 睦月 (採点:2)
何気に栞が邪悪だｗ
舞耶 (採点:3)
雪合戦・・・？いやいや雪上バトル（爆）面白かったですw
神代 悠 (採点:3)
上手い！ ですねっ。要所を抑えた造りに技を感じました♪
浮動明王 (採点:5)
雪合戦で判り合う姉妹とは実に面白いですね 栞ならいかにもやりかねない方法です
Ｖｉｓ (採点:4)
香里よし、栞よし、すっきりまとまった良作でした
SHIKOH (採点:4)
しおりん壊れすぎ、って言うか怖いです。でも香里の事が本当に好きなんだなぁって感じられる作品でした。
はぐ (採点:1)
採点不能「読むのやめました」 感じた事：語尾…「せっかく助かったのだ命を無駄にしたくない。」これで一気にしぼみました。こういう悪のり系は、こういうので一気に冷めてしまいます。チョイミスなんですけどね。とはいえ、その後がもっとトーンダウンで…。
全採点
5点 : 14
4点 : 53
3点 : 74
2点 : 31
1点 : 12
このSSは、作者の方に二次著作権が存在します。
転載、無断引用を固く禁止します。
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