栞と詩織
『相沢香里』
そう書かれた病室。
静かにドアを開け中に入る。
ベットの上に香里の姿が見える。
その隣に小さなベットと付き添いの看護婦さん。
今日の主役はそこにいる。
「香里………」
囁くように呟く。
香里の視線が傍らのベットからこっちに移る。
「あ、祐一………」
その顔は疲労を感じさせながらも喜びに満ちている。
ゆっくりとベットに近寄る。
「おめでとうございます。お父さん。元気な娘さんですよ？」
看護婦さんがくすくす笑って赤ちゃんを差し出す。
「おお、こいつが俺と香里の愛の結晶………」
「やめなさいよ祐一。恥ずかしい」
香里が真っ赤な顔で言う。
「何が恥ずかしい。これはお約束なのだ」
看護婦さんがくすくすと笑っている。
「………ばか」
毛布を引っ張り上げて顔を隠す香里。
「ふぎゃあ、ふぎゃあ」
「おわ！」
俺の手の中で猛烈に自己主張を始める新しい命。
「あわわ。タ、タッチ」
慌てて看護婦さんに返す。
ふう、ビックリした。
「もう、なにやってんのよ」
香里が看護婦さんから赤ちゃんを受け取る。
途端に泣き止む。
実はちょっぴりショックだ。
「………なあ、香里？」
「ん？どうしたの祐一？」
優しい顔で赤ちゃんを抱く香里。
「この子の………名前なんだがな」
香里のベットに腰掛ける。
「あ、そうね。祐一。何か考えてあるの？」
「ああ、ずっと前からな」
そういって、我が子の頭を撫でる。
「詩織」
「………祐一」
香里の顔が曇る。
栞の事を思い出したんだろう。
「分かっている」
「………でも」
「いや、だからこそなんだ」
目を閉じ、心ろ高２の冬に飛ばす。
「俺は忘れない。あの冬の出来事を。」
真冬だっていうのにくそ寒い中庭で嬉しそうにアイスを食べる一人の少女。
「栞は言っていた。『でも、起こらないから奇跡なんです』ってな」
悲しそうに、でも、笑っていた。
「だけど、俺は思うんだ。新しい命。これも一つの『奇跡』なんじゃないかってな」
静かに香里の腕の中の赤ちゃんを見つめる。
「………祐一」
「………あの」
「決めてたんだよ。ずっと」
「そっか………うん。そうね」
「………ちょっと」
「ああ………悪かったな。勝手に決めてて」
「ん〜ん、いいの。………気に入ったわ」
ふたり顔を合わせて笑う。
「きっと、栞も………喜ぶわ」
「お、お姉ちゃん！」
振り返ると病室の入り口に栞の小さな姿。
………いつもながら育ってないな。
「よう、栞。遅かったな」
「あら、栞。どうしたの？」
「ど、どうしたの？じゃ、ありません！」
両手を振り回し、じたんだを踏む栞。
かなり面白い。
「なんですか！今の会話は！まるで私が死んだみたいじゃないですか！！」
激しくむくれる栞。
「そんな、俺たちはそんな事一言も言ってないぞ？」
「ええ、そうね」
「え？………だ、だって、変に過去形で話してましたし」
助けを求めて、看護婦さんの方を向く。
だが、残念な事に看護婦さんは壁の方を向いて肩を震わせているのだ。
「だって、昔の話だし」
「そうね」
「だー！うるさいです！私は生きてます。バリバリに元気です〜！」
なにやら変な事を言い出した。
バリバリってん何だよ？バリバリって………
「いや、だからこそできるギャグだろ？」
「黒すぎです！って、やっぱり私をからかってましたね〜！」
いつの間にか取り出したハンカチを噛み締める栞。
なかなか芸が細かい。
「大体一緒に来たのに今までどうしてたんだよ」
「え、いや、それは、その」
視線が遊ぶ。
「あら、栞？口元にクリームが………」
「え！？そんなハズは………あ」
あっさり引っかかってるし。
「アイスか」
「アイスね」
「う〜、誘導尋問です。ずるいです〜」
首を左右にイヤイヤする。
「ほら、栞。こっちに来て」
「えへへ〜」
ころっと表情を変えて香里の元へ。
「わ、かわいいです〜」
赤ちゃんのちっちゃな手に自分の指で握手する。
「よろしくです〜」
「これで栞も叔母さんだな」
ピキッ
見事に固まる栞。
「………え？」
「ほ〜ら、詩織。栞叔母さんに挨拶だ。」
「お、おばさん………？」
何やら壊れたロボットのようにカクカクと動く。
やっぱり面白いなぁ。栞は。
「お姉ちゃんのバカぁ！」
「何故！？」
困惑した香里がツッコむ。
「ずるいです、ずるいです。私をおばさんにするなんて………そんな事いう人嫌いです！」
でたよ。こうなった栞はほぼ無敵だ。
アイスをお供えして、怒りが引くのを待つしかない。
「………大体、お姉ちゃん。いつの間にか祐一さんと付き合ってるし。本当ならそこには私が………」
何か話がずれてきたような。
「ちょ、ちょっと栞」
「ねえ、祐一さん。今からでも私を選んでください〜」
「こ、こら栞」
いきなり抱きついてきた。
む、ボリュ−ムがいまいち。
「………何でしょう？今、ちょっとムカっときました」
「………気のせいだろう」
冷静に栞を引き剥がす。
いつもの事なので慣れたもんだ。
「さ、香里。あんまり無理しないで休め」
「え、ええ」
赤ちゃんをベットに戻し、香里も横になる。
いくらなんでもちょと騒ぎすぎた。
実はさっきから看護婦さんが『………そろそろ』とアイコンタクトしてきてるのだ。
「さ、行くぞ、栞『おばさん』」
「む、ちょっとムカです」
そう言いながらも大人しくついてくる栞。
ちょっとかわいいと思ってしまった。
「祐一さん」
「ん？」
「よかったですね」
「ああ」
栞の頭をクシャっと撫でる。
とうとう俺も父親、か。
俺の親父もこんな気持ちになったのかな。
「ウチの詩織をよろしくな、栞」
「はい！」
元気良く返事する栞に俺は笑顔で頷くのであった。
投票結果
空明美 (採点:5)
素直にほのぼのと笑えました。
璃亜 (採点:4)
栞がいい味出してます^^
ugen (採点:4)
話の筋はありがちだけども落ちが良かった
殺陣倉Xp (採点:3)
しおりんがあまり成長していないような……精神的にも胸の大きさも（ゴス
かれーまん (採点:4)
情景が目に浮かびます・・・
烏賊悪魔 (採点:3)
ほのぼのの王道、『愛の結晶（笑）』！栞のボケっぷりが◎
Kanade (採点:4)
妹をやり込める姉。二人は本来、こういう関係だったように思えます。オチに持ち込むまで、シリアスっぽくしているのが、オチにインパクトを与えていると思いますし。
ヘキサ (採点:4)
てっきりシリアス風かと思いきや、ギャグ物でしたね。移り変わりがよかったです。
naoki (採点:4)
逆転の発想？ いいですね、これ。新鮮でもありましたし。
zero (採点:5)
思わず笑ってしまいました
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。果たして何を書きたかったのだろうか。「祐一と香里の長女出産」という単なるシチュエーション。文章力が高ければそれでもなんとか読めるのだが、残念ながら低い。書き慣れてない人間には地の文が難しいのはわかるのだが、これではシーンが浮かばない。また、ギャグとしてはネタからして極端につまらない。ギャグを書くにはセンスか知力、もしくはその両方が必須。実はギャグとは高度に難しいものだということを認識してほしい。
TempFighterZ (採点:3)
こういう場面でギャグるってなかなか無いよね。
グＥ (採点:2)
栞が死んだと思わされました。やられました。（もうちょっと色々描写がほしかったです）
コーダイ (採点:5)
栞生きてたんですな（汗）
かずき (採点:3)
なんか消化不良。笑えば良いのか、感動すれば良いかよくわからん。
まちゃる (採点:3)
これぞフェイント（笑）
白 (採点:4)
栞の気持ちはどうなったのかなあ、とふと考えたり・・・。
TOM (採点:3)
ときメモネタかと思ったら・・・。それにしても二人とも黒すぎ（笑）
おーふな (採点:4)
上手い上手い。気の持たせ方が抜群。えー話でんな。
Alice (採点:3)
序盤、ベタだな展開だなぁ〜。と思っていた。こういうどんでん返しは嫌いじゃないです。特に欠点もないだろうし、かといって、特筆するのはどんでん返しだけっぽい。まぁ、無難に３点ってことで…。評価：C
kuryu (採点:2)
こんな設定もありぁって思いました。
びりびりっじ (採点:4)
No018のただの女と比較
舞耶 (採点:4)
そういう落ちなのね・・・ｗ
tabibito (採点:4)
途中まで完全にだまされてました。
神崎隆一 (採点:3)
ほんわか空気が大好きです。もっとオチを付けてもよかったかな。
ＮＧ翁 (採点:4)
面白かったです。「おーいしおり」って言ったら返事が同時に二つ…って感じになりそうｗ
神代 悠 (採点:2)
なんだてっきり…ｗ 栞も元気でよかったですｗ
taka (採点:3)
ほのぼの〜っとしつつダークなギャグ。マッチしますねこの組み合わせ。
はぐ (採点:1)
「読むのは疲れました」 展開が読めてしまう。明らかなお約束に動いてるんだとは解っているんですが、それならば内容で見せてもらえないと辛い。
阿倍碧郎 (採点:4)
短い中で楽しく纏めてある物語、面白いです。こんぺの趣旨に一番適している作品かも。
全採点
5点 : 16
4点 : 61
3点 : 70
2点 : 34
1点 : 10
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