SSこんぺ No.056 : 叶えたい願い、叶えるべき願い

叶えたい願い、叶えるべき願い

とある日曜日のお昼。
今日もいつも通りの昼食の風景が広がっている。
「秋子さん、おかわり」
「はいはい」
秋子さんはあゆが差し出した茶碗を受け取りご飯をよそう。
あゆが退院してから結構経つ。
あれからちょくちょく水瀬家に遊びに来ているので、今ではすっかり水瀬家の一員である。
こうして四人で食卓を囲む光景ももう馴染みの事だ。
「あゆちゃん、お醤油とってほしいな」
「…えっ…あ、うんっ…」
（ん…？）
あゆの普段とは違った反応に思わず箸を止める。
「祐一さん、どうしたんです？」
それを見ていたのか、秋子さんが尋ねてくる。
「いえ、何でもないです…」
「…そうですか…では、おかわりはいりますか？」
「あ、お願いします」
秋子さんに茶碗を差し出しながらあゆの様子を横目で見てみる。
「うぐうぐ…おいしいよ～」
そこにはいつもと変わらないあゆの姿があった。
（…気のせいか？）
そう思って、視線を外そうとした時…
「………」
何か考えるような顔をして箸を止めているあゆの姿が見えた。
「あゆ、どうしたんだ？」
半ば反射的に尋ねてみる。
「えっ！？な、なんでもないよっ！」
「…声が上ずってるぞ、あゆ」
「あゆちゃん、どうかしたの？」
「ううん、ちょっとぼーっとしてただけだよ」
「そう…それならいいけど…」
「うん…あ、秋子さん。卵おかわり」
「はいはい」
「………」
（どうかしたのか…？）
どうやら気のせいではなかったようだが…
その後もあゆは何か考える様に耽っている事が何度かあった。
その度に尋ねてみたものの、「なんでもない」と返された。
結局、原因がわからないまま時間が過ぎていった。

夕方。
あゆが家に帰ると言う事で、いつものように俺が送ることになった。
「あゆちゃん、またね」
「またいらっしゃいね」
「うんっ、ありがとう」
「では、あゆを送ってきます」
「はい、気をつけてくださいね」
「はい、行ってきます」
名雪と秋子さんに見送られて俺達は水瀬家を後にした。

「………」
「………」
会話が無い。
水瀬家を出る時はいつもと変わらなかったが、すぐにこうなってしまった。
こちらから話を振ってみても半分上の空な感じで答える。
やはり、今日のあゆはどこかおかしいみたいだ。
（何か悩むような事があったのか？）
そんな事を考えていると、ふとあゆが口を開く。
「…祐一君、ちょっと寄り道していいかな？」
「寄り道？…別に構わないが…どこに行くんだ？」
「うん、えっとね…」

あゆに連れられてたどり着いた場所は俺達二人の学校だった。
「祐一君、こっちこっち」
「ああ…」
あゆに促されて切り株に腰をおろす。
「ここに来るのも久しぶりだね」
「そうだな…」
そういえば、あゆが目を覚ましてからここには来てなかったな…
（っと、それよりも…）
俺は早速本題を切り出すことにした。
「あゆ、本当に今日はどうしたんだ？ずっと様子がおかしかったぞ。
何か悩み事でもあるのか…？」
「………」
あゆは俯いてしばらく黙っていたが、やがて意を決したように顔を上げる。
「…ねえ祐一君、この人形の事…覚えてる？」
あゆはそう言って人形――天使の人形を取り出した。
「…ああ、覚えてる」
正確には思い出した、と言えるのだが。
かつて、俺があゆにあげた三つの願いを叶える人形。
願いを叶える役目を終えたそれが目の前にあった。
あゆは俺の返事を確認して話を続ける。
「最後のお願い、本当にボクが使ってよかったのかな？って思うんだ…」
「…どういうことだ？」
「ボクなんかより、使うべき人が他にいた…そう思うんだ…」
そういえば、あの時――人形を埋めるときにあゆが言っていた。
もしかしたら、他の誰かのために送ってあげたい、と。
「あの時、もっと叶えるべきお願いがあったかもしれないって…
祐一君…最後のお願い、ボクが使ってよかったのかな…？」
そう尋ねるあゆの表情には不安が広がっていた。
もしかしたら、あゆにとってあの時の最後の願いは、もっと特別な意味を持っていたのかもしれない…
だが…もしそうであっても…
「あゆ…ちょっと聞いてくれ」
「………」
あゆは俺の目を見つめたままわずかに頷く。
それを見て俺は話を始める。
「叶えてほしいと思える願いは世界中にどれだけあるかは分からない。
だけど、叶えるべき願いなんて絶対にないと思うぞ。
そうじゃないと、何か不公平じゃないか？」
「………」
「それに、あの三つの願いはあゆに使ってほしかったんだ。
だから…あゆが悩む事は全然ないんだ」
都合のいい言い分…それは自分でも分かっている。
だが、それで目の前の少女が笑顔が戻るのならそれでいいと思う。
「祐一君…」
あゆはしばらく何かを考えるようにして俯く。
「………」
「………」
「…うん…そうだねっ」
やがて、納得するように頷きながら言う。
その顔はいつものあゆの顔だった。
「よしっ、それでこそあゆあゆだ」
「うぐぅ…あゆあゆじゃないもんっ！」
口では抗議をしながらもその顔にはもう不安は残っていない。
「それじゃあ、帰るぞ」
「うんっ…祐一君…」
「…何だ？」
「…ありがとう」
そう言って見せた笑顔…俺はそれをずっと見ていたいと思った。

投票結果

ugen (採点:2)
なぜあゆがそう思ったかが作品中から読めない

naoki (採点:2)
狙いはいいと思います。ただ、もっと深く突っ込んで欲しいかな。

橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。訴えたかったテーマは非常によく伝わるのだが、あまりに素朴。テーマを何の飾りもなくごろんと投げ出すのなら、エッセイや論文を書いた方が遥かに良い。ストーリー・テキスト・キャラクター・テーマ。その他諸々があって文章は初めて『物語』足り得る。テーマはその中の単なる一要素。公開する物語というのはエンターテインメントなわけであるから、読者を楽しませるということについても少しは気にしてみよう。

グＥ (採点:3)
祐一とあゆのやり取りがよかったです。

コーダイ (採点:3)
あゆの他人を思う気持ちがわかります

かずき (採点:2)
ちと分かり難い。

Alice (採点:1)
う～ん、山場が弱い。とりわけ、あゆに感情移入していないので、辛い評価は勘弁して欲しいが、全体的に甘い気がする。もっと深いディテールで書いて欲しい。シリアスって作者自身が説明しているので。評価：D

神崎隆一 (採点:2)
KANONの本編では分かりにくい部分を説明したという意味では評価できますが……、結局それ以上でもそれ以下でもない作品ということです。

おーふな (採点:2)
わーもったいない。もっと膨らませられたのに～。

神代　悠 (採点:3)
あゆの苦悩に対する祐一の答えが良かったですね。

浮動明王 (採点:2)
長編の冒頭だけを読んだ感じ　せめて続きを予想させるくらいの情報は欲しい

taka (採点:4)
あゆあゆらしくて可愛いです。結構良い出来なので私は結構好きですね♪

はぐ (採点:2)
「ひとまず読み切りました」短い作品ですが、きっちり書かれてると思います。ただ、祐一に説明口調にさせるよりも、何か別の方法を取ったら読了感が変わったでしょうね。

全採点
5点 : 2
4点 : 15
3点 : 60
2点 : 51
1点 : 16

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