初恋




海沿いの道を軽快に走り去る。

潮風が鼻孔をくすぐる。

少し風が冷たいけれど、たいしたことは無いみたいだ。

二輪車独特のスピード感。

どうも俺の後ろに乗っている香里には理解しがたいらしい。

しっかりと俺の脇腹にしがみついている。

その手から伝わる温もりがなんだかとても優しくてつい頬が緩む。

周りはようやく緑に覆われ始めた萌黄色の風景。

海の青と森の緑。

初春の風景らしくてとても心が和む。

その一瞬の風景を見るように勧めると食い入るように流れてゆく青と緑の風景に見入っていた。

「どうだ?」

「このスピードでさえなければね・・・」

どうやらお気に召さないようだ。

「でも・・・この風はとても気持ちいいわね・・・」

ヘルメットに入りきらない栗色の緩やかなウェーブのかかった髪を風に流しながら香里は振り返る。

「一瞬で流れてしまうのが勿体無いわね・・・」

「いい景色が見たいのか?」

「このコントラストを目に焼き付けておきたいと思って・・・」

俺たちの住んでいる街ではこんな風景にはお目にかかかれない。

ひとつ提案をしてみる。

「展望台に上ろうか?」

「そんなのあるの?」

「ん・・・標識によればね」

青い標識には後数キロでつく展望台が示されていた。

「景色は?」

「保障しますよ、お嬢様」

「そう、なら行きましょ」

その言葉を聞いてハンドルを切ってバイクの方向を変える。

アクセルを握りなおして山道へと赴いた。



するするとうねっている山道を登っていくと30分ほどで展望台についた。

陽気に誘われて出てきた虫達以外には人と呼べる者はいないようだ。

香里は先にバイクから降りて景色に見惚れている。

自販機で買ったコーヒーを飲みながらその後姿を眺めていた。


・・・綺麗、だな。


海のほうから流れてくる潮風に薄い青色の上着を躍らせながら下のほうを見下ろしている。

そしてふと空を見上げて何かを追うようなしぐさをしてまた視線を戻す。

香里の一挙一動が全て絵になるかのように美しく感じる。

陽に当たって少し上気した頬も綺麗な白い手も凛としたうなじも

全てが計算されつくした美しさというか可憐さを秘めているように感じられた。



香里を眺めながらふと自分の置かれた状況というものを考える。



二人きりで出かけたりはしているが、恋人同士というわけでもない。

お互い気持ちを伝え合ったわけでもないし、そんなことをしている余裕はなかった。

受験勉強の合間を縫った気晴らし、とでも言うのだろうか。

だが、最近はそんなものとは何か違うものがあるような気がしてきた。

名雪や北川にはない何かを求めるように。

二人の間を埋めるかのように。



「相沢君・・・」

振り返りざまに俺を呼ぶ。

「ん・・・?」

「質問してもいいかしら?」

「唐突だな」

「ずっと考えてたんだけどなかなか・・・ね」

何か躊躇うような仕草。

「質問って何だ?」

物憂げに目を逸らして少し高い位置にあるフェンスにもたれる。

「初恋って叶うのかな・・・」

香里のこんな殊勝な姿は珍しい。

何故か胸が高鳴るように感じた。

「初恋なんてとっくに終わってると思ったよ」

「酷い言い草ね。 私だって普通の女の子なのよ?」

「う〜ん、香里のことだし叶うんじゃないか?」

軽い気持ちで言った。

でも、これを聞いた香里は俯いたまま顔を上げようとはしない。

そしてそのまま海のほうに向いてつぶやく。

「初恋って叶わないものなのよ・・・」

初めは何を意図しているかわからなかった。

でも、この関係が何故今までずっと続いていたかということを考えるとある一つの結論に達する。


俺と香里が相思相愛であったこと


妹の事を想うあまりに打ち明けることができなかった香里自身の気持ち。


恋、そして異性を愛すること。


そんなお互い不器用であったために伝え切れなかった、偽りきれなかった想いを伝えるように力強く言った。

「初恋は叶わない? 上等だ、叶えてやるよ。それくらいの想いは持ち合わせてるさ」

「えっ・・・?」

「言葉どおりだ。」

香里の肩が震えている。

その華奢な肩を抱き、こちらを向かせる。

いつの間にかに涙に濡れている綺麗な目をそっと拭う。

泣き顔を精一杯笑顔に変えようとする香里。

そんな香里が愛しくてそっと自分の唇を重ねてゆく。

触れるだけの短いキス。

その唇から伝わった淡いぬくもり。

それが俺たちの初恋の味だった。



「・・・何赤くなってるの?」

「自分のやったことがたまらなく恥ずかしいことに気付いた」

「祐一らしいというか・・・」

「あ・・・香里・・・?」

「こうやって呼ぶほうが恋人っぽく見えるでしょ?」

「まぁ・・・な」



潮のにおいを含んだ優しい風が俺たちを包む。

この優しさに満ちた風を受けてゆっくりと歩んでいける。

そう思える春の日だった。







投票結果

神無 (採点:4)
祐一免許持ってんの?


Vis (採点:3)
ほのらぶとしては及第点だと思います。厚みがもう少し欲しいです。


十七夜 (採点:4)
優しい空気を感じるSSでした。


ugen (採点:2)
もっと心理描写に力を入れたほうが良い


kuryu (採点:2)
いい感じの風景描画です。


zero (採点:4)
情景が浮かんできます


グE (採点:2)
もうちょっと告白シーンの描写がほしかったように思いました。


naoki (採点:3)
これといって悪くはないんですが、好みの問題かなぁ?


Gara (採点:2)
状況設定が判りづら過ぎ。「俺」が祐一だと判るのは半分程行ってからやっと。「初恋」の相手が自分だと気がつく理由も希薄。「違うものがある気がしてきた」としか気持ちが語られていないのに、唐突に「相思相愛」と自覚。なにより、この話での栞の設定は全く判らない。これでは感情移入のしようが無いと思う。


かずき (採点:1)
けっ、勝手にやってろ。


雪人 (採点:4)
祐一の「初恋は叶わない? 上等だ〜」のセリフが気に入りました♪


橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。半分を過ぎる頃まで主人公が誰かわからないのは問題。展開が唐突。もう少し二人の間の雰囲気などを描写したい。祐一と香里が相思相愛なのが台詞で説明されているだけで感情として伝わってこなかった。


舞耶 (採点:3)
初々しいw


NG翁 (採点:4)
そつなく纏められており、文句のないつくりになっています。我侭を言わせてもらえれば、もう少し…という感じも否めないかも。面白かったですよ。


浮動明王 (採点:2)
話が始まってもいない


taka (採点:3)
ほのぼの〜・・・。初恋は実らないって誰が決めたんでしょう(謎)


ANJU (採点:4)
表現は簡素で淡白ですが、バイクに乗るという私にはあまり馴染み無いシチュエーションを想像させるには必要充分でわかりやすかったです。格好いい作品。


はぐ (採点:1)
「読むのは疲れました」 違和感を感じる文が多すぎて気が散ったかな。もう少し文に敏感になったほうが。ただ、話的にはいい感じだと思います。


神代 悠 (採点:2)
キザだねぇ祐一w


全採点
5点 : 5
4点 : 34
3点 : 72
2点 : 57
1点 : 13

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