wind of yesterday
或る日、俺は死ぬ事にした
事あるごとにプレッシャーをかけてくる顧客。
顧客が怖くてフォローをくれない上司。
仕事の全く出来ない同僚。
その全てが嫌になった。
通勤電車をふらっと降りて向かった先はあの街。
真琴と、名雪と、舞と、栞と・・・そしてあゆと出会った街。
そんな街をどうするでもなく歩いていた。
もう雪もとけて梅が咲こうとしていた。
そんな事にも気づかずに半年間働いていたのか・・・
そう思うと妙に虚しかった。
この街を離れて約一年。あの頃の俺は輝いていた。
北川が、天野が、香里が、佐祐理さんが、秋子さんが。
皆がいた。この街にいるとき、俺はいつも一人ではなかった。
駅前から学校の前を通り、商店街を抜けて、公園を歩いていた。
彼女達との想い出を噛み締めるように。過去の自分にすがるように。
気がつけば自然と足はあの森に来ていた。
あゆを失ったあの木のある森に。
結局、俺はあいつを助ける事は出来なかった。
最後の願いを残したまま、あゆは俺の元から消えた。
月宮あゆ、俺の好きだった少女はもう・・・いない。
歩き続けてどれ位経っただろう？切り株のあった一角に出た時、俺は言葉を失った。
切り株がない。切り株があった筈の場所にはあの頃と同じように木が立っていた。
それはまるで幼少の頃に戻ったようだった。
俺は不思議な感覚に襲われながらも、その木に登っていった。
あの日、俺が昇れなかった木。でも今なら、いや今だから。
俺は登った。昔、あゆが見たであろう世界を見るために。
登りきるとそこには、あの街が広がっていた。
俺が、名雪が、栞が、真琴が、舞が、あゆが。そして皆がいたあの街があった。
朱に染まる街を見て今まで思い出せなかったあゆの顔が浮かんで・・・消えた。
その時のあゆは確かに微笑んでいた。
何故か涙がこぼれた。
？
ふと誰かが俺の事を呼んだ気がした。
・・・まさか。ここは俺とあゆしか知らない「秘密の学校」の筈だ。
他の人がここを知っている筈は無い。
「・・・沢く〜ん！相沢く〜ん！」
やはり俺を呼ぶ声がする。しかも確実にこちらに近づいてきている。
その声のする方に振り向こうとしたその時、強い風が吹いた。
そして、すべての時間が凍った
鈍い衝撃と共に痛みが走る。
だがそれも束の間。薄れる意識と共に痛みは薄れ、眠気にも似た感覚が意識を覆っていく。
遠のく意識は俺を呼ぶ声と共に薄れていった。
「祐一君？」
「ん？あぁ、あゆか」
「祐一君は生まれてきて幸せだった？」
「何を突然。勿論幸せだったさ。恵まれた環境に、素晴らしい友人、数々の想い出
それに何より・・・愛する人・・・あゆ、お前に出会う事が出来た」
「じゃあ祐一君は幸せなんだね？」
「その筈なんだが・・・何故か哀しいんだ。幸せだった筈なのに」
「それは祐一君の『今』が本当に幸せじゃないからだよ。
本当の幸せを見つけたら、もう一度会おうよ。次はこんな形じゃなく」
「あゆ？」
眼を開くと、一面に白が広がった。とても眩しい。
横から覗き込んでくる人影が二つ。どちらも俺の良く見知った顔だ。
香里と北川。二人とも少し疲れた顔をしている。
「やれやれ、ようやくお目覚めのようね」
「・・・ここは？」
「病院だよ。お前は人様の心配を他所にここで5日も寝てたんだ」
北川がここぞとばかりに悪態をつく。が、香里に肘で小突かれて態度を改める。
「いや、まぁ意識が戻って何よりだな。皆心配してたぞ」
「名雪なんてついさっきまで寝ずに看病してたのよ。流石に今は寝ちゃってるけどね」
奥の方に目をやると硬そうなソファーで熟睡している名雪が見えた。
あの名雪が5日も寝ないでいたとは・・・
「それだけじゃないぞ。舞や佐祐理さん、天野まで見舞いに来たんだぞ」
天野まで来てたのか・・・
「で、なんであんな所に倒れてたの？」
「なんでって・・・あの大きな木の登って景色を眺めてたら風が吹いてそれで・・・」
二人がきょとんとした顔になる。
「何言ってるんだ。お前が倒れてた辺りに登れるような木なんてなかったぞ。」
「相沢君が倒れてた辺りには大きな切り株が一つあっただけよ？夢でも見てたんじゃない？」
そんな馬鹿な・・・確かに木は立っていた。俺は確かにその木に登った筈だ。
と、不意に面会時間の終了を告げるアナウンスが流れてきた。
「まぁ、何にしても今は疲れてるでしょうからゆっくり休む事ね」
そう言って二人は名雪をおぶりながら病室を出て行った。
その後、俺は三週間程入院した。
左肩の複雑骨折以外は特に外傷はなく、精密検査の結果も異常なしだった。
入院中は毎日のように誰かしらが見舞いに来てくれていた。
見舞いに来てくれた皆から色々な事を聞いた。
栞の病状がが少しずつだが快方に向かっている事。
佐祐理さんが大学院で活躍している事。
大学を出た後、香里と北川が宜しくやっている事。等々
俺が仕事に囚われている間も皆は自分の生活を楽しんでいたらしい。
見舞いに来る皆の顔はいつも幸せそうだった。
そんな入院中の或る日、偶然誰も来ない日があった。
その日は一日中「俺の幸せ」の事について考えた。
俺は今の職種が好きだ。
仕事について同僚や先輩と議論するのだって最初は楽しかった。
やりがいのある仕事に自らすすんで残業をしたりもした。
その仕事に打ち込むことが「俺の幸せ」の筈だった。
でも俺はその仕事で人生が嫌になった。
それならば本当の「俺の幸せ」とは何だろう？
一晩中考えたが答えは出なかった。
無事退院して出社し、上司に全てを打ち明けた。
顧客の事、同僚の事、そして上司への要望、全てを話した。
上司は何も文句を言わなかった。
でも俺が「まだこの仕事を続けたい」といった時は驚いた様子だった。
どうやら俺が辞めると思っていたようだった。
でも、俺はこの仕事が本当に好きだから辞めることは出来なかった。
それから数年、俺は結婚した。
子供も一人出来た。平凡だが円満な家庭。
流れていく時間、思い出は紡がれていく。
たった一つの奇跡を抱いて----
投票結果
KOU (採点:3)
仕事が本当に好きだから。そう言い切れる祐一が羨ましく、頼もしいです。私もいつか言ってみたい、この仕事が本当に好きだから、と。
ugen (採点:3)
ちょっとと不思議な話として良くあるパターン目新しさがないが不可もない
通行人Ｂ (採点:3)
すみません。これかのんSSなんでしょうか?それを気にしなければもっといい評価なのですが（数字としてでるかはわかりませんが）
kuryu (採点:2)
めりはりがうすいです。
naoki (採点:5)
きっと、最後にあゆに逢えたんでしょうね、本当の幸せを見付けられたから。
グＥ (採点:3)
テーマとかが面白いと思ったのですが・・・、微妙に中途半端な感じがしたのが残念です。
アーリマン (採点:2)
非常に微妙な作品です
かずき (採点:2)
カノンじゃねえ。
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。結局のところ、一体何が書きたかったのか。よくある典型的な「俺語り」のSS。しかもその「俺」に魅力がないのだからどうしようもない。祐一にも人格というものはあって、それを理由もなく捻じ曲げてはいけない。しかもそうして出来上がった祐一に魅力がない。何故死ぬつもりになったのかの説明がまるで足りない。ふと死にたくなることも確かにあるだろうが、それならばそういう雰囲気を書かなければならない。
浮動明王 (採点:2)
オチが意味不明
taka (採点:2)
ちょっとダークなシリアスですね・・・。でも、そこまで悪くなかったかと。
Time (採点:4)
感想とは一寸違ってくるけど、少し語り…。この物語の祐一と同じような境遇に置かれ、死を望んだことがありました。でも、結局、人は簡単には死ねないんですよね…。ちなみに、祐一みたいにやめれなかったことはなく、簡単にやめちゃいましたが（爆
はぐ (採点:1)
採点不能「読めません」
神代 悠 (採点:1)
うーん、もうちょっと長いと良かったかも。
全採点
5点 : 2
4点 : 10
3点 : 61
2点 : 63
1点 : 22
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