NEVER EVER ―もしも一つだけ願いが叶うなら―
ボクの探し物は見つかった。
大切な思い出。大切な記憶。
………そして、真実。
ボクは、ここにいてはいけない存在だった。
それに、祐一くんには、ボクよりももっと大切な人が出来た。
そして今、その人も、祐一くんも、苦しんでいる。
だったら…………。
ボクに残された最後のお願いは、せめて祐一くんのために使おう…………。
ボクの幸せは、祐一くんが幸せになることだから……。
祐一くんが、ずっとずっと笑っていられることだから………。
だから………………
たとえ忘れられても、さびしくなんかないもん……
そう……………
さびしくなんか……………
「神様、ボクの最後のお願いです………
祐一くんと、祐一くんにとって大切な人たちが、ずっとずっと幸せでいられますように……
秋子さんが助かって、祐一くんも名雪さんも、また一緒に笑える日が来ますように……」
人形が、光り輝いていく。
そして、ボクの体も光に包まていく。
体が、心が、思い出が・・・溶けていく。
祐一くん………
ボク、これでよかったんだよね………
さようなら………
俺と名雪が駅前のベンチから帰ってきたのはもう真夜中だった。
名雪は、俺を信じてくれた。
何よりも深い絶望から、立ち直ることが出来た。
だから、きっと奇跡は起こる。
きっと、秋子さんは助かるに違いない。
それを強く信じ、俺と名雪は2人寄り添っていた。
その時。
ふと、聞きなれた声が聞こえた気がした。
「祐一くん……」
「さようなら……」
………あゆの声が聞こえた気がした。
なぜだろう。
その声は、最後に会った時と同じ寂しい声だった。
そして、その言葉がまるで魔法の鍵だったかのように、
俺の記憶の中で、錆付いていた扉が開いた。
そしてその夜。
俺は夢を見た。
いや、それは夢ではなく、過去の記憶。
月宮あゆという少女の真実。
俺が記憶を閉ざすきっかけとなった、あまりに辛い真実だった。
だが、なぜ今になって？
さっきあゆの声が聞こえた気がしたのと、関係あるのだろうか？
その答えも出せないまま、俺は夢から覚めていった………。
秋子さんの意識が戻ったと病院から連絡があったのは、俺が目覚めてすぐだった。
「おかあさんっ！！」
「秋子さん！！」
病室には、ベッドの上で起きている秋子さんと、医者と看護婦がいた。
病院から連絡をもらってすぐに、俺と名雪は病院に駆けつけた。
あゆの事を悲しんでいるヒマもないくらいの、突然の連絡だった。
「名雪、祐一さん…心配かけてごめんなさいね」
「おかあさん、もう大丈夫なの？」
「ええ。大丈夫みたい」
「おかあさん…………」
名雪は目に涙を浮かべ、秋子さんに抱きついている。
そんな様子を、俺ももちょっと涙ぐみながら見守っていると、
医者が俺に話し掛けてきた。
「奇跡としか言いようがありません」
秋子さんが回復したことに一番驚いているのはどうやら医者らしかった。
「医学的に見ても…こんなに早く意識が戻るはずはなかったんです。
いや、意識が戻るかどうかさえ、まだ分からなかったんですから……」
「医学的になんて…どうでもいいじゃないですか。
俺たちの願いによって、奇跡が起こった。それでいいでしょう？」
そうですね。とにかくおめでとうございますと言って、医者と看護婦は
ひとまず部屋から出て行った。
どうやら、自由に話をしてもいいくらいに秋子さんは回復しているようだ。
その秋子さんは、いつものマイペースな笑顔で、俺たちを交互に見ている。
「本当に、心配かけてごめんね、名雪」
「ううん…お母さんが戻ってきてくれて、すっごく嬉しいよ…」
「それに、祐一さんも、いろいろと大変だったでしょう」
「いえ、そんなことは……」
「あのね、おかあさん。私ね、本当は最初、諦めかけてたんだよ。
お母さんが死んじゃうと思って、絶望して…でも、祐一が、
私を励ましてくれたから、私も信じることが出来たんだよ」
「あらあら。祐一さん、ありがとうございます」
「そんな、俺はただ、名雪の力になりたかっただけですよ」
そのあとは、秋子さんといろいろな話をした。
秋子さんがいなかったときの俺たちの様子を報告したり、
秋子さんが目覚めたときの様子を教えてもらったり。
俺たちが、話すことは一通り話し終えたと思ったとき、秋子さんが口を開いた。
「名雪、祐一さん…実は、このことはお医者さんにも言ってないんだけど……」
そう語り始めた秋子さんの口調は、真剣だった。
「意識が戻るちょっと前に、夢を見たの。あゆちゃんが出てきたわ……」
「………！あゆが……？」
「ええ…どんな会話をしたかはよく覚えていないけど、あゆちゃんは必死だったわ。
秋子さんはまだ死んじゃだめだよとか、祐一くんと名雪さんの支えになってあげて、
とか、そして最後に…さようなら、とても楽しかったです。って………」
秋子さんの夢に、あゆが出てきた…
そして、俺が聞いたのと同じように、さようならと言った…
そして、秋子さんの意識が戻った……
…これが偶然であるはずがない。まさか、あゆの奴………
だが、そんな俺の考えを見越しているかのように、秋子さんが尋ねた。
「祐一さん…もしかして、あゆちゃんのことを思い出したんですか…？」
「あゆちゃんのことって…？あのあゆちゃん？」
どうやら、何でもお見通しの秋子さんと違って、名雪はあゆの真実を知らないようだ。
しかし、隠しておく必要は何もない。
俺はすべてを話す決心を固めた。
「昨夜、俺もあゆの声を聞きました。
そして、思い出しました。七年前の出来事を。
俺とよく遊んだ少女…。木から落ちて、俺の目の前で動かなくなってこの世から消えてしまった少女………………
月宮あゆのことを……」
「………そうですか。やっぱり、あのあゆちゃんだったんですね」
「どういうこと…？だって、あゆちゃんとはこの前会ったのに……」
事情を知らない名雪のために、俺は思い出した限りの事を話した。
あゆがもうこの世にはいないことを知って、さすがの名雪もショックを受けたようだ。
「そんな…じゃあ、あのあゆちゃんは……」
「多分…ずっと祐一さんを待っていたんですよ。終わらない夢の中で。
どうしてももう一度、大好きだった祐一さんに会いたかったんですね……」
「あゆ…バカやろう…………」
やりきれない気持ちだった。
秋子さんが戻ってきたのは嬉しいが、俺にはなんとなく分かっていた。
あゆは、自分の存在を犠牲にして、秋子さんを助けたのだと。
奇跡が起こったのは俺ではなく、あゆのおかげだと。
「お別れを言うんなら…ちゃんと面と向かって言えよ……。
せめて、俺にもさよならぐらい、言わせてくれよ……」
「祐一……」
名雪が心配そうな顔を俺に向ける。だが、名雪だってその表情は沈んでいる。
名雪にとってもあゆは大切な友達だったんだ。無理もないだろう。
「祐一さん」
…突然、秋子さんが呼びかけてきた。
「なんでしょう、秋子さん？」
「祐一さんは、１つだけ勘違いしていますよ」
「勘違い？何をですか？」
「あゆちゃんのことです」
…あゆのこと？
そういえば、秋子さんはあゆについて何か知っていそうな素振りを何度か見せていた。
だが、俺には勘違いしていた心当たりはなかった。
「祐一さんは、その頃小さかったから知らないのも無理はないですね…」
「おかあさん、どういうことか、私さっぱり分からないんだけど」
俺にもさっぱりだった。
そして、次の秋子さんの話ほど、俺を驚かせたものは無かった。
「祐一さんは、あゆちゃんが木から落ちて、死んでしまったと思っているようですけど、あゆちゃんは死んでいません。
ずっと意識不明の重体だけれども、生きているんですよ」
「………！本当ですか！秋子さん！！」
「ええ。いわゆる植物人間という状態ですね。その事故があったとき、私が病院でお医者さんから直接聞きましたから間違いありません。 もっとも、祐一さんはそのときはショックで私が病院に来たことにも気づかなかったようでしたけど」
…俺は確かに、あの時は気が動転していて、動かないあゆを死んでしまったと思った。
当時俺は十歳だったから、無理のないことかもしれないが……
「それで、おかあさん、あゆちゃんはどうなったの？」
「意識が戻ったという話は聞いてないから…たぶん、今もずっと眠ったままなんじゃないかしら」
「俺たちが出会ったあゆが、意識を取り戻した本物、という可能性はありませんか？」
「残念ですが、もしそうならめったに無い事件ですからニュースぐらいは流れているはずですし……」
あゆがまだ生きている。それが本当なら、まだ希望は残されているかもしれない。
秋子さんが奇跡的に回復したように、あゆだって奇跡的に目覚めるかもしれない。
しかし…冷静に考えると、その可能性は０に等しいように思えた。
七年間ずっと起きなかったことも根拠のひとつだが、何よりあゆは俺たちに
さよならを言っていた。
あいつは、知っていたのではないだろうか？
今の自分が消えれば、もう俺たちに会うことは出来ないと………。
「…きっと目覚めるよ」
不意に、名雪が口を開いた。
「おかあさんが目覚めたんだもん。あゆちゃんが目覚めないはずないよ」
「でもな、名雪……」
「それに、私、またあゆちゃんに会いたいもん。またあゆちゃんとお話して、
一緒にお泊りして、料理だって一緒に作ってみたいもん。祐一だって、そうでしょ？
私は、きっとまた会えるって、信じているよ」
「…そうだな、その通りだ」
俺たちが秋子さんを信じたように、今度はあゆを信じればいいのだ。
またあゆにあって、たい焼きを食べて、からかって、笑って……。
俺たちが心から願えば、きっと奇跡はまた起きるはずだ。
「そうね。私もまた、あゆちゃんを朝食に招待したいわね」
「きっと、いつか俺たちの前にひょっこり現れますよ」
「また商店街で祐一にぶつかったりして」
名雪の一言に、俺も秋子さんも笑った。久しぶりに、心から笑えた気がした。
「それにしても、なんか腹減ったな」
「あらあら、もうこんな時間なのね。二人とも、売店に行って何か買ってきたら？」
確かに、話し込んでるうちにもう昼近くだった。しかも、俺たちは朝食もろくに食べてない。俺たちは秋子さんの薦めに従うことにして、いったん病室を出た。
売店へと向かう廊下。
無言のまま歩く俺と名雪。
その時、俺はある違和感を感じた。
廊下が騒がしい。
普通、静かにするべきはずの廊下を、医者や看護婦がどたどたと走っていく。
…急患でも運び込まれたのだろうか？
大して気に留めるつもりはなかった。しかし、嫌でも耳に入る看護婦の大声に、俺たちの足は止まった。
「―そうです！９１２号室の患者さんです！！さっき見に行ったら、急に目を覚まして―」
「……！！まさか…」
「祐一………」
「名雪、９１２号室ってどこだ？」
「えーっと、確か４階の右端の方だったはずだよ」
「よしっ！！」
「あ、待ってよ、祐一。私も行くよー」
俺たちは階段を駆け上がった。
四階に着くと、９１２号室を探して回った。
…別に、それがあゆの事だと決まったわけじゃない。
普通なら、看護婦さんの言ってた人はまったくの他人だろう。
…でも、俺も名雪も理由のない確信があった。
なぜなら、偶然にしてはタイミングが良すぎるからだ。
やがて、１つだけ人が集まっている部屋の前についた。
―９１２号室だ。間違いない。
俺達は、入り口の所にいる人達を掻き分け、中に入った………
「…さん、ここがどこだか分かりますか？」
「えっと……うぐぅ、ここどこ……………？」
「病院です。それじゃあ、自分の名前は分かりますか？」
「ボクの…名前……？えっと………」
「あゆっ！？」
「あゆちゃん！？」
９１２号室に入った俺たちが見たのは、驚いた表情の医者と数名の看護婦、
そしてきょとんとした顔でベッドに寝ている少女だった。
「…あれ……？祐一…くん？名雪さん………？」
少女は俺たちの名前を呼んだ。
間違いない。
こいつは、月宮あゆだ。
「…あゆ！！」
いきなりの侵入者に驚く病院の人たちの横を通って、
俺と名雪はあゆのいるベッドに駆け寄った。
「…どうして祐一くんと名雪さんがここにいるの？それにボク……
どうして、ここにいられるの？たしかにボク、消えたと思ったのに…」
「そんなことどうでもいい。ほんとうに、お前はあのあゆなんだな？」
「あゆちゃん、私たちのことわかるの？」
「…うん。祐一くんや名雪さんと過ごしたことも覚えているよ。
でも、どうして……？」
「君たち、ちょっといいかい？」
忘れられていた医者が俺たちに話し掛けてきた。
「君たち、月宮あゆさんの知り合いかい？」
「…ええ、こいつの友達ですが」
「祐一くんと言ったね。…もしかして、七年前にあゆさんをここに連れてきた男の子じゃないか？」
「俺の事を覚えてるんですか？」
はっきり言って、俺は七年前、あゆが木から落ちてからどうなったか覚えてない。
当然、目の前にいる医者なんて覚えていなかった。
「その日は、私が当番の日でね…。急患の女の子が運ばれてきたとき、
私に必死で、『おねがいです。こいつを助けてください』って泣きながら
すがり付いてきた男の子がいたんだよ。後で保護者の方に話を聞いて、名前と事情を知ったんだ。あの時の事は忘れられないよ」
「…俺、そんな事言ったんですか？」
保護者というのは秋子さんだろう。しかし、マジで覚えていないぞ。そんな事。
「そっか…祐一くんそんなこと言ってくれたんだ」
その言葉に、室内の注目が再びあゆに向けられた。
「えーと、月宮さん。自分の事がわかりますか？」
医者が問い掛ける。
「ボクのこと？ボクの名前は月宮あゆ。昔、木から落ちちゃった所までは覚えているけど…」
「…どうやら脳に異常は見られないと思いますね。記憶もはっきりしている。
しかし…あなたが目覚めたのは、奇跡としか言いようがありません」
「奇跡…ですか」
まだちょっと混乱しているあゆに代わって俺が答える。
「ええ。もう七年間も起きなかったくらいです。我々もあらゆる手を尽くしましたが、
いっこうに目覚める気配はなかったんです。それが、さっき突然目覚めたのです」
傍にいた看護婦がうなずいている。おそらく、彼女が第一発見者だろう。
「正直、我々ももう八方塞がりで、ずっと目覚めない可能性が高いと思ってました」
「だから…奇跡ですか」
「ええ。現代の医学では考えられないことです」
「あゆちゃんは、何ともないんですか？」
「詳しい検査をしないとなんとも言えませんが、さっきから見ている限りでは
大して異常はないようです。おそらく、問題はありません」
「ボクなら元気だよ」
あゆが本当に元気そうに言う。
しかし、俺達は医者も知らないことを知っている。
どうしても、俺たちにはあゆに確かめたいことがあった。
「あの…あゆと少し話をしてもいいですか？」
「…うむ。特に以上は見られないし、少しくらいならいいだろう」
物分りのいい医者だったのか、あっさりと俺たちの頼みを聞いてくれた。
「ありがとうございます」
「いや、君達だって七年ぶりの再会なんだ。話したいことがたくさんあるのも
当然だからね」
最後に、『もし何かあったらすぐに呼ぶようにね』と言って、
医者と看護婦、それに野次馬の人たちは部屋から出て行った。
病室には、俺と名雪とあゆだけが残された。
「…えっと」
最初に口を開いたのは、名雪だった。
「なんだかずっとあゆちゃんに会ってなかった気がするね」
「…そうだね。ボクもすごい久しぶりのような気がするよ。
ねぇ…祐一くん」
「何だ」
「祐一くん、思い出したの？七年前の事。ボクが本当は祐一くんの前に現れる事の
出来ない人間だったっていう事……」
「………今朝思い出した」
「……ボクね、分からないんだ」
「分からないって、何が」
「どうして、ボクが目覚めることが出来たのか」
「それは、奇跡が起こったからだよ」
「ううん。違うんだ、名雪さん。ボクは知っていたんだ。というより、思い出しちゃったんだ、自分のこと。
自分がここにいるはずのない人間だと知ってしまったから、ボクは消えてしまうはずだったんだよ」
そうか。
探し物が見つかったと俺に言ったとき、あゆはすでにそのことに気付いていたのだろう。
だから、あんなに寂しそうな顔をしていたのだろう。
俺とは二度と会えないことを、分かっていたから……。
「…本当はね、ひとつだけ方法かあったんだ」
「方法？なんの？」
「ボクがもっと祐一くんや名雪さんといっしょにいられる方法。ボクに残された、
たった一つのお願い」
「…まさか、あの人形の事か」
俺はもちろん、あの人形の事も思い出していた。だが、あれは俺が願いを叶える、ただの人形だったはずだ。
「ううん、実はね。残った最後のお願いを、神様がパワーアップしてくれたんだ。
だから、夢の中ならどんなお願いでも叶うようになったんだ。」
「じゃあ、あゆちゃんは夢から覚めたいってお願いしたの？」
ふるふると、あゆが細い首を横に振る。
「してないから、不思議なんだ。ボクは別のお願い事をしたから。だから、願いが叶ったら、ボクは夢の中にも存在できなくなって、
本当に死んじゃうって覚悟していたんだよ。
でも…暖かい光に包まれて、気がついたらベッドの上にいたんだよ」
「あゆちゃん…あゆちゃんが自分を犠牲にしてまで叶えたかったお願いって、まさか………」
「……うん。たぶん名雪さんの考えてる通りだと思う」
…そう。
だから秋子さんは助かった。
だからあの時あゆは俺たちにお別れを言った。
秋子さんも…そして俺や名雪も、みんなこいつに助けられたんだ。
すべては、あゆが起こした、命をかけた奇跡だったんだ。
「……………」
「……………」
「あゆちゃん…わたし、なんて言えばいいのか分からないけど…
おかあさんを助けてくれて、本当にありがとう」
名雪の目には、涙が浮かんでいた。
「そんな…名雪さんがお礼を言うことじゃないよ」
「ボクはただ、秋子さんがいなくなるのが嫌だっただけだし、それに……
祐一くんが悲しむ顔を見たくなかっただけなんだから」
「俺の………？」
「うん。ボク、そ、その…祐一くんの事が、す…好き……だったから……」
顔を真っ赤にさせて、ぼそぼそとつぶやくあゆ。
…っておい。
あゆが俺の事を好き？
…マジ？
「うぐぅ…祐一くんには、笑っていてほしかったから…
だから、お願いしたんだよ。祐一くんと、祐一くんにとって大切な人たちが、
ずっとずっと幸せでいられますように…って。
だから、秋子さんも帰って来れたんだよ」
「そっか…あゆちゃんも、祐一のこと好きだったんだ」
「う、うん。でも、今は祐一くんの一番は名雪さんだから、それはもういいんだよ」
あゆの顔はまだ真っ赤だ。本当に分かりやすい奴だ。
だが、今の俺がすべきことはあゆをからかう事じゃない。
まだ戸惑っているあゆを、安心させてやる事だ。
だから、俺はあゆに言ってやった。
「あゆ、だったらお前が目覚めることが出来た理由は簡単に分かる」
「えっ…祐一くん、何で分かるの？エスパー？」
「いいから、真面目に聞け」
「うぐぅ」
「お前は、俺と、俺にとって大切な人たちが幸せでいられるように願ったんだな？」
「うん」
「だったら、答えは１つ。俺にとって、お前も大切な人だからだ。
俺にとって大切な人がみんな幸せになるんなら、当然あゆだって幸せになるはずだ。
神様は、ちゃんと叶えてくれたんだよ。お前の分までな。
お前にとっての幸せは、こういうことだったんだろ？」
「……………」
あゆの目に涙が滲んできている。
そして、あゆがやっとの事で口を開いた。
「祐一…くん…真面目な台詞、似合わないよ……」
「悪かったな」
いつもと同じ、あゆのセリフ。しかし…
「でも……うれしいよ………。あれ…どうしてだろ。涙が…止まらない…よ…。うぐ…ぅ………」
あゆの目から涙が止まる事は無い。
名雪が、あゆの長い髪を撫でてやっている。
いいんだ、あゆ。泣いたって。
嬉しいときには、好きなだけ泣いてもいい。
その涙は、きっと温かい涙だから…。
だから、俺ももしかしたら泣いていたかもしれないまま、あゆの頭に手を乗せて言ってやった。
「お帰り…あゆ」
「うぐぅ…ただいま。祐一くん、名雪さん……」
止まっていた病室の時間は、ゆっくりと、動き始めていた………。
「うにゅう・・・おはようございます・・・・・」
いつもどおりの寝ぼけ眼で、名雪が起きてくる。
「もう昼だぞ。日曜とはいえ、よく朝飯も食わないで寝てられるな」
「だって、眠いんだもん」
「あら名雪、起きたの？」
「あ、おかあさん。おはよう」
「名雪さん、おはようっ」
「あゆちゃん、おはよう。」
「秋子さん、おかわりしていい？」
「ええ。まだまだたくさんあるわよ」
「おかあさん、お昼何？」
「お蕎麦よ」
ちなみに、この蕎麦も秋子さんの手打ちらしい。
「秋子さんのお蕎麦、とってもおいしいんだって」
「…あれ？何であゆちゃんがいるの？」
今頃気付いたか、名雪。
食卓には、あゆがすでにテーブルに座っている。
「わたしが朝食に招待したのよ。あゆちゃんと私の退院祝いを兼ねてね」
「えー、だったら、私も一緒に朝ごはん食べたかったよー」
「何度も起こしたぞ。俺は」
俺とあゆでいろいろ手を尽くしても起きなかったんだから、文句を言われる筋合いは
ない。
あゆ曰く、『ボクが目覚めるのより大変かも』だそうだ。
「大丈夫よ名雪。そう思って、あゆちゃんを昼食にも招待したから」
「わ、よかった―」
…ちなみに、あゆがゆっくりしているうちに昼食の時間になってしまっただけだ。
でもまあ、そんなことはどうでもいい。
こんな楽しい時間がまた戻ってきたんだから。
もう、だれも悲しい思いをしなくでもいいんだから。
「それにしてもあゆ。家の中でくらい帽子を脱いだらどうだ？」
「いやだよ。だって、いっぱい切られて変な頭になっちゃったもん」
「大丈夫だよあゆちゃん。だれも笑わないから」
「うぐぅ…祐一くんだけは、笑いそうな気がする」
鋭い。
「確かにそうかも。ね、あゆちゃん。今度私が、美容院連れて行ってあげるよ」
「えっ、いいの？名雪さん」
「うん。きっともっとかわいくなれるよ」
「お願いします」
それにしてもこの二人は仲がいい。
「恋のライバルとは思えないわね」
「わわっ、変なこと言わないでよ、おかあさん」
「そ、そうだよ秋子さん。ボクは別に…」
秋子さん、頼むから、話をややこしくさせないでください。
「そ、それはともかくだ、昼飯食い終わったら、みんなでどこか行かないか？」
「賛成―」
「ボク、商店街に言って、タイヤキ食べたい！」
「名雪は？」
「商店街でいいよ。いろいろ見て回ろうよ」
「うんっ」
一人の少女の想いが、奇跡を起こした。
たった１つの願いによって、みんなが救われた。
覚めない夢なんてない。
明けない夜もない。
どんなに絶望しようとも、光は必ず差し込んでくれる。
そして今。
時はゆっくりと過ぎて行く。
俺の、名雪の、あゆの、みんなの大切な想いを、
変わらない確かな想いを乗せて…。
〈完〉
投票結果
ugen (採点:4)
いわゆるALLエンドにするひとつのパターンだけどレベルが高い
荒野草途伸 (採点:2)
話の作り込みが甘いし、なんか奇跡がすごく安っぽいです
グＥ (採点:3)
あゆと、名雪二人が幸せになる―――、こういう幸せな話は好きです。
naoki (採点:3)
奇跡、っていう言葉を使いすぎ。
フール (採点:5)
幸せというのは、周りの人が健康であることなのかもしれませんね・・・
kuryu (採点:2)
最後の言葉が胸にぐっときました。
かずき (採点:2)
よくばりですね。一つではなくて２つじゃん。
浮動明王 (採点:4)
祐一のためを願った結果あゆも復活するというところはちゃんとロジックは通っている点が良いと思います
taka (採点:3)
やっぱりハッピーエンドが一番ですよね。あゆが助からないのはちょっときついんで・・・。
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。三点リーダーを多用しすぎて見苦しい。さんざん書き尽くされた感のあるこのストーリー、このプロットを敢えて今さらこの文章力で書く意味はない。またリアリティも足りない。7年間植物状態だったあゆが、なんの苦もなくあれほどの長広舌をふるうことが出来るとは思えない。
神代 悠 (採点:2)
うーん、奇跡のオンパレード、個人的にはあんまり好きじゃないんですが。でも、あゆになら出来そうですしねｗ
全採点
5点 : 9
4点 : 31
3点 : 54
2点 : 33
1点 : 12
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