SSこんぺ No.096 : Are you happy?

Are you happy?

カチッカチッカチッ・・・

「・・・・・・」
「・・・祐一さん」
「・・・秋子さん」
俺の前には、コーヒーカップを二つ持った義母―秋子さんがいた。
「はい、これでも飲んで少しはリラックスしてください」
「・・・すみません」
秋子さんからコーヒーを受け取り、口をつける。
「・・・甘いですね」
俺がブラック派だという事は秋子さんも知っているはずだけど・・・
「今はそのほうが良いでしょ？」
「・・・そうですね」

名雪の陣痛が始まったのは朝食を取った直後だった。
出産予定日より一週間も早かったので、俺はただ慌てるだけで何も出来なかった。
俺とは対象的に、秋子さんはすぐに救急車を呼び、名雪は病院へと運び込まれたのだが・・・
ここで問題が発生する。
名雪の出産は難産のため、帝王切開になったのである。
「祐一・・・私、がんばるからね・・・がんばって・・・赤ちゃん・・・産むからね・・・」
「名雪！」
「だから・・・楽しみに・・・して・・・・て・・・・・ね・・・・・・」
「名雪！！」
陣痛の痛みが酷くなったのか、名雪は気を失ってしまった。
そして、名雪は気を失ったまま手術室へと運び込まれ、オペが開始されたのだった・・・

カチッカチッカチッ・・・
手術が始まって十分が過ぎた。
俺にはこの時間が十秒にも、十時間にも、十年にも思える。
「祐一さん。今は、佐祐理ちゃんと舞ちゃんを信じましょう」
名雪の担当医には佐祐理さん、そして看護婦として舞がついている。
この病院で出産すると決めた時、俺と名雪で相談して決めていたのだ。
佐祐理さんは若くしてすでにこの病院の象徴的存在になったし、舞は舞でそんな佐祐理さんを立派に支えている。
「もちろん信じていますよ。けど・・・やっぱり落ち着けません」
なぜなら、今日は・・・

「相沢君！」　「相沢！」　「祐一さん！」　「相沢さん！」

おそらく秋子さんが連絡したのであろう、香里、北川、栞、天野の四人がこっちに駆けて来た。
「お前ら、ここは病院だぞ。少しは静かにしろよな・・・」
「相沢君、名雪は？」
俺の注意も聞かずに香里は尋ねてくる。
「・・・手術室だ。入ってまだ十分くらいだ」
「・・・そう」
「確か、佐祐理さんと舞さんが担当してたよな？」
「ああ・・・」
「だったら安心です。ね、お姉ちゃん？」
「・・・そうね。あの二人に任せたなら、きっと大丈夫よね」
栞の言葉に香里の表情は明るくなる。
「ほら、お姉ちゃんもこう言っているんですし、祐一さんも元気出してください」
「・・・・・・」
栞が励ましてくれるけど、俺はとてもそんな気分にはなれそうにない。
「祐一さん？」
「・・・悪い、ちょっと外に出てくる」
「え？」
「おい！？」
「相沢君！？」

カチ、シュボ・・・

「・・・ふぅ」
病院から出て一服する。
「・・・皮肉なもんだな。よりによって、名雪の出産日が今日だなんてな・・・」
「それはどういう意味ですか？」
「天野か・・・」
いつのまにか天野がそばにやって来ていた。
「天野も一服するか？」
「どういう意味なんですか？」
「これなら天野でもいけると思うけど・・・」
「どういう意味なんですか！」
「・・・・・・」
「相沢さん、さっきの発言はどういう意味なんですか！」
「・・・天野、今日が何の日か覚えているだろ？」
「覚えているから訊いているんです！」
・・・ま、天野が怒るのも無理ないか。
俺は、とんでもない事を口にしたのだから。

「あゆさんと真琴の命日がどうして皮肉なんですか！」

あの冬、俺はたくさんの少女と出会い、それと同じだけの悲劇に遭遇した。
そして、もうどうしようもないと思った時、奇跡が起こったのだ。
これによって、悲しみに打ち失せられていた少女たちに笑顔が戻った。
二人の少女を除いて・・・

「相沢さん、答えてください！」
あの天野が感情を丸出しにしている。
こういう状況でなければ嬉しい事なんだけど・・・
「相沢さん！」
「・・・俺が助けることの出来なかった二人の少女の命日が、俺の子供の出産日なんだぞ。これを皮肉と言わずになんていうんだ？」
「そ、それは・・・」
天野は俺の問いに答えられない。
「・・・もしかしたら、俺の事を恨んだ二人が、俺に復讐するために、呪いでもかけてるのかもな・・・」

パン！

・・・え？
・・・天野が、俺を引っ叩いたのか？
「ふざけないでください！」
「・・・天野？」
・・・泣いているのか？
「あの二人が相沢さんを恨むはずがありません！」
「・・・けど、俺はあの二人を救うことが出来なかったんだぞ？」
「だけど、相沢さんは二人を救おうと努力されたじゃありませんか。二人はそれだけで嬉しかったはずです」

「そうだぜ、相沢」

「相沢君は幸せになって良いのよ」

「・・・北川・・・香里・・・」
いつのまにか、病院からみんな出てきていた。
「けど、俺は・・・」
「こう言うのもなんだけど、あの二人はすでに過去の人物なのよ。その事をいつまでも引きずっていてはいけないと思うわ」
「そうだぜ相沢。それに、そんな事を言っていたら二人も悲しむぞ」
あゆ・・・真琴・・・
俺は・・・幸せになっても良いのか？
「・・・祐一さん」
「・・・栞？」
「祐一さん、幸せになってください。それを私達・・・そして、誰よりもあゆさんと真琴さんが望んでいるはずです」
「・・・そっか」
俺は・・・あの二人の分まで幸せにならないといけないみたいだな。
分かったよ・・・あゆ、真琴。
俺は・・・
「・・・俺は幸せになる！」
「了承」
さて、秋子さんの了承も出たし・・・
「みんな、中に戻るぞ」

カチ、カチ、カチ、カチ・・・

「・・・もう四十分ね・・・」
「そろそろ終わっても良い頃だな・・・」
・・・名雪・・・
「・・・あれ？」
「栞さん、どうかしましたか？」
「今、何か聞こえませんでしたか？」
「！？」
・・・本当だ。
・・・確かに聞こえる。
確かに赤ん坊の産声が聞こえる！
「・・・でも、なんか変な産声ね」
「そうだな・・・」
でも、なぜかとても懐かしいような・・・
「ふふ、これで私も、今日からおばあちゃんですね」
「秋子さん・・・」
「祐一さん、これからも名雪の事、お願いしますね」
「・・・はい!」

そして・・・

「驚いたわね・・・」
「ああ・・・」
「まさか、産まれたのが双子の女の子で・・・」
「産声がこれとは以外でした・・・」

「うぐぅ～」　「あぅ～」

「あはは～、佐祐理も手術室で聞いた時は驚きましたよ～」
「・・・かわいい」
「名雪、よく頑張ったわね」
「うん、がんばったよ～」
「・・・本当によく頑張ったな、名雪」
「・・・祐一？」
「なんかうまく言えないけど・・・ありがとな」
「・・・どういたしまして、だよ」
名雪の出産も無事に終わったし、これで俺も父親か・・・
これからは水瀬家も賑やかになりそうだな・・・
「そういえば名雪さん、どちらがお姉ちゃんなんですか？」
「あ、それはね～・・・」
「左の子だろ？」
ちなみに、「うぐぅ～」の方である。
「そうだけど・・・よく分かったね、祐一」
「ん、なんとなくな・・・」
「名前はどうするの？」
「相沢さんは、以前から色々と考えていらっしゃいましたよね？」
「ああ、そうだったんだけど・・・」
この産声を聞いてしまったら、考えていた名前なんて使えないよな・・・
「名雪の意見はどうだ？」
「私は祐一に任せるよ～」
「そっか、それなら決まりだな」
「何にするんですか、祐一さん」
いつも以上の笑顔で訊いてくる秋子さん。
いや、秋子さんだけでなく、他の皆も笑顔だ。
・・・俺の考えなんてお見通しか・・・
・・・いや、皆も同じ事を考えていたんだろう。
この双子からは、あの二人と同じ雰囲気を感じるから・・・
「よし！　それじゃ言うぞ！この双子の名前は・・・」

「・・・こうして水瀬家に新しい家族が出来たのであった・・・よし、終わった」
ふぅ、なんとかここまでは書けたな。
他の日はいろんな事がありすぎてよく覚えてないけど・・・ま、いっか。
「祐一、何やってるの？」
名雪が俺の所にやってきた。
「最近忙しかったから日記を書き忘れててな。とりあえず、覚えている分だけでも書いてたんだ」
当日に書かなかった物なんて、日記って言わないんだろうけど・・・
「ふ～ん・・・あ、このページ、あの子達が産まれた日のだね」
「ああ、この日だけははっきりと覚えていたからな」
たぶん、一生忘れる事はないだろうな。
「・・・ねぇ、祐一」
「ん、なんだ？」
「祐一は今、幸せ？」
「・・・・・・」
以前の俺なら答えられなかったと思う。
だけど、今ならはっきりと言える。

「ああ、幸せだぞ」

END

投票結果

Ｇすぽると (採点:2)
正直言って焦燥する程の事かな？と思う。もう少し事態が逼迫したら話が変わってくるが。あうぐうが可愛くて良し。

ugen (採点:3)
ありがちでもきちんとお話になっている

グＥ (採点:2)
出産をテーマにして面白いとは思ったのですが、途中の主人公の思考に感情移入できなかったのが残念でした。

naoki (採点:4)
うぐぅ～、あぅ～。ありがちですが、好きかも。

白 (採点:4)
産声怖すぎ・・・。

kuryu (採点:2)
リアルが足りないです。

荒野草途伸 (採点:1)
いくらなんでも、考えが無さ過ぎでは・・

かずき (採点:3)
なんか、ありがち。

橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。双子の泣き声はギャグとしては悪くはなかった、良くもないが。おかしなところが多すぎる。何故あゆと真琴は助からなかったのに、栞と舞は助かっているのか。どう考えても口癖が便利に使える（と勘違いした）からとしか思えない。舞の看護婦はともかくとして、何故佐祐理さんがいきなり産婦人科医になっているのか。何故祐一は水瀬家に婿入りしたのか。何故誰も双子だと気付かなかったのか。レントゲンを撮るし、そもそも妊婦には実感として分かるはず。そして文章力が低すぎる。

taka (採点:3)
うぐぅとあぅ～。そんな産声で出てきたのかな、あゆは。少し嫌だな・・・。

はぐ (採点:1)
採点不能「読むのやめました」

神代　悠 (採点:3)
やっぱこうでなくっちゃ！ｗ＜何がだ

全採点
5点 : 3
4点 : 24
3点 : 57
2点 : 40
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