Color of happiness
あひるがガーガー、カラスがアホー。
そんな、麗らかな春の日のことだった。
「祐一さ〜ん、愛情（＝容量）たっぷりお弁当ですよ〜♪」
…オレたちの教室にそんな声が響いたのは。
オレはおもいっっっっきり、コケた。
声の主…栞のいきなりな発言も相まって、クラス中の視線を一人占めしているのは間違いないだろう。
うう、恥ずかしい…。
何段積みやねん！と関西風にツッコミたくなるような弁当をんしょっと抱え、栞がオレの所へやってくる。
その様は非常に微笑ましくもあり、また、嬉しくもある。
こんな可愛いコがオレの……その、彼女なのだから。
「ゆーいっちさん、今日も中庭で食べましょうよ〜」
「ああ、そうだな。じゃあ、名雪、香里」
「うん、気をつけて逝ってきてね♪」
何故か名雪の視線が怖かった。
「いや、できればヘルプお願いしたいんですけど……」
オレにあれを全部食べろと…？
そんな酷なこともないでしょう…。
「「………………（視殺）」」
強烈な視線が降り注いだ。
ひょっとすると生命の危機かもしれない。
殺人的弁当と合わせて、祐ちんダブルピンチ？
「祐一、また見せつける気なんだー。もうっ、妬けちゃうなー」
「相沢君、一人身にはけっこう辛いものがあるわよ、あなたたちに付き合うの」
「な、なにいっ！？」
「えぅー、そんなことないよぉ……」
顔を真っ赤にして言っても、何の説得力もなかった。
そして、これはまた別の話だが。
香里の発した”一人身”という単語に、クラスの男子９割がピクリと反応。
シスコンが明らかになっても、かおりん人気は衰えていなかったらしい。
「美坂ーーーッ、オレとつきげばァッ！？」
＞北川はいきりたって香里におそいかかった。
＞ミス
＞香里の反撃……北川即死。
＞北川は星になった。
＞香里は３の経験値と北川の財布を手に入れた。
…ピクリと反応、どころじゃないヤツも居たようだった。
あくまで過去形でしか語れないのが非常に残念だが。
「――なんて、ブザマ」
「……鬼だよ、こいつ」
「北川君が月に行きたいっていうから、手伝ってあげたのよ♪」
「祐一さん、そんなことより、早く中庭にレッツゴーです。お昼の時間がなくなっちゃいますっ。ほら、お姉ちゃんと名雪さんもっ」
「もー、しょうがないわね、この子ったら」
「そんなこと」で済まされた（汗）
許せ、北川。漢には、友の屍を乗り越えて（踏みにじって）進まねばならぬ時もあるのだから…。
この高い空からオレを見守っていてくれよな…。
「まったく、食べれる量にしなさいよね……お弁当作るの。いっつも二人で食べきれなくて、そのたびにあたしたちが見せつけられるんだから」
「えぅー、そんなこと言うお姉ちゃん嫌いだよぉ…」
「ふふ、香里ったらー」
「…な、何よ」
「栞、実は、香里は毎日な……」
「…うふ、相沢君、そんなに生き急ぐことはないんじゃないかしら？（はぁと）」
怖ッ！！
「別にいいじゃない、香里ー。香里が毎日、授業が手につかないぐらい栞ちゃんと一緒にお弁当食べるの楽しみにしてるってことくらい言っても……「わーわーわーーッ！」……あ、言っちゃった」
名雪、オレの言いたいこと言ってくれてありがとう。
そして、キミのことは忘れない…。
「ナーーユーーキーーーーッ！！」
名雪が修正されることになったのは、言うまでもないことだと思う。
そして、何故かついでにオレも…。
（暴力的かつここには載せられない描写を含むため、省きます）
（皆さん、想像してくださいｗ）
時は流れ、場面は中庭に急展開する。
「うぅ…ゆぅいちぃ、わたし、汚されちゃったよぉ……」
「贅沢言うんじゃない。今生きていることの幸せをかみしめろ。それで十分じゃないか」
「でもっ、でもっ………うん、そう、だよね…。だったら今だけでいいよ。祐一っ、わたしを慰めてぇーー！」
「諦めなければ、希望はいつかオレたちの手に舞い降りる。その時を信じて走りつづけるんだ！」
「祐一っ！！」
「名雪っ！！」
ガシッ
「あなたたち、微妙に噛み合ってないわよ…」
「えーうー、いくら名雪さんでも祐一さんとくっついちゃ駄目ですっ！ お姉ちゃん、そっち持って」
「はいはい、いっせーのーれ」
香里が名雪を、栞がオレを掴んで引き剥がした。
「うーー、二人はもう離れられないおー！」
「イヤですっ、祐一さんは私のモノです！手をださないでください」
「ふふっ、そんなこと言ってもねー？ わたしは祐一と一緒に住んでるんだから……いつでも、ぱくりごっくんごちそうさまだよ？」
「祐一さんはそんな節操なしじゃありません！ 第一、祐一さんは私の魅力にイチコロだったんですから！」
「二人とも、キャラ変わってるわよ…」
「「うるさいッ！！」」
「うェッ！？」
にしても名雪の胸、大きかったよな…（死）
二つの柔らかい膨らみが……。
今まで栞のしかさわったことないから、すごく新鮮で……ちょっと感動してしまったじゃないか。
て、何か周りが騒がしくないか…？
「一つ屋根の下なんだよッ！」
「そんなの関係ないですっ。愛しあってる二人は、距離と時空を越えて結ばれるものです！」
「お風呂場でバッタリとか、着替えを覗いてエッチ〜とか、雷が怖くて同じ布団で眠ったりとか！！ 好感度を上げるイベント満載なんだよ！」
「そんなもの、別の子のフラグが立ってれば全部スキップです！ 名雪さんなんて、他の子のフラグが立ってない時だけじゃないですか！」
「ぐっ、分岐点でセーブは常識だよ！！」
「ナニ言ってるんですか、セーブせずに最後まで勘でいくのがオツな楽しみ方です！！」
「デザートはイチゴのケーキで決まりだよ！」
「ヴァニラアイス以外は認めません！」
「………」
「………」
「………………」
「………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…これは譲れないよ」「ですね」
他のはどーでもいいんかい！！
「お願いもうやめて、頭痛いわ…。あ、そうだ」
名案だというふうにポンと手を打ち、香里の瞳が沈黙を守っていたオレを捉える。
オレは多少トリップしていたため、話の流れがさっぱり分かっていなかった。
「相沢君に決めてもらったら？」
マテ…。
何故そこでオレにふる。
オレは見逃さなかった。
香里の唇の端がやや悪役的に釣り上がっていたことを。
「それもそうだね…」
「くそっ、こうなりゃヤケだ！ 何でも答えてやるぞ」
何故か全員、目がヤバかった。
周りから見ると、この上なく怪しいんじゃないだろーか。
「じゃあ、聞くよ…」
オレは腹をくくった。
名雪と栞が何を言い合ってたかはよく分からないが、この二人が争うなんてよほどのことだろう。
そんな姿は絶対に見たくないし、二人には仲良くしてもらいたい。
栞はオレの一番大事な人だし、名雪だってオレにとっては特別な幼なじみなのだから。
二人が仲良くできるなら、オレが犠牲になってやろうじゃないか。
「祐一は…」
名雪が問う。
…ごくり。
息を飲む音が、やけに大きく聞こえた。
「わたしと栞ちゃん、どっちが美味しそう？」
「マティッ！！ さっきのってそういう会話か！？ なんか違うだろ！」
「３Ｐ希望！？」
「ちがーーーう！」
「そうですよ名雪さん、そういう問題ではないんです…。分かっていませんね。
それでは祐一さん、聞いてもいいですか？」
「えっ、お、おう。マトモなことを頼む」
「うー」
「それでは。えと、祐一さんは…」
…ごくり。
再び息を飲む音が、やけに大きく聞こえた。
「病弱な少女と幼なじみ、どちらが萌えですか？」
「何ぢゃそりゃあああああぁぁっ！！」
なりふりかまわず絶叫。
しかし、それで話が終わるほど世の中甘くはないらしい。
「甘い、イチゴジャムよりも甘いよ！ 栞ちゃん、あなたは一つ重大なミスを犯しているんだよ！！」
「あっ、あんですとぉ！？」
いいノリだった。
「知りたい？」
「くっ、聞くだけ聞いてあげます！」
名雪はニヤソと笑い、勝ち誇ったように言い放つ。
「栞ちゃんの病気はほぼ完治しているよ！ つまり、栞ちゃんは既に”病弱少女”という萌えのステータスを失っているんだよ！！」
「ガビーーーーーーーーーーン！！ し、しまったですぅぅうううぅぅっ！」
「ふっ、完全勝利だよ。これで祐一はわたしにとろけるよ！」
「そ、そんな…。わ、私は、私はもう………ガクッ……」
何故か栞は真っ白に燃えつきていた。
相当ショックだったらしい。
「こ、これが奇跡の代償だったなんて……」
どこかであゆが泣いてそうなセリフだった。
「…相沢君、そろそろ止めてみない？」
「頼む、オレに振らないでくれ」
「じゃあ、あたしも参戦していいかしら♪」
「やめれ、マジで…」
それはまた、別の話（ぇ
「くっ、まだです！ まだあきらめません、祐一さんの愛を勝ち取るまでは！！」
「まだ、やる気…？」
「当然ですっ！」
「うん、分かった。受けて立つよ…。祐一とわたしのラヴラヴ新婚生活のためにっ！」
そんな方法で摘み取った愛に、意味はあるのでしょうか…？
「あるんですっ！！」「あるよっ！！」
だそうです、故郷（クニ）の母さん（泣）
もはやオレは、モノローグにつっこまれたことを気にする余裕すらないほど、憔悴していた。
…精神的に。
多分それは、読者の皆さんも同じコトと思う。
…………………。
読者って…？
「私には、まだ切り札があります…」
「「「切り札？」」」
その言葉に、三人同時に聞き返す。
一人は焦燥を、一人は驚嘆を、一人は呆れの色をその言葉に込めて。
「そうです、私にはなくて名雪さんにはあるもの……。それが、私の最終兵器です」
名雪にあって、栞にないもの……どうしてそれが栞の武器になるのだろうか。
「くっ、確かにその手があったんだよ…。うかつだった」
「栞、はやまっちゃダメッ！」
二人の言葉に、栞は哀しく微笑んだ。
それは――全てを悟り、受け入れ得た者の表情。
「いやぁっ、栞、いかないでぇっ！ 奇跡を信じて！」
「香里、口出ししちゃダメ。これは、栞ちゃんの闘いなんだよ！ 栞ちゃんが大切なら見守ってあげて…」
「そんなッ！ ひどい……あの子が、あの子が何をしたって言うのよぉ…！ あんまりよぉっ！」
「女には、征かねばならない時があるんだおー！ それを見守るのが残された者の使命なんだよっ！」
やや逝ってるノリの二人は置いといて、再び栞。
栞が一歩を踏み出した。
何かに脅えるように腕を胸の前で交差させて体を抱き、小さく震えている。
それでも堅い決意を秘めた眼差しが捉えるものは、ただ一つ。
少女は一歩また一歩と近づいていく。
……オレに向かって。
「わ、私は…」
艶やかな声。
潤んだ瞳。
小さく震える唇。
それら全てが、まるでオレを誘っているようで――。
――ああ、オレはこいつにはかなわない。
自分の目に栞しか映っていないと気づいたとき。
そう、悟った。
「私はっ…ゆ、ゆう……」
そこで言い淀む。
よほど言いづらいことなのだろうか、頬を赤く染め、その愛くるしい表情は魅力１５０パーセント増（当社比）
どこぞのシスコン姉が襲いたくなるのもよく分かる。
オレは紳士だから、そんなことはしないがな。
「栞、何も言わなくてもお前の気持ちは分かってるから……。だから、無理しなくていい」
「ゆ、祐一さん…」
「オレが好きなのは、栞だけなんだからな」
「えうっ、祐一さ〜ん！」
感極まり、飛びつく栞。
オレは少女の体と心を受け止め、しっかりと抱きしめた……はずだったのだが……。
「祐一さん……私、勇気が出ました」
「え…？」
「私、今なら言える気がするんです」
オレの胸に体を預け、栞が恥ずかしそうにオレを見上げる。
世間で一般に言うところの上目使い。
甘く熱い少女の息が降りかかる距離。
その気になれば、簡単に唇を奪える距離。
思考回路は既にお空を飛んでいた。
「私、祐一お兄ちゃんのこと…大好きです」
脳髄ドガン！！
「ど、どうしたんですか、祐一お兄ちゃん」
「はっ、い、いや…なんでもないぞ！」
いけない想像をしていました、とは口が裂けても言えない。
「それより何なんだ、そのお兄ちゃんってのは！」
「自分の身体の特徴を理解した上で、それをフル活用し、相手の萌え属性を突く高度戦略、だよ！ そんなことも分からないの、祐一は…」
「あ、そう…」
分からないって。
「祐一は、胸は大きいほうがいい？ それとも小さいの？」
「ぐはあっ！」
そんなこと聞かれて言えるかっ！
ここには女しかいないんだぞ！
「祐一お兄ちゃん、どっちなんですか…」
栞の目は、本気と書いてマジだった。
うう、どうしてオレがこんな目に…。
「相沢君、さっき名雪の胸はどうだったかしら？」
「お、おう。柔らかくて、でも張りがあって。ちょっと感動したぞ……って、ナニ言わせるんぢゃゴルァァァァァッ！」
「いやん、祐一ったらぁ♪」
「くす、本音が出たわね。栞、所詮相沢君なんてこんなヤツなのよ！」
「そんなっ、ゆ、祐一……お兄ちゃん……」
くっ、しまった！
これはっ、香里の「失恋して傷心中の妹を優しく慰めて自分のものにしちゃうわ、うふふ」作戦！
「ふっ、今さら気づいても遅いわよ！ それとも何、相沢君は小さいのが好きな人？」
「ぐっ…！」
進路も退路も封じられた。
いや、一つだけ道はある……しかし、本当にその道を進むのか。
明日から、いや今日の午後からでも、「あの人小さいのが……」なんて噂話を立てられる道を！
…………。
…………。
ふぅ…。
ま、しょうがないか。
それで、栞の近くに居られるのなら。
たとえ、おてんとう様の下を歩けない人生でも…。
栞の傷ついた顔なんて見たくないし、な。
「栞、あのな……って、栞は！？」
抱きしめていたはずの栞の体は既になく、オレの腕だけが虚しくその跡を残している。
「祐一がぶつぶつ言ってる間に、校舎へ走ってっちゃったよ〜」
「泣いてたわよ、あの子…」
…お前ラ。
「祐一、早く追いかけたほうがいいよっ」
「相沢君、栞のこと大切にしなかったら殺ス」
「ノホホンと弁当食いながら言うなぁぁぁっ！！」
「ここ、か…」
オレのすぐ前には扉。
…栞の教室。
上級生の教室に行くのは緊張するものだとよく栞が言っていたが、その時はそんなもんかと思っていた。
…今なら、それもよく分かる。
――結局、オレは栞のこと何も分かってなかったのかもしれないな。
そう思うと、妙に焦った。
昼休みはあと１０分。
この時間中にケリをつけないと……もう、元の関係には戻れない気がする。
何となくだけど。
こうしてる間にも、栞がどこか遠く、オレの手が届かない所へ行ってしまいそうで……そんなことには耐えられないオレが居て……。
扉を、何かに押されるように開けて――。
そして、何事もなかったかのように閉めた。
「キャーーーー！！！！」
「覗きーーーーーーッ！」
「知るかーーーーーーっ！！」
逆ギレ。
次の授業が体育で、今は女子の更衣中。
ていうか、何故にこんなお約束！！？
…今日は厄日だ。
………………。
………………。
結局、栞が出てきて誤解を解いてくれたらしい。
そうじゃなかったら、今ごろ袋だたきプラス磔の刑は必至だろうさ。
そして、オレは廊下で栞と向かい合っている。
普段のオレなら栞の体操服アーンド、ブルマ姿に感激お腹いっぱいだが、今はそんな状況ではない。
何より…、栞の様子がおかしい。
「で、何か私にご用ですか、祐一さん？」
――ゾクリ。
異常な冷たさがオレの心を貫く。
聞いたことのない、栞の声。
見たことのない、栞の表情。
今の彼女からは、感情という感情が抜け落ちていた。
今まで、栞と喧嘩したことはあるが……その時だって、彼女は「怒って」いた。
…でも、今は違う。
怒ってすら、いない。
オレに対するその態度は、まるで道端ですれ違う赤の他人へのもの。
まるで、路傍の石ころへのもの。
――何も、価値のないもの。
「栞、さっきはすまなかった。名雪とのことは……あれは混乱してただけなんだ。言い訳にしかならないだろうけど…」
「そうですか。そんなこと、私にはどうでもいいです」
「――――――！！」
表情を変えずに、淡々と言う。
この会話は無駄以外の何物でもないと言いたいように。
「話はそれだけですか？ それでは、私はいそいでいるので」
「栞…お前一体どう……。」
「私は、私ですよ。さぞかし驚いているようですけど。まぁ、無理もないですが……でも…」
栞は薄く笑って言った。
あまりにも心が伴わない微笑みで。
『これが、本当の私ですから』
「バカなこと、言うなよ……んなわけ、ないだろっ！」
震える声を、何とか絞りだす。
認めるわけには、いかないから。
栞と過ごしてきた時間は、嘘ではないはずなのだから。
「そんなことありません。あなたが私のことどう思ってるかは知らないですけど、私は冷たくて…醜い女。本当に…」
「やめろ！ 栞がそんなヤツじゃないことは誰よりもオレが良く知ってる…。だから、そんな自分を貶めるのはやめてくれ！ そんなこと言われると……オレがつらい……」
ビクリ、と栞の体が震えた。
…だが、彼女の表情を覆い尽くす仮面は外れない。
「……どうして、あなたがつらいの？」
「好きだから。オレは栞って女の子のことが本当に好きだから。だから、栞のことを酷く言われるとつらい」
「……………」
そう…、と呟き、そこで始業５分前の予鈴が鳴った。
何事もなかったのごとく立ち去ろうとする少女。
「栞っ！」
オレの前を通り過ぎようとする栞を呼び止め…。
いや、足は止まらない。
しかし、かまうものか！
失えない！ 失いたくない！
あの――――笑顔を。
「放課後、あの場所で待ってる！ずっと、あの想い出の場所で…！！」
遠く背中に降ったその声が……届いたかは分からない。
たとえ届いていても、もはやオレの言葉は彼女にとって意味を成さないのかもしれない。
だけど、信じたい。
――オレと栞の絆は、そんなに弱いものではないのだと。
中庭で再会したあの日の、初めて見た泣き顔が脳裏に弾け、そして消えていった…。
放課後――。
「もう、学校終わったよな…」
午後の授業を受ける気にもならず、オレはずっとここにいる。
とりあえず見渡せる範囲には誰もいない。
…というか、北川が落ちていたので排除した。
冬には銀の結晶で埋め尽くされるこの街にあっても、唯一凍え固まることのないもの。
とどまることなく流れつづける、人生の象徴。
今日も穏やかに水を吹き上げるそれを背に感じて、オレは待っている。
…大切な、人を。
「………」
遅い。
日はすでに西に傾いていた。
来る気があるのなら……もう、とっくに来てもいい時間。
まさか別の場所に行ったってことは……ないはずだ。
ここより想い出の詰まった場所など、オレは知らない。
雪合戦をして、初めてキスをして、二人で踊って……。
語り尽くせるはずもない想い。
栞が、好きだ。
それだけは、誰もはばかることなく言える。
「………」
薄ら寒い風が吹いて、オレは身を震わせた。
日が、沈もうとしている…。
「………」
オレは立ち上がった。
これ以上遅くなると、秋子さんに心配をかける。
名雪もそうだが。
「とりあえず、連絡いれて……今日は徹夜だな」
公衆電話を求めて視線が彷徨い……。
――そこに、栞がいた。
「栞…？」
仮面は既に崩れていて……それでもオレの好きな笑顔ではなくて……弱々しい、壊れそうな表情。
それが何を意味するのかは、分からない、分かってやれないけど…。
「栞…」
同じ言葉しか出てこない。
喉がからからに乾く。
「…遅刻だぞ」
やっとそれだけ言った。
…しじま。
噴水が吹き上げ、落ちる音だけ。
ほんの少しの静寂が、永遠に感じられる。
「…遅くなって、ごめんなさい」
「いや、まぁ待ち合わせの時間決めてなかったし……オレが悪いな、うん」
オレは、栞が来てくれただけで嬉しいんだからさ。
「…そう、ですね」
「おい、栞…体調悪そうだけど……大丈夫か？」
「あは、あまり大丈夫じゃないかもです…。体育の時間……貧血で倒れちゃいましたから。…それで、遅れてしまいました」
「そっか…、いきなり走ったりするからだぞ。あっ、てことは、廊下で話してた時から体調悪かったのか…？ だから、あんな態度を…」
「それは……半分アタリで半分ハズレですね」
「…どういうことだ？」
栞が、一つ大きく息を吸う。
「さっきのこと、ごめんなさいっ！」
そして、ゆっくりと栞は解き放った……彼女の想いのたけを。
それはとても暖かくて……オレに受け止められるのだろうかと疑いたくなるほどに、大きい。
「私は、誰にも祐一さんを渡したくなかったんです。私は……奇跡が起こって病気が治ったとはいえ……やはり普通の女の子より体が弱いです。よく貧血だって起こしますし」
「……ああ」
「でも、そんな弱みを見せたくなかった……そんなハンデ欲しくなかった。祐一さんは優しいから……きっと気を使うと思ったんです。
だから、祐一さんに冷たい態度とってみたんですけど……あはは、これじゃ一緒ですね。すごく迷惑かけちゃいました」
「……バカだな、栞は」
「はい」
再び静寂。
噴水の音がやけに大きい…。
今度もそれを破ったのは栞だった。
「もう一つの理由……私は、祐一さんに釣り合わないんじゃないかって思ったんです」
「…それは、本当にバカだ」
「祐一さん…………祐一さんは……あの冬に私に関わったばっかりに、私に同情しているんじゃないですか？ だから、好きでもないのに一緒に居てくれる…」
なっ…！
絶句。
…ありえなさすぎる。
だって、オレは、栞が側に居るだけでこんなにドキドキしているんだから…。
「そんなこと、あるわけない。オレは栞が好きだ！」
「祐一さんは……優しいですから。それを恋と勘違いしてるんです……」
「どうして、そんなこと思うんだよっ…」
「私には分からないんです。祐一さんが私のどこが好き、んんっ…」
それ以上、言わせられなかった。
聞いていられなかった。
だから唇を奪った。オレがどれだけ栞を 愛しているか分からせるために。
「んっ、んんっ………ぷはぁっ…」
「オレは、栞の全てが好きだ。…愛している、他の誰よりも」
「…祐一さん」
「だから、オレが栞のこと好きじゃないなんて……そんな寂しいこと言わないでくれ。そんなの、つらすぎるよ」
「はい…」
蕩けた目でオレを見上げるその栞の全てが、たまらなくいとおしい。
キスをしながら、細い体を力一杯抱きしめた。
体と体が触れ合い、互いの感触を伝えてくれる。
ほんとにたまらない。
「胸、ないでしょ…」
寂しそうな声。
こっちまで切なくなるような…。
そんな声、絶対に聞きたくない。
…だから、言った。
「オレは……」
詰まりそうになりながらも続ける。
「オレは、小さいほうが好きだーーーーーーーーーーッ！！」
「そ、そんなこと大声で言う人、だいっ嫌いですっ！！」
おまけ
それからオレたちは、街灯が灯る公園でずっと身を寄せ合っていた。
微かな明かりが噴水に映え、ムードはまさしく完璧。
「祐一さん…大好き」
「祐一お兄ちゃんと呼べぃ！！」
「はぅっ！？」
「冗談だ！」
恋人たちの夜は更け逝く…。
オチずにおわれ
投票結果
名夜 (採点:3)
Good Job!!
ジャンガリアン (採点:4)
小さいの大好きです（ぉ
風見鳥 (採点:4)
あぁ・・・ラブコメですねぇ（笑）。
グＥ (採点:2)
途中のギャグがいい感じでした。ただ最後のオチが弱い感じがしたのが残念でした。
Ｇａｒａ (採点:1)
ギャグとしてもシリアスとしても中途半端。ギャグで書き始めて、疲れたからシリアスに転じさせてごまかした、という印象が強い。構成を固めずに書き始め、書きながらその場で先の展開を考えて書くとこういった全体がバラバラな作品になりやすい。
かずき (採点:2)
まあこんなもんではないかと
ugen (採点:3)
前半と後半のギャップが大きすぎる。どっちかに雰囲気を統一したほうがいい
naoki (採点:3)
最後はなかなか。
まちゃる (採点:4)
こ、これはシリアスメインなのかギャグメインなのか（汗）…終始振り回されっぱなしでした（笑）
TempFighterZ (採点:5)
シリアス、ギャグとメリハリあって、いいです。
雨音 (採点:4)
「知るかーーーーーーっ！！」と何故か逆ギレな祐一が良かったです。栞は属性じゃなかったので、萌えにはヒットしませんでした（笑
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。あまりにセンスが足りないか。ギャグの切れ味がない。メタネタを外しまくっている。中途半端なシリアスが無駄に長い。オチずに終わるというのはそれ自体が高度なオチなのであって、この作品のはただの手抜き。文章力が悲惨なレベル。とりあえず『（汗）』などは使わないようにしよう。
フール (採点:5)
なんだか部分部分で読むとすごくシリアスなんですけどねぇ（＾＾； でも、ギャグとシリアスが絶妙に絡まってとても良いです。 あ、関係ないですけど、ノーセーブで最後まで行く派です。
taka (採点:4)
ナーイス、美坂姉妹＆名雪。それに北川のやられ方がナイス♪
全採点
5点 : 7
4点 : 27
3点 : 48
2点 : 33
1点 : 23
このSSは、作者の方に二次著作権が存在します。
転載、無断引用を固く禁止します。
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