一人暮らしの罠




一人暮らしと言うものは、とにかく暇な時間が多いものだ
特にこのような田舎町では娯楽も少なく、金は仕送りだけで充分事足りるので、バイトをする必要が無く、学校から帰っても特にやる事もなくゴロゴロと暇を潰すだけの毎日だ

「作るのも外に出るのも面倒臭いが…食わないワケにもいかないし…」

そう言って、北川は床に寝転がりながら、傍に置いておいた目覚し時計を手に取って見た、現在の時刻は７時を少し回ったところだ、そろそろコンビニに行っておにぎりでも買ってこようか…そう思い始めたころ、不意に玄関のインターホンが鳴り、来訪者の存在を家主に告げた

「…宅配便か新聞屋か…まぁいいや、どうせでかけるついでだし、出てやるか…」

面倒臭そうに起き上がり、玄関まで歩いて鍵を開けようとする、が…

「…すごく嫌な予感がする」

北川は自慢のアンテナヘアが何かに引っ張られるような違和感を感じた、彼は長年の経験から、これがこのまま今と同じ行動を続けた場合、必ず自分が酷い目に合う予知だという事を知っていた

「無視した方がいいようだな…」

そう思い始め、玄関を離れようとすると、再びインターホンが鳴る、今度は先ほどとは打って変わった高速連打だ、一秒間に１６連打以上のスピードでボタンを押され、インターホンが悲鳴をあげている、無理も無い、スイカすら破壊されそうな勢いなのだから

「無視だ、絶対無視、インターホンには可哀想だが犠牲になってもらう」

俺の体の方を壊されるような事態になったらかなわんし…そう思った瞬間、インターホンの音が止んだ

「…案外早く諦めたな、まぁいいや、インターホンの修理代払わずに済みそうだし…」

しかし、インターホンの連打は止んだが、それよりも遥かに予想外の音が背後から聞こえた

ガチャガチャ…

「なっ！！？」

慌てて後ろを振り向くと、閉まっていたはずの鍵が解除され、今正にドアが開かれようとしている瞬間だった

｛泥棒！？強盗団！？強姦魔！！？｝

心の中で叫び、さっ、と身構える、開かれたドアからは何者が姿を現すのか…頼むから取るのは金だけで俺の貞操にだけは手をつけないでくれよ、俺の初めては美坂に捧げると決めてるんだから！少し混乱している心の中にてあらん限りの声でそう叫び、破裂せんばかりの心臓の鼓動とドアの開く音のみを聞きながら、北川は緊張の面持ちで暗闇から段々と姿を見せ始めた侵入者を睨んだ、しかし、彼の予想は、再び大きく裏切られた

「お〜い、北川〜」

間延びした、親しみの篭った軽い声、聞き覚えのある男の声

「今晩泊めてくれ〜」

それは北川の男友達の一人、相沢祐一だった

「…何しに来た」

「だから、泊まりに来たんだよ…あ、俺はソファーで寝るから、気は使わないでいいぞ」

そう言って、祐一は勝手に置いてあったスナック菓子の袋を開け、床に座り込んで中身を食べ始める

「帰れ」

スナック菓子の袋を奪い取り、北川が冷たく言い放つ

「…冷たい事言うなよ、親友だろ？」

「黙れ、美人の未亡人に可愛い従姉妹、さらに同様に可愛い居候２人と同棲などという、アラビアの王族の如き暮らしをしている貴様が、俺にたった一つ許されている安らぎの城を汚すな」

祐一を睨みつける北川の目はかなり本気だった

「お前が一人で寂しいだろうと、わざわざこんな貧民屈に来てやったんだ、いいから玉露の一杯でもさっさと…」

胸を張って言う祐一に、北川が無言で蹴りを入れる

「いてっ！何すんだ！！」

「帰れ」

その北川の迫力に、祐一は思わずたじろぐ、北川は空腹で気が立っているようだ

「…逃げてきたから、帰れない」

そう言って祐一は北川から目をそらして斜め前方の床を見つめる

「は？」

どういう事だ？と、北川が祐一に問いただす

「…今日は真琴が天野の家に泊まりに行っててな…あゆと名雪が何やら話をしていたんだが…」

何か苦い思いがあるらしく、祐一の声のトーンは段々と下がっていき、床に指でいくつも『の』の字を書き続けていた

「なんかいつの間にか、どっちがメインヒロインかって話になって…そこで止めに入ったのが運の尽き、どっちがメインヒロインか、そして俺の正式な彼女か選べって事になって…」

「それで逃げ出して来たってか、羨ましい悩みだな、おい？」

北川が祐一にもう２，３発蹴りを食らわせて外にたたき出そうとした時、祐一が今までで一番辛そうに、半泣きでポツリとつぶやいた

「…そしたら、秋子さんが、『駄目よ二人とも、祐一さんは種無しかぼちゃなんだから』って…」

軽く浮いた北川の右足がその場で止まる、そして、想像を逞しくしてみる…聖母のような笑顔のまま、その台詞を言う秋子さん…そして、その後、本当に申し訳なさそうに、同情心交じりに謝る水瀬さんと月宮さん…そしてその後の、弁解すれば泥沼にハマリ、下ネタ混じりに笑い飛ばそうとすれば、引かれてしまい、女性相手に逆ギレする事も出来なかったであろう、哀れなピエロ…

「…ここには…何にも無いぞ…」

震え混じりに話す祐一を、北川はもはや直視できなかった

「…その方がいい…だってここには悲しみも無いから…」

重く悲しい空気が流れる

「ん？待てよ…」

そこで、ふと北川がある事に気付く

「なぁ、相沢…」

「…何だ？」

語った事で、自らトラウマを刺激してしまったらしく、鬱になった祐一が暗い声で返事をする

「お前、どうやって鍵を開けたんだ？」

北川の声に急に厳しさが戻る

「最初は俺も真琴と一緒に天野の家に行こうとしたんだよ」

祐一の声にも、急に明るさが戻る

「ごまかすな！！」

「まぁ、ちゃんと聞けって…」

襟首に掴みかかろうとする北川をなだめながら、祐一は話を続ける

「そしたら、天野の家も今日は両親がいないらしくてな…いや、俺はそれでも構わないって言ったんだが…」

構えよ、北川は心の中で思いっきりツッコんだ

「そしたら、女だけの他人の家に上がりこむのが、人としていかに不出来な事か、小一時間ほど淡々と説教されてな…」

「あ〜、あの子そう言う事には厳しそうだからな〜、古風と言うか、生真面目と言うか、おばさん臭いと言うか…」

最後、ポロッと本音を出し、実際に美汐が聞いたら激怒間違い無い会話が続く

「で、それでもなんとか拝み倒して、真琴を肉まんで買収したりして、物置になら泊まって良いって言われたんだが…」

「じゃあ、なんでうちに来たんだよ、許可されたんだろ？」

北川が当然の疑問を口にすると、祐一の表情が再び曇った

「…その物置ってのには、血の痕がついた鎧とか、大量の視線を感じる地獄絵とか、お札が貼ってある古い鏡とかが大量にあってな…」

「…それはただ単にお前を追い出すための嫌がらせだったんじゃないか？一般家庭にそんなもんは無いだろ、普通…」

「それがな…その物置ってのが、厳重に封印された地下にあって、真琴も鳥肌立てて『嫌な感じがするから近づきたく無い』とか言い出すし…」

祐一の言葉に、北川の顔もひきつる

「…お前、取り憑かれたりとかしてないだろうな…」

「…あれからどうも肩が重くて…」

その言葉に北川が勢いよく立ち上がり、慌てて流し台の周りを探し回る

「塩！塩！お清めの塩はどこだ！！」

「落ち着け、冗談だ、一応天野にお払いはしてもらったから多分大丈夫だろう」

「…本当に大丈夫だろうな…」

恐る恐る祐一に尋ねる北川

「あぁ…俺だって呪われたままは嫌だしな」

その言葉に、やっと北川は心を落ち着かせる

「はぁ…で、何でお前がうちの合鍵持ってるって話に繋がるんだよ？」

「でな、天野の家を後にした俺は、香里と栞の家に向かったワケだ」

祐一の一言に、再び北川は勢いよく立ち上がり祐一に掴みかかる

「美坂！？なんで美坂の家に行ってんだよお前！！？」

「だから落ち着けっての…こんな町で野宿したら死んじまうだろ？俺も必死だったんだよ…」

その言葉に、北川はいくらか落ち着いたが。まだ釈然としないでいる

「栞はドラマみたいで面白そうって肯定派だったんだが…香里に断固拒否されてな」

祐一のその一言に、北川はニコニコ顔になる

「そりゃそうだろうな、美坂は聡明で貞淑な淑女だからな、お前みたいな間男を家にあげるような貞操の危機を招くヘマはやらんだろう」

その北川の一言に、祐一はムッときながら、ポケットの中に手を突っ込み、何やらごそごそと探り始めた

「だが、何とか事情を話して泣き落としたらな…」

祐一は何かをポケットから取り出し、北川の目の前で手の平を開いてそれを見せた

「こんなものをくれた」

祐一の手に握られていたもの、それは…

「俺んちの合い鍵じゃねぇか！！」

慌てて北川は祐一の手から自分の家に合い鍵をひったくった、その様子を見て、祐一はニヤッと笑う

「そうだ、これはお前の家の合い鍵だよな…じゃあ、何でそれを香里が持っているんだろうな〜？潤く〜ん？」

ニヤニヤと笑う祐一に対し、北川は顔を背けて黙ってしまう

「おや、だんまりかね…まぁ、そりゃ〜な〜、一人暮らし初めて早々、香里に自分の家の合い鍵渡して、『いつでも家にいるから』なんて言ったなんてな〜、誰にも言えないだろうな〜」

ハッと北川が祐一の顔を見る

「お前、何でそれを…」

「別に〜…『これを持ってるのは、俺の他には…美坂だけだ…』格好良いですな〜、まるでドラマみたいな台詞ですな〜」

北川の脳裏にリアルな映像が浮かぶ、それは、祐一に自分の合い鍵を渡しながら、北川の恥かしい台詞を暴露する香里と、それを聞いて笑い転げる祐一と栞…

「ぐわぁぁぁぁぁ！！！」

あまりの気恥ずかしさに、思わず北川は叫びながら床にのた打ち回る

「あ〜、ここに泊めて貰えないとなると、誰か他の奴の家に泊まらないといけないよな〜、でもまだこっちでは友達少ないしな〜、手っ取り早く打ち解けるためには、身近な奴の笑い話でもするのが一番なんだろうな〜」

要約すると、泊めないならバラす、という事らしい

「…高貴な貴方様には不釣合いなゴミタメですが、宜しければ、どうぞ御気の済むまでご滞在下さい」

祐一に鍵を渡し、土下座しながら北川が言う

「悪いな、親友」

勝ち誇った笑顔で北川から鍵を受け取り、ポケットにしまいこむ

「まぁ、俺も鬼じゃない、幸い、家出に差し当たって小遣いは持ち出してきた、そこでだ、晩飯は俺が奢ってやろう」

ふんぞり返る祐一、面を上げて祐一を見上げ、心配そうに言う北川

「…奢るって、何を…？」

金は出すからお前がひとっ走り行って買って来い、と言うんじゃ無いだろうな、と北川は危惧した、もしもそんな事になり、この部屋に祐一を一人きりにさせて、香里がいつ来ても大丈夫なようにと、ベッドの下に保存してある大量の『ホットドッグ』や、書いてあった必要用品一そろえ、そしてもしものために一応準備している大人の玩具が見つかるのは、北川にとって非常にマズイ事態だった

「うむ、実はな、香里にこの鍵をもらって追い出された俺は、一応ここを保険と考えて、他の寝床を探したんだ」

またこのパターンからか、北川は少しうんざりしたが、表情には出さなかった、現在の主従関係というものを完全に理解しているからだ

「それでな、舞も今日は佐祐理さんの家に泊まりに行くって言ってたのを思い出してな、俺も佐祐理さんの家に行ってみたんだよ」

「あぁ、倉田先輩はお嬢様だからな…家も大きいし、部屋も余ってただろうから、そっちに泊まった方が良かったんじゃないか？」

「あぁ、俺もこんな掃き溜めに転がってるソファーで寝るよりも、綺麗な部屋でのふかふかなベッドで寝たかった」

ほっとけ、北川は心の中で毒づいた

「そしたらな、運の悪いことに、ちょうど不埒者が佐祐理さんに夜這いをかけようとしていたらしくてな…」

「夜這い？倉田先輩に？」

桃色チックな単語に、北川は興味を寄せる

「まぁ、その不埒者は俺が行った時はすでに家から追い出されてたんだが…」

「なんだ、未遂か…」

北川よ、何故貴様が残念がるんだ

「そのせいで俺まで夜這いをかけにきたと勘違いされてな…舞に『私は間男を討つ者だから』って散々追い掛け回された」

そう言って祐一は北川に背中を向ける、よく見ると上着の所々が破け、血が滲んでいるのが分かる

「逃げるのは俺も得意なんだが、佐祐理さんの親父さんも猟銃を持って舞の援護をしてきてな…はっきり言って弁解する暇も無かった」

…倉田先輩の父親ってたしか県会議員だったよな…いや、だからこそ、か…北川は、間違っても佐祐理にコナをかけるのはよそうと思った

「それで二人して、命からがら逃げ出して来たんだよな、不埒者？」

そう言って祐一はベッドの方に視線を向けた

「え？」

北川もつられるようにベッドの方に目をやる

「平安時代では夜這いは紳士のたしなみだったのだが…まったく、嫌な時代になったものだ」

馬鹿な事をほざきながら、ベッドの脇の本棚の前に立っていた変な男がこちらを振り向いた、え〜とたしかこいつは生徒会長の…

「…久瀬だったっけ？」

すると、久瀬は急に顔をしかめる

「久瀬だと？フン、初対面の人間をいきなり呼び捨てにするとはね…それにこの品性のかけらも見られない、低俗な漫画だらけの本棚ときたら…知っているかい？持ち主の知性の象徴なのだよ、本棚とは」

そう言って久瀬は北川の本棚を一瞥し、鼻で笑う、そして北川はそんな久瀬に近づき、胸倉を掴みながら北川は鬼の形相で久瀬を睨みつける

「痛いじゃないか、これだから野蛮な原住民は…」

「出てけ」

「出てけだと？それは出来んな、何しろ川澄と私の義理の父になる人が、私の実家に殴りこみをかけてしまったので、色んな意味で今は家に戻れんのだ」

「黙れ、出てけ、さもなきゃ殺す」

北川の目に殺意がみなぎる、何故この男は初対面の男の家に勝手に上がりこんでこんなに偉そうにしてるんだ？このまま返答を待たずにぶん殴ってやろうかと思った瞬間、急に久瀬は北川に背を向け、そのまま無言で歩き出した

「わ、わかりゃいいんだよ…」

思いもよらない素直な行動に、北川は少し罪悪感を覚える、しかし、久瀬は祐一の目の前で立ち止まり、祐一も無言で立ち上がり、ポケットから先ほどの合い鍵を取り出し、久瀬に渡すと、久瀬はすぐにそれを祐一に渡しなおした

「お前ら、一体何を…」

言いかける北川の言葉を、祐一の言葉が遮る

「…北川君、これは何かしら？」

聞き覚えのあるフレーズに、北川はショックで固まってしまう

「俺、一人暮らし始めただろ？それで、合い鍵を作ったんだ…」

北川の顔がみるみる青ざめ、冷や汗が滝のように流れる

「…それで？そんなモノを渡して、あたしにどうしろって言うの？」

少し裏声がかった祐一の声が北川の耳に痛い

「どうもしなくていい、美坂の好きなように使ってくれて、構わない」

久瀬の嫌味な声が北川の耳を通して脳に突き抜けるような激痛を与える、今にも耳を塞いで床をのた打ち回りたい気分だ

「私めが悪うございましたァァァァァッッ！！」

北川が額を地面にゴリゴリとこすりつける、惚れ惚れするような見事な土下座っぷりだ

「分かればいいんだ、無知を恥じ、反省する事は愚かな君に多大な成長を与えてくれるだろう」

そう言って久瀬は、再び本棚の傍に歩み寄った

「お〜い、久瀬〜、ベッドとその下は漢のテリトリーだから見ちゃいかんぞ〜」

「相沢君、失敬な事を言わないでくれ、僕はそんなに常識知らずな人間では無いよ」

そして二人でハッハッハと笑い出す、どうやら、命懸けの逃避行の最中に、いつの間にか二人の間に絆が生まれたらしい

「…美坂…なんで俺を売ったんだ…？」

面を上げる余力も無くなり、床の上に額を乗せたまま北川がポツリとつぶやく

「売ったってより、処分したって言った方が正しいだろうな、香里もこの鍵渡す時に、手間が省けたって喜んでたし…まぁ、好きに使ってくれて構わないっつったのもお前だしな、捨てる神あれば拾う神ありってところだ」

祐一がカラカラと笑う、女神に捨てられて疫病神に拾われたのだから、ただのの災難だ、その一言で、北川の精神は完全に打ち砕かれた

「え〜と、どこまで話したかな…」

祐一が話の続きに戻る、しかし、北川にはもはやそれに食いつく精神的余裕が無かった

「そうそう、それで舞と佐祐理さんの親父さんを何とか撒いた後、偶然、家族からすら存在を忘れられて締め出し食らってた哀れな男に会ってな…」

祐一がそう言いかけたとき、北川の鼻腔を、芳しい、食欲をそそる香りがくすぐった

「お〜い、もうそろそろ出来るから、机片付けておいてくれ〜」

いつの間にかクラスメートの斎藤が勝手に料理を作っていた…先ほど流しに塩を取りに行った時には影も形も見えなかったはずなのだが…

「了解〜、お前ら、斎藤大先生の手料理の御通りだ、とっととその小汚い机の上を片付けろ、ちなみに材料費を出したのは俺だからな、俺は見る係りだ」

「僕に命令するとは、君も偉くなったもんだね」

「…はい…ご主人様の御心のままに…」

尊大な態度でしぶしぶ片付けをする久瀬、瞳から輝きを失い、人形のような無表情で淡々と片付けをする北川、あまりに対照的だ、どちらが家主かわからない

「ほぅ…この炒飯は中々イケるな…」

久瀬が斎藤の手料理に舌鼓を打つ

「おい久瀬、こっちの麻婆豆腐もイケるぞ、辛からず、甘からず、されど美味からず…なんつってな！！」

「おいおい相沢、そんな事言うと明日から作ってやらないぞ！」

和やかな雰囲気で食事会が続く、しかし、家主はさっきから暗く沈んだままだ、そんな北川を見かねて、久瀬が声をかける

「北川君、良い事を教えてあげよう、食事をするのにあたり、必要な事が３つほどある、一つは空腹である事、空腹は最高のソースだからな、二つ目はマナーを守る事、行儀良く食べるという事は、料理人に敬意を表する事であり、料理人との間に信頼関係を築く事に繋がる、円満な人間関係は心を豊かにし、味に深みを与えるからな、そして最後、一番大事なのがわいわい賑やかに楽しく食べる事だ、中国料理が円卓に乗せてわいわい賑やかに食べるのは、中国人がその４０００年の叡智から、楽しく食べる事がいかに重要かを知っているからだ、わかるね、北川君？」

かなりいい笑顔で久瀬が北川に諭すように言う、大きなお世話だ、北川は思った、実際、北川は斎藤の料理がかなりの高レベルだった事に驚いた、しかし、明日からも目の前の三人に居座られる事を考えると、その料理を素直に味わえないでいたのだ

「うん、久瀬さんいいよ、良い事言ったよ、さすが生徒会長」

斎藤が久瀬の言葉にうんうんと頷く

「全くだ、胸にじ〜んと来たぜ…さぁ！どんどん飲め！！」

祐一がそう言って久瀬のコップにビールを注ぐ、どうやらいつの間にか酒が入っているらしかった

「…踊る阿呆に見る阿呆」

北川はうなだれながら何やらブツブツと言っていたが、意を決したように急に顔を上げると、目の前の日本酒の一升瓶を、引っ手繰るように手に取って立ち上がった

「同じ阿呆なら踊らにゃ損損！一番北川潤！イッキいかせて頂きます！！」

その言葉に、祐一達も拍手と歓声で煽る

「イッキ！イッキ！イッキ！イッキ！！」

「んぐっ…んぐっ…んぐっ…」

瓶の口を咥えて上を向き、瓶ごとイッキに挑戦する北川、その瞳からはどうにでもなれという思いとともに、一筋の涙が零れ落ちていた

「この後は朝まで麻雀大会だな！！」

「いや、明日は休みだ、いっその事２４時間ぐらい打ち続けるってのもいいぞ！！」

「ほほう、君達は知らないようだね、生徒会のドサ健と呼ばれている僕の実力を！！」

「何を！ヤミテンの斎藤を舐めるなよ！俺のテンパイ気配は誰にも読めないぜ！！」

「俺なんていつもあの秋子さん相手に打ってるんだ！主人公の打ち筋を見せてやる！！」

さっそくテンションがハイトップになる祐一、久瀬、斎藤の三人、そして、イッキを終えてアルコールもほどよく回り、半ばヤケになっている北川もそこに加わる

「貴様ら、この坊や潤を前に、よくもそこまでホザけたものだな！いいか！教えてやる！麻雀ってのは日常生活がツいてない奴ほどツくもんなんだよ！！」

恐ろしいほどの説得力だった

「野郎共！今日は寝かせねーぞ！！」

「おおー！！！」


翌日、朝日が昇った頃に舞と倉田父に部屋に乱入され、久瀬と祐一、道連れにされた斎藤はそのまま病院送り、さらに祐一は治療と称して秋子さんに謎ジャムを食わされた、そして、幸い軽症だった北川は、その荒らされた部屋を、泣きながら片付けていた…

「…俺の…俺の城が…美坂と俺の愛の巣が…」

祐一達に巻き添えにされてついた傷の痛みも相まって、北川は涙が止まらなかった、その時…

ピンポーン

インターホンが来訪者の存在を家主に告げる、しかし北川の反応は…

「嫌だァァァ！！来るなァァァッ！疫病神ィィィィィッッ！！！」

半狂乱になって叫び散らし、閉じられたドアに枕を投げつける、すると

「…そう、分かったわ」

「え？」

ドア越しに、聞き覚えのある声が聞こえる

「相沢君にここの鍵を渡しちゃった事で迷惑かけちゃったみたいだから、お詫びに片付けを手伝いに来たんだけど…どうやらいらぬお節介だったみたいね…じゃ、また明日学校で」

その声の後に聞こえるのは、段々と遠ざかる、コツコツと地面を鳴らす靴音

「ま…」

硬直していた北川の時間が溶け、何かに弾かれたようにドアを勢い良く開いて飛び出す

「待ってくれェェェッ！みぃぃぃさぁかぁぁぁァァァッッッ！！！」

血の涙を流しながら部屋を飛び出し、裸足でかけてく愉快な北川君、ちなみに、この後結局彼は香里に追いつけず、肩を落としてトボトボと帰ったら、空き巣に入られており、ショックで気絶した際に、頭を地面に強く打ち付け、祐一達と同じ病室に入院したのだが、それはまた別のお話


投票結果

KOU (採点:4)
北川に救いなし！・・・なんか久瀬がいい味出してますね。

神月祐 (採点:4)
単純におもしろかったですね

akira (採点:4)
北川・・・・・かなり哀れで可愛そうになってきましたｗ　それにしても、哲也ネタがでてくるとはビックリでした。久瀬って生徒会のドサ健だったんですか（爆

空明美 (採点:5)
涙無くして（笑いの）語れない話です

雨音 (採点:4)
一人暮らしの学生の家ってなんでか溜まり場と化しちゃいますよね（笑

かれーまん (採点:4)
ふ、不憫すぎる・・・

風見鳥 (採点:3)
>持ち主の知性の象徴なのだよ、本棚とは」　 いい得て妙ですなぁ（自分の本棚をながめながら）

烏賊悪魔 (採点:5)
北川のキャラがイイ感じ。ラストの盛り上がりが◎×１００。他の展開もマンガチックなノリが◎、文句ナシな作品ですな。

kuryu (採点:3)
まさにどたばた

はまのじ (採点:3)
あー楽しい

アーリマン (採点:5)
オチがとても良かったです

TOM (採点:3)
北川が不憫すぎて笑えました。最後の「別のお話」ってフレーズは流行ってるんですか？俗っぽくて好きになれません。

おーふな (採点:3)
もったいない…最後の方、端折り過ぎ。もうちょい書き込めばずっと良くなったのに。

グＥ (採点:4)
非常にかわいそうな北川君がいい感じでした。後お気に入りが天野の家の設定でした。なんとなく納得してしまうからなぁ・・・。

Ｇａｒａ (採点:3)
ラスト近くまでは結構テンポ良くギャグが決まっていたのに、最後の最後になって、説明ばかりのオチになったのが残念。翌朝からの展開はもう少し整理した方が良かった。

かずき (採点:2)
おもしれえけど、北川虐待はんたーい。

舞耶 (採点:3)
教訓 インターホンは早く直しましょう?ｗ北ちゃんかわいそう・・・ｗ

ugen (採点:4)
ただ一度のあやまちでとことん不幸になる北川君が哀れ、祐一、久瀬、斎藤の性格がいい

naoki (採点:3)
オチがちょっと。笑えますけど。

橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。視点が行ったり来たりで読み辛い。ギャグはそこそこ面白い。特に祐一（香里）と久瀬（香里）のやり取りには笑った。だが斎藤の存在意義が最後に麻雀ネタを振ることしかないのは勿体無いし、バランスが悪い。ラストのオチも香里が片付けを手伝いに来るというのは、ああいう結果になったとしてもその後の北川はそれなりに幸せなのじゃないかと思え、不幸な北川という流れを阻害してしまっている。文章のレベルは低い。久瀬の口調が違う。

taka (採点:4)
あはははは・・・！！！面白すぎです、ハイ。

Ｖｉｓ (採点:2)
……北川可哀想すぎ……

全採点
5点 : 12
4点 : 44
3点 : 61
2点 : 32
1点 : 24
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