名雪の純情
さく…さく…さく…さく…。
まったくやむ気配のない雪の中をわたしはあの場所にむかっている。
この７年間なるべく行かないようにしていたあの場所へ…。
「名雪、ちょっといい？」
「なぁに？お母さん」
晩ごはんの片づけをしていたわたしにお母さんが話し掛けてきた。
「あのね名雪、祐一さんのことは覚えてるわよね？」
「えっ…う、うん」
もちろん忘れられるはずがない。
「その祐一さんのご両親が海外に転勤することになって、
祐一さんをうちで預かることになったの」
祐一が…うちで暮らす？
「祐一はいつ来るの？」
「なにしろ急に決まったことだから今週の水曜日なのよ」
今日が月曜日だから明後日だ。
「それで水曜日の１時に駅まで祐一さんを迎えにいってほしいのよ」
「うん…いいよ」
「それじゃ、おねがいね」
祐一がこの街に帰って来る…。
次の日わたしは香里を映画に誘った。
「珍しいじゃない、名雪が映画に誘うなんて」
「わたしだって映画が見たくなるときぐらいあるよ〜」
嘘だった。
本当は映画なんか見たくはない、ただ誰かと話がしたかった。
「まぁいいけどね。それじゃあいきましょうか」
「うん」
そこで見た映画の内容はよく覚えていない。
ありふれた恋愛ものだった気がする。
映画を見終わったあと香里と百花屋によった。
わたしはいつものようにいちごサンデーを、香里はチーズケーキを注文した。
いつもはあんなに美味しかったいちごサンデーが今日はあまり美味しくない。
それでもわたしはいつものように美味しそうに食べた。
「そろそろ話してくれてもいいんじゃない？名雪」
「え？なにが？」
「なにか悩んでることがあるんでしょ？」
「そ、そんなこと…」
「名雪には隠し事なんてできないのよ」
「そうかなぁ」
「そうよ、すぐ顔に出るんだから。純粋というか単純というか」
「う〜もしかして酷いこと言ってる？」
「気のせいよ」
やっぱり香里にはかなわないな。
でも…。
「…ごめん香里」
「そう」
香里が心配してくれているのは嬉しいし、感謝したいと思う。
でも、これはわたしの問題だから…。
「でもね、名雪」
「？」
「どんな悩みかはわからないけど、
あなたらしくいけば大丈夫よ、きっと」
「わたしらしく？」
「そう、いつものようにのほほんとしていればいいのよ。
悩み事なんて名雪らしくないわ」
「もしかしてすっごく酷いこと言ってる？」
「空耳よ」
それでも…、少しは気が楽になったかもしれない。
やっぱり香里だね。本当に頼りになるよ。
「…ありがとね、香里」
「お礼を言われるようなことなんてしてないんだけど」
「それでもお礼を言いたいんだよ〜」
「だったらここの勘定お願いね」
「えぇ〜、それはちょっと…」
「感謝してるんだったらそれくらいは、ねぇ？」
「うう〜、わかったよ…」
「よろしい♪」
…さすが香里、こーいうトコもしっかりしてるね。
でもわたしを元気付けるためだってわかってるから。
ありがとう…香里。
そして祐一がこの街に帰ってくる日。
わたしは午前中は部活なので制服に着替えて学校に行った。
長距離を走っているときが一番好きだった。
なにも考えなくて済むから。
それでも今日のわたしはタイムをずいぶん落としてしまった。
「水瀬部長、具合悪いんですか？」
後輩の女の子が声をかけてくれた。
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」
どうやらずいぶんと調子が悪そうにみえたみたい。
わたしは部長なんだからしっかりしなくっちゃ。
そして午前中の部活は終わった。
「お疲れ様でした部長。これから雪が降るみたいですよ」
「そうなの？」
「ええ、天気予報で言ってました。だから早めに帰ったほうがいいかもしれませんね」
「うん、そうするよバイバイ」
「さようなら〜」
時間は１時を少し過ぎてしまっていた。
祐一は今駅で待っているのだろう。
雪が降るらしいから早く行ってあげないと…。
雪…か。
雪の降る中、ずっと駅前のベンチでこないはずの人を待っていたわたし…。
その時の光景が浮かんできた。
今そこに祐一がいる。
わたしのなかに少し悪戯心が生まれてきた。
待ってる人がこない不安を祐一にも教えてあげる。
………。
……。
…。
そして今、３時５分前。
駅前のあのベンチに祐一はいた。
あのころよりずっと大きくなった祐一は不安げにあたりを見回している。
そんな祐一に罪悪感を感じるのと同時にちょっぴり嫉妬してしまった。
わたしの時は待ってる人はこなかったのにな…。
それでもわたしは自動販売機で温かい缶珈琲を一本買うと、
ゆっくりと近づいていった。
そして駅前の時計が３時を指したとき、
わたしは悪戯っぽく言ったんだ。
「雪、積もってるよ」
投票結果
久慈光樹 (採点:2)
もう少し山場的な場面が欲しかった気がします。
荒野草途伸 (採点:2)
祐一を待たせる名雪の感情を、もっと描写して欲しかったなあ
り〜だ〜 (採点:2)
なんか・・・。名雪はあんな悪戯はしないような・・・
ugen (採点:4)
心理がなかなかうまくかけてる
Ｇａｒａ (採点:1)
名雪が「わざと」祐一を待たせた、って話、嫌いなんです。すいません。
グＥ (採点:3)
作品のほのぼのしていた雰囲気がよかったです。
かずき (採点:4)
名雪が祐一に嫉妬していたのがポイント高い。
kuryu (採点:2)
名雪らしさが出ててよいと思います。
naoki (採点:2)
名雪ちゃん、こんなに執念深いかなぁ。
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。百花屋での展開が唐突。全体的に書き込み不足。二時間、陰から祐一を見ていたときの名雪の心境など、美味しいシーンを飛ばしてしまっている。『いちごサンデー』ではなく『イチゴサンデー』。文章のレベルが低い。
雨音 (採点:1)
前日ネタは結構他でも出てますね。もう一つ、他には無いものが欲しかったです。
taka (採点:2)
名雪としても、心中穏やかではなかったでしょうね・・・。いつものほほんとしてるように見えるんですけどね・・・。
はぐ (採点:2)
「ひとまず読み切りました」 悪いところはないですが、いいとこもなかったです。悪戯心が生まれるまでの心境変化その課程を見せていれば読後感も変わるでしょうが。唐突で。
全採点
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