想いは強く
むくわれない恋。
届かない思い。
一方通行の片思い。
言い方は限りなくたくさんあるが結論は一つだけだ。
好きな人に対して自分は一番ではいられない。
つらいけど認めなければならない。だがそうは思っても簡単に消え去る思いではない。
・・・・・・時間がこの思いを希薄にしてくれるまでどのくらいかかるのだろうか？明日？三日後？一週間？一ヶ月？一年？・・・・・・それとも一生？
・・・考えていてもわかる問題じゃないか。
祐一は軽くため息をつく。こんなことを考えるのは自分のキャラじゃない。そうは思っても一度考え始めた頭はそう簡単には止まりそうにもなかった。
暗い部屋の中、窓から見える数多ある星を眺めてみると、人は星の数だけ存在しているのではないと思ってしまう。その星の中には自分の思い人であるあの人の星もあるのではないか、とさえ。
星を眺めているうちに、いつの間にか探してしまっている。あるはずのないものを。バカバカしい。
なんなのだろう？この気持ちは？わかっているようでわからない気持ち。でもやはりわかっている。わかっているからこそつらい気持ち。
「・・・佐祐理さん」
思わず口に出してしまう。いつからかはわからないがいつの間にか自分の頭に住み着いて離れなくなってしまった人。
夜空にあるたくさんの星はいつまでたっても見飽きることがなく、綺麗だった。
放課後――祐一は名雪の百花屋の誘いを断って学校を出る。別に行きたい場所があったわけではない。名雪に付き合ってもよかったのだが何となく一人でいたかった様な気がする。
何となく足が向かう場所は商店街。名雪と鉢合わせをしてしまう可能性もなきにあらずなのだが、そのときはそのときでどうにかなるのだろう。
しばらく当てもなくぶらぶらとさ迷い歩く。何か意図があってここに来たわけではない。どちらかと言えば家以外には特に行くところを思いつかずここに来てしまったようなものだ。だが何か意味があるような直感も働いている。自分でもよくはわからないが。
「ん」
不意に本屋の前で足が止まる。そういえば今日は愛読していた雑誌の発売日だった。
暇つぶしの意味もこめて祐一は本屋に入ろうとして・・・
「・・・佐祐理さん」
・・・足を止めた。
ガラス越しのすぐ目の前にレジでお金を払っている佐祐理さんがいた。
とても愛しく会いたかった女性。
会うのがつらいので一人では遭遇したくなかった女性。
・・・これは運命のいたずらか・・・？
「ありがとうございました」
誠意がこもっていないあいさつを背に佐祐理さんが本屋を出てくる。
佐祐理さんはそのまま俺がとっさに隠れたボリバケツの陰を通り過ぎていく。
そのまま佐祐理さんの背中を小さくなるまで見送って・・・・・・
「・・・・・・何やってるんだ、俺は・・・・・・」
あまりの自分の馬鹿馬鹿しさに腹を抱えて笑いたくなる。
そのまま、普通に佐祐理さんに顔をあわせてあいさつして、軽く会話をして別れればいいだけだろ？
実は佐祐理さんとは会いたくないのか？
・・・違う。本当はいつでも会っていたいんだ。
だけどつらい。そんな矛盾した表と裏の心。だが表と裏は一心同体でもある。
これが恋なのだろうか？
だが初めての経験でもある、初恋の時でもその人といつまでも一緒にいたいという思いはあったが胸が切なくなるような、痛くなるような事はなかった。その恋は自然消滅したような形であったからかもしれないが。
ため息をつきながら一歩目を踏み出す。空は青く、俺の心とは違い晴ればれとしていた。
悲しみに明け暮れながら３歩目を歩いたところで誰か人とあたる。空を見ながら歩いていたもので前方に人がいることなんて気がつかなかった。
「っと、すいませ・・・」
「あ、祐一さん、こんにちは、奇遇ですね〜」
ピキッ
瞬間、身体は硬直してしまう。
「さ、佐祐理さん？」
「はい、佐祐理ですよ〜」
恐る恐る顔を下げてみると、純真無垢なお嬢様、美人というよりはかわいいという言葉の方が似合う女の子。間違いなく佐祐理さんだ。
だが何故ここにいるんだ？俺は間違いなく佐祐理さんの背が見えなくなるまで見送ったはずなのに。
・・・・・・もしかして、
「ドッペルゲンガ−？」
「はぇ？なにがですか？」
「もしかして双子の兄弟がいてあなたは妹の方では」
「あははーっ、佐祐理に妹なんていませんよ」
だろうな。もし本当に妹の方がいても服装が姉と全く同じということもないだろうし。
何となく再び空を見上げてみる。
・・・とてもいい天気だった。
「あはは〜、お日様暖かいですね〜」
視線を戻すと佐祐理さんも空を見上げていた。
ああ、なんだかこの人といると心が安らぐようだ。思わずそのまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られるが・・・それができないのは百も承知である。
「そういえば佐祐理さんと商店街で会うのは初めてだな。買い物？」
「はい、毎週愛読している主婦の絶品料理という本です。これを見てお弁当にどんなおかずを入れるかを決めているんですよ」
言うまでもないことだが佐祐理さんは料理がうまい。ひょっとしたら秋子さんとタメを張るくらいに。
もし、毎朝佐祐理さんが作った味噌汁が飲めたら幸せでいっぱいだろうな・・・。
「ふぇ、祐一さんどうしちゃったんですか？」
「へ、何がだ？」
「なんだか頬がにやけていますよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・いかん、つい本音を思ってしまった。
「いや、なんでもない。俺は空を見るとあまりの陽気さに頬が緩んでしまうと言う難病があるんだ」
「ふぇ〜、そうだったんですか。佐祐理、そんな病気があるなんて始めて知りました」
ああ、そうだろうな。俺もそんな病気があったらお目にかかってみたいものだが。
にしても、こうもあっさりと騙されてくれると心の中の良心が痛む。・・・・・・今後はかないっこない事を思うのは止めにしよう。後々空しくなってくるしな。
「ん？」
その時・・・佐祐理さんは一瞬、悲しそうな表情を浮かべたような気がしたが・・・
「どうしました、祐一さん、佐祐理の顔に何かついてますか？」
それも一瞬のことで、次には首を傾げて俺の事を見つめ返してくる佐祐理さん。その表情には数秒間だけの悲しそうな表情はない。
（・・・気のせいかな）
一瞬のことだったので、絶対とは言い切れない。佐祐理さんにその事を聞いてみるのも躊躇されるし・・・
何となく気にはなるが、特に気にしないことにする。
「祐一さんは何してるんですか？」
「ああ、俺はこのあたりに『奇跡を呼ぶ天使』と言うものが迷い込んだと言う噂を聞いたのでそれを捕まえて、多々ある青少年の望みを叶えてもらおうと思って探していたんだ」
「ふぇ〜、そうだったんですか〜、祐一さんって物知りですね、佐祐理が知らない事をたくさん知っているんですから」
「おう、これからは俺の事を物知り祐一君と呼んでくれ」
「はい、わかりました。これからは物知り祐一さんと呼びますね」
「ぜひそうしてくれ」
「はい」
・・・・・・・・・・・・
って、俺は何故、佐祐理さんと和んで話し込んでいるんだ？いや、和んで話し込むことは悪いことじゃないんだが・・・
・・・・・・そういえば俺は佐祐理さんの事を避けていたのでは・・・・・・
それがいつのまにか何の違和感もなく接近しているとは・・・恐るべし、さゆりんワールド・・・（爆）
とりあえずこれ以上深みにはまらないように、俺は佐祐理さんに気づかれないように一歩だけ後退する。
「えっと、佐祐理さん。それじゃあ俺はそろそろこの辺で失礼するわ」
さらにもう二歩後退。あとは『んじゃな』と軽く手をあげて自然に佐祐理さんに背を向けて歩き出せば完璧なはずだ。
だが・・・
「祐一さんはこれから何か用事でもあるんですか？」
タタ・・・
佐祐理さんは俺が苦労して空けた間をたったの１秒で詰めてきてしまった。
いや、ひょっとしたらさっきより近い距離にいるのかもしれない。なぜなら佐祐理さんの顔がさっきより１.25倍は近づいているように見えるからだ。
あ、今まであんまり意識してなかったけど佐祐理さんって結構ちっちゃい・・・女の子だから当たり前だけど・・・
「あ・・・」
俺は思わずすぐ目の前にある佐祐理さんの髪の毛を無意識になでようとして・・・。
「？」
首を傾げて俺の行動に注目している無垢な佐祐理さんの顔を見て慌てて手を引っ込める。
な、なにを考えてんだ俺はっ！？い、いや、何も考えてないからこういう行動が取れるのかもしれないが・・・。
や、やはり佐祐理さんの近くは危険だ。何か逆らいがたいフェロモンが分泌されているように。
これが惚れた弱みというやつなのだろうか・・・。
「い、いや、別に用って程のものがあるわけではないんだが、腹が減ったから何か食べに帰ろうかな〜、と思っただけで・・・」
「あ、それなら前に祐一さんに進められたそこのお店で何か食べませんか。佐祐理が奢りますよ〜」
佐祐理さんが指差す所は百花屋である。名雪はイチゴサンデーが好物でそれだけでご飯３倍はいけるだろというような事を話したことはあるが、別に進めた覚えはない。
「・・・いや、俺は」
「大丈夫ですよ。佐祐理がおごりますから」
佐祐理さんは先制攻撃のようにとばかりに俺の服の裾をつかむ。これで逃げる事はできなくなってしまった。
もっともこの場で佐祐理さんに背を向けてダッシュで逃げようものなら後々気まずくなってしまって、舞の怒りを買ってしまい、ひどい目にあわされてしまうかもしれないが・・・
「いや、そんな悪いし・・・」
「あははーっ、佐祐理はお姉さんだからそんなこと気にしなくていいんですよ〜」
いや、お姉さんと言うのはあんま関係ないと思うが・・・
「それでは行きましょうか」
と、意見を言うまもなく佐祐理さんは俺の手を取り、百花屋に向かって歩き出す。
俺に選択肢はないのか、オイッ――と思うものの繋がれている佐祐理さんの手を意識していて、何も言えずにいた。
「あははーっ」
まず、コーヒーを一口、口につける。
ほろ苦い。砂糖もミルクも入れていないのだから当然と言えば当然だが・・・
次にサンドイッチに手をつける。
チーズとハムとレタスを薄くマヨネーズとコショウで味付けした、そこらのコンビニとは違う喫茶店ならではのサンドイッチ。
当然うまい。佐祐理さんに『腹減ったから帰ろうと思う』といったのは建前で本当におなかがすいていたわけではないのだが、そう言ってしまった手前、食べ物を頼まないのは不自然だったので適当にメニューに載っているものを頼んだのだが、実は結構いけたりする。
いつもこの店では名雪はイチゴサンデーしか頼まないし、それにつきあわされる俺はコーヒーくらいしか頼まないので、意外な事に少しだけ驚いている。
ちなみに佐祐理さんは俺の前の席で、イチゴマスター名雪のお勧め、イチゴサンデーを食べている。
スプーンで一口すくい、小さく口を開けて口の中に入れる。
そんな佐祐理さんを俺はボーっと見つめていた。
『あの、倉田さん。少し聞きたいことがあるのですけどよろしいですか？』
『ふぇ？佐祐理に聞きたいことってなんですか？』
『倉田さんって・・・その・・・好きな人っているんですか？』
『はい、佐祐理は舞が好きですよ』
『・・・・・・いえ、あの、そう言うことではなくて・・・男の人でですけど・・・たとえば二人がいつも一緒にいる男の人とか』
『ふぇ！？ゆ、祐一さんですか・・・そ、その、祐一さんは・・・・・・・・・・・・』
「むぐっ！？」
不意に口の中に何かを突っ込まれる。
「気づきましたか、祐一さん？」
・・・・・・佐祐理さんだった。イチゴサンデー付きのスプーンを腕を伸ばして俺の口の中に入れていた。
「な、なにをする、何を・・・」
「佐祐理が呼びかけても祐一さんが返事をしないでイチゴサンデーを見つめていましたから、てっきり欲しいのかと思って一口分、祐一さんに食べさせようと思ったんですよ」
「だからって無理矢理突っ込むか、普通・・・？」
「だって佐祐理がいくらあ〜んって口を開けるように言っても祐一さんは聞いてくれなかったじゃないですか。だからちょっと強引ですが祐一さんに食べさせてみました〜」
・・・・・・・・・・・・佐祐理さん、なんだかキャラが変わってないか？
それでも前から少しだけ思っていたが、佐祐理さんは舞と違って俺から一歩の半歩だけ引いた形の関係のような気がしていたのでさっきの佐祐理さんの行動は少しだけ嬉しかったりもしたが。
「それじゃあ祐一さん、今度はちゃんとあ〜んしてくださいね」
そう言って、再びイチゴサンデーをスプーンで差し出してくると俺の目の前に突き出してくる。
だが、正直言って佐祐理さんは生粋以上の美少女である。そんな佐祐理さんがあ〜んなんてやってれば当然目立つ。
・・・同学校、別の学校と問わずに女子高生たちはこちらをチラチラと見ながらひそひそ話をしてるし・・・それ以外の人たちも同様だ・・・
下手をすると一日で街全体にこの噂が広まってしまうかもしれない。
そしてその噂はお互いに、特に佐祐理さんにはいい事にはならない。
「佐祐理さん、そう言うことは・・・」
「あ〜ん」
「俺では役不足だと思うから・・・」
「あ〜ん」
「・・・・・・舞か、または佐祐理さんが恋人が作ったらそういう人と・・・・・・」
「あ〜ん」
「・・・・・・・・・・・・第一、間接キスになるだろ・・・・・・・・・・・・」
「ふぇっ！？佐祐理との間接キスは嫌なんですかっ！？」
・・・・・・いや、俺はむしろ嬉しいが、佐祐理さんがまずいだろ・・・・・・
悲しそうな表情をする佐祐理さんに心の中で突っ込みを入れるが、当然それは伝わらない。
「嫌ということはないが、佐祐理さんはかまわないのか？」
「ふぇ？佐祐理は別にかまいませんよ？」
どうやら佐祐理さんには間接キスと言うものは特に気にしないタイプなのだろう。
「では祐一さん、あ〜んですよ〜」
・・・・・・だが俺は気にするタイプである。
だがここで嫌と言おうものなら、佐祐理さんには悲しい顔をされることは容易に想像できる。
「あ、あ〜ん」
仕方なく（心の中では喜んでいる気持ちと、こんなんじゃ駄目だと言う気持ちが半々くらいあったが）俺は口を開け、佐祐理さんがさっきまで使っていたスプーンで一口分のイチゴサンデーを食べる。
そして佐祐理さんがまた、二口、三口食べると・・・
「はい、祐一さん。またあ〜んしてください」
などと言ってくる。
・・・・・・・何となく佐祐理さんの顔が赤いのは気のせいだろうか？
この状況は、はっきりいってこれは傍目から見れば甘々のラブラブカップル以外の何者でもないだろう。
今、俺は恥ずかしくてダッシュで逃げたい気持ちで一杯である。俺が佐祐理さんの恋人であるのならこういうのもありかなとは思うものの、そうでない現状でははっきりいって引け目を感じてしまう。
「いや、佐祐理さん。俺は甘いものはちょっと苦手だから悪いけど・・・」
「そうなんですか？残念です」
そういうと佐祐理さんはやっと諦めてくれたらしくイチゴサンデーを黙々と食べ始める。
（・・・はぁ、初めからこう言えば良かったな・・・）
役得もあったような気がしたが、あえてこう思うこともする。
今はまだ佐祐理さんへの思いを吹っ切れていない。それは今でも自覚にあった。
だけどそう簡単に吹っ切ることもできない思いだということもわかっていた。
・・・・・・時間がすべてを忘れさせてくれると思い、祐一はもう一度佐祐理さんを見る。
笑い返してくれる佐祐理さんを見て、祐一は今だけでも彼女を好きでいようと思うのだった。
たとえ思いが報われなくても・・・
佐祐理さんと舞は今現在、同居中である。
とある事件が終わると同時に、卒業の日を待たずに二人はここから電車で一つ先のところにアパートを借り、一緒に住んでいる。
それが二週間前のこと。
実のところ、一緒に住むことには祐一も誘われていた。
それもそのはずである。もともとは３人で一緒に住もうと舞に提案したのは、他ならぬ祐一自身であったのだから。
だが後々冷静に考えてみると、普通ならその思いが叶うはずもない。
現在、自分は高校生。親のすねをかじっているようなガキである。自立もできていないのに同居なんて許されるわけがない。
現に親父と母さんどころか名雪や秋子さんにまで問答無用で引き止められた。
『・・・祐一、祐一は私たちの事を見捨てるんだね。・・・私、もう笑えないよ』
『・・・祐一さん、あなたと家族として過ごした日々、楽しかったです。遺書には祐一さんの事を書き残しますので、祐一さんはどうか幸せな日々を・・・』
・・・・・・どちらかと言うと精神的ダメージを狙った脅迫といったほうが近いかもしれないが・・・・・・
とりあえずのところ、そんなこんなで現在、同居の話は保留となっている。保留期間は今から約一年とちょっと。つまり祐一が高校を卒業してからの話である。
佐祐理さんと舞は、いつまでも待っていてくれると言ってくれたが、佐祐理さんに恋心を抱いてしまった今ではそのこともほぼ不可能である。舞は俺の事を家族として見てくれているわけで、佐祐理さんに恋心を抱いた俺ではないのだ。
舞の心は繊細である。もし舞が俺に恋愛感情を持っていたら泥沼以上に混乱の極みに達するであろう。
「あははーっ、ここが舞と佐祐理が住んでいるアパートですよ」
あれから喫茶店で佐祐理さんに夕食に誘われた。今の状況から見ても本来は断るべきなのだろうが・・・あの時は佐祐理さんへの思いにふけっていてとっさに断る理由を思いつけず、つい承諾してしまった。俺はつくづく惚れた人に弱いと言うことを思い知らされるのだった。
佐祐理さんと舞が住んでいるアパートは最寄の駅から歩いて１０分くらいにあるところだった。一見からみて普通のアパートだが意外とセキュリティはしっかりしているようで特性としてはアパートと言うより寮と言ったほうが近いかもしれない。
３階に階段を上がってその一番奥が佐祐理さんと舞が住んでいる部屋だそうだ。
「お邪魔します」
靴を脱いで、リビングに上がる。家の中も普通のアパートと比べたらだが思ったより広い。これなら祐一が一人、同居生活に加わっても特に問題はないだろう。恐らくそのことも考慮してこのアパートを選んだのだろうが。
カチャ
その時、佐祐理が家の鍵とチェーンロックを閉めたことに祐一は気がつかなかった。
「えっと、佐祐理さん。俺も大したことはできないけど何か手伝う・・・」
・・・・・・最後まで言わせてもらえなかった。
・・・・・・なぜなら・・・・・・
「さ、さささ佐祐理さんっ！？」
「・・・・・・祐一さん」
いきなり後ろから佐祐理さんに押し倒されたのだから。
「な、なにを・・・」
当然俺は焦る。何しろ思い人に、伸しかかられたまま潤んだ瞳で見つめられていれば・・・
「・・・・・・祐一さんは・・・佐祐理の事・・・好きですか？」
トクンと心臓が高鳴る。それは言いたくてもいえなかったこと・・・
「・・・・・・俺は、佐祐理さんのこと、好きだよ。嫌いだったら一緒にいない」
それは友達として、親友として、家族として・・・
「・・・・・・・・・・・・佐祐理のこと・・・・・・愛してますか？」
少しだけ震える声で佐祐理さんが言う。
「・・・・・・俺は」
口を開こうとして・・・・・・思いとどまる。
『・・・祐一さんは・・・親友です。異性としてみたことはありませんよ』
体育が終わって教室に戻る前に何か飲み物でも買おうと思い自販機前に行くと、少しはなれたところで女子生徒たちがピキャピキャと騒いでいた。その中には佐祐理さんも混じっていたが、他の女子たちに挟まれていたのでとてもあいさつできない状態だと判断し、そのまま自販機でポカリでも買って教室に戻ろうとした時に、佐祐理さんの声でその言葉が聞こえた。
恐らく、女性たちにありがちな色恋沙汰での話があったのだろう。最近、俺と佐祐理さんと舞はたいてい一緒にいるからそんな噂話が出てきてもおかしくはない。
ただ・・・何か痛い。
正直なところ、俺は舞も佐祐理さんも当然親友だし、そう思っていた。異性としてみたことはなかったと思っていた。
だから佐祐理さんが俺のことを異性としてみていなかったとしても特になんとも思わないはずだった。
・・・だけど痛い。
そしてあっという間に時間がたった。
お弁当の時、佐祐理さんの目を見ることができなかった。いつも通りに話し掛けることができなかった。なぜかとたんに悲しくなった。
舞と弁当の取り合いをやっていたから、佐祐理さんにはそのことは気づかれなかったと思う。舞も佐祐理さんもいつも通りである。
ただ、俺の心に変化が訪れていた。
それは恋。俺は佐祐理さんに恋をしていたのだった。
だが、告白する前に振られていた。皮肉にも佐祐理さんに振られることで俺は佐祐理さんへの恋心を自覚したのだった。
それからというもの、できるだけ佐祐理さんと二人きりにならないように努めた。もし二人きりになれば今まで通りに接することができなくなるかもしれないから。
・・・もし、俺がここで佐祐理さんのことを愛していると言ったらどうなるんだろう？
何となくだが、今の佐祐理さんは俺が愛していると言うことを期待しているような気がする。
佐祐理さんの考えていることがわからない。それはもういつも無表情の舞以上に・・・
「・・・・・・佐祐理は・・・・・・祐一さんのことを愛しています・・・・・・」
駄目だった。佐祐理さんのその言葉だけで俺は落ちていた。
「・・・・・・俺も・・・・・・佐祐理さんのこと、愛してるよ・・・・・・」
佐祐理さんが目を閉じた。そして俺は佐祐理さんの唇に優しく口付けをした・・・
「佐祐理さんは何でいきなりこんなことをしたんだ？」
食後の紅茶を飲みながら、同じく紅茶を飲んでいる佐祐理さんに問いかける。
「あははーっ、それは祐一さんが佐祐理のことを避けていたみたいですから舞に相談したんですよ」
・・・やっぱり気づいていたのか
思えばそれは当然のことだったのかもしれない。佐祐理さんはああ見えても人の心情を読み取るのがうまいと俺は思っている。あの無表情でなにを考えているのかわかりづらい舞のことを一番わかってやれているのは間違いなく佐祐理さんなのだから。
「そしたら舞が『・・・戦いは先手必勝、逃げられる前にやる』って言ってくれたんです。それで舞の助言どおり祐一さんに逃げられる前にやりましたー」
・・・・・・違う・・・それは何かが激しく間違っていると思うぞ、佐祐理さん。
第一に色恋沙汰について舞に聞くことが間違っていると思う。まあ助言事態は的を得ていたとは思うがな。
ちなみにその肝心の舞は現在、実家に帰っているそうだ。
「と、言うわけで祐一さん、よろしくお願いしますね」
何をだ？という暇もなく佐祐理さんはリビングを出て行ってしまう。
そしてすぐに・・・
「あははーっ、ただいま帰りましたー」
リビングのドアを開けて佐祐理さんが入ってくる。その時点で佐祐理さんが何をやりたいのかはわかった。
だがなぜこんなことをやりたいのかは想像がつかない。
「お帰り、佐祐理さん。先に風呂と食事、どっちにするんだ？」
「それはですね・・・」
佐祐理さんはとても素敵な笑顔を浮かべて・・・
「祐一さんを先にしますっ」
・・・思いっきり抱きついてきた。それも強く。
「って、ちょ、ちょっと佐祐理さん！？な、なにを・・・」
この結果は見えていたが佐祐理さんがここまで大胆に行動してくることは予測できなかった。
「舞がこうも言ってましたよ、『私が寝た後なら祐一と佐祐理が何をしていてもかまわない』って。だからこれからのことも安心です♪」
「何がだぁぁぁぁっ！！！！」
「据え膳食わぬは女の恥とも言いますし」
「むぐっ！？」
絶対に言わないと思うぞっ！と叫ぶ前に祐一の唇は佐祐理さんの唇でふさがれていた。
「夜はまだまだ長いんですよ〜」
輝く星達が二人を祝福するように煌めく。長い夜の始まりだった。
投票結果
きこ〜もと☆ゆに (採点:5)
佐祐理属性な私としてはもう申し分なしです(^^; 舞も含めた３人での同居を考えての押し隠そうとする祐一の佐祐理に対するほのかな恋心、それにうっすらと気付き予想外の行動をとる佐祐理、話しの進め方やらぶらぶ度もとても満足行く出来でした。
YOSHI！ (採点:5)
前半がすこしテンポが悪く感じましたがとてもよかったと思います！
Lv2 (採点:2)
展開がやや強引かなという印象を受けました。
荒野草途伸 (採点:5)
こんな佐祐理さん・・・大好きだー！
Ｂ・Ｃ (採点:2)
途中まではかなりいい感じだったんですけど。ここからは好みが分かれるんでしょうが、ラストがちょっとギャグっぽくなってしまったのが個人的には残念。（我侭です。ごめんなさい）
ugen (採点:4)
壊れでない積極的な佐裕理さんがかわいい、祐一の心理描写もなかなか
TOM (採点:3)
最後が佐祐理さんらしくないのが・・・。でも2人とも好感が持てるキャラになっていて良かったです。
poronium (採点:4)
恋愛初期の初々しさがとっても新鮮。まさしく先へつながるほのぼのという感じでした。
グＥ (採点:4)
祐一の佐祐理さんへの恋心の描写や最後のシーンがとてもいい感じでした。途中の秋子さんの冗談（＜ですよね？）も非常にいい感じでよかったです。
かずき (採点:1)
こんな祐一見るのもいやだ。
yuxsan (採点:5)
佐祐理さんが可愛い！！
kuryu (採点:3)
なんか好きな壊れ方ですね。
naoki (採点:2)
話は好きな内容なんですが、描き方が生理的な部分で合いませんでした。
みちやづき (採点:4)
いや面白い。さゆりん属性の自分としては逸品のSSでした。
橘征五郎 (採点:1)
ノリとラブコメっぷりは悪くはないと言えるのだが……。まずは基本的な文章作法の勉強を。人称がブレていて読み辛い。狙ってやっているのか思うぐらい見事に三人称と一人称がごっちゃに。あまりに日本語が不自由。とりあえず一度ちゃんと作品を読み返してみることをお勧めする。その後、小学校の国語の教科書を引っ張り出して読んでみよう。
フール (採点:4)
ごちそうさまでした（笑）
空明美 (採点:4)
舞はどこで助言を覚えてきたのだろう。かわいい＾＾
taka (採点:4)
可愛いです、佐祐理さん。素直な愛情表現もまた好感が持てます・・・。
通行人Ｂ (採点:2)
推敲をしましょう。
全採点
5点 : 12
4点 : 45
3点 : 48
2点 : 24
1点 : 11
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転載、無断引用を固く禁止します。
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