北川君の変わった一日
昼休み。
学食でいつものメンバー――相沢、水瀬、美坂と昼食をとった後、皆よりも一足先に教室に戻ってきた。
水瀬と美坂は部活の関係で、相沢も何かしらの用があるらしく、残った俺は一人教室に戻ったわけだが特に何かすることがあるでもなく、暇を持て余していた。
（寝とくか……）
最も最適で手軽な暇つぶしを実践しようとしていたところへ、クラスメイトの斉藤がやってきた。
「おい、北川」
「何だ？」
やけに恐い顔をしながら話し掛けてくる。
「どういうことだ？」
「は？ 何がだ？」
「とぼけるなよ、俺とお前の仲だろう。」
そうは言われても、一体何の事を言ってるのかがさっぱり分からなかった。
「ちょっと待て、取り敢えず順を追って説明してくれ。何の話か全然分からん。」
何か興奮気味な斉藤を手で制し、説明を求めた。
「分かった。実はな、ついさっき三年の倉田って人がお前を捜しに来てたんだよ。」
「……そういうことはむしろ最初に言うべきじゃないか？」
「お前を捜していることなんてたいして重要じゃないからな。だから言わなかった。」
きっぱりと言い放った。
というか、どんな風に考えたら重要な事柄じゃないって結論に行き着くんだ？
俺はいいとしても、相手の方に迷惑がかかるだろ。
などと心の中で毒つきながら、話の続きを聞く。
「それで、どういうことなんだ？」
「だから何がだ。」
「決まってる。お前とあの倉田って人の関係だ。」
「関係、ってもなぁ……ただの知り合いだぞ」
「フ…嘘をつくな。俺には全て分かっている。」
やたら自信たっぷりに俺の言葉を否定する。
つーか否定されても困るぞ。実際ただの知り合いでしかないんだし。
そんな俺の心の声を無視して（当たり前か）、斉藤は言葉を続ける。
「あの先輩、俺の見たところなかなかの…いや、かなりの美人だ。そんな人がお前を捜しているとくれば導き出される結論はごく限られている。」
「何だ？」
「ずばり、コレだろう。」
斉藤は小指をぴっ、と立てて言った。
「違うぞ。」
当然即答。
が、奴は俺の答えに納得できないようだった。
「そんなはずないだろう！ 本当のことを言え!!」
「言ってるっての。俺だって先輩とは相沢が一緒の時とかにたまに会うだけだ。俺よりむしろ相沢のコレだろ。」
かなり無責任な補足をして、俺も小指を立てる。
ま、俺は倉田先輩と相沢が恋仲だなんて、これっぽっちも思っちゃいないけどな。
「何ィ…ならば奴からじっくりと事の次第を問いたださねばな。」
案の定、斉藤はあっさりと俺から相沢にその矛先を変えた。
「頑張れ」
俺は目の前の友にかなり無気力なエールを送った。
「くくくくく……待っていろよ相沢〜」
不気味な笑みに顔を歪ませながら何やら言っている斉藤を見て、これから無意味な質問を延々とされ続ける親友を不憫を思いつつ、倉田先輩を捜しに教室を出た。
負けるなよ、相沢。（俺の所為なんだけどな）
やたらあっさりと先輩は見つかった。
色々な意味で目立つ川澄先輩がいつも一緒にいるから、人づてに聞けばわかるだろうという俺の読みが、見事に的中したわけだ。
その後、俺は空き教室の一つへと連れて行かれた。そこには、乱雑に並んだ机と椅子、そして場違いなダンボールが一つ、置かれていた。
「それで、俺に用って一体何なんですか？」
「はい、実はこれを着てもらおうと思って。」
そう言って、置かれたダンボールを探り始めた。
中から取り出されたものは、人一人がすっぽり収まるネコをかたどった服。
すなわち、ネコの着ぐるみ（黒）
「今日の放課後まで、それを着て過ごしてください。」
……マジか？
取り敢えず、これを着た自分を想像してみる。
クラス中どころか学校中の好奇と嘲笑の視線を向けられながら、燦然と歩く黒ネコ。
授業を受けるときも、友達と話すときも、このまんま。
やがて、そんな俺を中心として、笑いの渦が広がっていく………
相当に嫌過ぎる。
「すんません、俺、ちょっと遠慮しときま……」
言いかけて、言葉に詰まった。
何でって、申し出を断ろうとした俺を倉田先輩がじっと見つめていたからだ。（涙目＋上目使いで）
「ふぇ…ダメなんですか……？」
ううう…そんな目で俺を見ないでくれ先輩…。
だ、駄目だ！ このままじゃ…とても耐えられない!!
「…北川さん…」
駄目だ…駄目だ、駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ―――――!!!!!
（おおおおおおおおおおおおおおお!!!）
心の中で吼え、全ての雑念を振り払い、俺は―――――!!
「着ます。」
あっさりと白旗を上げた。
俺は自分の教室のドアを勢い良く開けた。
見事にクラス中の視線が集まる。
一瞬の静寂。
直後起きるざわめき。
皆がどういう会話をしているのかはわからなかったが、少なくともこの着ぐるみを着ているのが俺だということには誰も気付いていないらしかった。
…が、
「よう北川、何でそんな格好してるんだ？」
相沢が、ぽん、と肩を叩いて言う。
ざわめきが、止む。
「……………」
「はっはっは、隠さなくてもこれの中身がお前だってことぐらいすぐにわかったぞ。」
何の迷いも疑いもなくきっぱりと言いきる相沢。
周りがまた、ざわめき始める。
そして、会話の内容が『着ぐるみの中身は誰なのか』ではなく『俺への中傷』に変わっていた。
……まずい。
このままでは今まで積み上げてきた俺のイメェジが根本から崩れ去ってしまう!
こうなったら………奥の手だ!!
「ＨＡＨＡＨＡ、ヒトチガイダヨアイザワクン。ボクハソンナナマエノニンゲンジャァナイヨ。」
身振りを交えて片言っぽく喋る。
すると、またも辺りが一気に静まり返っていく。
……フ、これぞ俺の真骨頂！
突然奇天烈な言動をして、自分にとって不利な状況を一気にうやむやにしてしまう荒技!!
ただし、「変人」呼ばわりされることをまぬがれないのが玉にキズ！
その名も『誤魔化し』!!!
これで、着ぐるみの中身なんて些細なことは皆どうでもよくなる。
……はずなのに。
「あの中身、やっぱり北川みたいだな。」
「うん、言われてみればなんかそんな感じがしてるし。」
「あいつ、あんな趣味があったのか…」
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ………。
どういうわけか、事態が余計に悪化してしまった。
「な、何故ッ!!?」
「声だよ。」
俺の叫びに当然のように相沢が答えてくる。
「だってお前、喋っちまったろ。黙ったままならばれなかったかもしれなかったのにな。」
………………あ。
「墓穴を掘っちまったな、北川。」
そ、そんな………
「んのおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――!!!!!」
昼休みから５、６限の授業を経て、放課後。
その間、俺はクラス中の失笑を聞きつづけなければならなかった。
はっきり言って、辛すぎ。
当然、授業なんてろくに聞いちゃいなかった。
「ちくしょー……何でこんなことに……。」
「あなたが断りきれなかったからでしょ。」
「そりゃそうなんだけど…。」
美坂にもっともなことを言われ、さらにブルーになる。
「ところで美坂、今の俺ってどんなふうに見えてるんだ？」
端から見たらどう映っているのかなんとなく気になってきた。
「そうね……哀愁漂うでかネコかしら。あるいは何もかも諦観してるネコ。」
うわ、そんなふうに見えてるのか。
「というより今の内面が如実に顕れているのかもね。」
……そうかも知れない。
とにかく、コレを着ておくのは一応放課後までということだし、早いとこ先輩達を見つけてコレ返そう。
もはや俺が耐えられない、この格好に。
動く気力すらわかない体をなんとか起こし、席を立とうとした時、教室の入り口に見知った人影を見つけた。
「倉田先輩…川澄先輩も。」
精神的疲労を抱えたままの体を引きずって、そこまで歩く。
「どうでした？ 北川さん。」
「…もー、いっぱいいっぱいっす。」
「ふぇ、そうですか……残念です。」
俺の言葉に残念そうな顔をする倉田先輩。
うぉ…気まずい雰囲気……。
「あ、あー…そう言えば何で俺にコレ着せたんですか？」
話題の転換を計るため、敢えて気になっていたことを質問した。
「祐一さんが『北川なら似合うから』って言っていましたから…。」
「………はい？ 相沢がそんなこと言ったんすか？」
「はい。」
「…マジですか？」
「…マジ」
二人とも肯定したきた。
……そう言えば何で相沢は着ぐるみの中身が俺だとわかったんだ？
あいつの言った通り行動のどこかで俺だと見抜いたのだと思っていたが…。
最初から知っていたんなら全て合点がいく。
「…そうか…そういうことだったのか……。」
今日、俺がこんな目に遭ってきたのは全て相沢が仕組んだことだったのか…。
俺だけやられっぱなしなんて割に合わないよな…。
………決めたぞ。
「…北川さん…？」
……はっ
「あ、すんません。ちょっと考え事を……ところで倉田先輩。」
「何ですか？」
「実は折り入ってお願いがあるんですけど……」
俺はその旨を倉田先輩に伝えた。
翌日。
俺はいつも通りに登校し、教室に入る。
そして、あいつが来るのを待つ。
やがてガラッとドアを開ける音がし、あいつが来た。
俺は横を向き、あいつの方を見る。
「…変わったな、相沢」
「お前もな、北川」
改めて自分と相沢の姿を見比べてみる。
犬耳と犬足の手袋をした、犬ルックな相沢。
猫耳と猫足の手袋をした、猫ルックな俺。
相沢の格好のことは、昨日倉田先輩に頼んでおいたものだ。
俺の方は、予想通り相沢が前もって先輩に頼んでいたものらしい。
それにしても……クラス中の視線が痛い。
水瀬は何を言ったらいいのかわからず、乾いた笑いをし続けている。
美坂はもう完全に呆れかえって、視界に俺達を入れないようにしている。
そんな状況が少しだけ続き、俺と相沢は同時にため息をついた。
そして、口を開く。
「なぁ、ネコニャン北川。」
「どうした、ワンチャン相沢。」
相沢が、笑う。
俺も、なんとなく笑う。
その後、一瞬で真顔に戻り―――。
「「お前の仕業かぁぁぁぁ―――――――!!!」」
同時に相手の顔面に向かって拳を繰り出した。
俺達の一連の行動を見届けたあと、美坂が言った。
「……馬鹿二人、ってとこかしら。」
そりゃないぜ、美坂………。
投票結果
あきらくん (採点:5)
２人とも、実におバカさんですね。それにしても、佐祐理さんが悪女だなぁ。
akira (採点:5)
もはや何もいうまい・・・・・、主役と準主役級のサブキャラにアニマルルックをさせるとは・・・・・、ギャグとしてかなり大穴狙いって感じでツボにハマッてました（爆
空明美 (採点:4)
いい二人です
Ｇすぽると (採点:2)
ギャグがちょっち、弱いかな？ でも最後、喧嘩するシーンは笑わせて貰いました。
Ｂ・Ｃ (採点:3)
せっかく北川が猫なんだし名雪の絡みが欲しかった（我侭？）。
烏賊悪魔 (採点:2)
良くも悪くも本編チックって感じ。
kuryu (採点:3)
わらかしてもらいました。これからもがんばです。
ugen (採点:3)
特に目新しさがないができは悪くない
アーリマン (採点:2)
まぁまぁっす
おーふな (採点:3)
うーん、アイデアは悪くないのになー。もうちょっと違う展開があったような気が。
グＥ (採点:2)
祐一と北川馬鹿ですねーーー。ほんとに。と思った話でした。
竹仙人 (採点:2)
祐一に言われて北川に頼んだのは分かりましたが、結局のところ、佐祐理さんはどうして着ぐるみを着せたんでしょうか。
Ｇａｒａ (採点:1)
思いついたシチュエーションを書いてみた、というだけの作品。タイトルが「１日」なのに、話が翌日にまたがる、という時点で、安易に書かれている印象が強い。
かずき (採点:1)
つまんね
yuxsan (採点:5)
笑い転げました。
舞耶 (採点:3)
なぜねこにゃんきちゃがわに萌えない名雪？（爆）
十六夜 睦月 (採点:5)
大爆笑でした
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。北川（と祐一）が着ぐるみを着た、というだけで終わってしまっている。着ぐるみを着た二人がどんな風におかしいのか、ということが描かれていない。そもそも単にこれだけではネタとして弱い。文章のレベルも低い。
taka (採点:5)
もう最高です。みんないい味出しすぎです。は、腹が・・・。
Time (採点:5)
いやいや、猫ルックな北川と、犬ルックな相沢…、良かったよぉ（笑）。 絡みがあれば、さらに人気上昇♪、か？（爆
naoki (採点:3)
どう頭を使えばこんな話が思い浮かぶんでしょう？？ すごい。
Ｖｉｓ (採点:4)
ネコ北川に、名雪は反応しなかったのだろうか（笑）
全採点
5点 : 9
4点 : 30
3点 : 55
2点 : 50
1点 : 18
このSSは、作者の方に二次著作権が存在します。
転載、無断引用を固く禁止します。
戻る