Sweet Suite
＜招待状＞
『倉田 佐祐理 様』 『川澄 舞 様』
『平成１２年度学園舞踏会 開催日時１月２０日 開催時刻PM５：００ 是非ともご参加下さい』
『相沢 祐一より』
軽く袖をまくりをしてお気に入りの腕時計をチラリと流し目。わたしこと、倉田佐祐理は、そうやって今が何時なのかを確かめてみました。
「ふぇ…あと５分しかない…」
時刻は４：５５。記憶に間違いがなければ、約束の時間までもうまもなく…。チッ,チッ,チッと、秒針が刻んでゆくこぎみよい音が、わたしの心を昂ぶらせているのが分かります。ドキドキと言うか、ワクワクと言うか…ううん、ソワソワでしょうか？
「舞ーっ。はやくはやくーっ！」
思わず気が急いて小走りになっちゃいながら、少し後ろをいつも通りのスピードで悠々と歩く親友――舞に手を振りました。
「…佐祐理。走ると危ない」
「だいじょーぶだよーっ！」
言って、今度は舞の方へと駆け寄り、彼女の隣へトタン、と軽やかな足音を鳴らしてゴールインです。
「あははーっ。ほらっ、大丈夫だったでしょ？」
なお歩き続ける舞の顔を覗き込んで、わたしはにこぉ〜と、さも楽しそうに微笑みかけました。もはや言うまでもないことですが、今のわたしはとってもハイテンションなんですよー。理由は簡単。なんと、わたしと舞は舞踏会の招待状を貰ってしまったのです！
「佐祐理、これでも運動神経は良いんだよー。ね？」
コケちゃうような失敗はしないから早く行こーっ！ そう心の中で付け足して、「あははーっ♪」とまた笑顔。
「……知ってる」
舞はむっつりとした表情のままコクリと首肯しました。けれど、すぐに瞳を臥せぎみにして
「…でも、危ないから」
と、もう一度だけ呟いて口をつむんでしまいます。それでようやく、わたしの心もいくらか冷静になってくれました。…ごめんね、舞。心配、かけすぎちゃったかな？ 舞の気持ちを酌まずに一人はしゃいでいた自分に「めっ！」をしてから、「ごめんね」と実際に口に出して謝るわたしです。
「…行こ」
舞は「気にしなくていい」とでも言う風に首を振ると、そうわたしを促しました。目的地までの時間は、今までの経験から推測すると多分…あと２，３分。…なんとか、間に合うかな。時計の時刻を再確認して、わたしは一人ごちました。
「うん、後は舞のペースで、お散歩でも満喫しながら行こー」
舞にあんまり心配をかけさせるのも悪いですし、なんと言っても、ここはわたしたちの大切な思い出が詰まった場所ですからね。辺りを見渡すだけで頭の中に色々な情景が思い返されて、それはそれで楽しいです。
「あははー。懐かしいねぇー、舞」
「………？」
「ここに来るのも久しぶりだよねー？」
「…佐祐理、一週間前も来た」
「はぇー。前に来てから、もう一週間も経ったかな？」
「……正確には、一週間と一日」
「うん、だったらやっぱり"久しぶり"だよー。あははーっ」
「…そう」
舞の口調は聞いているだけだとどこか素っ気ない感じですけど、彼女は普通の子よりちょっと口数が少なく感情が読みにくいだけで、実際にはとっても心の優しい普通の女の子なんですよ。カタチだけの付き合い、上辺だけの好意なんかじゃなくて、本当に「優しい心」を持っている舞だから、他人がどう思おうとわたしはこの少女のことが大好きでした。もちろん、一人の親友としてです。"女の子として"という意味で"好き"な方は、恥ずかしいけど…別に存在していて―――――――
「…ねぇ、舞？ ゆ、祐一さんと会うのは何日ぶりくらいだったかな？」
――――わたしが想いを馳せるその人の名前を『相沢 祐一』さん。
この人こそ、来年から増えるもう一人の同居人であり、件の招待状を贈ってくれたわたしと舞の親友であり、わたしにとって初恋の男性であり、現在お付き合いして頂いている、言わゆるその…"彼氏"さんなのです…っ。…ふぇぇ、自分で言っておきながら、なんだかすごく恥ずかしい言い回しです…。
「はぅ………」
"彼氏と彼女"という甘美な響きが頭の中で反芻されて、結果、一人舞い上がり卒倒しかけちゃうお間抜けなわたしでした。不思議なもので、たとえ舞がどんなに恋愛沙汰に疎くても、「恋する女の子のキモチ」を初体験するわたしには、"親友に好きな人の話を振る"ということや、"恋人""彼氏""彼女"などのキーワードを思い浮かべることの方が、なんだかとっても恥ずかしいことのように思えてならないのです…。
―――きっと、これが意識してるってことなんだろうねぇー…。
今さっきだって口を開いた瞬間に、ほんのりと頬が朱く染まってしまうのが自分でも解かって、さらにお顔が火照ってぽぉ〜っとしちゃいました。冬空の下、その熱はむしろ心地よかったけれど、どうしても気恥ずかしくて思わず「はぇ〜」なんて顔を俯かせてしまいます。
「…たぶん、５日ぶり」
「ふぇー…そんなに会ってなかったんだ…」
「……佐祐理、たった５日」
「５日も会ってなかったら"そんなに"だよぉー。佐祐理は、すっごく寂しかったよ？」
「…そう」
わたしの照れた様子にも全く頓着せずにしばらく考え込んだ後、やっぱり舞は淡々と告げました。でも、さすがに今度ばかりは「…そう」もちょっぴり…いえ、かなり呆れ混じりで…。
「ち、違うかな？ あは、あははー…」
冷や汗がツツ――と背中を流れ落ちました。
「…ぽんぽこたぬきさん。安心して」
そんなわたしの心配を察知したのか、すぐに舞は付け足して
「は、はぇ？」
「きっと、祐一もそう思ってるから」
…あははー、舞はやっぱり優しいねー…。でも、でもね。今は祐一さんの名前を出しちゃうのって、とっても逆効果かもしれないな、あははーっ。
「あははははー」
舞の言葉は素直に嬉しかったけれど、もう照れくさくて照れくさくて笑うしかないって感じなわたしでした。だって恥ずかしすぎます…。祐一さんもわたしと会えなくて寂しい思いをしているだなんて、そんなこと…考えただけで胸が"キュン"って締まってどうしようもなくなっちゃうじゃありませんか…。
「…はぁ〜」
ようやく落ち着いたと思っていたのに、また祐一さんが恋しくなっちゃいましたねー…。
「…舞。やっぱりちょっとだけ急ごーっ！」
ついつい駆け足になりながら、そんなこんなでわたしと舞は舞踏会の会場である、懐かしの体育館へと向かってゆくのでした。
体育館に着くや否や、入り口付近でずーっと待っていたのでしょう、タキシード姿の祐一さんを発見です。ここに来るまでの数分の間ですっかり出来上がってしまっていたわたしは、喜色満面で祐一さんに手を振りました。
「あーっ、祐一さんだぁ♪」
「佐祐理さんっ！ それに舞っ！」
それで祐一さんもわたしたちの存在に気付いたらしく、すぐに駆け寄ってきてくれます。
「はぁ〜、良かった。二人とも、ちゃんと来てくれたんだな」
「あははーっ、そんなの当然じゃないですか。雨だろうと雪だろうと来ましたよ、佐祐理は」
ホッと安堵の息を吐き、胸を撫で下ろす祐一さんにわたしはニッコリ。当然、わたしの本音です。
「佐祐理さん…。ううっ、佐祐理さんは本当に良い娘だなぁ…」
なでなで
「あははーっ♪」
感極まったという感じで、祐一さんは優しくわたしの頭をナデナデしてくれました。祐一さんの手の動きは柔らかくて、温かくて、とってもとっても気持ちが良いんですよねーっ。思わず瞳を細めて、その心地よい感触に身を任せてしまうわたしです。
「あはー…」
「………」
「……げふん」
と、舞のジト目が痛くなったのか、祐一さんは咳払いをしてわたしから身体を離してしまいました。
「それはそうと、本当によく来てくれたよ、二人とも。驚かせようと思って招待状を昨日届けちゃったけどさ、さすがに急すぎたかな、って実を言うとけっこう不安だったんだ」
言って、無邪気な子供のような笑顔を浮かべる祐一さん。つまりは祐一さんが心から喜んでくれている証拠でした。心の中で「…好きだなぁ、この笑顔」なんてちょっぴりノロケてから、和やかな雰囲気に水を差さないよう話題を変えます。
「あははーっ、祐一さん。気になさらないで下さい。それよりも、今年も佐祐理のダンスのお相手、よろしくお願いし―――」
「…おかげでタンスの中身がめちゃくちゃ」
「って、ま、舞っ！ ホントのことでもそういうことは言っちゃダメだよーっ！」
「…そう」
舞に悪気がないのは分かりきっていますけど、さすがに今のはタイミングが悪すぎでした…。
「アハハハハ…ごめんな、手間かけさせて」
祐一さんは思った通り、申し訳なさそうな面持ちをして低頭です。はぇ〜…そんな謝ってもらうほどのことじゃないから話題を逸らそうと思っていたのに…。
「え、え〜と…そ、そうです！ そういえば、勝手に部外者の佐祐理たちを呼んでも良かったんですか？」
気まずい雰囲気から脱するために、招待状を受け取ったときからずっと疑問に思っていたことを訊ねてみました。一瞬、祐一さんは目をぱちくりとさせたかと思うと、ニンマリと、それはもう可笑しそうに笑みを浮かべ
「いんや、許可はとってないけど、部外者じゃないんだから問題ないと思うぞ？」
「ふぇ？ でも、佐祐理も舞もいちおう卒業してますよ？」
「…祐一も卒業式に来たのに忘れたの」
…もうっ、舞ったら。祐一さんに限ってそれはないと思うよ…？ 予想通り、祐一さんは舞の言葉を聞いて、「心外だ」とでも言いたげにガックリ項垂れました。
「…あのなぁ、舞。お前は俺をなんだと思ってんだ？ そりゃ、確かに１１年前のことはものの見事に忘れてたけどさ…さすがに去年のことを忘れるほどボケちゃいないぜ。って言うかな、むしろソレに関しちゃ逆だ、逆」
「逆…ですか」
ふぇー…余計に分からなくなってきました…。首を傾げるわたしです。隣では舞もちんぷんかんぷんと言った表情でしかめっ面。
「…回りくどい」
ずびしっ
ついには武力行使に訴える舞でした。キレのあるつっこみチョップが、祐一さんの首筋に綺麗に決まります。
「ぐがっ！！」
「ゆ、祐一さんっ！ だいじょうぶですかっ？」
「あ、ああ大丈夫だよ…。つーか、舞っ！ お前は我慢と遠慮って言葉を知らんのかっ！」
首をさすりながら怒鳴る祐一さん。…あはは、見るからに痛そうでしたものねー…。祐一さんは肩を竦めて「ヤレヤレ…ったく」と愚痴をこぼしながら居住まいを正しました。そして、まるで事件解決をする探偵のように人差し指を"ピン！"と立てると、
「ま、要するにだ。"仕切り直し"しようぜ、ってことさ」
「はぇ……」
「…………」
「って、分かった分かったっ！！ 分かったから、舞っ、その危険極まりない手刀を引っ込めろっ！！！」
右手を空高く振りかざしていた舞は、面白くなさそうにしぶしぶと手を元の位置まで下ろしました。
「ったく…危なっかしいヤツだな…。いいか、一回しか言わないからよく聞いとけよ…――――つまり、今回の舞踏会は去年の舞踏会の続きみたいなものなんだよ。…あの時は、最後にあんまり楽しくない思い出が残っちまったけど、どうせなら最後には楽しい思い出を残したいじゃないか？ "終わりよければ全て良し"って格言だってあるだろ？ だから、二人は絶対に参加しなきゃいけないんだ。俺のパートナーなんだから。一緒に参加して、一緒に笑って、一緒に踊って、最後まで楽しい思い出を作る義務があるんだ。以上！」
あ…。そういうこと、ですか…。あはは…祐一さんらしい考え方ですね…。言ってから「言うんじゃなかった…」とでも言いたげな様子で、祐一さんはそっぽを向いて恥ずかしそうに頬をかきかき。
ジワリ…
祐一さんの言葉の端々に込められたひたむきな思いが感じ取られて、思わず涙が溢れてきちゃいました…。ああ、やっぱり佐祐理は祐一さんのことが大好きだなぁ、って、素直にそう思います、想えます。
「祐一さん………」
「祐一………」
「…な〜んてな！ ちょっとカッコつけすぎたな、今の科白」
わたしと舞の熱視線に耐え切れなくなったのか、はにかみながら言って、いつもの飄々とした雰囲気をまとってしまう祐一さん。でも、祐一さんの想いはしっかりとわたしの胸に届きましたから…。今日のことは、絶対に忘れたりしないでしょう。ううん、今日だけじゃありません。きっと、今日も明日も明後日も…いつまででも大切な思い出は積み重なってゆくのです。
「何はともあれ。今日はいっぱい良い思い出を作ろうな、二人とも」
ニッコリと柔和な笑みに優しい眼差しをたたえて、祐一さんはわたしと舞を交互に見やりました。…こんなにも楽しくて、嬉しくて、倖せなんだから、今は最高の笑顔で笑わなくっちゃいけませんよねっ。目尻に浮かんだ涙を拭い去ると、わたしは祐一さんの笑顔に応えるように、満面の笑顔で頷き返しました。
「はいっ。たくさんたくさん、溢れちゃうくらい思い出作りましょーっ♪」
「はちみつくまさん」
ドレスに着替えて体育館内に入ると、中は相変わらず見違えるような飾りつけがされていて、眩しいくらいの豪華絢爛さ。隣では祐一さんが「やっぱ俺って場違いだよなぁ…」なんて去年と同じ小言を漏らしています。くすっ、ホント祐一さんらしいです。
「あははーっ、そんなことありませんよ。祐一さん、とってもステキです」
「それを言うなら佐祐理さんこそめちゃくちゃ可愛いぞ。なんてーか、こう、思いっきりぎゅ〜っと抱きしめて、そのままかっさらって家に持って帰りたいくらいだ」
「はぇ〜、佐祐理なんかおだてても何も出ませんよぉ…？」
何度も「可愛い可愛い」と褒める祐一さんに向かって、指をもじもじと交差させながら上目遣いにそう呟くわたしです。…祐一さんに「可愛い」って言われると、なんだかすっごく嬉しいんですよねー…。普段なら社交場でお世辞の一つや二つ言われたくらいでは照れたりしないはずなのに、今は身体の芯から熱くなってぽっかぽかです。あはは…それだけ、わたしにとって祐一さんが特別だってことなんでしょうね、きっと…。今まで味わう機会のなかった感覚は、どこか恥ずかしさと照れくささでくすぐったかったけれど、とても心地よいものでした。
「ったく、お世辞じゃないのになぁ」
「でも、佐祐理は普通の子よりちょっと頭の悪い、ただの女の子ですから」
最後に「けど、嬉しかったです、佐祐理」と付け足して、ニッコリと祐一さんに微笑みかけます。
「はぁ〜っ…。あのな…頭が良かろうが悪かろうが佐祐理さんは佐祐理さんだろ。佐祐理さんだから俺はこんなこと言ってるんだぞ？」
と、祐一さんはわたしの言葉を聞くや否や、あからさまに盛大なため息をついてそんなことを真顔でのたまいました。
「あはっ…ありがとうございます。けど、やっぱり買いかぶりすぎですよ」
「佐祐理さんもホントに謙遜好きだな。いいさ、なら俺だって何度でも言ってやる。佐祐理さんは可愛すぎる」
祐一さんったら…。そんなに何度も追い討ちをかけられてしまっては、わたし、再起不能になっちゃいますよぉー…。とうとう耐え切れなくなって、かぁ〜と顔を真っ赤にして「ふぇぇ」と俯いてしまうわたしでした。これ以上は危険と判断したのか、祐一さんはやっとそこで話題を逸らしてくれました。
「しっかし…ホント、俺たちって考えること一緒なんだな。なんとなく佐祐理さんならそうする気はしてたけど…二人とも去年と同じドレスなんだもんなぁ〜」
祐一さんはしげしげとわたしのドレスを上から下まで眺めて言います。そう、今のわたしが着ている青系の色使いで統一されたドレスは、去年のドレスそのものなのでした。参加の度に衣装替えをするのが一般的な中、これはちょっと珍しいことなのです。
「…ええ。ホントですねー。でも、佐祐理の方こそ、祐一さんがその服を着てくれるとは思っていませんでしたよ」
「ははは。俺はこれしか礼服持ってないってのもあるけどな…。けどさ、舞のドレスがキチンと繕ってあるのには正直驚いたよ」
「あははーっ、こんなこともあろうかとあらかじめ繕っておいたんですよーっ。ねーっ、舞ー♪」
二人して笑いあいながら、後ろでシャウエッセンを食べている舞の方を振り返りました。
「………？」
もぐもぐと口だけを動かしながら舞はきょとん。…どうやら食べるのに夢中で、わたしたちの話は聞いてなかったみたいです。あまりにも舞らしい行動に、思わずガクッと脱力してしまうわたしと祐一さんでした。
「あははーっ…やっぱり舞は…」
「どこに居ようが舞なんだな…」
「………？」
もう一度、不思議そうに首を傾げる舞に向かって、わたしたちは「なんでもない」と笑いかけました。実際、舞が食べることに夢中になることも、祐一さんが冗談を飛ばすことも、みんな"なんでもない"ことに違いありません。だって、側には舞と祐一さんが居てくれて。三人で他愛のない冗談のようなやり取りをして笑いあえるのなら。そこにどんな問題があるのでしょう？ きっと、それが日常で、思い出で、大切なモノなんだとわたしは思います。
ちゃ〜ちゃ〜っちゃちゃ〜っちゃちゃ〜っ♪
「おっ、やっと演奏が始まったな」
「はぇー、ちょうど良いタイミングですね」
談笑にも一段落がついたところで、本当にタイミング良く音楽が流れ始めました。気の早いペアは既に意気揚揚と踊っていたりしています。
「…ゴクン。…佐祐理と祐一で踊ってくるといい」
口の中のシャウエッセンを飲み込んで、舞はわたしと祐一さんを見やり告げました。
「舞はどうすんだ？」
「シャウエッセン食べてる」
「あはは…舞は本当にシャウエッセン好きだねぇ」
「…オイシイから」
「でも、たこさんウィンナーならもっと良かった」なんてことをボソリと呟く舞に、思わずわたしと祐一さんは吹き出してしまいます。
「あははーっ、舞もこう言ってくれていることですし、祐一さん、佐祐理のお相手して下さいますか？」
わたしが訊ねると、祐一さんは芝居がかった動きで方膝をついて、畏まった仕草でわたしに手を差し出し言いました。
「喜んで。お手をどうぞ、お姫様」
「あははーっ、よろしくお願いしますーっ」
場内に組曲の旋律が響き渡る中、そんな感じでわたしと祐一さんは手と手を取り合って、いつかのダンスフロアへと舞い戻ったのです。
「ふぅ〜…」
祐一さんに数回ほどダンスのお相手をしてもらった後、わたしはすっかり火照ってしまった体を冷ますために一人体育館の外に足を運びました。
「あはは…でも、ここも熱いかな…」
ちょっぴり汗ばんだ頬をハンカチでふきふき。一月の末ともなれば夜の屋外はやっぱり寒いものですけど、わたしの視界に入るのはラヴラヴした恋人同士ばかりで、なんだか熱を冷ますつもりが逆に熱くなってしまいそうな雰囲気です。…邪魔をしているようで居心地が悪くて、自然、わたしの足並みは人の居ない方向へと向きました。
「気持ちいい…」
数日前に積もったきりの真っ白な雪をぎゅっぎゅっと踏み鳴らしながら、どこへともなくブラブラと歩いて行きます。雪が月明かりを照らし返しているためか、辺りは思ってたよりずっと明るくて、そして、ずっとずっとキレイでした。
「綺麗だね…」
「佐祐理さんの方がもっと綺麗だと思うけどな、俺は」
「…あははーっ、なんですかぁ、それ？」
いきなり背後から声を掛けられて一瞬ビクッとしてしまいましたけど、声の主が誰かはすぐに分かったので、わたしは可笑しそうに笑みを零しながら後ろを振り返りました。するとそこには、予想通り、照れくさげにはにかみながら立っている祐一さん。
「ははっ、さすがにクサすぎたか？」
「くすくすっ。えぇ、それはもう。それに格好が格好ですからとってもキザです。今時そんな科白で女の子を口説く人なんていませんよー」
「ははっ、確かに言えてる」
「でも、佐祐理は…嫌いじゃないですけどね♪」
思わず言ってしまいそうになった「そんな祐一さんも」という言葉だけは何とか呑み込んで、にこぉ〜と笑いかけました。祐一さんは「そっか」と言いながら、やっぱり苦笑していましたけど、急にしたり顔をして
「…佐祐理さんが喜んでくれるなら、たまには言ってみるのも良いかもな」
ニッコリ。その優しい笑顔が、ドクン、とわたしの鼓動を一際大きく跳ね上がらせます。
―――体の火照りを冷ますつもりだったけど、これじゃ全然冷めそうにないかなー…。
早鐘を打つ胸をぎゅっと締めつけて、ポツリと一人ごちました。自分でも驚きです。祐一さんのことをちょこっと考えただけで、こんなにも胸が熱くなっちゃうなんて…。
「あはは…」
…きっと、さっきたくさんのカップルさんを見たせいですね…。わたしは耐え切れなくなって顔を臥せました。今のわたしに想い浮かぶのは"祐一さんが好き"、そんな感情ばっかりで、とてもじゃないけど祐一さんの顔を直視できそうにないのです…。言うならば、"恥ずかしくて"じゃなく"好きすぎて"、わたしにはどうすることもできないのでした。
「どした？」
急に俯いて黙ってしまったわたしを不審に思ったのか、祐一さんが突然わたしの顔を覗き込んできました。
「ふぁ…っ！」
そ、そんな…っ！ い、いきなりは卑きょっ…だめっ、近…ふぇぇ、そんなに顔を近づけられたら、わたし…わたし…っ。
「うわっ、顔、真っ赤じゃないかっ。もしかしてまた熱があるのに黙ってたのか！？」
こつん
祐一さんのおでこがわたしのおでこに合わさり、わずか数ｃｍの距離まで祐一さんのお顔が急接近。それは、爆発寸前の想いを抱えたわたしをショートさせるのに、十分すぎるくらいの衝撃でした…。
「はぅ…っ」
「…微妙に熱いかな…？ ったく、佐祐理さんの悪い癖だぞ、我慢しすぎるの。何かあってからじゃ遅いんだ、我慢できないと思ったら素直に俺を頼ってくれよな…。これでも一応、佐祐理さんの恋人なんだから、さ」
祐一さんが何かを一生懸命になって語りかけてくれていたけれど、その大半は右から左に抜けてしまいます…。もうとっくの昔に頭の中は真っ白で…わたしの全てが"好き"で塗りかえられちゃったみたいで…わたしができたことはと言えば、離れてゆく祐一さんの顔をぽぉ〜っと見つめ続けることだけでした。
「って、佐祐理さん？ もしかしてマジでヤバ―――」
「…じゃあ、佐祐理のお願い、聞いてくれます？」
月明かりに照らされた祐一さんの顔から目が離せないまま、無意識の内にわたしはそんなことを口走っていました。
ドキドキドキドキ…
自分からこの状況を作っておきながら、わたしの心臓は今にも弾けちゃいそうなくらい激しく高鳴っていて、本気で「し、死んじゃいそう…」だなんて思ってしまいます。
「…お願い、ね。おーけい、出来る範囲で良いなら何だってお願いしてくれていいぞ」
最初は当然のように怪訝な顔つきをしていましたけど、すぐにいつもの優しげな双眸を湛えて言ってくれました。
「あははー…ありがとう、ございます」
わたしは大きく息を吸い込んで、深呼吸。どう言おうか色々と悩んだけれど、やっぱり貴方には…ありのままのわたしを見ていて欲しいから…。わたしは想った通りの言葉を、風に乗せました。
「佐祐理…祐一さんのこと好きですよ。きっと、一生大好きです」
そう、それは間違いなく今までも今からもずっと変わらないことで。未来の自分に対する誓約であると同時に貴方への約束なのです。「いつまでも変わることなく、祐一さんを好きでいます」っていう、そんな約束。
「だから…キス、して…ぎゅーって抱きしめて欲し…です…」
「…ははっ、なんかまるでプロポーズだな…。いいぜ、だったら俺もお願いだ。いつかちゃんと俺からプロポーズするから…それまで俺のことを、その…好きでいてください」
怖くて閉じた瞳を開ける前に、気がつくと唇にちゅっと甘い感触が拡がって、いつのまにかぎゅっと抱きしめてもらっていました。嬉しいと倖せと大好きがごちゃ混ぜになって、涙がとうとう臨界点を突破します。ぼろぼろと溢れる涙を拭うこともせず、わたしは祐一さんの腕の中でなすがまま。でも、最後にもう一つだけ言っておきたい言葉があるから…。わたしはちょっとだけ祐一さんから体を離します。そして、泣き顔に精一杯の笑顔を彩らせて、「ありのままのわたし」で彼のお願いに応えるのでした。
「…うん♪ 待ってるからね、祐一くんっ」
〜Fine〜
投票結果
名夜 (採点:4)
佐祐理さんらぶりー。
雨音 (採点:3)
佐祐理さんがすごく可愛く書かれてて良かったです
きこ〜もと☆ゆに (採点:4)
らぶらぶですね♪ 舞の存在がちょっと弱いかな…って思いました。いっそのこと舞を出さないか、もっとお邪魔虫にしちゃうとか…(^^; でも、最後までらぶらぶ一直線でこういうお話しは大好きです。
空明美 (採点:4)
佐祐里さんがめちゃくちゃにかわいいです
Ｂ・Ｃ (採点:3)
佐祐理さんの感情がここまで出てるＳＳは珍しいと思う。ちょっと文が詰まっていて読みづらい感があるが、テンポが良くさくさくと読めた。
通行人Ｂ (採点:1)
佐祐理さん萌え以外何か言いたいことがあったのでしょうか。それを読み取ることができませんでした。ストーリーもなんか不自然な感じを受けてしまうので低得点です。
はまのじ (採点:3)
愛が溢れすぎていっぱいいっぱいです
ugen (採点:3)
話が甘くてちょっと苦手」
kuryu (採点:3)
ぐぉあああって感じです。すいません。わけわからなくて。。
荒野草途伸 (採点:2)
なんか、佐祐理さんっぽくないです・・・
グＥ (採点:3)
祐一のことを大好きな佐祐理さんがいい感じでした。
Ｇａｒａ (採点:4)
徹底的にラブですね。ストーリーは無いですが、テーマがきっちり決まっているので気になりません。舞いあがっている佐祐理が可愛らしかったです。
かずき (採点:1)
ここまで読み難いさゆりんｓｓははじめて
コータ (採点:5)
めっちゃラブラブですね〜。
舞耶 (採点:4)
はうっ最後の祐一君にやられました...（汗）
naoki (採点:4)
最後までにやにやしながら読ませていただきました。
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。一人称で地の分が敬語なのはおかしい。一体誰に向かって説明しているのだろうか。佐祐理さんのキャラが違う。可愛く見せよう、カッコよく見せようと思って書いた文章が、ことごとく空回りしていてむしろダサい。基礎となる文章力が皆無。
taka (採点:5)
佐祐理さん可愛すぎです・・・。舞のキャラもすごくいいですし。やはりこの３人のコンビは面白いですね・・・。
はぐ (採点:1)
採点不能「読むのやめました」 感じた事：序盤の段階でキャラ作りの拙さと一人称の拙さを感じました。もひとつ言えば、台詞の使い方も。内容のわりには話の流し方も延々と続くでこぼこ道といった感じ。
Ｖｉｓ (採点:4)
甘さに殺られました。
全採点
5点 : 14
4点 : 33
3点 : 62
2点 : 32
1点 : 14
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