SSこんぺ No.137 : ～だいじょうぶ～

～だいじょうぶ～

さて、まずは状況を説明しよう。
この俺、相沢祐一は今、美坂香里と共に美坂家へ向かっている、以上。
・・・・・・・。
すまん、冗談だ。
いや、香里の家に向かっているのは冗談ではないか。
では改めて説明しよう。
この俺は『ある』国家機密を入手したＳＳＳ級のスパイであり、香里は俺と某国を繋ぐ連絡員だ。
そして『ある』国家機密、つまり通称『謎邪夢』の秘密を一時的なアジトである香里の家に・・・。
「誰の家がアジトなのよ？」
「モノローグに突っ込みを入れるとは・・・・・・貴様、何者？！」
「口に出してたわよ」
「な、なにぃ！」
「・・・・・・はぁ、相変わらず相沢君してるわね」
「どういう意味だ？」
「言葉通りよ」
「・・・うぐぅ」
うぬぅ、流石は香里だ。
生涯のライバルに相応しい。
「何がライバルなのよ。バカな事言ってないでさっさと行くわよ」
「へぇ～い」
さっさと歩いていく香里の後をついて行く。
まるで女王様とその従者みたいだな。
香里が女王様・・・・・・ふぅ、似合いすぎて冗談にならなかったな。

それじゃ、そろそろ三度目の正直、現状の説明だ。
まず今日は３連休の初日だ。
まぁ、ご都合主義と思ってくれ。
でだ、今は両手に買い物袋、当然中は詰まって重い事この上ない代物を持っている。
ちなみに香里も一つ持っているが、一番軽い袋だ。
『あら、か弱い乙女に重い荷物を持たせる気？』
なんて言われたからなのだが・・・・・・。
普通、か弱い乙女は拳を握りながら脅しなんか使わないぞ？
まぁいい、それで俺は香里の家に向かっているのだが、ただ荷物運びをやらされている訳じゃない。
聞いて驚け、なんと今日は香里の家にお泊りだ。
こんなチャンスが巡って来るとは思わなかったぞ。
ふっふっふっ、ここで香里の秘密を握り、いつも虐げられた者の恨み晴らしてくれるわ！
今こそ下克上の時！
待ってろ香里！赤き巨星は俺の足元に落ちるのだ！
「うっ・・・」
鋭い視線を感じて前を見ると、いつの間にか香里が振り向いてこっちを見ていた。
「ど、どうした？」
「別に・・・ただちょっと邪な気配を感じたから・・・・・・・・・変な事、考えていないでしょうね？」
「はっはっはっ、この世界一のジェントルメンと呼ばれる相沢祐一がそんな事考える訳が無いだろ？」
「そう？ならいいんだけど」
俺のジェントルスマイルにだまされおって。
まだまだ青いな。
「そうそう、先に言っておくけど」
「なんだ？」
「家捜しなんて考えないでね。間違ってもそんな事したら・・・・・・・・・・・・・狩るわよ」
「肝に銘じておきます」
・・・・・・初っ端から計画は破綻してしまったようだ。

美坂家にはまだつかないし、説明の続きでもするか。
こうして順調にお泊りのための準備が着々と進められているが、どうして『香里の家にお泊り』なんて１大イベントが発生したのかと言うとだ、今日は香里の家は誰もいないのだ。
両親と重病から奇跡の復活を遂げたアイスジャンキー栞（そんな事言う人嫌いですぅ～）は、今日から３日間温泉に行っているらしい。
何でも、いくら完治しても栞は病み上がりなので湯治にでも行こう、という事になったらしい。
ただ香里は明日、どうしても外せない用事があり、一人残ったそうだ。
もちろん栞は香里も来るように駄々をこねたが、次の機会には必ず一緒に行くと言う事で納得してもらったらしい。
しかし両親は納得しなかった。
三日間も女の子一人でいるのは危険だと主張していたのだ、当然だろうけど。
それでも香里が引かないとわかると妥協案を提示してきた。
三日間、誰かに一緒に居てもらう、つまり泊まってもらう事。
確かに一人よりは二人の方が安全である。
さらに、その人選を両親がする事も妥協案の一つだった。
そして、白羽の矢を立てられた人物が俺だった。
・・・・・・・・・・・・・・・なぜ？
話を聞いた時、５分ほど停止したぞ。
危険を回避するために、女の子が一人だけいる家に男を止める。
すっげぇ矛盾じゃん。
って言うか、かなりまずいだろ？いろんな意味で。
俺はそう香里の両親に言ったつもりだったんだが、いつの間にかお互い合意の下、人選は俺で決まったらしい。
・・・・・・何となく、何が起きたのかはわかっているが。
俺と美坂両親が話をしている間、横で座っていた秋子さん。
その手に在ったオレンジの物体。
悪夢再来。
あの時の記憶、なんか曖昧だし・・・。
俺を追い詰めて楽しいですか、秋子さん？
（了承！）
・・・・元気一杯な了承が聞こえたような・・・。
とにかく、俺が美坂家に三日間泊まる事になってしまった。
だが事はそう単純に終わるものでもなかいらしい。
その事を聞いた水瀬三姉妹。
もちろん長女の名雪、養女として引き取られた次女あゆ、同じく養女の三女真琴の三人だ。
この三人が話を聞いて暴れだしたんだ。
あゆはタイヤキもって部屋を壁天井所構わず駆け回るわ、真琴は肉まん咥えつつ狐火撒き散らすわ、名雪なんて寝ながらケロピーで俺を襲ってきたからなぁ。（て言うかなぜ俺？）
俺は思ったね、水瀬家っていつの間にか人外魔境？
更にその騒ぎは飛び火して、いつの間にか佐祐理さんと舞もいたし、気がつくと美汐が真琴を宥めていたもんなぁ。
極めつけは自分の家にいたはずの栞がやってきて「私も祐一さんとお泊りするですー！」なんて言い出しやがる。
お前の湯治のための旅行だろう？
お前が行かなくてどうする。
とにかく、名雪達を宥めて（おかげで俺の財布の中身が・・・）俺が美坂家へ泊まりに行くことが正式に決まるまで、香里はただ笑ってみているだけだった。
栞は妹なんだから何とかしろよと、目で問い掛けたんだが・・・。
（がんばって、相沢君）
と返されたもんさ。
まあ、そんな訳で俺は今日から美坂家へ泊まる事になっている。
泊まる限りは役に立てと、香里に買い物に荷物持ちとして連れ出されていたってわけだ。
で、今手にしているのは今日の夕食の材料だ。
パッと見ただけでも５、６人分はある量だがそれには理由があり・・・。

「相沢君？」
「ん？」
「なにボーっとしてるのよ？着いたわよ」
「おお、いつの間に」
説明に気をとられているうちに着いてしまった。
今までに何度か来た事があるが、今回のように泊まりは無かったなぁ。
しかし、こうして家の前まで来ると改めて思ってしまう。
年頃の娘が一人の家に泊まりに来たんだな・・・・・・すごい体験なんじゃないだろうか？
大体こういう時は同性の友達とかを誘うもんだろ？
なぜ同い年の男に頼む、美坂両親？
父親に至っては
（相沢君、娘をよろしく頼むよ。なぁに、間違いなんて起こるべくして起きるものさ）
なんて言ってきた。
・・・・・・・・・何を考えているんですか、おじさん。
まるで、間違いを起こせ！と言われた気分だったな、あの時は。
ま、一番不思議だったのは香里が反対しなかった事だな。
真っ先に反対するかと思っていたが、俺達（主に俺、そして水瀬三姉妹）が慌てている間、優雅に秋子さんが用意した紅茶を飲んでいたし。
う～む。
男として見られていないのだろうか？
「・・・わ君」
なんかそれはそれで悲しいものが・・・・・・。
それとも信頼されているのかな？
「・・・沢君」
・・・・・・そう思う事にしよう、俺の精神的安息の為にも。
それにしても、二人で買い物に行って、同じ家に帰ってくるとなんか・・・。
「相沢君！」
「おわっ！な、なんだ？」
「なんだ、じゃないでしょ。いつまでこんな所で突っ立っているのよ」
「あ、ああ。いや、ちょっと考え事を」
「考え事？相沢君が？」
むっ！
どうせくだらないことでしょ？
と香里の目が雄弁に語っておるわ！
おのれ、生意気な香里はコークスクリュー気味のセリフで恥ずかしがるがいいわ！
「いやぁ、こうして二人で夕飯の買い物をして同じ家に帰ってくると、まるで新婚みたいだと思ってな？」
ぐはぁ！
し、しまった、これは俺にもダメージを与えるセリフだったか！
だが！
この俺でさえ吐血しそうなほどダメージを受けたんだ、香里など・・・。
「な？！な、なに馬鹿の事い、言っているのよ！」
なんてどもりながら真っ赤になる事間違いないわぁ！
そう思い隣を見てみると・・・。
「・・・・・・・・・ふっ」
な、なんだそのリアクションは！
なにを馬鹿なこと言っているのかしら？はぁ～やれやれ。
なんて聞こえてきそうな態度！
こ、これでは香里にダメージを与える事はできないというのかぁ！
それでいて俺はキッチリダメージを受けている。
い、いわゆる自爆という奴か？
く、くぉぉぉぉぉぉぉ！
「もう、いつまでそうしてるの。入らないつもり？」
漢泣きを披露している俺に、半ば呆れながらも声をかける香里。
「ちくしょう、いつかリベンジしてやるからな」
「まったく、なんの話よ」
一人炎を燃やしている俺を置いて、玄関まで行ってしまった。
「お、おいちょっと待ってくれよ」

「ちょっと待ってて」
ポケットからカギを取り出している香里。
その横で両手に荷物を持って扉が開くのを待つ。
なんかホント、新婚夫婦みたいな光景かもしれないな。
うっ・・・もう考えるのは止めよう、変に照れてしまう。
「そうね、聞いてるだけでも恥ずかしいもの」
「・・・口に出してたか？」
「ええ、しっかりと」
「はぁ・・・」
いい加減この癖も直さないとな、でないと隠し事一つできなくなっちまう。
ガチャリ
香里が扉を開けて入っていく。
「ただいまー」
さて、俺はなんて言って入ればいいんだ？
やっぱ「お邪魔します」か？それとも「ただいま」だろうか？
いやいや、ここは捻りを加えて「今帰ったぞー」と、すると香里が「お帰りなさい、ご飯にします？それともお風呂ですか？」なんて・・・・・・佐祐理さんでもないんだから。
無難に「お邪魔します」と言って入ろうとして、たたらを踏んだ。
「おい、早く入ってくれないと俺が入れないぞ？」
香里が玄関先で立ち止まっていた。
俺の声に気が付かなかったのか、彼女は視線を先に向けたままボンヤリとしている。
「香里？」
どうしたんだ？
そう思い、彼女の視線を追ってみる。
そこには何も無い。
廊下に二階へ続く階段、リビングへの扉、書斎、彼女の両親の寝室、そしてキッチン。
何かが壊れているわけでもなく、不審な物があるわけでもない。
以前来た時と変わらない風景。
・・・・・・・・・・いや、一つだけ違う点があった。
人の気配がしない。
栞と香里の部屋がある二階も、おばさんがお菓子を用意してくれているキッチンも、ごく偶におじさんが出てきて挨拶をしてくれる書斎からも、俺が来た時はいつもお邪魔する事になるリビングも、何処もかしこも人の温もりが無い。
冷たい空気だけがこの家を支配し、無音の気配だけが住人になっている。
栞と両親は朝早く温泉に行ったから、これは当たり前の事。
それでも、いつもあるものがないとこんなに寂しく感じられるものなのか。
「・・・・・・もし」
香里？
「もし栞が・・・・・・栞の病気が完治しなかったら、こんな風になっていたのかも知れないわね」
口調はいつも通りでも、声色は色が無く固い。
口にするのは今ではあり得ない現実、しかしありえたかもしれない未来。
「栞がいなかったら・・・・・・・・・・・・あたしが栞を拒絶し続けていたら、この風景が待っていたのかもしれないわね」
「・・・・・・それは今じゃ無意味な推測でしかないだろ？栞は病気を克服し、お前はあの時の栞を受け入れたんだから」
香里から危うい「何か」を感じて、俺は俺に言える事を口にする。
それでも香里から「何か」は消えない。
「おい、香里？」
なんだか香里が空っぽになっていく気がして、その「何か」が香里をどこか遠くへ連れて行くように感じられて、俺は慌てて声をかけた。
「・・・・・・ごめんなさい、なんでもないわ」
漸く返ってきた返事、それはすぐに崩れてしまうような脆さを帯びていて・・・。
「大丈夫か？」
「・・・・・・ええ、大丈夫よ」
振り返りもせず、再び帰ってくる返事。
さっきから何も変わっていない声色、乾いた言葉。
だけどそれは、あの夜、香里が胸の内を、己の弱さを、悲しみを、俺に吐き出し、やり切れない現実に涙した時の何かと同じな気がして、思わず大きな声を上げていた。
「香里！」
ビクッ！
すぐ側で上げられた俺の大声に、ゆっくりと振り向いた彼女の瞳は焦点が合っていない。
だけど俺を視界に入れた香里はまるで、今初めて俺がいる事に気がついたような表情をして、次いで瞳の焦点も定まっていく。
俺に・・・・・焦点が合う。
「あい・・・ざわ、くん？」
「香里・・・・・・大丈夫か？」
いつの間にか彼女の両肩に手を置いていたが、そんな事を気にして入られない。
真剣な俺の顔を香里の瞳の中に確認できるぐらい、俺は彼女を見つめ、彼女も惚けたように俺を見つめつづける。
そうしていて、しばらくした時、俺は香里の瞳の中に力強い意思が見えた気がした。
「・・・手」
「え？」
「手、離してくれる？」
「あ、ああ・・・悪い」
慌てて手をどける。
でも聞こえた声には、さっきまでの虚無感とでも言うものは感じられず、それを確認する為にもう一度問い掛けた。
「大丈夫・・・・なのか？」
その問いに答えずに、香里は靴を脱ぎ廊下に上がる。
「お、おい」
「大丈夫よ」
振り返った彼女。
聞こえてきた色を取り戻した声と、さっきまでと打って変わった綺麗な微笑みに・・・・・・・俺は魅入ってしまった。
「・・・・思い出したから」
「な、なにを？」
顔に血が上るのを意識しながら、何を思い出したのか聞いてみた。
「・・・・・・相沢君がいる事」
「え？」
「だから・・・もう大丈夫」
最後にもう一度、淡い微笑を見せて香里はキッチンへと歩いていった。
「・・・・・・・・」
初めて見たかもな・・・・・・・香里があんな風に笑うの。
思わず見惚れてしまった。
・・・・・・まずい、な。
あんなの見せられたら・・・・・・。
「ちょっと相沢君、何ぼさっとしてるのよ？さっさと荷物運んでくれない」
キッチンから声だけが聞こえてきた。
それはもういつもの香里に戻っていて、頭に上っていた血を何とか下げてくれた。
「ああ、わかってるって！」
「早くしないと名雪達が来ちゃうわよ」
「わーってるって！」
そう、最終的に俺がこの家に泊まれるようになったのは、名雪達（名雪、あゆ、真琴、舞、佐祐理、美汐、そして何処から聞いてきたのか北川）もお邪魔するという条件を美坂夫妻が承諾したからだ。
最も、泊まるのは俺だけで、名雪達は夜には帰る事になっている・・・・・・予定では。
大量の食料もその為の物だ。
でも、かなりの確立で名雪達も泊まっていく事になってしまうんだろうな。
今の俺には好都合だけど。
あんな笑顔、もう一度見せられてみろ・・・・・・・夜、俺がどうなるか予想できんぞ。
そんな事を考えながらキッチンへ。
「ふへぇ～、重かった」
「それじゃそれ、冷蔵庫に入れてね」
「おいおい、まだ終わりじゃないのかよ？」
「でも、私達って新婚なんでしょ？」
「へ？」
思わぬ言葉に顔を上げる。
そこには先ほど比べて遜色ない笑顔の香里。
「夫婦は助け合うものじゃないの、あ・な・た？」
「な？！」
おそらく真っ赤になっているであろう俺を見て、クスクス笑みを浮かべている。
からかっているだけだろう、それはわかっている。
だけど・・・・・・あんな笑顔であんな事言われたら。
「・・・・・・間違いを起こさずにいられる自信は無いぞ」
「あら？間違いって言うのは起きるべくして起きるものよ？」
四度目の笑顔が俺を貫いていった。
・・・・・・・・・・あぁ、まじでヤバイなぁ。

俺は”楽しげに”危機感を感じていたのだった。

投票結果

Kanade (採点:4)
確信犯的香里さんは、素敵。この人は理詰めで相手から告白させるような人だと思うのですが。

ガウガウ (採点:5)
素直になれない香里らしさがあって良かったです。

あきらくん (採点:5)
普段はクールな香里の、さまざまな表情に引き付けられます。

烏賊悪魔 (採点:2)
前半のギャグと後半のシリアスのギャップが不自然に感じた。前半の香里の表情の説明があるとよいかも。

荒野草途伸 (採点:4)
ま、ギャグだし

天桜祐輝 (採点:5)
是が非でもこの続きが読んでみたいっ！

十七夜 (採点:4)
香里は誰よりも孤独だったのかもしれないなぁ、とか思ったり。

ugen (採点:3)
ストーリーにいまひとつ推敲が足りない

グＥ (採点:3)
香里と祐一の微妙な雰囲気が面白かったです。

かずき (採点:1)
なんだこりゃ

kuryu (採点:1)
話のめりはりがなく、だらだらしたかんじがしました。

みちやづき (採点:4)
ここで途切れてるのは非常にもったいないですね。ホントずるいですよ（笑

橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。誤字脱字も多過ぎる。作中から主人公が語りかけてくるのはそういう作風なのだとしても、そこに文章力というものが存在していないので非常に鬱陶しい。ギャグの部分がつまらない。

雨音 (採点:4)
香里の方が一枚上手なラブラブものって良いですね～♪

naoki (採点:3)
どっちかにして欲しいです、個人的には。

ANJU (採点:4)
冒頭があまりに下手です。構成・文章、結構ハイレベルだと思うので勿体ないです。作者視点で貫けば見事なコメディーになると思います。シリアスほのぼの、では無いと思いますが(^^;;

taka (採点:4)
ほのぼの～・・・、でもラブ～♪結構いい感じでしたよぉ・・・。私的に。

はぐ (採点:1)
採点不能「読むのやめました」

全採点
5点 : 17
4点 : 40
3点 : 49
2点 : 28
1点 : 17

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