オープニング争奪戦
「――それじゃ皆さん、手筈通りお願いします」
不気味な空気漂う薄暗い空間の中、女性たちが香里の言葉に頷く。
「『プロローグ争奪戦！ 私たちにも愛の手を』作戦！」
「お姉ちゃん、そのネーミングどうにかならなかったのかな……」
腕を組んでフフフと笑う香里の耳に、栞の呟きは聞こえてはいなかった。
「えっへへ〜♪ ゆういちっ、ゆういちっ、だお〜♪」
妙な歌を歌いながらスキップする名雪の姿に、すれ違う生徒たちは怪訝な顔をして振り返る。
フニャフニャに崩れ、緩んだ表情はあまりにも不気味だった。
それも仕方の無いこと。
幾度と無く繰り返してきた祐一との７年振りの再会シーン。
いつもならワザと２時間遅れていくよう神の啓示があるのだが、今回は遅れずに再会して良いらしい。
粋な計らいである。
おかげで、祐一に悪い印象を与えないで済む。むしろ、早い段階で祐一とラブラブになれるかもしれない。
そう考えただけで、思わず祐一が待つ駅に向かう足も速くなる。
「お昼〜、お昼だよ〜。祐一迎えに駅前に行くよ〜♪」
「名雪〜」
ノリノリの名雪の後方より、聞き慣れた親友の声が聞こえてきた。
「あれ、香里。どうしたの？」
「ちょっと百花屋に行こうとかと思って。名雪もどう？ イチゴサンデー奢るわよ」
「うっ……」
好物のイチゴサンデーの名を聞いて、名雪が一瞬だけ固まった。
しかし、今日の名雪は一味違った。頭を振ると、イチゴサンデーの甘い誘惑を打ち払った。
「き、今日は遠慮しておくよ。大切な用があるから」
「そう言わずに――ね？」
「結構だよぉ〜」
何か、香里の様子がおかしい。
なおも食い下がる香里から後ずさり、名雪は一目散に駆け出していった。
「……陸上部部長だけあって、流石に逃げ足は速いわね」
香里は駆け出していった名雪を眺めながら、懐から携帯電話を取り出して通話ボタンを押す。
「こちら『カオリン』。目標『イチゴスキー』は駅方面に逃亡中。全員にその旨を通達のこと。私は後を追うから」
用件だけを述べて携帯電話を切ると、名雪が走り去った同じ方向に走り出した。
「逃がさないわよ、名雪？」
暫くの後の駅前――
「うー、うー」
「大人しくしてなさい、名雪」
「香里も、あゆちゃんも、皆々極悪人だよ〜」
縄でグルグル巻きにされて地面に転がされている名雪がもがいていた。
まるでみの虫のようである。
名雪は香里を始めとする女性人の執拗な追撃に合い、祐一との待ち合わせの場所まであと数十メートルというところで捕まってしまった。
あゆのタックル、舞の刀攻撃等を交わしつつ何とか逃げていたのだが、真琴が放ったぴろの誘惑に足をとめたところで、あっさり捕まってしまったのだ。
「さて……と。一番の問題は片付いたわ。あとは……」
ヒュンッ！
背後から聞こえる風を切り裂くような音に、香里は反応して拳を振り向き様に拳を繰り出す。
ガキッ！
金属がぶつかり合う音が響く。
「川澄先輩……そんな物騒なものを振り回すのは危険だと思いますけど？」
「大丈夫……峰打ちだから」
香里の手には、いつの間にかメリケンサックが装着され、舞が繰り出した刀の攻撃を受けていた。香里の表情に余裕の笑みが浮かんでいる。
気づけば、香里と舞の周りで、乱闘が開始されていた。
「ごめんなさい、あゆさん。私と祐一さんの輝かしい未来の為に逝っちゃって下さい」
「栞ちゃん、その手にもってる怪しい茶色の瓶は何っ！？」
「ぴろ、やっちゃえーっ！」
「あははーっ、そんな猫じゃ佐祐理は止められませんよ。それと、そこの官警の方々も邪魔したらどうなるか分ってますね？ そして、影が薄いからといって、こっそり祐一さんの所に向かっちゃ駄目ですよ、天野さんっ」
「……誰が影が薄いんですか、誰が」
騒ぎに人が集まるも、誰もこれを止められるはずもなく（無論、騒ぎを聞きつけた警察官も佐祐理の言葉に動けず）、女性の熱く醜い乱闘が続けられた。
乱闘の側で、縄で縛られてみの虫状態にされていた名雪が、器用に尺取虫が如く移動していたことに誰も気づいていなかった。
約束の時間まで、後数分――。
急げば、まだ十分に間に合う。
「祐一、今行くよ〜」
――プロローグまであと少し。
駅前の時計が１時を指したとき、相沢祐一はぐったりとベンチにもたれかかった。
本来ならば、祐一はこの場所であと２時間待ち惚けを喰らう事になる。
「名雪が来るのを、あと２時間も待たにゃならんのか……ヤレヤレ」
名雪が時間通りに来ようとしているのを知らない祐一は、ため息を吐いて項垂れた。
項垂れた祐一の視線の先に、女性用の茶色いブーツがあった。同時に、さっきまで頭上に降りかかっていた雪の冷たい感覚が無くなった気がした。
見上げると、一人の女性が祐一に傘を掲げていた。
「秋子……さん？」
「お待たせしました、祐一さん。寒かったでしょう？」
まさか名雪かと思っていたが、予想に反して母親の秋子の方が立っていた。
「えーっと……確か電話では名雪が来るはずじゃあ……」
「用事が出来たみたいで、遅れると言ってました。だから、私が代理です」
「はぁ……」
予想外の出来事に戸惑いつつも、祐一は腰を上げた。
２時間も寒空の下に居なくて良いなら、その方がマシだ。
「あ……」
立ち上がった祐一を見て、秋子が感嘆の声を上げる。
「どうしました？」
「背が伸びましたね……昔はこんなにちっちゃかったのに。今は私が見上げないと祐一さんの視線に届きませんね。それに……」
ゆっくりと秋子は祐一に近寄り、
「キスも少し背を伸ばさないと、出来ないみたいですね」
本当にキスをするように祐一の身体に体重を乗せる。
「あ、あ、あ、秋子さん！？」
「ふふ、冗談です」
笑みを浮かべたまま離れる秋子は、まるでいたずらっ子そのものだった。
「お帰りなさい、祐一さん」
「……ただいま、秋子さん」
それはまるで、長い間離れ離れになっていた恋人を迎えるような挨拶であった。
祐一と秋子から少ししか離れていない場所で、名雪はえぐえぐと涙を流していた。
「お母さんが一番極悪だよ――っ」
その叫びは、突風によって掻き消され、祐一に届く事は無かった。
勿論、共倒れになって全員倒れて気絶している香里以下のメンバーにも、届く事は無かったという。
投票結果
空明美 (採点:4)
秋子さんは最強です。最恐？
TOM (採点:4)
落ちで少し楽をしてしまったな〜って感じですが、上手い作品ですね。
KOU (採点:3)
秋子さんはやっぱ無敵っす
ジャンガリアン (採点:4)
やはり秋子さんが百枚ほど上手ということですねｗ
グＥ (採点:2)
途中のバトルシーンで全員の登場シーンをもうちょっと迫力のあるものにしてほしかったように思いました。後…、ギャグが私にはあいませんでした。
Kanade (採点:3)
香里最強拳伝説というのは、誰が始まりなのでしょう
かずき (採点:1)
ギャグにしては笑える所はないし、壊れにしては弱いし、いいとこなし。
プリン＝アラモード (採点:5)
秋子さん！！！！
荒野草途伸 (採点:4)
秋子さん、犯罪です！
雨音 (採点:1)
秋子さんオチはベタかと（苦笑
Lv2 (採点:3)
話の発想は面白いと思いましたが、オチがありがちだったのが少し残念です。
アーリマン (採点:2)
王道ですね
Ｂ・Ｃ (採点:3)
秋子さん強し！？最後の名雪がなんか好き。
烏賊悪魔 (採点:4)
手法は悪くない。もう少しシナリオが長ければいい得点がついたと思う。
紅 虹葉 (採点:2)
最後の最後で・・・やっぱり秋子さんは最強ですねぇ・・・
sein (採点:4)
こういうＯＰもいいかも……秋子さんというのも
コーダイ (採点:5)
やっぱり秋子さんがもってきましたね
すなふ (採点:4)
なんかもう、よく分からないけどでも良い、ということで。
kuryu (採点:2)
なんか、きらりとセンスが光ります。
殺陣倉Xp (採点:4)
ええ、じつは私秋子さんを攻略しようと思ってました。まだ何も知らなかったとき（獏
おーふな (採点:4)
惜しい！ この展開なら、オチの前のフリと言うか、タメがもっと必要だったのでは。
舞耶 (採点:3)
秋子さん極悪ですｗ
tabibito (採点:4)
秋子さん、良い所を持っていってますね。正に親の総取り
Ｇａｒａ (採点:2)
楽屋ネタ過ぎて笑いにくいです。
ugen (採点:2)
ヒロイン争奪戦での秋子さんが漁夫の利はもはやお約束。
ＮＧ翁 (採点:4)
何回も繰り返してきたポロローグをめいっぱい楽しんだ文章展開に賞賛を。っていうか面白かったっす（＾＾）
橘征五郎 (採点:3)
構成は割としっかりとしているのだが、いかんせん短過ぎ。争奪戦を繰り広げているアクションシーンをもっと書き込むとギャグとして面白みが深まる。秋子さんオチはありきたりではあるのだが王道で、しかもしっかり萌えさせるように描いているのは好感が持てる。
naoki (採点:2)
秋子さんって便利ですよね。
taka (採点:4)
秋子さん、最高です。おいしいとこ取りこそ華です。
全採点
5点 : 6
4点 : 39
3点 : 65
2点 : 50
1点 : 19
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