いつの日か…きっと
「ぜ…絶対に、手、離さないでよ…」
今にも泣きだしそうな声。
「わかった、わかった…だから、くっつくな〜」
「うう〜…祐一の意地悪…」
そう…私は、夜風の吹きすさぶ薄暗い街を、祐一と一緒に歩いていた。
ひょんな事から、そうなってしまったんだよ。
「名雪〜…早く来ないと、置いてくぞ」
そういったと思うと、足早に歩いていってしまった。
「わ…待ってよ〜」
やっぱり、祐一は意地悪…。
けど…。
「きゃっ！？」
「どうしたっ…名雪！？」
「な、何でもないよ…」
「ただ、柳の木が幽霊か何かに見えて…」
「はははっ…あれが幽霊だって？」
「あれが幽霊なら、名雪はさしずめ猫娘ってとこだな」
「うう…酷いよ〜」
「そんなに怖がりな奴には…こうだっ」
「わ」
唐突に体が、がくんと引き寄せられる。
照れ気味に、彼はこう言った。
「…こうすれば、怖くないだろ？」
肩にそっと、手をかけてくれる。
祐一は、やっぱり優しい人。
「わ…やめてよ…恥ずかしいよ〜」
つい、言葉にも無い事を口走ってしまう。
「…ゆ、祐一」
「ん？…何だ、名雪？」
「え…えと…」
「…暖かいよ」
「…にしても、アレだな」
「え？」
「陸上部の部長って、大変なんだな…こんな時間にまで部活動があるのか？」
恥ずかしいのを我慢して、いったのに…。
「う、うん…部長さんも、大変なんだよ」
さり気なく、かわされてしまった。
「そうか…部活も大変なんだな」
「うん…祐一は、部活動はやらないの？」
「俺か？」
「そうだよ」
「そうだな…何か、始めてもいいんだけどな」
「陸上部に来ない？…祐一だったら、運動神経良さそうだし…」
「めんどくさいから、嫌だ」
「う〜…残念」
そんな他愛無い話をしながら歩くのが、たまらなく嬉しかった。
祐一と歩くだけで、いつもの街が違う街に見えた。
「ん…この通りは？」
「え？」
「昔、二人で良く並んで歩いてたよな」
「…うん」
「あの店なんて、通るたびにネコ買うってダダこねられて大変だったんだぞ」
「祐一」
「うん？」
「覚えててくれたんだ…」
「ま、まぁな」
「嬉しい…」
「他にも、沢山覚えてるぞ」
「え？他には、どんな事？」
「そうだな…例えば…」
楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってゆく。
「でね…って、聞いてる？祐一」
「ん…ちゃんと聞いてるぞ」
「名雪が、いつ、芸能界プロデビューを果たすかって話だろ？」
「うう…全然違うよ〜」
「頑張って天下取れよ、応援してるからな」
「う〜…」
「お、名雪、家に着いたぞ」
「え、もう？」
ガチャ
「お帰りなさい、祐一さん」
「ただいま〜、秋子さん」
「名雪もお帰りなさい…今日は遅かったのね？」
「うん…部活が長引いちゃって…」
「そう…早く着替えて降りてきなさい。すぐ夕飯にするから」
「は〜い、お母さん」
ガチャ
とりあえずは、自分の部屋に戻ってみる。
「ふぅ…今日は、祐一といっぱい話せたよ♪…けろぴー」
けろぴーをぎゅっと抱きしめながら、今日あった出来事を話す。
「祐一も、昔の事を思い出してきたみたいな事だし…凄く嬉しいよ」
「この調子で、あの頃の事も思い出してくれたらいいのにね…」
あの時の出来事は、今でも鮮烈に覚えている。
泣きじゃくる祐一、崩れ落ちる雪うさぎ。
そして…待ち続ける私。
それは、今でも変わらない光景。
すごく辛いけど…今は、あの頃とは違う。
「今は…側に祐一が居てくれるからね♪けろぴー」
「名雪〜、秋子さんが呼んでるぞ〜」
「うん…わかったよ」
「んしょ…っと」
手早く、着替えを用意する。
クラッ
その時、体に妙な違和感を覚えた。
「…うにゅ？」
何だか体の調子がおかしい。
おまけに、頭もクラクラする。
「うにゅ…何だか体がけだるいよ…」
夜風に当たり過ぎたのが、いけなかったのだろうか？
「名雪〜ご飯だから、早く降りてきなさい」
お母さんが呼んでいる。
「早く着替えなきゃ…」
（祐一サイド）
「それにしても、遅いですね…名雪のやつ」
「そうね」
「また、お昼寝でもしているのかしら？」
「そうですね…今日は、疲れてたみたいだし」
「祐一さん」
「はい？」
「少し、名雪を起こしてきてもらえるかしら？」
「いいですよ」
「ごめんなさいね…私だとなかなか起きないから、あの子」
「じゃぁ、ちょっくら起こしに行ってきますね」
「はい、お願いしますね。祐一さん」
「私…お昼寝なんて、してないのに」
トントントントントン…
1階から、祐一が駆け上がって来る音がする。
コンコンッ
「名雪…入るぞ〜」
ガチャッ
「わ…わ…」
「何だ…ちゃんと起きてるじゃないか」
「ん…どうした？布団の中でうずくまっちったりなんかして」
「ゆ、祐一…すぐに行くから、先に行ってて…」
「そうはいくか。ほっといたら、またこのまま寝ちゃうじゃないか…名雪は」
「そんな事無いよ〜…す、すぐに行くから」
「ふぅ〜ん…なら、しょうがないな」
祐一が、ふっとこちらに向っていイタズラげな微笑を浮かべる。
なんだか、嫌な予感がするよ…。
「そんなにすぐに寝ちゃうやつは…こうだっ！！」
ガバァ
そう言うと、祐一は思いっきり名雪を覆う毛布を引っぺがした。
「きゃっ！！」
「えっ？」
「う〜…ひ、酷いよ…祐一」
私は、涙目になりながら、布団の中に再びもぐりこんだ。
「……す、すまん」
「まだ…服、全部着れていなかったのに…」
「それならそうと、言えばよかったんだ」
「そんな恥ずかしい事…言えるわけないよ」
「あはははは…ま、まぁ、あれだ」
「男と女が同居していたら、たまにはこんな事もある…単なるアクシデントだ」
「けど、今回のは絶対に祐一が悪いよ」
「俺はちゃんと、ノックしたぞ」
「返事もしないのに、勝手に入ってきた」
「う…」
「祐一の意地悪…」
私は、本当に怒った。
好きな人だからこそ、事故なんかで裸を見られたくないのだ。
「な、名雪…そんなに怒るなよ」
「イチゴサンデー三杯で、手を打つよ」
「お前なぁ…」
「…う、うにゅ」
「ん？どうした、名雪？」
「な、何でもないよ」
体中が、火照って熱い。オマケに何だか息切れも激しくなってきた。
「なんか顔が赤いな…お前、熱があるんじゃないのか？」
「ちょっと頭貸してみろ」
フラフラになりながら、祐一に額を差し出す。
「………！！…凄い熱じゃないか」
「そ、そんな事ないよ」
「名雪」
「うにゅ？」
「お前…今日はもう寝てろ」
「だ、ダメだよ…お母さんがお料理作って待ってくれてるし…それに、宿題があるんだよ」
「秋子さんからは、ちゃんと俺から言っておいてやる…宿題も、明日俺のを見せてやるから」
「…うん」
「それと」
「それと？」
「今日は名雪が眠るまで、ずっとそばにいてやる」
「え？」
「秋子さんからの命令だ…何か名雪の調子が悪そうだったから、出切るだけ側にいてあげてください…だとさ」
「…そうなんだ」
「秋子さんのいう事だから、側にいてやるんだぞ？」
「…うん」
やっぱり祐一は優しい人。
照れ隠しに、別の話を持ち出してでも側にいようとしてくれる…。
「…ひっく」
「な、名雪？」
「くすっ…くすん」
「お、おいおい…何も泣く事はないだろ？」
「…嬉しいんだよ」
「祐一が側に居てくれるだけで」
熱っぽいせいだろうか…普段ならとても言えないようなセリフがどんどんと滲み出てくる。
「名雪…本当に、大丈夫か？」
「祐一…私の事、好き？」
「え？」
「私の事…好き？」
「それは…」
「うにゅ…」
「な、名雪？」
自分の体質がとことん嫌いになってくる。
今日は歩きすぎたので、いつもより早く睡魔が襲ってきた。
「ゆう…い…ち」
「………」
「く〜…」
「名雪…」
「俺は…」
チュンチュン。
「…うにゅ？」
朝、雀のさえずる声で目が覚めた。
「私…寝ちゃったんだ」
「…祐一？」
当たり一面を、グルリと見回す。
「いない…」
「時計を見てみる」
10時36分。
「そっか…もう、学校にいったんだ…」
トントントントン…
1階に降りてみる。
「あら名雪…おはよう。もう、体は大丈夫なの？」
「おはよう、お母さん…祐一は？」
「うん…もう、大丈夫だよ」
「祐一さんなら、ついさっき出かけましたよ」
「そうなんだ…」
「名雪が起きるまで、ずっと側にいる…っていってたんですけど…私が、無理を言って先に学校にいかせました」
「名雪は…今日は、学校は？」
「あっ…うん…すぐに行くよ」
「そう…無理しなくてもいいのよ？」
「うん、大丈夫…行ってきま〜す」
すぐに身支度を整えて、玄関口に向った。
「お母さん、行ってきま〜す」
「はい、いってらっしゃい、辛くなったら我慢せずにすぐに言うのよ？」
「は〜い」
ヒラッ
「？」
靴を退けたとたん、置手紙らしき物が挟まっていたらしくふわっと宙になびいた。
それを、手にとって見てみる。
「わ…祐一の字だ」
一通り読んでみる。
「…やった」
やっぱり祐一は優しい人。
今はまだ、昔の凍りついた時はそのままだけれど。
少しずつ…少しずつ、氷解していくのが、手にとって感じられた。
いつの日か…きっと。
完
投票結果
久慈光樹 (採点:2)
視点変更が若干不自然かも。（祐一サイド）はないと思う……
かずき (採点:2)
地の文がおかしい。会話もずれがある。
TOM (採点:2)
なにかオリジナリティーとか、プラスアルファが欲しいです。
り〜だ〜 (採点:2)
なんかよくわからなかった・・・
グＥ (採点:4)
名雪と祐一のほのぼのとした雰囲気がとてもよかったです。
コータ (採点:5)
ほのぼの
kuryu (採点:2)
最後のメモの内容が気になりますね。
Ｇａｒａ (採点:2)
ラストをしめる重要な置手紙の内容が、読者に伏せられたままなのは問題。
ugen (採点:4)
誰のエンドも迎えなかった場合の後日談と言った感じで二人の空気がいい感じ
橘征五郎 (採点:1)
名雪は闇を恐がるようなキャラクターではない。萌えシチュエーションにそこらからキャラを持ってきて当てはめるだけではダメ。キャラとシチュエーション、それにそれらを支える文章力があって萌えは生まれるのだが、この作品は三つとも全て外してしまっている。
naoki (採点:3)
書置きの内容は大体想像つきますね。名雪ちゃん、かわいいです。
taka (採点:3)
にゅ〜。普通のほのらぶでしたのでそれなりによかったと思います。
全採点
5点 : 7
4点 : 14
3点 : 82
2点 : 37
1点 : 10
このSSは、作者の方に二次著作権が存在します。
転載、無断引用を固く禁止します。
戻る