佐佑理さん、舞さん！！漫才ですよ
「はぇ〜、漫才ですか？」
目の前にいる絶世の美少女、もちろん佐佑理さんの事だが、はその意味を解せずにいた。
「そう、舞に学園祭で漫才をやらせるんだよ！！」
オレはコブシを突き出し、力強く訴えた。
「何で漫才なんですか？」
その質問はオレが昨日寝ずに考えた佐佑理さんの反応の１９９のパターンの内の一つだった。
「佐佑理さん、舞と言えば？」
「ふぇ？舞と言えば、ですか。そうですねぇ、優しい、ですかね」
照れ笑いしながらも佐佑理さんは本人を前にしても臆せずにこういう恥ずかしい事が言える偉人である。
「ちっ・・・・があああああぁぁぁぁぁ・・・・・・ううううう！！」
オレの絶叫に佐佑理さんが思わずのけぞった。階段の踊り場でオレはさる大統領の如く聴衆二人に向けて演説を始める。
「オレは久瀬が密かに実施した三年生の問題児である川澄舞についてどう思うかアンケートの結果をくすねておいた。それによると、舞のイメージは・・・」
隣で我関せずといった素振りで黙々とお弁当をつついている話題の当人である舞の方を向いて宣告した。
「暗い！！怖い！！やばい！！・・・・が過半数。さらに肉食獣みたい、学内一の破壊屋、税金の無駄遣い等々・・・の痛烈なご意見が・・・このままでいいのか、舞？！」
それでも舞は視線をちらりと向けただけで滞りなくその箸を進め始めた。
「はえ〜、それはいけませんねぇ」
「さすがサユりん・・・・げふっ、失礼。とにかくこのままではいけな〜〜い！舞にはもっといい所がある。本当は動物に優しいとか、不器用だけど素直とか・・・ごほっ」
自分で言っていて恥ずかしくなった。
「つまるところオレが漫才でイメージアップを図るというのは舞のこの・・・・」
そういいながら舞が今まさに口に含まんとしているタコさんウインナーを運んでいる舞の箸にかぶりついた。と、その刹那・・・・。
ポカッ
「むぐ・・・これっ！！もぐもぐ・・・これですよ佐佑理さん」
オレは予測通り自分の頭に放たれた舞の手刀を指差しながら言う。その横で舞はふくれっ面をしている。
「この手刀による見事なツッコミを受けて思いついたんです。しかも漫才ならば舞の暗いイメージを見事に払拭！一石二タイ焼き！！」
「それはいい考えですね。佐佑理、関心しちゃいました。ところでその二タイ焼きって何ですか？」
「あっ、それは気にしないでください。そう言うと喜ぶ知り合いが居るものでして。それでですね、舞の相方にはやはり佐佑理さんが適任だと思うんですよ。やってくれますか？佐佑理さん」
「さ、佐佑理がですか？でも佐佑理はただの女の子ですから。漫才はしたことないですし、どうして佐佑理なんですか？」
さすがの佐佑理さんもおいそれとは引き受けてくれない。大体佐佑理が適任の理由は言える訳がない・・・・・佐佑理さんの天然がボケにぴったりだとは・・・・。
「やっぱり舞と一番息がぴったりかなぁ・・・と、舞もそれでいいよな？」
眼を舞の方へそらしながら言った。
「佐佑理がいいなら」
すっかり食べ終わった舞は大して考えもせずに言った。しかし、その一言が佐佑理さんに火をつけたらしかった。
「分かりました！佐佑理に任せてください！何としても舞のイメージをアップさせますから」
佐佑理さんはそのふくよかな胸を華奢な手でポンッと叩いた。二人がやる気を出してくれたのはいい事だが、オレがこの企画を考えた本当の訳はオレがただ単に舞が漫才をしている所が無性に見たかっただけ、とはもはや後日談としても語れない状況になっていた。
その時、すでに文化祭の一週間前。この時から二人の地獄の特訓が始まった。
「舞！違います。ツッコミはもっと鋭く鋭角４５度で」
「・・・・・なんでやねん」
舞が佐佑理さんの頭にツッコンだ。
「甘い！甘いですよっ、舞」
佐佑理さんは無意識なのか手本とばかりにオレの頭に何度もチョップを入れる。
「こうですよっこう！！」
ポカポカポカポカッ
「佐佑理・うぐ・さん・・・ちょっとやり・・いたっ・・すぎ・・ゲフッ・・・止めて・・あがっ」
その日、オレの身長が二センチ縮んだ。
「分かりましたか？」
「・・・やってみる」
ポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカッ
「なんで・・おぅ・・オレ・・で・・ため・・ぎゃぃ・・すんだ・・・いぎ・・」
オレの意識は遠のいていった。それでも二人の特訓は続いた。
「後三日・・・・今日から寝れませんよ、舞」
「・・コクッ」
「えっ？今日から寝ないの？」
オレの発言を聞いた佐佑理さんがじろりとこちらを見た。眼が完全に据わっている。しかもクマまで出来ていた。
「祐一さんは笑いを嘗めているんですか？この激動の若手乱立の時代。そんな気持ちでは天下なんて一生取れませんよ！！そんな気持ちの人が近くにいてはマイナスです！！反省してください！！」
「・・・はい」
・・・・・まずい、まずいぞ・・・オレが、オレが佐佑理さんの中の開けてはいけない何かおぞましいブラックコスモに触れてしまった。もう戻れないのか！！？
「では舞、シーン３２７、カット４８０。病院で医療ミスをして口に手を移植してしまった所からです！！」
気合満点で佐佑理さんが言ったなんか凄い超大作のようだ。映画をとれそうだ・・・佐佑理さんはコントに妥協を許さなかった。
「・・・ギコギコ、あぁしまった。さっそく医療ミスだ。どうしよう佐佑理くん」
舞が何の抑揚もない声でコントを始めた。身振り手振りも全くの素人だ。
「先生しっかりしてください。大丈夫、この手術室には今私達しかいません。どッかに隠しちゃいましょう」
・・・おいおい。物凄いぎりぎりのネタだな。
「おいおい佐佑理くん、そりゃ駄目だろう」
ポカッ
「「失礼しました〜〜」」
二人がぺこっと頭を下げた。
・・・ほ、本当にコレを公衆の面前でやるのだろうか・・・・シュールだ。シュールすぎるっっ
「どうでした？祐一さん。なかなかでしょう？」
佐佑理さんが至極満足気にやり終え、オレの意見を求めてきた。見た目は笑っているが眼の奥では獲物を捕らえるトラの如くオーラを放っていた・・・・半端なことを言ったら殺される、そう直感した。
「さ、最高でした。特に舞の駄目医者っぷりが・・・・・」
恐る恐る言ってみる。
「・・・・そうですよねっ。舞は本当に飲み込みが早くて助かります」
華が咲いたように満面の笑みを浮かべる佐佑理さん。オレは刑事の尋問をうまくかわした犯人の心境でホッと胸を撫で下ろした。
「・・・・・おいおい佐佑理くん、そりゃ駄目だろう・・・・」
その横で舞が黙々と練習を続けていた・・・・・やばい、このままでは舞にさらに危ないイメージが・・・・・。だがそんなオレの心配を他所に二人のコントは続き、その後オレは約３８本ものネタを見せられる事になった。
その日はもう文化祭の前日だった。佐佑理さんの必死の指導でコントはなんとか形になってきた。まぁ間違った形ではあるが。しかし、ここまで必死に練習していると練習場が階段の踊り場という性質上、人に目撃されることもしばしばあり「屋上に続く踊り場では何か部族の儀式が執り行われている」というあらぬ、しかしあながち間違いではない噂が流れた。しかし当の本人たちはそれを知ってか知らずかその練習の追い込みに余念がなかった。
「はぁはぁ・・・・舞・・・いいですか？」
佐佑理さんは息を切らし、何故か口の端から血が垂れていた。そのまま別のクラスのお化け屋敷のお化けになれそうだ。
「佐佑理・・・いつでもいい」
舞は舞で何故か服の裾はぼろぼろで、制服のショールはもうそこには存在していなかった。
「佐佑理・・・昨日家に帰ったら実家がジャマイカになっていました！！」
「そんな訳あるかい」
「佐佑理・・・実は好物は豚の背油です！！」
「そりゃ、太るでぇ」
「佐佑理・・・日本史か地理かで言えば地理です！！」
「そりゃ、地形（すげぇ）」
・・・・どうやらもうオレの手におえるレベルではないらしい・・・・。温かく二人を遠く、ずっと遠くから見守ろう。そう心に決めた。時の流れとは残酷なもので容赦なく文化祭当日が訪れた。
「はえ〜ドキドキしますねっ舞」
どうやら医者のコントをするらしい佐佑理さんの衣装はマニア心をくすぐるピンク色の看護婦姿だ。凄まじい気合である。逆にコントをしないほうがイメージアップかもしれなかった。
「佐佑理・・・きっとうまくいく」
舞ももちろん女医ルックだ。オレはその姿を見れるだけで漫才を薦めて良かったと思った。体育館の舞台裏にミニスカートの看護婦と女医がいるのは眼福を超えてそのまま絵になって額縁に収まりそうだ。
「では次は、三年生二人による漫才で〜〜す」
だみ声の司会者が二人の登場を華々しく伝えた。今までの出し物が歌など王道なだけに漫才という出し物に会場の期待はいやが上にも高まった。
「いきますよっ、舞！！」
「はちみつクマさん！！」
そして二人が舞台に踏み出た。その瞬間、
ゴオオオオオオ・・・・・
大きな轟音とともに舞台端の司会者が盛り上がった地面に吹き飛ばされた。
「魔物！！」
舞が瞬間的に判断し、叫んだ。
「祐一、剣を！！」
舞が用意周到に舞台裏まで持ち込んでいた剣をオレは舞に向けて思い切り投げた。
「佐佑理は傷ついた人を」
「分かった。舞、気をつけて」
舞はこくりとうなずくと身を翻し、透明だが確かにそこに存在している魔物へと一直線に駆けた。
「はあああ・・・・・！！」
舞は高く跳躍し、剣を横に凪いだ。舞台を見ている観客も首を一斉に振りながら一心不乱に舞の様子を眼で追う。
ギャアアアアアア・・・・・
けたたましい声とともに魔物は消滅した。
「みなさん、大丈夫ですか？」
終わったと見るや佐佑理さんがみんなの安否を気遣った。司会者を自らの膝に寝かせ格好と相まってその姿はさながらナイチンゲールだ。
パチパチパチパチ・・・・・・
これが観客の反応だった。果たして客が見世物だと思ったのか現実だと分かっているのかは定かではないが、佐佑理さんと舞、二人の懸命な姿に拍手が送られているのは紛れもない事実だった。その時、司会者が不意に立ち上がり言った。
「素晴らしい。こんな天使のような看護婦さんに看護されてぼかぁ生きてて良かった。女医さんの方も格好よかった！！最高の舞台です。この二人にもう一度盛大な拍手を！！」
その拍手はいつまでも永遠に鳴り続けるのかと思えるほどずっと二人に送られた。佐佑理さんはそれに笑顔で答え、舞は少し恥ずかしそうにしながら佐佑理さんの横でうつむいていた。
「結局、オレが手助けするまでもなかったか・・・」
オレは舞台袖でコントがウケなかった時用のお助け手品グッズを手に抱えたまま、そんな二人の様子を見ていた。
「はえ〜〜、結局、練習していたコントも無駄になっちゃいましたね・・・」
いつもの階段の踊り場で佐佑理さんが残念そうに呟いた。
「まぁいいじゃないですか、アレ以来校内好感度調査ではずっと舞と佐佑理さんが一位と二位を独占ですよ」
「そうですね。これも祐一さんのおかげです」
全てはうまくいったように思えた。何もかもが。しかし、一つだけ予想外の出来事が起こった。それは・・・
「・・・・おいおい佐佑理くん、そりゃ駄目だろう」
舞がボソッとオレの隣で呟いた。
「まさか舞が漫才にこんなにハマルとは・・・・」
「祐一さん、うかつでしたねぇ」
「・・・・なんでやねん」
舞のツッコミがオレと佐佑理さんに突き刺さった。
以上
投票結果
荒野草途伸 (採点:3)
最後は、まあよかったかな
烏賊悪魔 (採点:3)
祐一の『本編らしさ』が良くも悪くも出ている。シュールな祐一＆舞＆さゆりんの漫才的ギャグは○。
かずき (採点:4)
佐祐里さんが良い感じ壊れて、いいです。
きこ〜もと☆ゆに (採点:3)
舞と佐祐理の壊れ具合がとても好きです（なんか、佐祐理さんの違う一面が…）。でも、少しオチが弱かったかな…？
雨音 (採点:3)
漫才シーンも見てみたかったです
Ｂ・Ｃ (採点:3)
中盤展開が急すぎた感じがしますけど、終わり方がさっぱりしていて良いと思います。
TOM (採点:3)
文章が上手いです。ただ、展開を生かせていないところがいくつかあったように思います。
かれーまん (採点:4)
ツッコミのセリフを言う舞を想像して笑ってしまいました。
紅 虹葉 (採点:4)
まいまいが漫才・・・生で見てみたかった気もする・・・
Doll (採点:2)
実家がジャマイカになってましたって、これにつっこむのは半端ないですね。
アーリマン (採点:3)
おちがよわかたです。でも途中まではおもしろかったデス
kuryu (採点:1)
方向はいいと思います。もう少し練った方が。
はまのじ (採点:4)
ご都合主義をやるならこういうのじゃないとなー、と思う。
靖斗ＨＢ (採点:1)
「漫才が寒い」ことが全く生きてないです。
おーふな (採点:3)
面白い面白い。もう一捻り欲しかった感じはしますけど。
竹仙人 (採点:4)
終わり方がキレイでした。漫才のネタは、舞のダメ医者っぷりが面白かったです。
舞耶 (採点:3)
あのシュールさが・・・（爆）
グＥ (採点:3)
漫才の始めのねたがシュールでよかったです。後最後のオチもありがちかもしれませんが個人的には結構好きです。
ＮＧ翁 (採点:4)
なんかとってもシュールでございました。それでもメいっぱい笑わせていただきました。
ugen (採点:3)
勢いがあってよい
殺陣倉Xp (採点:5)
俺も見たいぞさゆりんの看護婦姿と舞の女医スタイル
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。ギャグとして致命的なことにネタがつまらない。それを自覚はしているのだろうが、つまらないということをネタにするのは単なる逃げ。また、恐らくネタを考えているのは佐祐理さんという設定なのだろうが、そこに佐祐理さんの個性が出ていない。文章も酷いレベル。
はぐ (採点:1)
「読むのは疲れました」 懸命に祐一をハイテンションにさせて盛り上げようとしてるのは解るけど、対比がおろそかになり過ぎてて、コメディとしては大減点。オチもとってつけた感じだし面白みはなかったです。
naoki (採点:3)
さゆりんのセンスに脱帽です。
taka (採点:1)
・・・普通に血の気が引きました。さむっ・・・。
全採点
5点 : 2
4点 : 24
3点 : 75
2点 : 45
1点 : 25
このSSは、作者の方に二次著作権が存在します。
転載、無断引用を固く禁止します。
戻る