shaking heart
燃えるような夕焼けが教室を真っ赤に染め上げていた。
放課後の教室には誰も残っていない。
つまり、俺一人だ。
机の上に腰掛け、気を落ち着かせるために深く息を吸った。
けど、そんなことには全くお構いなく、俺の心臓は激しく脈打つのをやめなかった。
「くっ、落ち着かねぇ・・・」
教室が閉め切ってあるせいか、それとも極度の緊張のせいなのか、体中から汗が吹き出してように感じた。
「落ち着け、落ち着け。汗かきの男は嫌われてしまうぞ。落ち着け」
何度も自分に言い聞かせる。
それでも、滴る汗は止まらなかった。
「落ち着け、落ち着け。暑いなら窓を開ければいいんだ。
俺としたことがこんなことにも気づかないとは・・・不覚、フッ」
窓を開けると、心地よい風が入ってきた。
その感触を味わいながら、真っ赤な夕日を見上げた。
「ハハッ、なんか青春って感じだな」
ガキのころ、こうやって外を見ているとよくからかわれたっけ？
なーに、青春してんだってな。
あのころは、青春に恥ずかしくなるくらいのことを憧れたいたなぁ。
スポ魂とか、恋・・・とかな。
思い出にふけってる間にいつしか汗は止まり、落ち着いていた。
ガタッ・・・
不意に聞こえた机の音。
少し驚き、そして、緊張して振り返った。
そこには、心待ちにしていた女の子の姿があった。
「話って、何？」
薄々感づいているのか、いつもと少し違う緊張した声だった。
まっ、放課後の教室に話があるって呼び出せば当然か・・・。
「あぁ、呼び出して悪かったな」
うわあ、ベタな返事。
ヤバイ、テンパってきてるのが自分でもわかる。
クソッ、もっとかっこいい方法を考えればよかったな。
いくらなんでも、これはかっこ悪すぎだ。
さっきまで高かったテンションが一気に下がっていくのが感じられた。
自己嫌悪に陥った男と話を待つ少女
長い長い沈黙のように思われた。
実際には、３０秒くらいだったのかもしれない。
逃げ出したいとさえも思っていた俺にはどうしていいのかわからなかった。
ただ、黙って立っていることしか出来なかった。
重苦しい空気を破ったのは彼女だった。
「夕焼けがきれいね」
そう言って、窓に近づいた。
さっきまでは少しあった二人の距離が一気に縮まった。
手を伸ばせば、触れることの出来るくらいの距離に・・・。
夕焼けを見る彼女の顔も、赤い光を浴びていた。
そんな見たことのない顔は、美しかった。
俺にとっては、夕日なんかとくらべものにならないくらいに・・・。
「こんなかっこ悪い状況で、かっこよく決めることなんて出来ないし、頭もよくない。
スポーツだってそんなに出来るわけじゃない。
でも・・・でも・・・おまえを、美坂を好きな気持ち誰にも負けない。
だから・・・だから・・・俺と・・・付き合って・・・くれないか？」
言った。俺は遂に言ったぞ。
今、美坂がどんな顔をしてるのか、ＯＫなのか、駄目なのか、怖くて美坂の顔を見ることが出来なかった。
そして、二度目の沈黙。
さっきみたいに後悔に悩まされる沈黙ではなく、自分の気持ちを伝えきったあとの沈黙。
そして・・・。
「き、北川君・・・・。わ、わたし・・・・あジリリリリリリリリリリリリリ・・・・」
あジリリリリリ？なんだそりゃ？
不思議に思って、目を開けるとそこには見慣れた部屋の中は、もちろん、俺の部屋だった。
「って、夢かよ」
取りあえず、ツッコんどいた。
どんなときでもギャグを忘れないのが俺のポリシー。
夢とはいえ美坂の返事は気になるなぁ。
"き、北川君・・・・。わ、わたし・・・・あ"
"あ"ってなんなんだ？
もしかして、"あなたのことが好きなの"の"あ"じゃねぇのか？
ありえる。
ってか、そう考えるのが自然だ。
他に、"あ"から始まる言葉なんてないしな。
オイオイ、美坂も俺のことを？両想いってやつですか。
俺は、うれしくなって、部屋の中を歩き回った。
飛び回ったとも言うが・・・。
「潤、朝から何やってるのよ？早くしないと遅刻するわよ」
突然ドアが開いて、母親の声が聞こえてきた。
教室に入ると美坂と相沢が話をしていた。
「オッス、二人とも」
「あっ、北川君、おはよう」
「よぅ、北川」
「なんか機嫌が良さそうね、なんかあったの？」
「いや、別に。俺はいつでも上機嫌だぞ。
そういえば、今日は早いじゃないか、相沢」
「あぁ、今日は名雪が部活で先に登校したからな。
これが本当の俺の姿だ」
「本当の姿ねー」
「なんだよ、香里、どういうことだよ」
「言葉通りよ」
ちょうどその時チャイムが鳴って、担任の石橋が前から、水瀬が後のドアから入ってきた。
部活のあとでも、遅刻しそうになるのはさすが水瀬だった。
ＨＲが始まっていた。
だけど、石橋の話なんか聞いていなかった。
俺はあることを考えていた。
それは夢のこと。
夢の中の美坂の言葉だった。
もしかしたら、あの言葉は"相沢君のことが好きなの"だったかもしれない。
その可能性は否定できない。
さっきも、仲良く話していたし、相沢は香里って名前で呼んでいる。
俺の知る限りじゃ、男で名前で呼んでいるのなんて相沢くらいしかいない。
くぅー、俺も香里って呼びたいぜ。
おっと、今はこれがメインじゃなかった。
相沢。
急に転校してきて・・・転校は急に決まってるなんてツッコミは置いといて。
メチャクチャ顔がいいわけでもない。
頭がいいわけでもないし、スポーツも俺と変わらないくらいだ。
でも、女子からは人気があった。
他のクラスや他の学年にも・・・。
考えれば、考えるほど不安が募っていった。
美坂は相沢のことが好きなんじゃないかって。
「北川、ぼっーとしてるんじゃない。ちゃんと話を聞きなさい」
石橋に注意されたが、そんなことはどうでもよかった。
ＨＲだけじゃなく、他の授業でも毎回のように注意された。
時間がたてば少しは気にしなくなるかと思ったけど、ひどくなる一方だった。
たかが夢のこと。
しかも、あれが本当に相沢のことかどうかもわからない。
何度もそう思っても、頭から離れなかった。
俺の頭の中では、美坂が相沢のことを好きだと決定されていた。
４時間目が終わって、昼休みなった。
いつもなら美坂たちと学食に向かうところだけど、今日は一人になりたかった。
「どうしたの？なんか変だよ」
水瀬が心配してくれたけど、俺はそれを適当に流して教室を出た。
「待てよ、北川」
教室を出たところで、相沢が声をかけてきた。
「本当にどうしたんだよ？お前らしくないぞ」
「そんなことはないぞ。俺はいつも通りだぞ」
できるだけいつものように振る舞ったつもりだったけど、それはひどかった。
「無理すんじゃねぇよ。なんか困ってるなら俺でよければ相談に乗るぞ」
「相沢・・・」
言えるわけがなかった。
美坂が相沢のことを好きかもしれないなんて・・・。
「そりゃ、俺じゃ頼りないかもしれないけどさ。
俺たち友達だろ？心配なんだよ」
「相沢・・・」
相沢は本気で俺のことを心配してくれていた。
そんな相沢をたとえ心の中とはいえ、ひどく言っていた自分が恥ずかしかった。
「相沢、お前もてるよなぁ」
「えっ？」
「ずっと不思議に思ってた。
なんでお前がそんなにもてるんだろうって・・・」
「・・・・・」
「メチャクチャ顔がいいわけでもないしさ。
頭もスポーツも並。
そんな平凡な高校生だけどさ、お前は・・・」
「おい、何言ってんだよ、北川」
「お前はいいやつなんだよ、相沢は・・・。
他人のことなのに、まるで自分のことのように悩むんだ。
悩んで、苦しんで、自分だって辛いのに、それでも、それでも、笑うんだよ、お前。
そうやって、みんなお前に助けられてきたんだよ。
そして、今度は俺を助けようとしてくれてる」
「北川・・・」
「お前さっき言ったよな。
俺たち友達だろって。
俺も友達だと思ってた、大切な。
でも、さっきまで俺、お前のことひどい風に思ってたんだぜ。
勝手に嫉妬して、勝手にお前を悪者にして、憎んでたんだよ。
ほんと、俺なんて友達失格だ」
そう言って、俺は相沢の前から走り去った。
そのまま俺は、屋上に駆け上がった。
途中涙が出ていたのか、踊り場で昼食を食べていた二人組の女の子が不思議そうにこっちを見ていた。
俺はフェンス越しに街並みを見ていた。
あがっていた息が落ち着き、少し冷静になっていた。
相沢は追いかけてこなかった。
今はそっとしておいた方がいいと気を遣ってくれたのだろう。
また、相沢にやられたな。
本当に自分が情けなかった。
相沢のことをひどく考えて、今も心配して、声をかけてくれたのに・・・。
ガタン
どうやら誰かが屋上にやってきたみたいだった。
でも、俺にはそんなことはどうでもよかった。
美坂もこんな俺なんかよりも相沢の方がいいだろうな。
ほんとっ、情けないよ、俺。
「こんなところで何してるの？」
そう言って、声をかけてきたのは美坂だった。
「美坂・・・」
「やっぱり、元気ないわね」
そう言って、美坂はフェンスに近づいた。
夢と同じように、手を伸ばせば触れられるくらいの距離だった。
ちらっと見た美坂の横顔はきれいだった。
「相沢って、いいやつだよな」
「えっ、相沢君？う、うん。そうね」
「あいつすげぇよほんとに」
「そうね。彼、本当にすごいわね。
一見普通の男の子なんだけど、心が強いっていうのか、本当に困ったとき助けてくれるのよね。
わたしも、妹の栞も、彼に助けられた。
わたしは、栞を拒絶した時期があった。
でも、彼は最後まで栞のそばにいてくれた。
それだけじゃなく、わたしと栞の仲まで取り戻してくれた。
わたしは、ただ自分が悲しみたくないって、それだけだったのに。
「美坂・・・」
「だから、彼には感謝してるわ。
今、こうやって笑っていられるのも、彼のおかげだから。
やっぱり、美坂は相沢のことが好きなのだろうか。
「俺は相沢みたいにはなれないな・・・」
「フフッ、そんなの当たり前じゃない。
相沢君は相沢君。
北川君は北川君なんだから」
「俺は俺？」
「そう、相沢君にいいところがあるように、北川君には北川君のいいところがあるのよ」
「俺のいいところ？」
「大体ねぇ、あなたが今日みたいに落ち込んでいたら、はっきり言って迷惑なのよ。
わたしたちまで暗くなっちゃうでしょ。
あなたはいつも明るく振る舞ってくれなきゃ駄目なのよ。
もう、あなたのせいで今日はつまんない一日だったわ」
キンコーン、カーンコーン
「あっ、もう昼休み終わっちゃう。
もう、お昼ご飯食べれなかったじゃない」
「いいダイエットになっていいぞ」
「わたしはそんなに太ってないわよ、もう。
フフッ」
「ハハッ、俺、ばかだよな？」
「本当に、あなたは大ばかよ。
でも、それが北川君らしいけどね。
それにそんな北川君そんなに嫌いじゃないしね」
「えっ・・・」
「ほら、早くしないと授業に遅れちゃうわよ」
そう言って、美坂は走り出した。
うれしかった、美坂の言葉が。
俺はまだこんなに駄目なやつかもしれないけど、絶対、相沢なんかに負けないくらい、いい男になるから・・・その時は・・・その時は、ちゃんと言うよ、好きだって。
「まてよ、美坂」
俺は走り出した。
今までの自分に別れを告げて、新しい自分に生まれ変わるために・・・。
Fin
投票結果
荒野草途伸 (採点:3)
可もなく不可もなく。ま、ホントは不可はあるんだけど、私情は押さえて・・・
かずき (採点:3)
可も無く、不可もなし。
TOM (採点:2)
自己完結しすぎてる北川がちょっとイケてないです。でも、ラストは結構好きです。
kuryu (採点:2)
また、なんか、がんばるぞって感じになるいい話です。
り〜だ〜 (採点:3)
北川ってこんなキャラにしていいの？
グＥ (採点:2)
最後に相沢と北川のことに付いて書いてほしかったなぁ・・・と思い残念でした。
舞耶 (採点:3)
うむ！北川君なりの悩み・・・？（汗）
tabibito (採点:4)
北川君の気持ちが良く伝わってくる、いい作品だと思います。
ugen (採点:3)
等身大の北川君がうまく書けている。
musu (採点:1)
わたしっていうくらいなら、あたしって書け。
橘征五郎 (採点:1)
まずは基本的な文章作法の勉強を。この作品は思い込みの激しい北川を笑うというギャグだと思っていたのだが、オチがなかったことから考えるともしかして違うのだろうか。どちらにしろ中途半端。キャラクターの個性も掴めていないし、文章のレベルも低い。
はぐ (採点:3)
「いい感じです」 やや淡白気味ではありましたが、さくさくと読めたと思います。内容もどっちかにより過ぎず、まとまった印象です。北川のキャラだけにこれよりやや明るめにすれば話にもキャラにも合ってかなり善し悪しが変わりそうです。
naoki (採点:3)
傾向として、結論付けるものが多いです(コンペ全体)。これもそうですね。それが悪くはないですが。
taka (採点:3)
疑心暗鬼に陥ることって結構あるんですよね・・・。精神的に追い詰められると特に。北川は、ああ見えても繊細っぽい感じがしますからねぇ・・・。
全採点
5点 : 4
4点 : 25
3点 : 74
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