移る季節を風と共に



 その丘は初秋の風に包まれていた。

 代名詞として咲き乱れていたであろう、濃紫の花はすでに刈り取られ、代わりに秋桜が寂しさを埋めるように、その花弁を精一杯に広げていた。

「見頃、逃したな。ごめん」

 申し訳なさそうな彼の声。
 確かに満開の花を見られない事は残念だ。
 でもそれは謝罪の必要の無い些細な事。私はこの旅行自体に幸せを感じているのだから。
 初めての旅行。
 家と学校と病院で囲まれた場所しか知らない私には、街の外は日常から切り離された異世界。その空気や景色の些細な差異に感動を覚える事ができる幸せ。
 その旅行を大切な人と共に歩き、数多くの思い出を作ってゆく幸せ。
 それに、時期を逃したからこそ言える言葉がある。

「また今度。連れてきてくださいね」

 それは未来を作り出す言葉。
 あの冬の日に時が凍るはずだった私にとって、再び約束を交わせるという事は、何にも勝るとても幸せな事。
 その幸せを逃がさないように、彼の手を取って秋桜の中へと駆けだした。

 その丘に吹く初秋の風は、私たちを新しい季節へ導くかのように吹いていた。


投票結果

Manuke
もうひとつ、足りない感じ〜。


はむ
私たちとは誰のことなのでしょう。超短編とはいえキャラくらいははっきり明記してほしいところです。


さくら (採点:1)
綺麗な言葉使いが個人的にGOODです。


Revin
美しい。


山の上
かのんの意味がない。


屈折する星屑
ああー……。これ、栞だって気付くのに時間が掛かりました。
ジャンルがないから、もう少し解りやすくしても良かったかも。
特に、「丘」とか最初に書くと、ものみの丘をぱっとイメージしてしまうので。
公園とか、それ以外にも、知ってそうですし。
まあ、それは置いておいて。
文章は綺麗でいいのですが、やはり1kでは味が薄くしか出ないように思います。
特に「これはっ」と思うような一文もなかったですし。
なんというか……文章の綺麗さが平均的で目立たないというか。


Foolis
なかなかいい雰囲気が演出されていていい感じ。
評価B+


ふうがみこと
あまり特色を感じられませんでした。


木村圭
二人で紡いでいける未来がある。栞にとっては何よりも大切で、かけがえのないことでしょう。
いくらなんでも一度も街から出たことないなんてことはないと思いますが。


電光刑事バン
 祐一×栞だと思われますが、人物描写が無いのが減点対象です。


名無し@デフォ (採点:2)
もう少し色の表現を多くしたほうが良かったかもしれません。


荒野草途伸
4くさとし。


言之米
カノンっぽいけど超短篇と云う特性上雰囲気だけでは説明不足に陥る可能性大だからせめてキャラ名の一つくらいは文中に入れないといかんのではないか?とか言って見ても「カノンSSコンペに出品してるんだからカノンSSに決まってるじゃん揚げ足取るなよ」とか突っ込まれてショボーンな気配がいかんともし難く・・・


ROY (採点:1)
「時期を逃したからこそ言える言葉がある」
この言い回し、いいですね。


歩人
美汐っぽい。


Q-bird (採点:1)
家と学校と病院で囲まれた場所ですか。「中」ではなく「囲まれた場所」という表現には何か意味があるのでしょうか?
それはともかく、病気を乗り切った栞の力強さがとても印象的でした。

「再び約束を交わせるという事は、」という部分を読んで思ったんですが、
ゲーム中に手編みのマフラーか何かをいつかプレゼントするって祐一と約束をした場面がありましたよね。
その場面で、いつかが来ることはないって悲しそうな顔をする場面を思い出しました。
このSSはそのエピソードの答えになっていて、本当に素晴らしいと思いました。


名無し@デフォ (採点:1)
雰囲気イイ



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