ちりん
真琴がいなくなってから、もう五回目の冬が訪れた
みんな、それぞれの道を歩んでいる
そんな中、俺だけが、何も変わってはいなかった
俺は、ものみの丘に立っていた
俺と真琴が出会った場所
俺と真琴が別れた場所
そして今は、彼女の帰りを待つ場所
手の中には、あのときのヴェール
彼女が帰ってきたとき、もう一度、結婚式を挙げるために
このままではいけないのは、わかっている
立ち止まっていても仕方ないのも、わかっている
だが、立ち止まっていたかった
過去の心地よさに、浸っていたかった
願わくば、もう一度だけ、彼女との日々を……
不意に、強い風が訪れる
強くて……それでもどこか、優しい風
風がやみ、俺は気がつく
手の中にあるはずのヴェールが、消えてしまっていた
辺りを見回しても、どこにもない
そして……理解した
今、終わったんだと
今、彼女が終わらせてくれたんだと
「……またな」
俺は苦笑を浮かべながら、この場所を立ち去る
もう、ここに来ることはない
彼女は、ここにいるから
ここにしか、いれないから
だから、立ち去る
俺の場所で生き続けるために
過去を思い出に変え、行き続けるために
不意に、鈴の音が聞こえてきた
うれしそうな、悲しそうな、そんな複雑な、音色だった
投票結果
- 山の上
- 超短編に出すのは、もったいなかったです。
- はむ
- さようなら真琴……
- Manuke
- 雰囲気はいいけど、あっさりし過ぎ。短編〜中編向きかも。
- 屈折する星屑
- ヴェールを奪うことで祐一を進ませたのはいいと思います。
でも、やはりこのテの作品は、言葉の使い方、選び方が、ものすごく大事。
まだちゃんと磨かれていない印象でした。
- 電光刑事バン
- あの時のヴェールはすでに風に飛ばされているため、あえて描写するならあの時と同じヴェールにすればよかったと思います。
ただ欲を言うなら、五年も尾を引いているのはシナリオのエンドの否定とも取れます。
- Foolis
- ……いい。
なるほど、こう落としますか。
ヴェールが消えたのは真琴の悪戯か、とか色々考えさせてくれて巧いです。
評価Ａー
- 名無し＠デフォ (採点:3)
- 超短編でここまで物悲しさを表現できたのは凄いと思います。
- ふうがみこと
- ５回繰り返したわりに、けっこうあっさり。
- 荒野草途伸
- ７くさとし。
- 木村圭
- 風で飛ばされたヴェールをなぜ祐一が持っているんでしょう？
よく分かりません。丘中を探し回ったのでしょうか？
五年も縛り付けておかないで二、三年で解放してやれよ、とつっこみたくなりました。
- 歩人
- 前を向いて歩こうと決意した祐一。なかなか。
- クリボー
- 「。」があってもいいのでは？
- 言之米
- ふと通りすぎる風に懐かしい気配・・・か。
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