『帰省』
いつか走ったその山道を、あの時とは逆に行く。
視界を覆うは木々の緑。道は少しずつ細く、険しくなる。
それは訪れる者を拒否しているようにすら、思えてくる。
でも、大丈夫。
ここを越えて。
その先へ行く。
森が途切れる。広がる視界。緑の草原、青の空。流れていくのは白い雲。
丘の上。
茂る草を踏みしめて、春の日差しを体に浴び、冬の残滓を感じながら、一歩ずつ、その丘を歩く。頬を撫でる風。懐かしい土の匂い。
物音を聞く。
その方向を向く。
小さく草が揺れている。風とは違う向きに、揺れている。
直感する。
みんなだ。
みんなが、この丘に入ってきた自分を、見ている。
けれど、それは、帰ってきた仲間を見る目じゃなく――異邦者を見る目で、見ている。
そう。
自分は、この丘から旅立ち、人の里へ降り、そこで暮らすことを選んだ。
それは、この丘を捨てるということ。
それは、この丘にはもう、帰れないということ。
それは、自分で決めたこと。
だけど。
それでも。
変わらないことがひとつ。
ここは自分の故郷。生まれ育った大切な場所。
だから。
その言葉を言おう。出来るだけ大きな声で。出来るだけ遠くまで届くように。
あたしが、ここにいることを、知らせるために。
その言葉を、言おう。
「ただいまっ」
投票結果
- はむ
- 評価に困りました。１点をつけるべきか、けれども真琴の故郷に戻ってくる話としてはもう一つあと一押しほしかったところです。超短編でそれは厳しいでしょうが。
- 山の上
- 文章は素敵だと思います。
- Manuke
- ちょっと物足りない感じが……。
- Foolis
- 真琴の気持ちがなかなかいい感じで描けていると思う。
評価Ｂ＋
- 屈折する星屑
- 悪くはないですが……。
- 電光刑事バン
- 基本的に真琴ネタですが、意味がわかりません。
真琴未帰還なら特に気にする事も無いエピソードですし、帰還したなら、ある意味丘の狐の総意によるものなので、こうなるはずは無いわけです。
- 荒野草途伸
- ５くさとし。
- 木村圭
- どこに行ってしまっても、真琴は真琴。
そんな論理は、隠れ住んでいる仲間たちには通じないんでしょうか。
余所者として真琴を見る狐たちと対照的に、丘を大切な場所と言える真琴が素敵。
分かり合える日が来るといいな。
- waya_k
- 次点。
雰囲気があって、とても良い。
良いのですが……点数調整の都合上、ごめんなさい。
１０点じゃ足りないっちゅーねん（八つ当たり
- みすずさん (採点:2)
- 春の息吹と真琴の良い意味での前向きや純粋さ。
それらがあわさった爽やかな風が私の心を駆け抜けていきました。
- ふうがみこと (採点:1)
- これも好きだなあ。
私の実生活の心境が、今まさにこんな感じでしたので……
えい、一点入れちゃおう。
- 名無し＠デフォ
- ただいまと言った後の真琴がどうなるかと思うと・・・
- 歩人
- いい感じ。
- Xardion (採点:1)
- ふるさとは遠きにありて思ふもの…と私の脳味噌に浮かんできたのは何故なのか。
何があろうと、自分がそこから離れようと、故郷はやはり故郷なのだろうなぁ、と。
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