crystal clear



　　　　うつむいていた顔を上げると、鮮やかな青がまぶしかった。
　　　　屋上のフェンス越しには、雪解けの街が見える。

　　　「ねえ、この空はどこに繋がっているんでしょうね」
　　　「さあな、どこにも辿り着けないってことはないだろうけど」

　　　　純白の雲がゆっくりと流れる、穏やかな空。
　　　　空はこんなにも綺麗なのに。

　　　「試してみようかしら」
　　　「らしくないぞ。やめとけ」
　　　「天国には届かない？」
　　　「たぶんな」

　　　　振り返れば、あたしと同じくらい、それ以上に泣きそうな顔がある。
　　　　悲しいのだろう。
　　　　いつだって、悲しくないときなんて、なかった。

　　　「あたしは、自分がもっと取り乱すって思ってた」
　　　「いや、そういうものだと思う」
　　　「どうして」

　　　　言葉も無く、視線に乗せる。

　　　「俺も同じだから。悲しさも忘れるくらい、胸にぽっかりと穴が空いてる」
　　　「そう」
　　　「どうすればいいんだろうって」
　　　「うん」

　　　　でも、この痛みは、この苦しさは、あたしだけのもの。
　　　　分かち合えない。

　　　「香里はどうすればいいと思う？」
　　　「ずっと、栞のことを忘れないでいて」

　　　　栞の最期の顔を思い出して、あたしは微笑むことができた。ああ、とうなずいて、相沢君は静かに泣き始めた。
　　　　あたしたちは栞が大好きだった。

　　　　光を含んだ風が、空とあたしたちの間を優しく吹き抜けてゆく――

投票結果

春日　姫宮 (採点:1)
　テキスト地の白さをここまで生かせたＳＳは初めて見た気がします。
　ストーリーではなく、文面の美しさに点数を差し上げます。


Manuke
多分、ずっとは無理なんだと思う……。


はむ
えいえんを感じさせる描写ですね。


屈折する星屑
んー。悪くはないけど、いまひとつピンとこないですかね。


Foolis (採点:1)
いい、これだけ短いのにすごく美しい風景が浮かんでくる。評価Ａ


電光刑事バン
　シナリオ上の展開からすると、香里が栞を受け入れる事が出来たのなら、この展開にはなりません。
　また、内容的に大作の一部のようにしか思えません。


Revin
確かに、こんな感じかもしれませんね。
栞の死んだ後の彼らは。


木村圭
同じような痛みを持った二人がどうなるのかは誰にも分からない。でも、空は、風は只管に鮮やかで、優しい。
いつか、二人の傷も癒されるのでしょう。鮮やかで、優しいもの達によって。
悲しいはずなのに優しい、そんな物語でした。


荒野草途伸
６くさとし。


ふうがみこと
うう、惜しいなあ。
読み始めた当初は、何かが原因で舞が死んだあとの佐祐理と祐一の会話なのかな、と思ってしまいました。
読み返してみれば確かに香里なのに、何でだろう？　口調や一人称ではなく、その心象が佐祐理のように感じたからなのでしょう。惜しいと感じてしまったのは、キャラが違うと誤解してしまった私自身の問題と思います。
作者さんには申し訳ない。ですが率直な感想として書いておきます。


歩人
本当に大事な物が失われたときは悲しみよりもまず喪失感で呆然とするってことですね。


言之米
その別れは早過ぎたけど人が避けて通る事は出来ない必然だから。


山の上
うーん、香里は取り乱すとおもうのです。
でも、香里の気持ちは伝わりました。


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