いっぽ。
ひら、と、
髪に微かな感触。
1年伸ばしつづけて、ようやく背中まで伸びた髪にボクは手をやった。
埋もれていた小さなそれは、
あれから、
ボクが永い眠りから覚めて、あの駅のベンチで祐一君と再会した日から、
春がきて、夏がきて、秋がきて、冬がきて、
今日で、ちょうど一年。
街をすっぽりと覆っていた雪もほとんど融けた。
すっかりと葉を落としていた木々はやわらかに芽吹き、山から吹き降ろす風にもどこか温かさを感じる、
そんな穏やかな休日。デート日和、かな。
すっかりと馴染んでしまった水瀬家の門の前で、ボクは手持ち無沙汰に空を見上げた、ちょうどその時に、
ひら、と舞い降りた、
たった一片の、桜。
春。
もう、そんな季節なんだね。
「すまんすまん、さ、行くか」
祐一君が外に出てきた。
「遅いよ祐一君っ! ね、それより見て見て」
差し出す手先。
風が吹いた。
小さな桜の花びらは、風に乗って舞い上がる。
青い青い、空へ。
「いつのまにか、咲いてたんだな、桜」
ふたり並んで、消えてゆく花びらをしばらく見つめた。
季節は巡ってゆく。
ボクと、祐一君の、次の季節がはじまる。
「さ、行こう。映画、もう始まっちゃうよ」
「おう」
ボクは、祐一君の腕を掴んで、一歩踏み出した。
春へ。いっぽ。
投票結果
- Manuke
- ちょっといい感じ〜。
- はむ
- 一歩。うん、進んでください。一歩だけじゃあ足りないでしょうが。
- ふうがみこと
- どうしてもデンプシーロールの某ボクサーを連想してしまって……いつ殴り合いが始まるかと、ちょっと怖々と読んでました。ストロー級かと思われてたのがヘビー級だった、とか。
駄目なんです。この言葉の響きがどうしても、シリアスに導いてくれません。ごめんなさい。
- 山の上
- 足りない。
雰囲気はいいのですが・・・
- 屈折する星屑
- 悪くはないですが…もっと何かが欲しい。
- 電光刑事バン
- 祐一×あゆのアフターですが、基本的なあゆエンドと比較してもなんのひねりも感じられないのが減点対象です。
- 名無し@デフォ (採点:2)
- 春の空気がうまく表現できていると思います。
- ネクロマラン (採点:1)
- SSが纏っている空気、とでもいいましょうか。
それが、とっても優しい感じがします。
- りょーと
- や、いい作品だと思うのです。
特に、最後の締め。
私的に大変好みっす。
- Foolis
- なんともいえない雰囲気がいい感じでした。
評価B+
- 言之米
- 春は始まりの予感がするよね。・・・するだけだけど(ゑ)
- 木村圭
- 背中まで髪を伸ばしたあゆが印象的でした。祐一にいつまでも子供っぽいと言われないようにするためかな?移り変わっていく季節と共に、二人も変わっていくのでしょう。
四行目の文が意味不明です。何のことですか?
- waya_k
- 次点。
同じようなネタの中では一番上手いと思うのですが、ちょっとこれまでに読みすぎました。
- 荒野草途伸
- 5くさとし。
- 歩人
- 取り戻した日常。その幸せをかみしめている感じですかね。
- Q-bird (採点:1)
- あゆが遅いよ、と文句を言いながらも、すぐに次の話を振っている場面で思わず笑ってしまいました。
描写が丁寧で、行間の取り方も良く、とても読みやすかったです。
あゆの性格がよく現れていて、とてもきれいなお話だと思いました。
- Xardion (採点:1)
- 祐一がくるまであゆがどうしていたのか。やはり冬で時間が止まったままだったのでしょうか。
そう、しみじみと、思いました。
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