彼黙り
「感謝してるんですよ」
額を指でコツンとつつく。
写真立ての中のあの人は、動かない笑顔のままユラユラと舟をこいだ。
私は頬杖をついて話しかける。
そちらはお変わりありませんか。
貴方が眠ってしまってから、こちらでは随分と日が経ちました。
小さかった名雪も、すっかり大きく女の子らしくなって。
最近は特に可愛く綺麗になってきたみたい。
何故かわかります?
あの子、恋してるんですよ。隠してるらしいけど一目瞭然、誰でもわかっちゃうくらいです。
それとも貴方は気付かないかしら。昔から鈍感でしたから。私の想いにも、長い間気付かなかったものね。
相手の男の子ですか? ふふ、内緒です。貴方も知ってる子ですよ。母娘って好みが似るのかしら、貴方に少し似ている男の子です。
でも名雪の恋は上手くいくのやら。
男の子は貴方に負けず劣らず鈍感みたい。女友達も多いようだし。ふふ、本当に似てます。
心配ですか? 名雪が傷つかないか不安ですか?
大丈夫。
どんな結果になろうとも、きっとあの子は幸せになります。
だって――私は、今、幸せなんですから
「ただいまー」
帰ってきたみたい。それじゃ、ね。
「おかえりなさい」
席を立ち廊下へ向かう。
振り返った日溜りの中で、あの人はまだ微笑んでいた。
投票結果
- はむ
- うーん、秋子さんがー、でも原作とちょっと矛盾してますような気がしますねー。だって父親の遺影があったら絶対シーンとして出ますし。
- 春日 姫宮 (採点:1)
- この短さで感動できました。良作です。
- Manuke
- ほんわか。
- 山の上
- 足りない・・・
- Foolis
- 亡き夫に語りかける秋子さん、ですか。
ほのぼのとした雰囲気は好きです、いい感じでした。
評価B
- Revin (採点:1)
- これは一点差し上げます。
巧いと思いました。
- 屈折する星屑
- 悪くはない。そんな感じ。
- 電光刑事バン
- 秋子独白形式、旦那死亡バージョンですが、個人的にはちょっといまいち。
名雪とのカップリングが成立している状況ならともかく、それ以外の状態で恋して可愛くなったのは早計。また、旦那が祐一の事を知っているのなら、名雪が父親の顔を覚えていてもおかしくないのに、実際には顔も覚えていないという矛盾があります。
それに、写真があるのに名雪がそれを知らないと言うのも不自然です。
- 木村圭
- 本編に全く出てこないだけに謎な人、秋子さんの旦那。
秋子さんの旦那だけに祐一みたいに意地悪なところはなくて、ただもう優しいんだろうな、なんて幸せそうな秋子を見ながら思いました。
- 荒野草途伸
- 6くさとし。
- Q-bird (採点:2)
- 秋子さんの人となりが良く表れていて、本当に素晴らしいお話だと思いました。
こんな秋子さんに育てられたから、名雪がおっとりとした性格になったんでしょうね。
家族を思う秋子さんの心が、とてもきれいに描かれていると思いました。
- 歩人
- 娘を想う気持ちと亡き夫への想い。いい感じ。
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