中編部門結果発表（6～10位）

第2回かのんSSこんぺ・中編部門結果発表

　ＳＳというものがある。
　ここでは、その中でもＫａｎｏｎのＳＳに注目したい。つまり、あたし達が出ていたりする話だ。
　ＳＳを書かれてみれば分かると思うが、あれは奇妙なものだ。自分のしてないことが、しているように書かれる……一時は、自分の名前を見ただけで、どきっとしたものだ。
　まあ、そのＳＳの外側にいるだけならそれだけで済む。問題は、そのＳＳの内側……つまりは、『当事者』になってしまった場合だ。
「香里～。かのんＳＳこんぺの中編発表だよ～」
　どこか間の抜けたような声（本人に言うと、頬をふくらませて怒るだろうが）が、狭い生徒会室に響いた。
「やっと、発表ね。で、早速１０位から聞かせて」
「えっとね……１０位はね……」
　と、名雪の表情がそこで止まる。
「えっと、ごめん。聞いてくるね」
　……どうやら、結果発表が出たという事だけで、その内容を聞いてくるのを忘れたらしい。
「ほら、だから止めたのに」
　そこへ、あきれ顔で相沢君が入ってきた。久瀬君との一件以来、あまりこの部屋は好みではないらしいが、それでも名雪を追ってきたらしい。
「あ、祐一。１０位のＳＳってなんだか知ってる？」
「ああ、これだ」

第１０位　66.42pts.
No.050 SNOWさん作　『鮮やかなモノクローム』

　そのタイトルを見た瞬間。ほぅ、とあたしは頷いた。
「まぁ、シリアスっていうか、ダークの一歩手前って感じだよな」
　自分が死んでいる話の所為だろうか？　やや不機嫌気味に、言った。もっとも、自分が死んで機嫌がいい人などいるわけもないのだから、これは当然。このＳＳの当事者だったりするかと思うと、かなりゾッとする。
「うん、ちょっと暗めの話だったけど、話の組み立て方がよかったよね」
「まあな。読者に、すこしニヤリとさせてから一気に突き落とす。それでいて、後味の悪さがあまり残らない締めくくり方……確かによく出来てる」
　よく出来ているＳＳなのだが、どこか認めたくなさそうな相沢君……ひょっとして、このＳＳの当事者だったのかもしれない。
「で、感想の方はどうだったの？」
「うん、全体的に高評価だったよ。祐一が死んじゃったことを納得出来る人は、もちろん高い得点だし、それを納得出来ない人でも、低い点数は入れていないみたい」

投票数 99 : 単純平均点 7.10

10点

9点

8点

7点

6点

5点

4点

3点

2点

1点

「強く生きていく、名雪と香里……。いいなあ、と思えるんだろうな」
　なるほど。
　その辺が、ダークの手前という好位置に着けにくい設定ながら、１０位にランクインした理由だろう。
「ありがとう。９位の報告は……月宮さんがしてくれるのかしら？」
　名雪と入れ替わるように、目の前に立っていた月宮さんに声をかけた。現在の服装は、本人たっての希望で、制服姿。
「うん。９位はこの作品だよ」

第９位　66.62pts.
No.076 ガテラー星人さん作　『夢の劇場』

投票数 87 : 単純平均点 7.20

10点

9点

8点

7点

6点

5点

4点

3点

2点

1点

「これもまた重めの作品ね」
「うん、そうだね」
　やっぱり、自分がメインの話だと印象には強く残る。月宮さんも、出番は多かったからそうなのだろう。
「これは、あたしと栞の関係をメインに持ってきた……まあ、直球的な作品ね。自虐的に走るあたしと、それを支える周囲がうまく書けているＳＳね」
「そうだね。感想の方も、悲しいお話だけどいい話だっていう感じだね」
　そう。これは、やっぱり悲しい話だ。栞は、栞シナリオのハッピー以外では死んでしまう。それは、分かっていてもそこを突かれれば、悲しいと思うだろう。
　それ故に、この手の話は結構書かれている。過去に同じ話があったのなら、どうしても読者はそれと比べてしまうだろう。それに不幸系というジャンルのマイナス要因。それでいてのこの順位というのは、内容がかなりよくなければ出来ないことだろう。
　基本的に、ＳＳ作者とあたし達は仲がいいのだと思う。嫌いだったならまずは、ＳＳを書く気など起きないだろう。でも、それでも、作者の人たちは、あたしたちにきつい運命を背負わせるのだ。
　ちょっと話は変わるけど、北川君も「オレの扱いは、いつもろくなもんじゃねぇ」と愚痴をこぼしている。
「北川君も哀れね」
「呼んだか？」
「って、北川君！？」
　いつの間にいたのか、生徒会室の中に北川君が入っていた。
「一応、相沢に言われて、８位の結果を知らせに来たんだが……迷惑だったか？」
　あたしの顔が不機嫌にうつったのだろうか？　こっちの様子を窺うように訊いてきた。
「ごめんなさい。なんでもないの、８位の結果を教えて」
「おう、８位はこの作品だな」

第８位　67.26pts.
No.053 桃栗三八さん作　『艱難汝玉のボーイ・ミーツ・ガール』

「まあ、なんて言うかオレと水瀬の話だな」
　ちょっと照れたように北川君が言った。というより、嬉しそうにしているように見える。先ほど言ったとおり、ギャグキャラとしての扱いが酷いだけに、こういう話は嬉しいのかも知れない。
　それはそうと、この話は、先の２作がど真ん中の直球だとすれば、これは変化球だろう。北川君と名雪という組み合わせは、意外性がある。もっとも考えてみれば、それほど不自然でもないのだけれど。
「まあ、内容は正統派の恋愛物って感じだし。会話文のテンポがいいよな」
「ええ、確かに」
　会話文が楽しい話というのは、やっぱり読んでいて楽しい。まあ、当たり前の話だ。そのためだろうか？　この作品の点数配分を見て気になることがあった。

投票数 113 : 単純平均点 7.42

10点

9点

8点

7点

6点

5点

4点

3点

2点

1点

「１０点の配分が多いわね」
「ありゃ？　言われてみると、そうだな」
　いま気づいたかのように（実際、いま気づいたのだろうけど）言った。
「まあ、良いと思った人は１０点をつけたって事なのかなあ」
「満点と低い点が混在してる作品と、それなりに高い点数をとった作品。どっちが上かというと難しい所ね」
「その辺は、集計方式でいくらでも変わってくるって事か……そういや、これは極秘情報なんだけどな」
　にやり、と子供が悪戯でも、思いついたかのような仕草で口を寄せてきた。どうやら、内緒話ということらしい。
「どうも、主催者は今の集計方式を変えたいらしいぞ」
「変えたいってのが、微妙ね。どこからの情報よ」
　もっとも、その辺はブラックボックスだ。逆に、その辺の情報が出ることはあまり望ましく無いのかも知れない。とはいえ、作者陣にとっては気になるところかも知れないが。
「あのー、美坂さん？」
　入り口付近の方から、遠慮がちな声がかけられてきた。
　見てみると、去年までこの生徒会にいた、倉田先輩だった。その横には、当然のように川澄先輩の姿もある。
「あははーっ、結果報告にまいりました～っ」
「……ました」
　いつもの様子の倉田先輩に、こちらもいつもと変わった様子のない、川澄先輩。もっとも、川澄先輩の心理状態が分かるのは、この倉田先輩と相沢君くらいのものなのだろうけど。
「ご苦労様です」
「はい、じゃあいきますね」

第７位　68.22pts.
No.044 しぐるどさん作　『パンドラ』

「えーとっ、これは、天野さんの昔のお話のようですね」
　報告書を読みながら、倉田先輩が言った。
「そうですね。真琴シナリオ最後の天野さんの台詞。そこから、印象を広めていったＳＳね」
「ええ。そう言う意味では、だれでも思いつきそうですけどそうはいかない。執筆者のセンスが光る作品ですね」
　もちろん、センスだけでこの上位に食い込めるほど、今回のこんぺは甘くなかっただろう。会話文や話の組み立て、そして丁寧な描写。それらが揃っていたからこそ、ここまでこれたのだ。
　完成度の高さは、上位入賞の為には必須条件と言って良いだろう。
「感想の方に目を向けると、ありがちな話だけど、いい話だという感想が多いようですね」
　なるほど、そういう感想が目立つ。
　前回のこんぺにしても、今回にしても天野さんをあつかったＳＳというのは多い。激戦区といっていいだろう。
「……だから、１０点が少ないの？」
　え？
　川澄先輩の一言で、あたしは点数配分に目を向けた。

投票数 99 : 単純平均点 7.34

10点

9点

8点

7点

6点

5点

4点

3点

2点

1点

　確かに、１０位入賞としては、１０点の割合が少ないように見える。７、８点を多く取り込むことで、この位置まで持ってきたのだろう。
「あぅ、美汐、今回も人気なんだ」
　もう、「あぅ」という言葉で説明は不要だと思うが、どうやら沢渡さんが、結果報告に来てくれたようだった。
「で、第６位はどれかしら？」
「あ、ちょっと待ってて……持ってきてるから」
　言って、あちこちのポケットを探り始めた。
　頼むから、大事な書類をそういう扱いしないで貰いたい。あとで、アイロンをかけるのはあたしなんだから。
「あ、あった。これよっ」

第６位　69.32pts.
No.065 七瀬友紀さん作　『作品No.2「春」』

「真琴の話よっ！」
「ええ、そうね」
　もちろん、沢渡さんの話だけじゃなくて、どちらかというとこれも、天野さんがメインの話なのだけれど、それを言うと駄々をこねられるのでやめておく。
「まあ、この話でも祐一はイジワルよね。まあ、そうじゃないと真琴としても面白くないんだけど」
「確かに、このＳＳの中での相沢君は、作品全体での雰囲気をだすのに役立っているわね」
　それがこのＳＳの最大の魅力だろう。読んでいて、何かしら温かいものを感じる。これは、かなり難しい。しっかりと読者の心をつかんで、そして誘導出来なければ、出来ない芸当だろう。
「感想の方は、どうなってる？」
「えっと……うん、楽しかったとか、いい話だったとか、キャラが原作に忠実だったとか、そんな感じみたい」
　なるほど、受ける印象は一様に同じようだ。ただ、点数配分をみると、９点の比率が一番多くなっている。

投票数 106 : 単純平均点 7.58

10点

9点

8点

7点

6点

5点

4点

3点

2点

1点

　話としては完成度が高い。キャラのやりとりも楽しく、原作にも忠実だ。それでも、満点で無いというのはなんなのだろう？
　読者は、ＳＳというものに何を求めているのだろうか？

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