お泊まりパニック！
いつもより少し寒いある土曜日。
秋子さんが出張に行き、真琴が天野の家に泊まりに行くと言い張るので、名雪の提案で、香里と北川が泊まりに来る事になった。
ちなみに、栞は最後の検査入院。これで異常なければ完治となるらしい。なので、香里も安心して来ることができたようだ。
舞と佐祐理さんはみんなと面識ないから呼べそうになかった。
真琴にも、せっかくだから天野のほうを連れて来いと言ったのだが、なぜか拒否された。よくわからん。
まぁ天野もみんなと面識ないし、いいといえばいいのかもしれない。
真琴がそう気遣ったとは到底思えないが。
そんなわけで、結局この二人しか残らなかった、と。
ピンポーン
「おっ、来たぞ、名雪。晩飯できたか？」
「もうちょっとだから祐一いってあげて〜」
「わかった」
ガチャ
「よお相沢、一晩世話になるぜ」
「おじゃまするわね」
どうやら一緒に来たらしい。
「なんかそこの角でまるで待ち構えていたかのように北川君がいて、一緒に来ることになっちゃったのよ」
「そうそう。偶然落とした小銭探してたら美坂が来てな。別に美坂を待つための口実にわざと金落としたりとかはしてないぞ」
「バカね・・・」
そういうことを『墓穴を掘る』というんだ、無知なるマイフレンドよ。
「そ、そうか・・・。とりあえずもうすぐ晩飯できるらしいから、適当にくつろいでてくれ」
「あ〜、間違えてお塩いれちゃったよ〜祐一、どうしよ〜」
「なにぃ！？というか俺に聞くな！自分でなんとかしろ！」
「う〜ひどいよ〜」
「ひどいもなにもないだろ！俺だってわかんないんだ。第一、俺は名雪がなにをつくってるのかもわからんぞ」
「はいはい名雪、今手伝ってあげるから」
「ありがと〜香里」
香里がフォローに入れば安心だな。
「あちゃ〜やっちゃったわね〜。まぁメニューがこれで助かったわね。この分を北川君に食べてもらうとして・・・」
「いいのかな〜」
「いいのよ。気付かれなきゃ問題ないの」
「でも・・・」
「なら名雪が食べる？」
「それはやだけど・・・」
「ならいいじゃないの。決定ね」
その隣り。リビングにて。
俺たちはそれをしっかり聞いていた。
「相沢・・・俺が死んでも忘れないでくれよな」
「ああ。後世には勇敢な散り際だったと語り伝えておこう・・・安心して逝け」
しかし香里の奴・・・俺たちに聞こえてると知ってて言ってるのか？
あいつだったらやりかねないところが怖い・・・・・
十五分後。
「完成だよ〜」
俺たちの目の前には、『見た目は』おいしそうな料理たちがズラリと並んでいた。
ハンバーグにスパゲッティ、それにサラダ。
この中に毒物があるのは間違いない。
そしてそれを食わされるらしい北川は、いつになく真剣な眼差しで料理を凝視している。
残念なことに、見た目で判断できそうなものはないが。
まず、スパゲッティはない。
麺は茹でるだけだし、ソースは缶詰のはずだ。
サラダも多分ない。
ドレッシングはともかく、全体的な味付けは皿に取り分ける前のはず。
そこで失敗したなら、みんなで逝くことになってしまうから北川のみという条件に当てはまらない。
となると、残りはハンバーグのみ・・・
いやしかし名雪なら取り分けてからサラダに味付けしそうだし、スパゲッティを茹でる時に失敗するという可能性もある。
「北川くん、どうしたの？」
名雪が真顔で聞く。なにがあったかはわかっているというのにだ。
「いいから早く食べましょう」
「そうだね。いただきま〜す」
それより少し遅れ、北川が覚悟を決めた。
「い・・・いただきます！」
さらば北川。
そして奇跡は起こった。
北川はなんと、この料理を完食してしまったのだ。奴自身、ビックリした顔で、
「うまかったよ。ごちそーさん」
とまでコメントしてるし・・・奇跡としか言い様がない。
「ありがと〜。でも今日は、デザートもあるんだよ〜」
奇跡は幻想だった。
デザートとしてだされたイチゴサンデー。
その北川の分に、得体の知れない白い粉が入っていた。
それを発見できずに食べてしまった北川に非は無いと思う。
イチゴサンデーに間違えて塩を入れるなどということを予期するというのはいささか酷な話だ。
結果、北川は過去の人となった。
「じゃ、あたしたちお風呂入ってくるから」
「覗かないでよ〜」
「誰が覗くか！」
「ご希望とあらばいつでも覗くぞ、水瀬」
振り返ると、そこには逝ったはずの北川が完全状態で立っていた。
「き、北川！？おまえ大丈夫なのか？」
「わはははは！生きようとさえ思えば、そう簡単には死なないもんだ」
「そういう問題じゃないだろ・・・」
それはおまえだけだ、と心の中で叫ぶ。
実際それができないから世の中死者がいるんだろ。
「しょうがないわね・・・相沢君、このバカをしっかり見ててね」
風呂場に行こうとして付け足す。
「できなかったときはわかってるわね？それじゃ」
なるべくならわかりたくないんですが・・・
しょうがない、こうなった以上北川を監視するしかないな。
「あら、名雪けっこう胸あるわね。ちょっとさわっていい？」
「え、ダメ・・・やだ、くすぐったいよ〜」
こういう時、つくづく産まれてよかったな〜なんて思えてしまう
「北川・・・生きてるって素晴らしいことだな・・・北川？」
辺りを見回しても誰もいない。
しまった！北川が逃げた！まさか、『聖地』へと踏み込もうとしているのか！？
ダメだ北川！『聖地』は決して行ってはいけない禁断の場所だぞ！！
くそ、間に合ってくれ、間に合え！
バキッ！ドゴッ！！ベキッ！！！
遅かった・・・
既に奴は『聖地』へと足を踏み入れ、女神によって裁かれていた。
いや、しばかれていると言ったほうがいいだろうか。
そして、『聖地』を追われた哀れな人間と、女神が出てきた。
そして女神が告げる。
「脱衣所でああいうこと言ってれば絶対に現れると思ってたわ」
「か、香里。俺が悪かった。俺の注意不足だ。次はしっかり見てる。だから・・・」
「いいのよ、相沢君。でも、次にコレが来たら容赦しないと思ってね。」
とは言っても、こいつが動く気配は無いが・・・
北川、スマン。
結局俺は、北川をロープで縛ることによってなんとか助かった。
途中、また復活して『ほどけ〜！！』とかわめいてたがな。
『生きようとさえ思えば』だったよな、北川。
「ふぅ〜、いいお湯だったわ」
「ほんとだね〜」
「次は俺が入ってくるよ」
北川は復活こそしているものの、まだ生傷が痛々しい。今風呂になんていれたらまさしく阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
風呂には入れないほうがいいだろう。
「は〜・・・」
浴槽に入った俺は自分がまだ生きてることに感動を感じた。
一度目で香里がキレていたら、もう俺はこの世にはいなかっただろう。
そこは北川の尊い犠牲と香里の寛大な処置に感謝しよう。
「ふ〜。あれ、北川は？」
「忘れ物を取りに行ったわよ」
「香里がね〜、『人生ゲームとかないの？』って言ったら、
『俺の家にあるから取ってくるよ』って言って走って行っちゃったんだよ」
「そうなのか」
「さて、そろそろ寝ましょうか」
「おい、人生ゲームやんないのか？」
「あら、あたしは『人生ゲームやりたい』だなんて一言も言ってないわよ」
「哀れだ・・・」
「さ、寝不足はお肌の大敵よ。寝ましょ」
「北川・・・」
「そうそう相沢君、寝る前にちゃんと戸締まりしなきゃダメよ。物騒なんだから。必要なら板を打ってもいいかもね」
「でもそれだと北川が入れないだろ」
「そういえば誰かさんのせいでお風呂覗かれそうになったわねぇ」
こ、この悪魔め・・・許せ北川、生きのびるためには仕方ないんだ。
心で反抗しつつ、念入りに鍵をチェックする俺。
今ごろ北川は家に着いたのかな・・・戻ってくる場所はもう無いというのに。
グッバイ北川フォーエヴァー！君の出番はここまでだ！
「それじゃあ祐一、おやすみ〜」
「ああ、おやすみ」
バタン
「ふぃ〜なんか疲れたな〜」
今日はいつも以上に気をつかってたりした気がするな。
いや、全体を見ればそう多くはないんじゃないか？。
そうか、風呂の時のあの『殺される』というプレッシャーのせいか・・・・・・
そうだ、もう寝よう。
夢の世界で嫌なことを洗い流してしまおう。
決して現実逃避なんかじゃないからな。
じゃ、おやすみ。
ドンドンドンドンドンドン！
「お〜い相沢〜！なんで鍵が閉まってるんだよぉ〜！開けてくれ〜！」
す〜す〜す〜
「俺は美坂のために人生ゲーム取りにいっただけなんだ〜！」
くぁ〜くぁ〜くぁ〜
「頼む！むちゃくちゃ寒いんだ！おねがいだから開けてくれ！！」
くぴ〜・・・ん？なんかうるさいな。
近所迷惑だろ・・・ったくどこの家だよ、こんなうるさいのは・・・
「うぁ〜うぃ〜ずぁ〜うぁ〜開けてくれえええ・・・ひっく、えぐ、うう・・・」
うちか・・・というか北川、まさか泣いてる？
まったく、こんな歳になって泣くなよ・・・
しょうがない、このまま放っておいて死なれたら秋子さんも世間体悪いからな。
家の中にぐらい入れてやるか・・・
ガシッ！
ん？『ガシッ』？
な、なんだろうな〜、この足首つかんでるようなものは。
人間の手・・・みたいな感じが・・・
ちょっと下向いちゃいたいな〜。
いや、でも見たら眠れなくなりそう・・・
いやいや、でも見なかったらいつの間にかご永眠になっちゃうかも・・・
ズリッズリッ
なんだ、明らかにベッドから何かが這い出るような音は・・・
そうか、これは夢だ。
そうだよな。目覚めたら北川が騒いでるんだよ。
このままじゃかわいそうだし、早く目覚めようぜ、俺！
・・・
まさか、現実？
ソ〜ッ・・・
俺が覗いた先には・・・
「祐一さ〜ん・・・」
栞の、顔・・・
注）祐一の精神が正常を保てないため、しばらく三人称になりますことを秋子さんのような広い心で(一秒で）ご了承ください。
「し、ししししししおりっ！？な、なんでこここここここに？」
「ゆ〜いちさんが誘ってくれなかったので来ちゃいました〜」
ベッドの下からの登場があまりにも強烈だったのだろう。
しかも栞は検査入院をしているはずなので、完全に生き霊か悪霊だと思い込んでいる。
もっとも、香里が来ているので死ぬようなことはありえず、悪霊な訳はない。
しかし、祐一は混乱している上、結局のところ生き霊だったら話は同じだ。
「はっはやはやはやく成仏してくれっ！！」
「そんなこと言う人嫌いです」
腰が抜けたまま後ずさりしてドアから逃げようとする祐一。
その手がなんとかドアノブに掛かり開けようとしたとき・・・
「な、なんだ？なんで開かないんだ？」
その時、狙ったかのように目覚まし時計が鳴り始める。そのメッセージは・・・
「あははー。佐祐理たちを誘わなかった罪は大きいんですよ〜」
「さ、佐祐理さんまで！？」
しかも今度は、栞のように姿が見える訳ではない。それは、祐一の恐怖心を一層あおりたてた。
「やっやめてくれっおっ俺が悪かった！だ、だから・・・」
言いながら、今度は窓際まで移動する。
祐一は、窓から名雪たちの部屋へと行く算段だった。
窓ならば、鍵は中から開けられるし、当然外から鍵を掛けられる訳もないので、ベランダに誰かがいるのはありえない。
もちろん、本物の幽霊なら話は別だが。
鍵を外し、外に出ようとした正にその瞬間。
「祐一くん・・・ボクのこと忘れてたでしょ・・・」
これで祐一の脱出ルートは全て無くなった。
ドアの方からは栞。窓からはあゆ。止められることのなかった時計からは佐祐理の声が流れ続ける。
「た、頼む、助けてくれ！タイヤキでもアイスでもおごってやるから！！」
命乞いをする祐一だが、それで二人は止まる気配は無い。
そこで祐一は朝までクローゼットで過ごすことを決意した。
クローゼットなら中から押さえつければ外から開けられることはない。
それを朝まで続けるのは苦痛だが、背に腹は変えられなかった。
ようやくクローゼットまでたどり着き、それを開ける。
もしも玄関の鍵さえ掛けなければ、北川が自分で部屋に来て祐一を助けてくれたかもしれない。
しかし、北川は鍵の掛かった玄関の外でまだ泣いているだろうし、名雪はとっくに夢の中だろう。
香里なら起きている、または起きるかもしれないが、この状況を楽しんで見物する可能性も否めない。
つまり、これから起こる事を止められる者は存在しない。
祐一が最後の手段として開けたクローゼットの中・・・・
祐一にとって天国にも思えた場所の中には・・・・
魔物が、いた。
「祐一・・・私を誘ってくれなかった・・・・・・」
「ぎいやああああああああああああああああああああああああ！！！！」
近所迷惑な悲鳴を残し、祐一は気を失った。
「・・・ういち、祐一、祐一〜！」
ん・・・・朝か？
「ふぁ〜、おはよ、名雪」
「よかった〜。ずっと起きないから心配したんだよ〜」
「まったく、すべってベッドに頭ぶつけるなんて、バカみたい」
すべってベッドに？ということは今までのは夢？
「なんだ・・・ほんとバカみたいだな、俺」
「そうですよ、祐一さん。これで死んだら末代までの恥です」
「あはは〜、そんなことだったらバカ確定しちゃいます〜」
「祐一くん、死ぬ前にタイヤキ買ってよ」
「まだ修行が足りない・・・」
本当にこいつらの言う通りだよ。
というか、なんでこいつらここにいるんだ？
「名雪、今何時だ？」
「え？夜中の十二時くらいだけど」
「なるほど。これでわかった。これは夢だ。名雪がこんな時間に起きてるはずはないからな」
「ひどい〜、ひどい〜」
「とまぁ冗談は置いといて、なんでみんながここに？」
「祐一さんが誘ってくれなかったので、勝手に来ちゃったんです」
「嘘つけ。第一、栞は検査入院じゃなかったのか？」
「祐一さんに直接誘ってもらいたくてそう言ってってお姉ちゃんに頼んだんです」
だったら入院とかじゃなくて別な理由とかなかったのか？
「で、舞たちはどうしてここに？」
この二人はこの中の誰ともあったことないはずなのに・・・
だが、その質問には以外にも名雪が答えた。
「あ、私が呼んだんだよ。前に祐一と一緒だったの見たことあったから」
なるほど。これで残るは・・・
「うぐぅはなんでここにいたんだ？しかもベランダ！しかも人の心配せずにタイヤキおごれなんて言いやがって！」
「うぐぅ・・・商店街歩いてたら誘われたんだよ・・・」
「名雪か？」
「え？えっと・・・うん、そうだよ」
「なんだよ今の『えっと・・・』は？なんか隠してるのか？」
「う、ううん！別になんでもないよ！ホントだからね！」
と言われても明らかに怪しいが、まぁうぐぅの考えなどたかが知れてるからな・・・別に心配いらないな。
「ところで、俺があそこでベッドから下りなかったら、ずっと待ってるつもりだったのか？」
「そしたら、時計を止めようとした祐一くんを栞ちゃんが捕まえる予定だったんだよ」
「ちなみに、ドアを押さえてたのは佐祐理なんですよ〜」
確かに、佐祐理さんだけ見えなかったからそうなんだろうけど、それよりもだ。
「舞、剣持ってくるのは反則だろ・・・」
クローゼットを開けた最後の瞬間。
そこには、剣を携えた舞が、俺に対して恨みの言葉を言っているのを聞いた気がする。
もし、あそこで気絶せずに言い訳してたら帰らぬ人になってたかも・・・
「まぁそれは俺が悪かった。でも、いつの間に入ったんだ？」
いつ入ったかどころか、部屋の中にいて気配にすら気付けなかった。
「相沢君がお風呂に入ってる間よ。北川君を追い出して」
ピキッ
キタガワクン。
この言葉が出た瞬間、場が凍りついた。
「なぁ・・・おまえら部屋にいたなら聞いてたよな・・・北川が助けを求める声・・・」
「・・・何も聞こえなかった・・・」
まずは舞が答える。クローゼットの中だったから本当に聞こえなかったらしい。
だが、他の三人は明らかに『聞いていました』という顔だ。
「はえ〜・・・そういえば誰か叫んでましたね。泣き声で」
「私も聞きました・・・近所迷惑だな〜って思ってたんですよ」
「ボク外だったからすごくよく聞こえたよ・・・」
結論。
「外だっ！！」
くそ、死ぬな、北川！しょうがなかったんだよ、色々あったんだから。
半ば祈るように階段を駆け下り、ドアを開ける。
バタン！
ビュオオオオオオオ！！！
開けた瞬間、ものすごい吹雪が吹きつけてくる。
「すごいことになってるよ、祐一くん、無理しないでやめたほうがいいよ」
「そうよ、相沢君。死に急ぐ事なんてないんだから」
なんか俺が間違っている気がしてきた。
なんでみんなして見捨てようとするかな・・・
「誰か北川を助けようとか言う奴はいないのか！」
いくらなんでもそれじゃ北川は浮かばれないぞ。
例え北川のことだろうと、せめて人として扱ってやるべきだろ。
「北川、待ってろよ！」
「いつもの祐一じゃないよ〜」
うるさい。
北川はどこだ？だいたい玄関の前・・・
ボコッ
ん？なんだこりゃ？
「おい名雪、いつの間にここに雪だるま作ったんだ？」
「え〜、私知らないよ？」
他のみんなに聞いてみても、来る時はなかったらしい。
考えられることはただ一つ。
「北川はこの中だ！！」
そうと決まれば話は早い。
この雪だるまを壊せばいいんだ。
キックキックキーーーック！！
力任せに蹴りを入れて破壊していく。
何度か蹴ると、予想通り北川が出てきた。
「北川、無事か！？」
「おお相沢・・・来てくれると信じてたぜ・・・」
助けといてなんだが、まさか生きているとは思わなかった。もう北川だと判別できる顔ではないけど。
香里がもう寝ようと言ったのは十時半ぐらいだから、そのしばらく後に帰ってきたとしても、一時間はあの中にいたことになる。
「もういい、何も言うな。とりあえず風呂入ってこい。話はそれからだ」
三十分後・・・・・・
「生き返った・・・」
北川は既に無傷となっていた。
こいつの生命力はすごすぎるぞ。
これがこいつの持論のパワーなのか！？
「ところで相沢。なんですぐ開けてくれなかったんだ？そもそもなんで鍵掛かってたんだ？」
「そ、それは香里に・・・」
そこまで言いかけたとき、俺の背中が一瞬にして冷えた。
（言ったらどうなるかわかってるわね？）
香里の視線が俺に訴える、もとい脅していた。
「わ、悪かったよ北川。ところで、人生ゲーム持ってきたのか？」
「当たり前だろ！俺があそこで凍死しようともこれだけは届ける！美坂のために！！」
それがこいつらを入れるための嘘だと知ったらどうなるだろうな。
ん？そういやこいつ人数増えたのになんの違和感も感じてないのか？
「じゃ、さっそく始めようぜ。ジャンケンで順番を・・・」
「わ〜い、ボク１番だ〜」
「佐祐理は２番目ですね〜」
「くそ、５番か」
「４番だよ〜」
「３番です」
「６番ね」
「・・・・ビリ」
「７番か・・・」
順番決定、ゲームスタート！
「うぐぅ、３だ・・・」
「８です〜」
全部だととても言いきれないので、ここからはハイライトシーン。
まず注目するのは、医者になった名雪。
こいつは、医療ミスを毎日やりそうで患者に同情する。６位。
次に、無難にサラリーマンになった栞。
はっきり言って似合わないが、保険にかかさず入り、満期により終盤で追い込みをかけたが間に合わず、５位。
そして、株長者の舞。
株を買い込み利益を上げ続け、２位にのし上がる。
佐祐理さんはスタートからゴールまでお金の減るマスにほとんど止まらず、子沢山で４位。
図ったかのように仕返しマスに止まる香里。
毎回北川から金を巻き上げ３位。
俺は特に目立ったことはしてないが、高い家を無理して買って７位。
後は、トップとビリだな。
ビリは株を何度も大暴落させ、香里に大金巻き上げられたあげく、ゴール直前で無人島を買ってしまった北川。
ここまで哀れだともう何も言えないな。次。
トップは、天使の人形の最後のお願いを人生最大の賭けに使ったあゆ。
本編のエンディングよりゲームの勝利を選んだその根性には感服した。
途中、結婚マスに止まった時佐祐理さんの夫の駒を舞が切ろうとしたりしたが、なんとか無事みんなゴールできたといえる。
結局、そのままトランプ、ウノと定番を流れていって、名雪がダウンしたところでお開きとなった。
俺と北川は俺の部屋、名雪・香里・栞は名雪の部屋、舞と佐祐理さんは真琴の部屋で寝た。
あゆは部屋割りを決めてる間に寝たのでリビングに放置。
「ただいま〜〜〜！」
夕方になって、真琴が帰ってきた。
「こんぱんは、相沢さん」
「お、天野も一緒か。みんなここで晩飯食ってくから一緒にどうだ？」
「はい。そのつもりで来ました」
いや、そうストレートに言われても困るんだが。
厚かましいとかそういうことじゃなくて、反応に。
「ねぇねぇ、上手くいった？」
「うん、すごかったよ〜」
「あれは、なかなか見られるものじゃないわね」
向こうで、真琴たちがなにか話している。
どうでもい・・・
「ぎゃ〜って悲鳴あげて、気絶しちゃったんだよ」
ちょっと待て。
これはどう考えても俺のことじゃないか。
しかも、『上手くいった』とはどういうことだ？
「あう〜、やっぱ美汐呼んで真琴もここにいればよかった・・・」
「大丈夫よ。しっかり写真撮っておいたから」
名雪だけじゃなくて香里も関わってるのか。
とにかく事実を問いたださねば！
「あと数日で現像できるはずだから」
「わ〜い、楽しみ〜」
「おい、それはどういうことだ？」
穏やかに聞いたつもりだが、はっきりと殺気と怒気がこもるのがわかる。
昨夜のアレの犯人が俺の予想通りだとすれば・・・
「あら相沢君。盗み聞きなんて趣味悪いわよ」
「それよりさっきの会話はどういうことかと聞いている」
それを聞いて、名雪がおずおずと説明する。
「真琴に頼まれたんだよ・・・いつも失敗してくやしいから、どうにかして祐一を怖がらせてくれって」
やはりそういうことか。真琴なら考えが読めるけどこいつらがまさかこんなことするとは思わないからな。
「で、お母さん出張だし、この機会に・・・」
「みんなに頼んだわけか」
このお泊まり会そのものが罠だったのか。
北川も死にかけながら一役かってたのか。くそ、心配したりして損した。
「残念ながら、少し違うわね」
そういって、香里が訂正した。
「このことを知ってるのはこの４人だけよ。他の人は誘わなかった相沢君に復讐しようという目的で参加してもらったから。
「じゃあ、栞の入院は・・・」
「相沢君にそう言って断ったあとに栞に泊まりのことを話して、うまいこと復讐心がでたから利用したのよ。
言い終わってから、少し付け足す。
「『そういう理由で来られないって相沢君に言っておくからビックリさせてやりなさい』と言ってね」
・・・なるほど。
真の犯人は真琴でも、一番凶悪なのは香里だということが発覚した。
「北川君が玄関の外で泣きわめくのも計算どおり。まぁ名雪が料理に失敗したりしたのは関係ないけど」
名雪の料理は別に疑ってなかったんだが・・・
「ただ、相沢君がこの会話を聞いてしまったのが唯一の誤算ね。どうしようかしら」
香里の冷血な視線がこちらを向く。
やばい、殺られる！！
「まぁまぁ香里、そこまでしたら祐一がかわいそうだよ〜」
「そぉ？しょうがないわね。名雪に感謝しなさい」
ナイス、名雪！
俺は今までで一番、というか初めておまえがいて嬉しいと思ったぞ！
（いちごサンデ〜５個ね）
ボソッとつぶやく。
おお名雪、人に報酬を求めるなんて、よくぞ成長したものだ！
こっちだって命を助けられた恩は忘れないさ！
３個なんて安いもんだ！
という意思が伝わるかどうかは知らないが、名雪に親指をグッと立てる。
そして残るは・・・
「ま〜こ〜と〜、よくもやってくれたな！！」
「祐一が悪いんじゃないのよ〜！！」
「あらあら、ずいぶん賑やかね」
「あ、お母さんお帰り〜。うん、ちょっと祐一と真琴が・・・ね・・・」
「そう。ところで、帰りに近所の人に夜中にすごい悲鳴がしたとか近所迷惑だったとか言われたんだけど、名雪何か心当たりある？」
「う・・・ま、まぁ・・・ね」
「その話はあとでゆっくり話してもらうわ。楽しかった？」
「うん、すごく楽しかったんだよ〜」
「そう、それはよかったわね」
「あ、もうちょっとでご飯できるからゆっくりしてて」
「じゃあ、お言葉に甘えてそうしてようかしら」
「ま〜て〜、真琴〜！！」
「い〜や〜」
その後、夜中にうるさかったことへの罰としてしばらく朝はジャムだったし、気絶してる間に撮られた写真が秋子さんに渡ってて、
さらにそれをネタに脅され続け、またジャムを食うことになった。
名雪によると、ここまでが香里の計画だったらしい。
別に俺に知られようが関係なかったという。
今回のお泊まり会で得た教訓は、
『美坂 香里は危険だ』
ということと、
『生きようとさえ思えばそう簡単に死なない』
という北川の言葉だった・・・
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このSSは、作者の方に二次著作権が存在します。
転載、無断引用を固く禁止します。
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