『雪の日の決意』
雪の日の決意
『朝〜朝だよ〜』
ゆっくりと目が覚めてきた
『朝ご飯食べて学校行くよ〜』
それが完璧なる目覚めになるまで時間はそれほどいらなかった
カチッ
目覚ましのスイッチを押し、機能を停止させた、いつもの事だが、こんな物で起きられる俺がすごいと思ってしまう
制服に着替えて一階へ降りる前にやることがある、そう、あの名雪を起こさなくてはならない
掛け声一つで起きてくれればいいのだが、あいにく、そう簡単にあいつは起きてくれない
目覚まし時計の音が飛び交う部屋の前で、俺は、ドアを、部屋の中の目覚ましの音に負けない様に強く扉を叩いた
ドンドンドンドンドン！！、ジリリリリリーーーン
目覚ましの音が鳴り止まないという事は、名雪はまだ寝ているという事になる
早速、いつもの手を使うときが来たようだな、準備のために一度息を大きく吸う、そして
「名雪〜今オレンジ色のジャムがお前のトーストに塗られようとしているぞ！！！」
扉を叩いた時よりも1.5倍の大きさの声を出して
俺は何事も無かったかのように一階へと降りていった
「おはようございます祐一さん」
秋子さんといつもの挨拶を交わして、俺は自分の席についた
真琴はというともう朝食を食べ始めていた、時折秋子さんと話をしている
俺が食べ始める頃に名雪が猛スピードで階段を駆け下りてきた、その速さは、世界新も狙えそうだ
「名雪、危ないでしょ」
どうやったらこんな速さになれるのか、今度聞いてみたいところだ
「お母さん待って」
慌てているな、普段は言葉と行動が、うまく噛み合っていない名雪だがやはりジャム話がきいたのだろう
「それは祐一さんに言う言葉じゃないかしら。それに祐一さんは名雪を置いて行けるわけないわよ」
頬に手を当て自信満々の笑顔で返答している、いったいどこからそんな自信がくるのだろうか
それよりもさらりと恥ずかしい事を言っている…行かないではなく行けないって……秋子さ〜ん
「だって祐一が……」
秋子さんの体がこちらを向く
「祐一さん、またあれ言ったの？」
秋子さんにもとうとう呆れられてしまった、もちろん秋子さんの了承を得て始めた事だが
もう何度目だろうか、俺の手足の指使っても数えれない
この方法を使い始めてから歩いて登校できるようになったのは非常にいい事である
俺達が家を出たのは８時５分頃
あいからわず雪が積もっている道路の上を並んで歩く
ギシギシと靴が雪を押す音が響いていた
どうでも良いことだが真琴も一緒だ
ぴろはさすがにいないが
居たらいたで名雪がアレルギーを起こしてやばい状態になってしまう
学校でどんな噂が立つかわかったものではない
なぜ、ぴろに家で会わないだろうか…やはり秋子さんが何か手をうってくれてるのだろうか
真琴とは途中で別れて学校へと向かう
俺は前々から思っていた疑問を口にする
「なぁ、名雪」
「なに？」
「猫ってそんなにかわいいのか？」
「当然だよ」
笑顔で言われて俺は激しい脱力感に襲われずにはいわれなかった
教室にゴールした時は予鈴まで後４〜６分ぐらいだろうか
「あんた達最近早いわね〜」
入ってからすぐにそんな声が聞こえた、香里だ
素直に感心されてしまった…それほどまでに今まで俺達が遅かったのだ
「あの方法を使っているからな」
俺は自信満々の笑顔でそう言い放った
「まさか……本当に使っているの」
香里の目が床を見て溜め息が出ていた、たぶん呆れられたのであろうこれで本日二度目だ
この方法を思いついたのは他でもない香里自身だ
冗談で言っていた事は俺も承知していたが、試してみると意外に効果がありしかも面白かったので現在も使用中という事になっている
後から来た北川を交え少しばかりの雑談をする
２、３分経ってからだろうか担任が入ってきて、学校の一日が始まった
キーーーンコーーン
カーーンコーーン
「祐一、放課後だよ」
聞き間違えか？確かまだ昼休みが終わった頃のはず…首を右に傾けて教室にある時計を見ようとする
時計は残酷にも放課後の時刻を指していた
俺としたことが眠っていたのであるしかもぐっすりと
「…名雪の癖が移ったみたいね」
また香里に呆れられた本日三度目、二度ある事は三度あるとはこの事だな、四度目は無いことを祈ろう
まぁ、呆れられた内容は違うが
「はぁ…そうみたいだな」
俺は力なくそう言うしかできなかった
一方、香里と俺のやり取りを見ていた名雪は
「もしかして二人ともすっごく酷い事言ってる？」
「名雪、部活あるんじゃないの行って来たら？」
「うー誤魔化してる。それに今日は部活ないよ」
「…本当かしら？」
名雪は信用されていないな…
「本当だよ」
「そういう事にしといてあげるわ」
名雪が何か言おうとしたが香里が教室を出て行き、そして昇降口へと向かっていったので後を追った
空は曇っていた
今日は夕焼けが見られないな……
ぼんやりしていると視界に人が立っているのが見えた
その人は今新しく来た人、俺達に声をかけてきた
一度も見たことない顔で白い肌が印象に強く残った
「お姉ちゃん遅い！」
俺は頭の中で誰に向かって言ったのかを考えていた
まず名雪一人っ子なので違う、俺は論外という事は……確実に香里となる
「栞…待ってないでいいっていったのにそれにまだ病み上がりなんだから」
病み上がりという事は風邪でもひいたのだろうか
俺も用心しておくに越したことは無いな
「私はお姉ちゃんと一緒に登下校するために学校に来ているようなものだから」
最後の方の言葉はあまり聞こえなかった
「私達は先に行ってるね」
俺と名雪は少し駆け足でその場を去って行った
「あの子は？」
俺の疑問に名雪はすぐ答えてくれた
「えっと香里の妹の栞ちゃんだよ」
妹か…初耳だな
「でも香里はなぜか秘密って言ってるけど」
秘密？わざわざ秘密にする事か？北川なら問題あるかもしれないが
「秘密って…また、なんでだ？」
名雪はつぶやくように言った
「言葉通りだって…」
それはやはり秘密という事だ
さして気に掛かる事でもないのでそれ以上は何も聞かなかった
夕食まで部屋で時間をつぶすために部屋でごろごろしたり置いてある雑誌などを見たりしていると意外と時間がたっている事が多いが今日は違った
しょうがないのでベットに潜り寝転んでいた
夕食
他愛も無い会話をしながら食事をすませて
俺はまたベットに潜ってみた
少しで寝つけたが、さすがに、名雪には敵わなかったが
夢
夢を見ていた
白い白い世界
白しかない世界
そこに人がいた…
『朝〜朝だよ〜』
俺の夢はこれで一回終わる
『朝ご飯食べて学校行くよ〜』
今日もまた見るのだろうか
『朝〜朝だよ〜』
カチッ
小さな音と共に目覚ましの声は中断される
制服に着替えて
今日も名雪を起こすために部屋のドアを開ける
ガチャ
ドアを開けた先には名雪が廊下で立ったまま寝ていた…器用な奴だ
今日はどう起こそう…
いっつも同じ手ばかりだとつまらないので今日は軽く殴っておくことにしよう
ポカ
「う〜いたい〜〜……くー」
手強くなったな名雪よ！しかし！負けるわけにはいかないのだよ！
謎のセリフと共に俺は名雪に総攻撃を仕掛けた
ポカポカポカポカ
「うぐ…あれ？祐一がいる…」
勝った…とか馬鹿げた事を思っていたが、あまりにもばかばかしいので俺はすぐに一階へと降りていく事にした
「あれ？また廊下に立ってるや…」
不意にそんな声が聞こえてきた
またというのが名雪の凄いところなのか怖いところなのか…
「おはようございます祐一さん」
秋子さんと朝の挨拶をして席についた
「おはよう真琴」
「・・・・・・」
真琴は俺の言葉を無視して目の前の物と火花を散らしていた
ジャムがたっぷりとのったトースト、色は…見なかったことにしよう
すぐに名雪が制服姿で降りてきた
真琴のトーストの上のジャムを見たのだろうかいつもより食べるスピードが速い
当の真琴はというと平然とそれを食べているしかも美味しそうに…笑みをこぼしながら
急いでいたために俺達が家を出るのは早かった
８時２分頃だった
今日も雪が積もった道を歩く
「祐一はこの街にはもう慣れた？」
「まぁな」
何日もいればいやでも慣れてくるだろう
「七年前はもっと酷かったけどね」
「昔の事だ…」
まだ完璧には思い出していないが俺は七年前も寒い寒い言っていた
教室にはあまり多いとは言えないが生徒が何人かいた
「おはよう相沢君、水瀬さん」
教室へと入った俺達に２，３人が声をかけてきた
「みんな、おはよう」
俺も挨拶をして自分の席へと向かう
時間が経つごとに生徒の数が少しずつ増えていく
「おはよう相沢君」
「ああ、おはよう」
窓の外は曇り空、雪が今にも降りそうだ
「今日は吹雪になりそうね」
「まじか？」
「冗談よ」
一本取られてしまった、そういえばいつも天気予報を見ていないことに今ごろ気づく、明日からは見るとするか…
「石橋が来たわよ」
それを合図に、いつもと変わらない一日が始まった
キーーンコーーンカーーンコーーン
「祐一、放課後だよ」
曲がっていた背筋を伸ばす
「名雪、今日は部活か？」
「そうだよ」
「がんばれよ」
「ふぁいと、だね」
苦笑をもらさずにはいられなかった
教室を出て、少し早歩きで昇降口へと向かう
そういえば、途中から北川の姿が無かったような…
外は雪が降っていた
「相沢君」
後ろから声をかけられ、体の向きを変え、一応誰かを確認する、この声は…
「なんだ？香里」
「聞きたい事があってね」
「ん？なんだ」
「家族…いえ、一番の親友が死んだ、もしくは死にそうな時に取る行動を聞きたいんだけど」
「いきなりなんなんだ？」
「聞きたい事よ」
「それにしても不吉だな…」
「そうね、私もそう思うわ」
「そうだなその状況だったら、思いでを忘れない、かな」
「答えてくれてありがとう」
「どういたしまして。そういえば名雪には聞いたのか？」
「ええ、聞いたわよ確か名雪の答えは確か、『困る〜』の一言だったわよ」
「あいつらしいな」
俺が笑いながら返事をしていると香里が睨みをきかせてきた
「その一番の親友が相沢君なのよ、予想通りだけど。名雪、報われないわね」
「最後の報われないってどういう意味だよ」
「言葉通りよ」
ですからそれがわからないから聞いたんですけど…ってなんか忘れてるような、あ、北川
「北川はどうだったんだ？」
「ちょっとね」
北川、いったいお前は何を言ったんだ
香里とは途中で別れて雪道を歩いていく
『朝〜朝だよ〜、朝ご飯食べて学校行くよ〜』
「朝じゃねぇ！」
家に帰り自分の部屋に入った時にそう叫んでしまった
俺とした事が完全に機能を停止させてないので、午後なのに時計が午前と間違えているのだ
ってことは今はもう７時頃なのか？
時計を見てみる
５時…
こんな事をやるのは一人だけである
時計の設定を戻して、っと
俺は勢いよく走って真琴の部屋の扉の前に来た
「真〜〜〜〜琴〜〜〜〜」
地響きのような声を上げながら扉を開ける
そこは、物が散乱している、足の踏み場もないほどに
「おはよう祐一♪よく眠れた？」
「今は夕方だ！」
ポカ
「あぅ〜、痛いじゃない！」
「反省というものをしらんのか！」
「反省？なにそれ」
プチ
頭の中で何かが切れた
「…これから肉まん抜き」
「祐一酷い！これでもくらいなさい」
手に何か持つ
「必殺！肉まんアタッーーーーク！！！」
真琴の手から投げられた肉まんが俺の口に入る…窒息死でもさせる気なのか？
いったん口から出してまた口に入れ、食べる
もぐもぐ…！？！？？？！
「目には目を肉まんには肉まんよ！」
真琴の声が聞こえなかった
肉まんの中に謎ジャムが入っていたが、死ぬには少ない
危険を察知してすぐさま俺はリビングへと逃走を開始した
ダダダダダダダ
多分、名雪もこんな気分か
「お帰り祐一、お母さん祐一帰ってきたよ〜」
名雪よ、いつのまに帰ってきた？
リビングに名雪の姿は無かった、代わりに秋子さんがいた…
「お帰りなさい、祐一さん」
まさか…な
「名雪はまだ帰って来てませんよ」
やっぱり…でも、今の声は？
「今の声は…これです」
トンッ
それは目覚まし時計…この家にはいったいこの時計が何個あるのやら
「試しに録音してみたんですよ、しっかりしてますねこの時計」
しっかりしているおかげで、俺は名雪に起こされていると言えてしまう
「全くですね」
ソファーに腰を落としてテレビをつけて見るがあまり良い物はやっていない
しかたなくぼーっとする事にする
ぼーーー
ぼっけ〜〜
ぼーーーん
除夜の鐘！？それに二回目（？）のぼっけ〜〜も気になるな
などというばかばかしい事を考えていた
夕食
今日のご飯は〜〜…
「♪〜〜♪」
「「………」」
「？」
説明しておこう
一番上が真琴で、真ん中が俺と名雪、最後が秋子さんだ
皿の上には、肉まん肉まん肉まん（略）これは俺に対する嫌がらせ？しかもさっきの出来事が〜〜、名雪はただ圧倒されている部分が強い
渋々皿の上の肉まんを食べる…
食べても食べてもなかなか減らない…
１時間後
死ぬかと思った…
もう肉まん見たくない…
その気分で俺は夢の世界へと逃亡をはかる
それは成功した
記正しよう、夢の世界への逃亡は成功した
しかし！そこで問題が生じた…それは俺の口からは言えない…
Ｐ，Ｓ各自の想像に任せる
『朝〜朝だよ〜』
救世主だ！
『朝ご飯食べて学校行くよ〜』
これほど学校を嬉しく思うのはこれで最後だろう
『朝〜朝だよ〜』
カチッ
さっさと学校行って来るか
名雪を起こして（いつもの手）一階へと降りる
「おはようございます、祐一さん」
自分の席へと着く
あれ？真琴がいない、まだ寝てるのか…放っておこう
俺達が家を出たのはなぜか
８時１５分だった
くそ！真琴の仕業か！それならいなかった事も頷ける…
「セ、セーフ」
久しぶりに走ったせいか、息がだいぶあがっている
「ふぃ〜〜」
ＥＮが切れた機械のようにイスに座る
「今日は俺の勝ちだな、相沢」
「誰が、いつ、どこで、どんな勝負をした」
「俺が、今、ここで、どちらが先に教室に入れるか」
…………
「くだらない勝負ね」
「そうだな」
「……悪かったな」
予鈴が鳴ってまたいつもと変わらない日が始まった
「祐一、放課後だよ」
「………」
「相沢は動かない、ただの屍のようだ」
「祐一、屍になっちゃたの〜大変」
「今、わかってって言ったろ！名雪！」
「水瀬も腕を上げたな！」
「うん！」
俺の言葉、無視ですか？
「ボケばっかりね…」
しかも乗ってる…
いつのまにか北川までボケ組に入っているし…
「そうそう、北川君、今日掃除当番だから忘れずにね」
「私は部活」
「だれも聞いちゃいないけど。相沢君はたぶん知りたかったから結果オーライだけどね」
まぁ知りたくなかったと言えば嘘になるな
「私はそろそろ帰るわ」
香里が席を立ち鞄を持つ
「俺も」
教室から出て昇降口へと向かう
「ねぇ、相沢君」
隣で靴を履き替えていた香里が唐突に、喋りかけてきた
「ん？」
「人が死ぬ時ってどんな感じだと思う？」
その内容は不可思議極まりなかった、昨日の質問といい何かあるのだろうか
「何かあったのか？」
「興味をそそられただけよ」
興味ねぇ。俺はこの系統の物には全く興味がないし、持てない
「わからんな、それにわかった時にはもう話せないんだし」
愛想無く返事をかえす
「やっぱりそう思うわよね」
笑顔で言っていた…
笑顔の向こう側には何を思っているのだろうか
悲しみか、嬉しさか、怒りか、何も思っていないか
考えても…わからない
校門の柱に誰かが、もたれかかっていた
いや、寝ているようにも見える
これといって気にはならない
俺の横を人が通り抜けて行った
普通なら気にもとめない事だったが…
それが、香里でなければの話だ
「どうした！」
後を追う
校門まで着いた時にその誰かがわかった
白い肌をした少女
見間違いでは無い、それに香里の行動を考えると、それしかない
「ずっと待ってたから熱が出てきたのね、世話がかかる妹ね」
溜め息をついている
少女の頭に、雪が、けっこう積もっている、予測するに待っていたのは一、二時間くらいだろうか、健康なら大丈夫だろうが、病み上がりだと危険だ
それに、風邪は万病の元と言われているし
「大丈夫なのか？」
「大丈夫よ…寝てればね。歩ける？栞」
よろよろと立ち上るがそれはすぐに崩れ落ちそうだった
「本当に世話がかかるわね」
俺は二人を見送り、帰路に着く
「やっぱり変だな」
自分の部屋に入るなり独り言を言う
ついさっきの校門前の出来事を思い返してみる
「あの目…普通じゃない」
どう見ても風邪をひいている人を見る目ではない
それにあまりにも変だ、なぜ秘密にする必要性がある？、それにあの質問といい…
香里は、何を考えているんだ
考えても考えても答えは出てこない、答えは、香里が持っている
聞いても答えはたぶんわからないだろう、あくまでもたぶんだが…
試してみる価値はあるかもしれないな
そろそろ寝るか…
『朝〜朝だよ〜』
夢は見なかった
『朝ごはん食べて学校いくよ〜』
俺って寝る前に何考えてたっけ…
そのうち思い出すだろう
制服に着替えて名雪を起こしに行く
「名雪〜起きろ〜」
ドンドンドンドン！！！
キィ
「うにゅ…」
立っているが、起きているかはさだかではない
たぶん、起きているだろう
一階へと降りる
「む…」
テーブルの上には紙切れが置いてあった
早速開いてみる
祐一さんへ
今日は仕事で帰りが遅くなるかもしれないから
晩御飯が遅くなると思うけど我慢してね
この事をすぐに名雪や真琴に伝えておいてください
秋子より
なぜ俺宛て？？別にいいが
早速朝食を食べ……って自分で作らないとな
「おはようございます〜」
「あぅ〜寝坊した〜」
十分間に合ってるぞ…
真琴には、名雪と一緒に起きる＝寝坊 という方式が出来ているみたいだ
「二人ともおはよう。今日、秋子さん、帰り遅くなるってさ」
「うん、わかった」
二人の朝食はもう並べておいていたので、二人はすぐに食べ始めている
二人よりも大分先に食べ終わってしまったので、俺は一人、家を後にする
そういえば秋子さんの仕事って…なんだ？
いろいろな考えが頭に浮かんでは消えていく
秋子さん何でもできそうだしなぁ…
やっぱ料理関係か？
しかしなぁ…
全部否定できない…秋子さんって何者？
後で名雪に聞いてみよう
「おはよう、北川」
「お、相沢か」
数秒間何かを考えた後…
「なんだ？今日は姫君と一緒じゃないのか」
「姫君って誰だよ」
俺は、すぐに聞き返す
「…水瀬、きっと報われんな」
「私の言ったとおりだったでしょ」
香里の顔を見て、昨夜の事を思い出す
俺の聞きたかった事は…今、聞いておくべきか？
予鈴の音で俺の思考は中断された
なぜか名雪は欠席した
キーーーンコーーーン
カーーーンコーーーン
「相沢君、放課後よ」
放課後か…
「香里、ちょっといいか」
妹の事についてちょっと聞きたい事がある、とでも言えばいいのだろうか
「大体の予想はつくけど…」
「妹の事だ」
「予想通りね」
顔がやや曇っている、まずい事だったか？
「妹は、本当に風邪なのか？」
よくよく考えると、変な質問であろう
「そうよ」
こんな時にポーカーフェイスというのは、たちが悪い…しかし、なぜ俺は風邪という事が、事実として受け止めれないのだろう
「本当か？」
もう一度聞き返す
「本当よ」
口ではああ言っているが、それじゃあ、あの行動は？あの目は？
「話はそれだけ？」
何も言えなく…
「それじゃあ私は帰るわね」
俺は、香里の後ろ姿を見送るしかできなかった
聞いてみてもだめだった…
何か…何かがあるはずだ…
何だ？いったい
夢…
夢を見ていた
空
空の雲から雪が降ってきた
それは全てを包み込む様に
あるいは全てを覆い隠す様に
ずっとずっと…
『朝〜朝だよ〜、朝ご飯食べて学校いくよ〜』
朝…か
重い体を起こして制服に着替える
『本当よ』
この言葉がずっと、頭に残っている…
本当なのか？
何度も何度も考えてみたが、答えはいまだにわからない
…………
まずは名雪を起こさないとな、しかし、こんな気分では起こせなさそうだ…
秋子さんに頼んでおこう
雪が積もった道を歩く…
いつもより幾分か気分が重かった
「相沢、おはよう」
「北川か…おはよう」
「何か、悪い物でも食ったか？」
「そんな所、だろうな」
覇気無く言う俺の言葉は暗く、おもぐるしかった
北川の隣に座っていた香里は何も言わずに、一度だけ俺を見た後はずっと黒板を見ていた
「何かあったのか？」
不信に思っただろう北川は俺にそう問い掛ける
「ちょっとな」
話しかけずらい…
少なくとも気楽には話し掛けれない
「早く仲直りしろよう、俺が困るから」
「ああ、そうだな」
力なく笑う
いつもと変わらない一日は…始まらなかった
昼休み
学食でパンを買う
大きな扉の前にくる…確か、この先は中庭だったような…
たまには外で食べみるか
…寒い
好奇心で出てきたものの３、秒足らずで後悔する
中庭には既に先客がいた
白銀の世界に…
ただ一人…
「おい、香里」
「なに？相沢君」
「なんで、こんな寒い中庭にいるんだよ」
「そんなの、人の勝手でしょ」
おかしいな
「…何かあったのか？」
最近、香里の行動がおかしいのは明らかだ
「何もないわよ」
「話を変えよう。やっぱり、妹さんが倒れたのは風邪なのか？」
「そのとおりよ」
「ドラマとかだったら、難病とかなんだがな」
「ドラマ…だったらね」
「そして最後はそれが治って、ハーッピーエンド」
ここに来る前に、こんなような設定のドラマを見た気がする
内容は全く覚えていないが
「ハッピーエンド…ね」
確認するように問い掛けてくる
「そう、ハッピーエンド」
「現実もそうだったらいいのに」
「やっぱり、何かあるんじゃないか？」
………
「相沢君」
「何だ？」
「人はね、誰にも言えない秘密を持っているものなのよ、それがたとえ、親友でもね」
親友でも、か
「何かしてやれる事があれば、するが」
「これ以上関わらないで」
……はぁ
どうしたもんだか…
俺は何をすればいいんだ？
『これ以上関わらないで』
ここまで言うんだからな…
何も無いって事はさすがに無いだろうな
今までも嘘と思っていたが、今回で確信により近くなった
ふぅ…
寝るか
「おはようございます、祐一さん」
いつもの目覚ましに起こされて、朝食を食べる
あまり食欲は無いが
そのせいか食べるペースがいつもより大分遅かった
それを見ていた秋子さんは
「どうしたんですか？」
「ちょっと気分が悪くて…」
嘘でもないし本当でも無い
「無理、しないでくださいね」
「善処します」
無理…か
キーーンコーーーン
カーーンコーーーン
「祐一、放課後だよ」
「そうか。名雪、今日は部活か？」
「うん」
早く帰るか…
どっかに寄ろう…
いつも商店街では芸が無いな…
たまには散歩もいいかもな
迷った…
どこだ、ここ
こんな事なら地図でも持ってこればよかった
大きな建物が目の前に入る…
…病院か
ロビーには見知った人が立っていた
それは…
白い肌をした少女
俺はすぐに、ロビーへと入り、声をかける
「栞ちゃん」
「…どちらさまでしょう？」
そういえば、自己紹介なんてしてなかったけ
「俺は、相沢祐一、君のお姉さんの友達」
「おねえちゃんの…ですか」
警戒心は解けたようだ
さて、本題へと戻るか
「えっと、聞きたい事がいっぱいあるんだけど…」
「どんどん聞いてください」
「君は…病気なの？」
「そうですよ」
まぁここまではいいとして
「その病気は…重いもの？」
「………お姉ちゃんに聞いてください」
知らされていないのか？こんなパターンは重い病気の可能性大だ
「教えてくれなかったんだけど…」
仕方有りませんとばかりに言ってきた
「重い…方ですね」
「命には別状ないよね」
最後の確認で、そして俺にとって一番知りたい事だった
「………」
「どう…なんだ？」
「私の口からは言えません、言いたくありません」
「やっぱりそうか」
今までの行動、発言…
それらがこれで繋がる
そう、全部…
「で…いつまでまでなら生きていられる？」
酷な質問だろう、他ならぬ本人に聞いているのだから
「………」
無言、当然と言えば当然だろう、今までこれだけの事を言ってくれただけでも辛いのに
「…ごめん、変な事聞いちゃって」
俺は逃げる様に病院を出ていった
「おはよう、みんな」
名雪は朝から元気だった
手だけで俺は挨拶をする
元気ではない
元気になれる、と言う方がおかしい
あんな事を言われて…
普通にいられる方が…
昼休み…
香里の姿は教室には無かった
残るは学食か、中庭
普通なら学食の可能性が高いが…
今の状況を、普通と言えるだろうか
大きな扉を開けて、白銀の世界へと足を踏み入れる
予想通り香里がいた
「香里」
何を言うかはわからないが声をかけずにはいられなかった
「何？相沢君」
「お前、妹は風邪だって言ってたよな」
「言ってたわよ、全く何度言わせれば気がすむの？」
昨日の出来事が蘇った
「嘘だったんだな」
「何を根拠に…」
根拠なんて、もうわかっているはずだ
「…妹に聞いたぞ、重い病気だってな」
香里は俯いてしまった
「なんで教えてくれなかっだ！」
声を荒げてしまった、今は、そんな事はどうでもいい
「巻き込みたくなかったのよ」
声が震えていた
「……巻き込んでまで何かをしてもらう必要はないわ」
「あいにく、もう十分巻き込まれちまってな、もうほどくにほどけないんだよ」
ここまで深入りしといて、はい、さようならなどできないし、したくない
「聞かせてくれるか？何があったのかを」
「もう、帰りの切符は買えないわよ」
「それでもかまわないさ」
香里が語り出す…
「…栞はもう助からない、不治の病にかかった…そう医者に言われた」
不治の病…か、実在していたんだな
「そして私は栞から目をそむけた…いやだった、そして、会話も何もしないまま何ヶ月も過ぎたわ」
妹が家族がいきなり、不治の病にかかったなど言われれば誰だっていやになる
「そんなある日、あの子は、買い物をした…必要無いのにいろいろな物を買って…」
………
「口を聞かないと決めたけど、一度くらいならって聞いてみたわ。『何買ってきたの』って」
………じっと俺は香里の目を見つめる
「そしたら栞…『えっと、いろいろな物ですよ』って。会話を聞いたら普通よね、でも…」
会話だけなら…
「栞とは久しぶりに会話をしたのよ…喜んでもいいじゃない」
久しぶり…
「おかしかった…だから、栞が部屋に入った後にドアの隙間から見てみたの、そしたら栞…」
一体何が？
「栞…自分の手首にカッターナイフをつきつけていたわ」
！！！
血液が引いていく音を聞いた気がする
「私は一瞬だけど、止めるのをためらった、死んでしまえって思った」
……
「でも、結局私は止めた…だって家族を見殺しにできる？」
見殺し…か
「でも…結局それは私がさせたのも同じのような事なのよ」
……何も言えない、いや、言わない
「だから私は…栞にもうつらい思いをさせないために…喋ったり…一緒に登校したり…」
そして現在に至る前に何かあったはず
「四日前だっけ、症状が悪化したのは」
四日前、確か校門で栞が倒れていた日か
「一週間持つかどうか…それが診断結果」
死の宣告…
「いつかはこうなる事はわかっていたはずなのに…それなのに…」
……いつかくる事
「私はまた目をそむけてしまったの！」
……
「あはは、馬鹿よね…自分の勝手で目をそむけて…そして…それが一番辛いってわかってるはずなのに」
果たして俺は、そむけずにいられるだろうか…
俺はそれを受け止められるだろうか…
「こんな時にどうするかを、いつか相沢君に聞いたわよね」
親友が死んだ時、もしくは死にそうな時にとる行動…
「こんな時のために聞いたのに…だめだったの」
あの質問はそういう意味があったのか…
「奇跡が起きれば…助かるかもしれないけど」
何も言えない
キーーンコーーン
カーーンコーーーン
俺のかわりにチャイムが答えた
自分の部屋で夜、ずっと考えていた
一体俺に何が出来る？
…奇跡か
できるか？そんな事…
夢
夢を見ていた
理想と現実
それらが混ざり合っていた
人が立っている
それは誰だっただろう
まだ夢を見ている気分だった
現実味を帯びていたせいだろうか…
理想と現実…
必ずしも理想は現実になるとは言えない…
これには『不幸』という言葉が似合う
逆に必ずしも理想が現実にならないとは言えない…
これは『奇跡』という言葉が似合う
俺は、今『奇跡』を願う
昨夜と同じ事を考え始める
奇跡…か
そんな物が簡単に起きるわけない…
起きないとも言えないが
「おはよう、相沢君」
「ああ、あはよう」
香里は表面上は普段通りだった
あくまでも、表面上
いつもと変わらない一日…
二時間目
隣の名雪はとうに夢の世界に旅立っている
幸せな奴だ…
放課後…
俺は前に行った、病院へと向かう
道順はあやふやだったが何とかなるだろう
何とか着いた…
？
中が騒がしい
どうしたんだ…まさか
次に気づいたときは、俺は駆け出していた
「相沢君！」
香里だ…
こっちというように手招きしている
素早く方向転換して再び駆け出す
病室には栞がベットに横たわり、眠っていた
「血圧低下！」
「くそ！どうにかできんのか」
「こんな時に…手術室は…」
「事故と重なるとは…」
「輸血パックは！？」
病室内は混乱を極めていた
さまざまな言葉が飛び交う中…
俺はそれを見ているだけ…
ここは息苦しい
「外に行きましょう、相沢君」
香里の後ろをついていく…
静かな通路…
靴の音だけが響き…
重たい扉が開かれる
外は、白い白い世界…
白しかない世界
「よく、俺に話してくれたよな」
あんな、悲しい話を…
「…信頼できるからね」
「何を根拠に？」
「…秘密よ」
「秘密、って」
何だかな…
病院を見る…
白くて大きい建物
「栞、助かる、かしらね」
「どうだかな」
助かるか助からないか、俺達にはわからない
「栞が、相沢君にあれだけの事を話せれたのは、なぜかわかる？」
「さぁ…」
「覚えてないのね…やっぱり」
どういう事だ？
「昔、会ったはずよ、栞と」
昔？って事は7年前か？
「どこでだ？」
「それは、知らないわ、相沢君の話をした時に会った事があるって栞が言ってたから」
会った事…
思い出せない
何故だ？
「本人に聞いてみるといいわ」
「聞けたらな」
「…雪ね」
雪が降っている
絶え間無く…
何かを隠すように…
ずっと…
「死んだ方がましな状態ですな」
病室の前で言われる…
「死んでは、いないのね」
「死んではいない、そして普通に生きてもいない。助からないとも言えませんし、助かるとも言えません」
素直に喜んでいいものなのか…
「素直に喜べないわね…」
香里も同意見らしい
香里は病室のドアに手をかける
慌てて医者が香里の腕を握る
「今は面会謝絶ですので」
「だからどうしたの？」
かなわないと判断したのか医者は腕を離す
「好きにしなさい」
「そうさせてもらうわ」
病室のベットには栞が横たわっていた
あまり見たくはない…
……
「…もう７時か」
……
「そろそろ帰るな」
朝の通学路…
「相沢君♪」
「おわ！」
背後からいきなり声をかけられてびっくりしない奴がいたら見てみたいものだ
「香里か…と栞ちゃんもか」
「はい」
「良くなったんだな」
「♪」
歩いている時点でわかるが
「そうね、留年だろうけど」
「そんな事言う人嫌いです」
「留年なのか？」
病気とは聞いたが…
「11ヶ月半も休んだのに、留年じゃなかったら怖いわよ」
すごい日数である
「でも勉強はしたから大丈夫ですよ」
ぜんぜん大丈夫じゃありません…
「はぁ、まったく、この子は…」
「がんばります！」
「どうぞ、ご勝手に…」
二人のやり取りを見ていると面白い
そういえば…
「どうして助かったんだろうな」
「決意したからですよ」
「どんな？」
「生きる決意です」
「なんだか変な決意だな」
「そんな事言う人嫌いです」
幸せな日々をこれから送ろう…
ずっと…
夢
夢を見ていた
それは雪の日の決意
生きる事を決意した少女
その決意は叶えられた
少女の決意を叶えたのは…
誰だったんだろ…
ＦＩＮ
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