偶然と運命。
相反するその二つを、人はうまく使いこなす。
ある時はそれを偶然と呼び、
またある時はそれを運命だという。
今まで運命だと思っていたことがもし偶然だとしたら・・・
偶然だと思っていたものが運命だとしたら・・・

これから書き付けるのは、ある事実に基づくドラマ。
偶然の運命が織り成す悲しい恋の物語。
自分自身を祐一という男に置き換えて、
そして香里という女との不思議なつながりを。

全てはたまたまの出来事なのか。
それとも定めなのか。
私の最初の青の時代。
最初に見つけた人間性。
それを変わった形で送ろう。
だから少しだけ考えてほしい、
本当の感動と、
出会いの全てを。


二度と無いであろうあのめぐり合い。
それを今、こうして俺は文章化する。
どうしても消せないこの記憶を、
わずかでも知ってもらいたい。
そうすることで、ほんの少しだけ、
俺の気持ちもまぎれるような、
そんな気がするから・・・












Ｆａｔｅｄ　Ｍｅｅｔｉｎｇ　Ａｎｄ　Ｃａｓｕａｌ　Ｏｎｅ













ここに来て２度目の冬。俺がここに来てもう１年になろうとしている。そして香里との付き合いもおよそ１０ヶ月。香里と出会うまでのいきさつも、栞との別れも、あの出来事も、全てが頭の中から薄れていこうとしていた。１２月中旬の今、町は聖夜の準備でごった返している。この町はすでに純白一色。なれてきたこの寒さも、香里との日々も、すべてこの町のおかげだ。ここに来てさまざまな出会いや辛い思いも経験してきたが、俺はこの白い町を気に入っていた。こちらでの生活は全てとはいかないが、ほとんどがうまくいっていた。実家ではいろいろとあって、結果的にこっちに逃げてくる格好になってしまったが。まあ、秋子さんや名雪には、父親の転勤が理由でここに越してきたことにしているが・・・


「どうしたのよ、相沢君」
そう聞こえるや否や、背中に人肌を感じる。香里だ。彼女は俺の背中に抱きつき、耳元から話し掛けている。
「いや、ちょっとな・・・」
俺はその手を取って、少しだけ口をつけるような仕草をしてみる。
「物思いにふけるなんて、あなたらしくないわね」
「悪かったな、似合わなくて」
わざとのように、俺は香里の手を振り解いて反対を向く。
「似合わないとは言ってないじゃない。ただ、どうしたのかな、と思ったのよ」
香里は俺の肩を揺さぶる。
「分かってるよ、そんなこと」
「もう・・・で、どうしたの？」
香里は俺の顔を覗き込むようにしている。
「ああ、俺、明後日から実家に帰るって言ったただろ、そのことでちょっとな」
「なにかあるの？」
「まあ、いろいろとな」


そう、いろいろだ。ここに来たのは父親の転勤なんかじゃない。本当は離婚騒動があったからだ。今ではもうだいぶ持ち直してはいるが・・・
事の発端は父親の借金だった。どこから作ってきたか分からない借金が数百万。それを返していこうとしてはまた借金を作ってくる。そんなことの繰り返し。でも、それで終わりではなかった。俺の母は税理士をやっていたのだが、その時会った先生との不倫。これがさらに事を大きくしていった。一時は裁判になりかけたこともあったし、向こう側の奥さんがこちらの家に押しかけてきたり。そうこうしているうちに母は病気になり、倒れた。全てが狂い始めた、そう思えるほどだった。そして離婚騒動。まだ離婚はしていないが、いつするか分からない状況だ。そんな時期に家に帰ろうとしているのだから少しは不安があった。





「ねえ、相沢君」
隣から聞こえてくる香里の声。どうやらまだ起きているようだった。
「ん？どうした」
香里のほうを向いて答える。
「明後日のことだけど・・・私も連れていってくれないかしら？」
哀願の視線を送りながらの、あまりにも唐突な申し出。
「俺の家にか？」
「ええ、そうよ」
「そうだな・・・」
その願いを聞くべきかどうか、少し悩んだ。はっきり言って連れて行きたくは無かった。確かに今は家には父は居ないし、特に問題はないが、なんとなくそう思っていた。でも、香里としても俺の側に居たいだろうから、俺はその申し出を受け入れることにした。
「まあ、いいぞ。なんにもないけどな」
「ありがと。行ってみたかったのよ、相沢君の家」
喜びの表情を浮かべる香里。それを見て俺は少し心を痛ませた。なにせ、まだ香里にすら俺の家庭事情を話していなかったからだ。本当は香里にだけでも話しておかなければならないことだったが、俺は話すタイミングを逃してしまっていた。










そして、次の日。俺は母に電話をしていた。
「そうそう、明日だけど・・・その、俺の彼女も連れて行くから・・・」
なんとなく言いづらい、『彼女』という言葉。
「そう、わかったわ。楽しみにしてるわね」
楽しみになんてしなくていい、と言いたかったが、すでに切れていた。


「ねえ、なんて言ってた？」
横にいた香里が俺に向かって言う。
「ああ、楽しみにしてるって言ってたぞ」
「そう、よかったわ。だめって言われたらどうしようかと思ったわ」


こうして、香里はうちに来ることになった。俺としては少し気恥ずかしい感じだったが、香里が喜んでいるのなら別にそれでいいと思っていた、そう、この時はまだ。
でも、この出来事がこの先をがらりと変えることになってしまうとは・・・


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