「ただいまー」
玄関から名雪の声が聞こえた。
帰ってきたのか。結構早かったな。
「まだ……５時くらいか」
ベットから身を起こし時計を確認した。
「祐一さん、ただいま帰りました」
秋子さんの声も聞こえる。帰り、一緒になったのかな。
トントントンッ
そう思ってると階段を駆け上がる音が聞こえてきた。……なんか複数聞こえるぞ。
「ただいま、祐一さん。お加減は如何ですか？」
「祐一、ただいまだよー。風邪大丈夫？」
「おう、お帰り名雪。秋子さんもお帰りなさい。少しは体調戻ってきたぞ」
「良かったね、祐一」
「ああ。でも結構早かったな、なゆ……って待て。何故栞やあゆたちがいるんだ？」
名雪の後ろには栞とあゆ、舞たちがいた。
「お見舞いに決まってますっ」
「祐一君が風邪だって聞いていてもたってもいられなかったよ。まぁ、真琴ちゃんがついてるから安心したけど」
「……心配だった。大丈夫？」
「ん？ああ、大丈夫だよ」
やっぱ女の子にお見舞いに来てもらえるのは嬉しいものだ。
「大丈夫ですか、祐一さん」
心底心配そうな顔で佐祐理さんが訊いてきた。
「心配してくれてありがとう、佐祐理さん。もう大丈夫だよ」
うう、やっぱ良いなぁ、佐祐理さんは。優しいよ。
「相沢君でも風邪引くのねー」
「ええ、驚きました」
「……おい、本気で驚いたように言うなっ」
それに比べて香里と天野は酷いぞ。
「冗談よ」
「クスクス、本気で言うわけ無いじゃないですか」
そう言って２人は可笑しそうに笑った。
「ちぇー」
でもこうやって女の子に囲まれるのって良いなぁ。
「俺もいるぞー」
「帰れ」
だから男はいらない。
「てめ、人が心配して来てやったのに。せっかくこの俺の愛の力でお前を治そうと……」
「今すぐ帰れっ。てか消えろ。男にそんな言葉かけられたくないっ」
空恐ろしい事を言い出した北川を一蹴した。
「冗談だって。でも大丈夫か？」
「ああ、まあな。……真琴が看病してくれたから」
だいぶ楽になった。
「そっか、良かったな。……風邪、完璧に治ったら今度こそプール行こうぜ」
「ああ、分かった」
北川とのこういうやり取りはやっぱ楽しい。
「でも俺も風邪引いたら女の子に看病してもらいたいぜ」
北川は羨ましそうに言った。
「あっ、なんだったら私がしましょうか？」
「栞ちゃんが？そうだなぁ、栞ちゃんだったら優しく看病してくれそうだ。頼もっかなぁ」
「はい、任せといてください」
栞は笑顔で答えた。
「けどドラッグマスターだから怪しげな薬に実験台にされるかも知れんぞ」
「え？そうなのか？」
北川は俺の言葉に少し冷や汗を掻いた。
「むー、そんな訳ないですっ。そんな酷い事言う祐一さん、嫌いですよー」
「冗談だ冗談」
栞をからかうと楽しいな。
「おいおい、栞ちゃんが可愛いからっていじめるなよ」
「別にいじめてるわけじゃないんだが……」
「えぅー、恥ずかしいです。……でも、北川さん」
「なんだい、栞ちゃん」
「そろそろお姉ちゃんが怖いので止めませんか？」
「香里？」
北川は不思議そうな顔で訊き返した。
「……さっきから怖い顔で睨んでます」
「え？」
北川が驚いて振り向くと香里が不機嫌そうな目で北川を見ていた。
「え、えーと、じょ、冗談だぞ」
「別に、き・た・が・わ・くんが誰に看病してもらおうと関係ないわよ。ええ、そうよね。栞は可愛いし、他の子たちも可愛いものねぇ。それにあなたって女の子の友達多いんだから病気したら必ず看病してもらえるわよ」
「いや、俺は香里に看病してもらいたいんだが」
「あら、あたしがあなたの看病をすると思ってるの？」
「お、おい……」
「どうせ、あたしがしなくても他の子がしてくれるんだから良いじゃない」
香里の言葉には棘がありまくりだった。
「香里って嫉妬深いね」
「はい、かなりの焼き餅焼きさんです」
名雪の言葉に栞が同意する。
「大丈夫でしょうか、お２人とも」
「ええ、そうですね、美汐さん。心配です」
「……ケンカは悲しい」
天野たちが心配そうに呟く。
「大丈夫ですよ。お姉ちゃん、北川さんにベタ惚れですからそのうち仲直りしてます」
「は、はぁ……」
「それよりも、真琴さんの姿がさっきから見えないんでけどどうしたんですか、祐一さん」
「え？」
「そうね、真琴の姿が見えないのはおかしいわね。どこに行ったんですか、真琴は」
「あ、その……」
秋子さんの問いに俺は言葉に詰まってしまった。
さっきまでのやり取りは秘密にしておこうと思ったんだが。
「相沢さん。何かあったのでしたら教えてください。力になれることならなりたいですから」
「……分かった。話すよ」
そして俺は今日の事、そして昨日あったことを皆に話した。
「そんな事があったんですか。ふぅー、真琴にも困ったものね」
俺の説明を聞き終えた秋子さんは頬に手を当てるとそう零した。
でも相変わらず表情は全然困ってるように見えない。
「すみません、俺たちのことなのに」
「いえ、良いんですよ。あの子がなんでそこまで思い詰めてしまったのか、分からないでもないですから」
「え？秋子さん分かるんですか？……俺分からないんです。悪戯とかいつもなのになんで今回に限りあそこまで落ち込むのか」
真琴の事分かってるつもりだったのに情けない。
「ふふ、本当に真琴のことが好きなんですね」
「え？」
「祐一さん辛そうですもの。……分かりました、ここは母親の私が何とか……」
秋子さんがそう言いかけると。
「行く」
舞がそう言いながらドアのノブに手をかけた。
「どこに行く気だ、舞」
「まこさんのとこ。心配だからお話しに行く」
そう言って舞は真琴の部屋に向かおうとした。
「舞先輩、抜け駆けは無しです。ここは私に任せてください。真琴さんの悩みは私がしっかりと解決しちゃいますので」
栞は自信満々に言い切った。
「……栞じゃ心配」
舞はぼそっと言った。
「えぅー、酷いですぅー。そんなこと言う人、嫌いですぅー」
「……ごめん、ボクもそう思ったよ」
「あゆさんも嫌いですぅー」
栞はいじけ出してしまった。
「じゃあ栞ちゃんが脱落したとこでボクが行くね。ボクにお任せだよ」
「いや、うぐぅじゃ無理だろ」
「うぐぅ、酷いよ祐一君」
俺の茶々にあゆは膨れてしまった。
「祐一、あゆちゃんいじめちゃダメだよー」
「名雪さん」
あゆは嬉しそうに名雪の名を呼んだ。
「でもあゆちゃん、ここは姉のわたしに任せて欲しいんだけど」
「へ？」
「真琴は大切な妹だもん。妹の事は姉が解決すべきだからね。てことでわたしが行くねー」
名雪はそう言うとノブを回し部屋を出た。
「わっ、待ってよ。……名雪さん？」
あゆは部屋を出て立ち止まってしまった名雪を訝しげに見た。
「……あれ？天野？」
どうしたのかと思って部屋から顔を出すと天野が廊下に立っていた。
「えーと、美汐ちゃん？」
名雪が遠慮がちに訊ねる。
「くっ、もう少し早く出るべきでしたね」
「出るべきでしたねって……抜け駆けですか？」
栞がそう質問する。
「親友ですから。こういう時は私の出番です」
「へ？」
「ですので私にお任せを。皆さんは戻ってくださって結構ですよ。では」
そう言って一礼すると天野は真琴の部屋に向かおうとした。
「ダ、ダメだよ。それは姉のわたしがするんだから」
「えー、ボクが行くよ」
「私に任せてくれれば大丈夫です」
「……私がする」
名雪たちは当然のように文句を言った。
「でしたら誰が適任だというのですか？」
天野がそう質問すると皆が皆自分を指差した。
「はぁー、埒があきませんね。どうしましょうか」
「だねー、どうしようか」
名雪たちは本気で悩んでる。
「……て言うか何で１人が行くんだ？」
俺はそう訊いた。
「え？祐一？どうしたの、起き上がって」
「祐一さん何時の間に」
「祐一君どうしたの？」
「寝た方が良い」
「どうされたんですか、相沢さん」
……お前ら不思議そうな顔で見るなよ。
「どうなるのか心配だったからだよ。たっく、みんなで行けば良いだろ」
「え？でも……」
「……けどさ、本当は俺の仕事なんだよな、これって」
「祐一？」
「でも情けない事にどうすりゃ良いか分かんねぇんだ。ごめんな、俺、お前たちに頼ろうとしてる」
俺たち２人の問題だってのにさ。
「ううん、頼ってくれて良いよ」
「え？」
「そうですね。そんなに気に病まなくて大丈夫です。相沢さんは自分が出来る事をしてますよ」
「任せて、祐一君。それにこういう時は女の子同士の方が良いんだよ」
「大丈夫。祐一はゆっくり休んでて」
「祐一さん、次に目が覚めた時には問題は解決してますよ」
名雪たちは微笑みながら答えてくれた。
「……ありがとう。任せる」
「うん、任されたよ。じゃ、行こうか」
名雪に続いて皆が真琴の部屋に向かった。
俺はその様子を見て部屋に入った。
「ふふふ、大丈夫そうね」
部屋に入ると秋子さんが笑顔で迎えてくれた。
「どうしたんですか、秋子さん」
「いえ、嬉しくてつい、ね」
「え？」
「ふふ、真琴の、娘の事でこうまで真剣に悩んで、何かしようとする子がこんなにもたくさんいるんですもの。母親としてこれ以上嬉しい事はないわ」
秋子さんは本当に嬉しそうに答えた。
「そう、ですね。あいつらには本当に感謝しています。……でも俺、真琴が思い詰めた理由分かんないんです。あいつらは見当付いてるみたいだってのに」
情けなさ過ぎる。俺はベットに座り天井を見た。
「相沢君、大丈夫？」
「ああ。……って、香里。お前北川とのケンカは済んだのか？」
「え？いつあたしが潤とケンカしたのよ。そんなことするわけ無いじゃない。ね、潤」
「ま、まぁな」
北川が少し引き気味に答えた。
「……ああ、そう」
一瞬でも心配した俺がバカだった。
語尾に絶対ハートマークが付いてるぞ。
「祐一さん。そんなに心配しなくて大丈夫ですよ」
「佐祐理さん。でも……」
「真琴さんは本当に祐一さんの事が好きですから祐一さんを苦しませた自分が許せなかっただけなんですよ」
「でも、あいつはよく悪戯を……」
「でもそれは愛情表現だということは分かっているでしょう。そして構って欲しいという意味合いだと言うことも」
佐祐理さんは優しい笑みを浮かべて答えてくれた。
「……うん、分かってるよ。でもさ、あそこまでしなくても……」
あんな自分を卑下するような行動、あいつらしくなさすぎる。
「それはあの子が自分が高熱を出したことを覚えていたからでしょう」
「え？秋子さん？」
「あの高熱は風邪などではなく命が燃え尽くし奇跡が終わりを告げた証のようなもの。そうでしたよね」
「……はい」
思い出すのも辛い記憶だ。
ちなみに今この家にいる全員はそのことを知ってる。
「でもそれが一体……」
「あの子は祐一さんに風邪を引かせてしまったわ。それも高熱の。……たとえ違うとは分かっていても自身が高熱を出し最後は消えてしまったのよ。その恐怖があの子の中にはあるの」
「……あっ」
「だから祐一さんに、自分の大好きな人に高熱を出させてしまった自分が許せなかったのよ」
そうか、そうだったんだ。
あいつ、俺のことを看病しながらずっとあの時の自分と俺を重ね合わせてたんだ。頭では違うと分かってても俺が消えてしまうんじゃないかって。
だからそんなことをした自分が許せなかったんだ。
「本当にあいつは……」
「純粋よね」
「あ、ああ」
香里の言葉に思わず頷いてしまった。
「そして本当にあなたの事が好きなのね、沢渡さんは」
「……」
コメントするのは恥ずかしかった。
「ふっ、珍しく照れちゃって。……でもあなたも沢渡さんの事が好きなのよね」
「お、俺は別に……」
俺は慌てて否定しようとしたが。
「こういう時くらい素直に認めなさい」
香里に優しく諭されてしまった。
「……ああ、俺は真琴のことが大好きだよ」
だから俺は自分の気持ちを正直に伝えた。
「よろしい。……それじゃあさっさと寝なさい。風邪まだ治ってないでしょ」
香里は俺の肩に手を添えると強引にベットに押し付けた。
「お、おいっ。真琴が悩んでるのに寝れるわけ……」
「名雪や栞たちに任せておけば大丈夫よ」
「けどさ……」
「大丈夫、大丈夫。次に目が覚めた時には問題は全て解決してるわ」
香里は悪戯っぽく笑った。
「……分かった。寝ることにする」
俺はベットに身を横たえ布団を被った。
「そうそう。最初からそうすれば良いのよ」
「ああ。……でも、ははは……」
「なによいきなり笑ったりして」
「いや、何。さっきの香里の台詞、栞と全く同じだったからさ」
こうも同じ事を言うとはな。
「え？……それはそうよ。姉妹なんだから」
「ああ。だから安心して寝る事にするよ。……秋子さん、あとで起こしてくださいね」
「了承」
そして俺は再び眠りに就いた。
「祐一、起きようよ」
「う……真琴？」
「うん、おはよう」
真琴が俺を優しく起こしてくれた。
「……もうおはようって時間じゃないだろ」
「でも起きたらおはようだよ」
「……そうだな。おはよう、真琴」
俺は起き上がり真琴の頭を撫でながら答えた。
「あぅ〜、くすぐったい〜」
「ふふ……で、何しに来たんだ」
「あ、えっと、夕食出来たから食べれるか聞きに来たの」
「そうか。ああ、食べれるぞ」
「そっか」
真琴はそう答えたあと俯いてしまった。
「どうした、真琴」
「……ここまでは練習したけど後どうすれば良いか分かんないの」
「え？」
「あとは真琴のやりたい事をやりなさいって言われたんだけど……あぅ〜」
そっか。ここまでの会話は秋子さんたちがお膳立てしてくれたのか。
「……真琴はどうしたいんだ？」
「え？」
「何か言いたい事とかしたい事、あるんだろ？」
俺はできるだけ優しく訊いた。
「うん。あの、祐一。……ごめんね」
「……なにがだ？」
「変な事しちゃって。……祐一、困ったでしょ」
「まぁな。正直どうすりゃ良いか分かんなかったよ。ああ言うことはして欲しくなかったな」
「ごめんなさい」
「良いよ、もう」
真琴の気持ちは痛いほど分かってるから。
「でも風邪引かせちゃって、生姜湯ぶちまけたり困らせちゃったり……あたし悪い子だね」
前までの真琴なら考えられないような台詞……いや、正直に伝えられなかった台詞を真琴は呟いた。
「そうでもないぞ」
「え？なんで？」
「……お前が俺を看病してくれたって知ったとき、すごく嬉しかった。それにお前が必死で看病してくれたお陰で万全とは行かなくても体調が回復したからさ。ありがとう、真琴」
そして俺も普段の俺からは考えられないくらい素直に自分の気持ちを伝えていた。
「祐一。……何かいつもの祐一らしくない」
「ほっとけ」
指摘されると恥ずかしいのでついぶっきらぼうな言い方をしてしまった。
「ふふ、照れてる。可愛い」
「お前なぁ……」
「えへ、でもありがとう」
そう言いながら真琴は引っ付いてきた。
「重いって」
「むっ、重くないわよ〜。……けど許してくれるの？」
「まだそんなこと言う」
「だって〜」
まだ少なからず責任を感じてるみたいだ。
「………ふむ」
良い事を考えた。
「あ、あぅ〜、何よその笑み〜」
「え？」
「今何か企んだわね。何する気よ〜」
真琴は後退りをした。
失敬な。ちょっと面白い事考えただけなのに。
「そっか。真琴俺のことそんな目で見てるのか」
やろうかやるまいか迷っていたが実行してやる。
「あぅ〜、そんなことないわよ〜。……あ、その……落ち込んでる？」
真琴は俺の顔を心配そうに覗き込んできた。
……チャンス。
「真琴。これで許してやるよ」
「え？祐一？……って、んん！！」
俺は真琴を抱き寄せ唇を奪った。
真琴は最初俺の腕から逃げようとしたが次第に大人しくなり、最後は逆らおうとはしなくなった
「……真琴」
一度唇を離し俺は名前を呼んだ。
「はふ……え？」
「愛してる……ん」
再びキスをした。
……そして。
「！！？」
舌を真琴の口の中に滑り込ませた。
真琴は一瞬身を固くしたがしばらくして自身もおずおずと舌を差し出し絡め始めた。
「ん、はふ……」
「ん……あ……」
そして俺たちは深い口付けを交し続けた。
「ん……はぁ……お終い」
俺はそう言って真琴から離れベットから起き上がった。
「あぅ〜、祐一のバカ〜」
耳まで真っ赤にして真琴は文句を言ってきた。
「どうした、真琴」
「なんでしたのよ〜」
「……これでチャラにしてやろうって思ってな。……あと看病してくれたお礼も兼ねて」
俺は真琴の顔を見ず答えた。……見たら照れて絶対言えない。
「……あぅ〜、で、でもいきなりしないでよ〜」
「なんだ？いきなりじゃなかったら良いのか？」
俺は冗談交じりに訊いた。
「え、その……うん」
「……ッ……い、行くぞ。飯は下で食う」
冗談を肯定した真琴の顔がまともに見れなくて俺は慌てて部屋を出ようとした。
「あーっ、置いてかないでよーっ」
真琴も慌ててついて来た。
そして部屋の扉を開けると。
「おいっ」
思わずツッコミを入れてしまった。
「え、えぅ〜」
「う、うぐぅ、ボク何も見てないよ」
「さ、さー行こうかしら栞」
「……き、気にしないで」
「あ、あはは〜」
天野と北川を除くこの家の住人以外が部屋の前に立っていた。
……みんな顔が赤い。
「なにしてんのかな、お前ら」
「ま、真琴さんがいつまで経っても戻ってこなかったので心配になって、その……」
栞はそこで目線を逸らしてしまった。
「つーか、何でこの時間になってもまだいるんだ？」
もう７時過ぎてるんだぞ。さすがに外は真っ暗だ。
「え？真琴ちゃん説明してないの？」
「へ？」
俺はあゆの言葉に慌てて真琴のほうを振り向いた。
「あ、え、えっと……今日はみんなで夕食を食べることになったの。言うの忘れてた……ごめんなさい」
「ぐっ……」
そんな目で見られたら怒れない。
「……み、みんなってみんなか？」
「ええ、潤はバイトだけど他はみんないるわよ。……でも仲良いわね、２人とも」
「あ、あぅ〜」
「……趣味が良くないぞ」
「あんなことしてるあんたが悪いのよ」
「ぐっ……」
「……さてと、名雪たちが待ってるわ。みんな下行きましょ」
香里の言葉に答えてみんな下に下り始めた。
「はぁー」
俺は頭を抱えたくなった。
「ゆ、祐一、下りよ」
「あ、ああ」
そして俺たちも食事をしに下に下りた。
ちなみに。
「おっ、今日は中華料理か」
とても豪勢な中華料理がテーブルに並んでいた。
「うん。でも祐一はお粥だよ」
「え？」
「風邪引いてるからね」
名雪はにっこり微笑んだ。
「で、でも……」
もう大丈夫だと思うんだが。
「あたし作ったんだけど……食べたくない？」
真琴が上目遣いに訊いてきた。
「いや、全然。嬉しいぞ」
食べざるをえないな。
更に。
「祐一、食べさせてあげるね」
「も、もう大丈夫だって」
スプーンを持った真琴が訊いてきた。
「良いじゃない、今日くらい」
「恥ずかしいだ……ごほっ、けほっ」
「ほら、まだ治ってないんだし……ダメ？」
……そう言う風に上目遣いに見られたら断れない。
たっく、変な武器手に入れやがって。……でもいっか。
「良いよ、真琴。……でも今日だけだぞ」
「うんっ」
俺は真琴にお粥を食べさせてもらう事になった。
他のみんながいる中でそうされるのは恥ずかしかったし後々物笑いの種にされるかもしれなかったが別に構わないと思った。
だって俺は真琴が大好きだから。
〜ｆｉｎ〜
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転載、無断引用を固く禁止します。
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