『漢の浪漫』
午後の教室。授業は哲学。おじいさん先生が空海の仏教思想を話しているが、机には生徒たちが毒ガステロでもくらったかのように伏せている。
隣の名雪も、名雪の後ろの香里も例外ではない。
俺は机に肘を乗せて頭を支えていると、後ろから肩を叩かれた。北川だ。
「お前も寝てたらどうなんだ？」
言うと、北川はノートの切れ端を俺の机に投げた。そしてニヤイヤしながら居眠りの格好を取る。
「なんだぁ？」
切れ端を広げると、汚い文字で殴り書きしていた。
『漢の浪漫とは？』
俺もノートを破り、適当に文字を書く。
「ほらよ」
北川の頭のアンテナめがけ紙切れを投げつける。
ガサガサと紙切れを空ける音が聞こえた。
とそのとき、哲学の先生がゴシック建築について語り始めた。
「えぇ、ゴシック建築はそもそも心の建築であり…」
まったく関心がないので俺はそろそろお休み……。
「そもそもゴシックはキリスト教と地母崇拝が複雑に絡み合い……」
ぐー…ぐー…。
「プロテスタントと共に黄昏の時代を迎えてしまうのであります……」
すぴー…すぴー…。だれかきいてる人いるんだろうか。
「しかしながら、近代にゴシックリバイバルが活発化しはじめ……」
あと十分で授業が終わる……。
「それはまさに、ゴシックとは人類の浪漫なのです」
「嘘だぁっ！！そんなもん認めるかーーっ！」
最後に叫んだのは北川だ。突然の雄たけびにクラス中が起き上がる。とうの北川は廃人のような顔を浮かべている。
「北川君、ゴシックが嫌いなのかね？」
先生、唖然としながらも北川に問いかけた。
「認めんっ！認めないぞそんなの全然くだらねーよ！興味ねえよ！！あんなもんきもちわりーだけじゃないか！！」
「北川君、それは少々いいすぎというものではないのかね？」
「知るか！」
彼の机から舞い上がった紙切れ、そこには……。
ゴシックロリータ。
結果のページ
このSSは、作者の方に二次著作権が存在します。
転載、無断引用を固く禁止します。
戻る