キミを後ろに乗せて・・・
季節は初夏
雪の街が白いベールを脱ぎ捨て、草木がまぶしい緑一色に衣替え・・・
そんなある朝、水瀬家ではいつも通りの朝が繰り広げられていた
「おい！名雪、行くぞ！」
「わ、待ってよ〜」
門の前で自転車のサドルに跨り、玄関で慌てながら靴を履いている名雪を
少しイライラしながら待っている
俺たちが通う学校では冬の間は道が凍結してしまったり、
雪で隠れてしまうため自転車通学が禁止なんだが雪の無い今の時期はＯＫだ
だから俺が通学用に一台自転車を買ったってワケだ
「おまたせ！」
「遅い！このままだと『また』遅刻だぞ！」
ここで『また』と言ったのは皆さんご存じの通り、水瀬家の眠り姫こと名雪のせいで
毎回毎回毎回（以下略）遅刻、もしくは遅刻寸前だからだ
でも、まぁコレのおかげで自転車通学の許可が一発ＯＫだったんだけどな・・・
生活指導の先生が石橋だったってこともラッキーだったしな・・・
おっと・・・こうグズグズしていられない
これ以上遅刻が重なると色々とヤバイからな・・・
「名雪、行くぞ！」
「うんっ！」
名雪が指定席に座ったのを確認してから足に、ペダルに力を込める
指定席と言っても自転車の荷台部分にネコ柄の座布団を付けたところだ
ちなみにネコ柄の座布団は以前、名雪が「お尻が痛いよ〜」と文句をたれるので
秋子さんに作ってもらったものだ
「おい、タイムリミットまであと何分だ？」
「えっと・・・８分ぐらいだよ〜」
「ぐっ・・・またギリギリか・・・」
ペダルをこぐ力が、チェーン・ギアへと伝わり、最終的にタイヤへと伝わる
そして、その力がスピードとなり自転車は加速する
さらに走り出して数秒後、自転車はスピードに乗りどんどん加速し、
トップスピードへと上り詰める
周りの景色が走って登校していたときより早く流れる
衣替えをして半袖の夏服から出ている肌に風が当たって心地よい
「風が気持ちいいね〜」
「くつろいでんじゃねぇ！コッチは必死なんだぞ！」
後ろでは名雪が風で靡く髪を片手でおさえ、危機感のない間延びした声で
しゃべりかけてくる
そう、コッチには余裕が無い！
一分一秒を争っているため額には汗がにじみ、頬を伝って地面に落ちようとしている
「名雪、残り時間は？」
「うーんとね・・・２分だよ」
もう足は限界近くで、さらに暑さで意識も飛びそうになっている
「よし！ラストスパートだ！」
「ふぁいとだよっ！」
川沿いの道を走りきり、角を曲がりきるとサドルから立ち上がり、
立ちこぎ状態で校門前の最後の直線（ストレート）を駆け抜ける
ゴールまで５０メートル！
そして・・・ゴール！
門を閉めようとしている先生達の横を猛スピードで駆け抜け、自転車置き場に直行する
チェッカーフラッグの代りに校門の閉まる重い鉄の音
それはセーフを告げる音に違いなかった
しかし、まだ油断は出来ない！
あとは担任の石橋との勝負！
２階のにある教室に向かって名雪と階段を駆け上がる
階段を上りきると教室の扉は目の前だ！
そして、扉に手をかけ・・
「祐一、今日はギリギリセーフだね！」
「ああ、俺の努力の賜だ・・・」
開く・・・
「んー相沢と水瀬・・・遅刻と・・・最近たるんどるぞ」
アウトでした・・・
その場に崩れ落ちる祐一と名雪・・・
この時祐一がバイク通学を本気で考えたとか考えなかったとかは別のお話・・・
ＥＮＤ
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