また明日
「明日のお弁当は、何が良いですか？」
帰り道、栞がそう聞いてくる。
「何でもいいぞ」
俺が、少し投げやりに返事をすると、
「本当に、何でも良いですか？」
栞は少し不気味な感じで、そう言う。
「食べられるものならな」
「はい」
栞がなにか企んでいる気がするけど、これは当たり前となった日常の事。
「祐一さん」
「ん？」
「今度の日曜日は何処に行きましょう？」
「まだ、月曜日だぞ」
「私は、昨日の続きをしたいです」
「また、もぐら叩きか？」
「はい」
栞は、嬉しそうに笑う。
「俺は、部屋でゆっくりしたいぞ」
「それでは、お姉ちゃんを追い出しますから、私の部屋に来ますか？」
「追い出すと、後が怖いから、その辺は日曜日までに考えよう」
「はい」
「まだ月曜日だし、そんなに慌てて考える事もないだろう」
最近、少し気になっている事がある。
栞は、やたら明日の事、明後日の事、未来のことを気にしている気がする。
「なぁ栞」
「なんですか？」
「お前、少し先の事にこだわり過ぎてないか？」
「……」
栞は、なにも言わない。
「明日の事とか、すぐに聞いてくるよな？」
「はい」
「何かあったのか？」
「……」
栞は、何かに不安になっているという気がした。
「良いんですよね？」
「何が？」
「私が、明日いても良いですよね？」
「当たり前だ」
「でも、少し怖いです」
「何が？」
「もしも明日、私に何かあって、そこで終わったら…」
深刻な表情で、栞は俯いてしまう。
「そんな事で悩んでいたのか？」
「そんな事って？」
ここ数日、栞が何か悩んでいる事には気づいていた。
「そんなの、考えるだけ無駄じゃないか」
「うわ、そんな事言う人嫌いです」
言っている事は、いつもと同じだけど、表情は明るくない。
「だって、そうだろ？」
「え？」
「そんな事考えて不安になるよりも、今を楽しんだ方がずっと良い」
「……」
栞は、未来を一度諦めてしまった。
事実を受け入れて、閉ざしてしまった自分の未来。
そして、新しく出来た新しい道。
栞は、不安になっている。
「俺は、明日のことよりも、今栞といる時の事を考えていたほうが楽しいからな」
「……」
「栞が、一人で明日のことばかり言っているから、俺は少し寂しいぞ」
そう言って、少し拗ねてみる。
「うわ、祐一さんが拗ねても可愛くないですよ」
「お前、何気なくひどい事言ってないか？」
「気のせいですよ」
そう言って、栞は笑う。
道は、そろそろ別れる場所だ。
「祐一さん」
「なんだ？」
「また、明日です」
「そうだな」
いつもなら、ここでお互い別れる場所。
「明日よりも今ですよね？」
栞は、そう言ってくる。
「あぁ」
「だったら、また明日って言う必要無くしたいです」
「え？」
「帰る場所が一緒なら、そう言う必要無いですよ」
栞は、そう言って一歩俺より先を歩く。
「そうだな」
「はい」
振りかえり、笑顔で笑う栞。
その表情に、さっきみたいな不安は無かった。
「祐一さん、またそんなもの買って来たんですか？」
「まぁ、そのうち必要になると思ったから…」
あれから、いくつもの季節が過ぎ去った。
「先の事よりも、今を大切にするって言ったの、祐一さんじゃないですか」
「お前、よくそんな昔の事覚えているな…」
学生だった頃が、昔と言えるような時間。
「私は、祐一さんが言った通り、あれからちゃんと今をしっかりと生きていますから」
「俺だって、そうだぞ」
「だったら、その荷物は何ですか？」
「うっ…」
栞は、そう言って俺の持っている買い物袋を指差す。
「まだ、半年も先ですよ？」
「今から、楽しで…」
栞の気迫に押されて、俺は上手く言葉が出ない。
「駄目です」
「何で？」
「残りの半年間は、２人だけの生活を楽しみます」
「その後は？」
「３人の生活を楽しみましょう」
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