あなたと一緒にいる朝に、夢の続きを見にいこう
夢のなか。
小さいころに遊んだお花畑で。
小さな私は、誰かのひざの上で遊んでた。
――ねぇ、ほら。おはなのくびかざりだよー。
れんげのお花で作った首飾り。
高ーくかかげて、見てもらって。
――どう？ どうかな？ じょうずにできてるー？
けれど、その答えは帰ってこなくて。
でも、優しく私のこと撫でてくれてた。
それが、とても嬉しくて。
太陽でまぶしかったけど、ずっとお顔を覗いていたんだぁ。
――えへへへ。だいすきー、ゆういちー。
胸に飛び付いて、おっきな声で伝えたの。
大好きだよ、祐一。
「ん、ぅ」
なんだか、あったかいよー。
なんだろう？
こつこつしてて、でもあったかで。
あれ？
「ん。んー」
「あぁ。起きちまったか？」
誰かの声。
でもよく知ってる声。
「あれ？ 祐一？」
真っ暗で、ちゃんとは見えないけど、やっぱり祐一だね。
「まだ朝には早いぞ」
「おはよー。暗いね」
全然見えないよ。
ここ、どこなのかな？
「まだ夜明け前だからな」
あれ？
「今、何時？」
「そこ見ろ」
祐一の手が動くのが見えて。
「時計、壊れてるね」
だって、ほら。
私がプレゼントした時計。
針が５のところで止まってるよ。
「それは俺の台詞だと思うんだけどな」
「あはは。すごいね。初めてだよ」
今までで一番早くでも７時３４分だったんだよ。
早く起きたのが嬉しくて、ずっと覚えてるんだけどね。
でも、これからは今の時間、覚えておかないとねー。
「俺も驚いたぞ。まさか起きるとは思ってなかったからな」
「うーん。ぽかぽかしてて気持ちよかったからね」
体がちょっと火照っちゃってるよ。
だからかな。
「それは光栄で。たまにはいいだろ？ こうして寝るのも」
「こうって？」
なんだろ？
「いや、だから。一緒に裸で寝ちまうこと」
「えっ？」
はだか？
「わっ。私、はだかだねー」
「なんだよ。そのとぼけた反応は」
「えーと。ダメだった？」
「いや。だからその反応がな」
ぺちん。
「いたっ。いたいよー」
おでこ叩かれちゃったよ。
いきなりひどいよー。
「なんか、疲れた。寝る」
「わわ。せっかく私起きたのに」
「知らん。寝る」
「うー。夢の中ではあんなに優しかったのになー」
「なんだよ、それは」
はうっ。
「何度も叩かないでほしいよ」
またおでこにぺちんと。
「でー？ 夢がどうしたって」
祐一の顔、よく見えないけど。
なんだかこういう時の祐一の顔って、見なくても解るよ。
ちょっと怒った顔して、ちょっと疲れた顔して。
「ないしょだよー。いい夢だったからね」
「あのなー。気になる言い方はやめろ」
「あはは」
「まったく」
ちょっとだけ意地悪だから、ちょっとだけ意地悪で返してあげるんだよ。
本当は、ちょっと話してみたいけど。
やっぱり秘密だよ。
恥ずかしいからね。
「それじゃ、ちょっとくらいは寝るぞ」
「あれ？ 寝てないの？」
「寝てない。と言うかだな。寝るの忘れてた」
「忘れるものなの？」
私だったら絶対に無理だよ。
眠たくなっちゃうからね。
「気づいたらこんな時間だったからな」
「ふぅん。でも、このままだと授業中眠たくなっちゃうよ？」
「お前よりは大丈夫だ」
「ひどいよー」
「まぁ、しかたないだろ。いつものお前を考えれば」
「うー」
それはそうだけど。
でも、ひどいよ。
「さて。とにかく寝かせてくれ」
「じゃぁ、私はどうすればいいの？」
「どうすればって。知るかよ。寝ればいいだろ、また」
「つまんないよー」
「それこそ知らねぇ。ほら、寝た寝た。そのまま俺の上で寝ててもいいから」
祐一の、男の人の体の上。
そんなところで寝てたんだね、私。
でも、だからあんなにあったかだったんだけど。
「とりあえず、おやすみ」
「わわ。起きててよ。一人だと寂しいよー」
「だから、寝ればいいだろって。さっき見てた夢でも見ればいいだろ？」
「本物の祐一のほうがいいよー」
「本物？」
「うん」
「じゃぁ、さっき見てたのは俺の夢とでも言う気か？」
「うん」
「寝る」
「わわっ」
お布団かぶらないでほしいよー。
お布団の中だから、祐一の顔が見えなくなっちゃった。
「祐一ー」
「くーくー」
「たぬき寝入りは嫌だよー」
夢の祐一はあんなに優しくしてくれたのに。
本当の祐一はすごく意地悪だよ。
すごく勝手だよ。
でも。
「やっぱりホントの祐一のほうがいいよ」
「わかったから。とりあえず寝かせてくれ、ホントに」
布団から出た私。
祐一と見つめ合って。
「イチゴサンデー３つ」
「それくらいのことでイチゴサンデーを要求するかな、おまえは」
「そうしてくれなかったら、寝かせてあげないよー」
気がついたら、外はちょっとだけ明るくなってて。
そのまま起きる時間までそうして祐一といちゃいちゃできたんだよー。
夢の祐一もよかったけど。
やっぱりこうしていたいよね。
朝の夢と、朝の祐一。
どっちも見れたから、すごく幸せだよー。
「くー」
「おい。８時回ってるんだぞ」
結局、朝はいつもと同じだったけどね。
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