SSこんぺ No.017 : 『とも』

『とも』

寒いながらも友と過ごしたそんな冬の朝のこと――――――――

遅い。
遅すぎる。
一体何分待たせる気なんだ？
俺はもう１５分は待ったぞ。

「ねぇ、北川君。どうしてそんなに怒ってるの？」
「これを怒らないで何と言えようか、水瀬さん！」
「う～～、分からないよ～」

水瀬さんには理解できないのだろうか？
俺の憤りを。
俺より先に憤りを通り越して帰っちゃった人もいるんだぞ。

「ったく、何分待たせるつもりかね、あの兄ちゃん」
「そんなことで怒っていたの？」
「そ、そんなことって・・・これは重要なことだぜ！」
「う～ん、私は２時間待たせたこともあったし」
「俺は待たせていない！」

そう、俺が待っているのは友人、相沢祐一である。
因みに約束の時間はとっくに過ぎている。
全く、あいつと約束なんてするんじゃなかったぜ。

昼、俺たち美坂チームはいつものように学食で昼ごはんを食べていた。
まぁ、いつもの光景だよな。
きっかけは相沢の一言だった。

「なぁ、みんな。商店街にうまい茶菓子屋が出来たの知ってるか？」

相沢のこの一言に皆が首を横に振る。

「おいおい、相沢って甘いもの好きじゃなかったろ？」

その筈だった。
俺の言った言葉に皆もうなずいていた。

「いんや、これが俺でもばっちりのうまい店だったんだ」
「「「え？」」」

はっきり言って驚いた。
相沢が甘いものの話をする事自体珍しいのに、それを絶賛するなんて。

どうやらその店は１年生に教えてもらった店らしい。
それ相沢は柄にも無く俺達３人を誘ったのだ。
勿論水瀬さんは喜んで乗った。
俺も特に予定があるというわけでもなかったのでその案に乗ることにしたのだ。
まぁ、先に帰っちゃった美坂も甘いものは好きみたいで喜んでいた。
今は般若のような顔して家に帰っているんだろうなぁ。
それを想像すると、相沢の明日が心配だ。

そして相沢は用事があるから５分ぐらい待っててくれと言い残して去っていった。
それからずーーーーっと待たされているのだが。
今待っているのは俺と水瀬さんだけ。
その水瀬さんはあんまり気にしていない様子。

「なぁ、水瀬さん。相沢っていつもこんな感じで遅れてくるのか？」
「ううん、祐一は珍しいよ。どちらかというとわたしかな？」
「そうか。でも遅れるのはちょっとまずいような気がするが」
「祐一には何か考えがあるのかも」
「あくまであいつを信じるのか？」
「うん、だって祐一だもん」

相沢は幸せな奴だと思う。
こんな可愛い『いとこ』に信じてもらえるなんてな。

「ねぇ」
「何だ？」
「祐一のいいところって思い浮かぶ？」

俺は顎に手を当てて考えてみる。
相沢のいいところ・・・？

「ふむ、特に無いな」

ずるっ

水瀬さんがこけた。

「北川君、冷静にそんな事言わないでよ～」
「だって本当のことだろ。今だって実際に遅刻してるし」

更に普段ろくな事してないし――と付け加える。

ずるっずるっ

水瀬さん、またこける。
面白い人だな、水瀬さん。

「北川君極悪人だお～」
「極悪人は相沢の方だと思うが・・・」
「祐一も確かに極悪人だけど～」

水瀬さんは唸っている。
俺は何でそこまで入れ込んでいるのかが分からない。

「祐一にもちゃんと良い所があるんだよ」
「えっ、そうなのか！？」

聞き方によっちゃ、酷い事言ってるようだがそれをわざとらしく返した。

「朝だって起こしてくれるし・・・イチゴサンデーだって・・・」
「はいはい、分かったからそんなに興奮するなって」

水瀬さんは相沢の事が本気で好きなんだな。
俺のこと心配してくれる人って言えば妹ぐらいだし。（両親は論外）

「・・・お、相沢のいい所１個発見」
「なに～♪」
「そんなに驚くなって。あいつだって人間だろ、一応」

とっさに思いついた言葉だがな。
表現は拙いが予想通り食いついてきた。

「相沢のいいところは、いい意味でガキっぽいところかな？」
「いい意味でガキっぽい？」
「ほら相沢の奴、なんにでも好奇心持つだろ。そういうところがさ」
「う～ん、言われてみればそうだね」
「そして何よりも、仲のいい奴とはとことん付き合うだろ」
「うん、付き合いは天下一品だよ」
「まぁ、あいつの場合は女友達ばっか目立って羨ましい限りだが」

全くだ。
まぁ、それに恨みを持ってあいつを嫌うとかそういう人間じゃないと自分では思っている。

「名雪～、北川～」

下駄箱から出てくる馬鹿発見。
まるでどこぞやの重役殿みたいだな。

「祐一～、どこに行ってたの？」
「いやちょっと人に捕まっちまって」
「全く、美坂は帰ったぞ」
「・・・香里には後で謝っておくか」
「そうしろ。そうしないと愚痴られるのはこっちなんだからよ」

俺と水瀬さんと相沢は並んで歩き出す。
相沢はあんまり申し訳なさそうな顔ではないし、
水瀬さんも特に気にした様子も無い。
はっきり言って俺も相沢を追及する気も無い。
俺達の関係ってそんなところだ。

干渉も詮索も極力しない。
だけど、普段通りのほのぼのとした日常は確かに流れている。
そういった雰囲気を作ったの実はこの相沢祐一という男だ。
表現は拙いが、接着剤みたいな男だな。
そのお陰でこれまでとは違った、楽しい生活を俺達は今確かに歩んでいる。

それは今日も明日も変わらないだろう・・・。

「名雪、北川。うめぇか・・・」

首を絞められた体制でうめく相沢。
その手の主は美坂香里。

「ああ、うまいぜ・・・」
「うん、美味しいよ・・・」

やっとのことでついたお店に、美坂はいた。
勿論すごく怒っていた。
どうやらこの店に関しては栞ちゃんを通じて知っていたらしい。
それからの経緯は言う必要も無いがな。

「相沢君、女の子を待たすなんてねぇ・・・」
「ず、ずびばぜん・・・」

甘いデザートは本当に美味しかった。
みんなの口にも合ったらしい。
だけども俺には、それ以上にみんな一緒である嬉しさを感じた。

（完）

結果のページ

戻る