「はぁ〜……何でこうなったんだろうなぁ……」
……これで朝から８回目になるため息をつく……
俺は窓の外の流れていく景色を、ただ眺めている。
「今日は……約束してたのになぁ……」
今日は学校行事の一つ、舞踏会の開催日。
そして……
「栞との約束、破っちゃったなぁ……」
栞と初めて行く舞踏会だった……
雪の上の舞踏会
舞踏会の４日前……
「えっ！？ 舞踏会に行けないのですか！？」
かなり……というか、本気で残念そうな顔をしている栞。
「あぁ……」
これしか言えない俺。
「そう、ですか……楽しみにしていたのに……残念です」
そう言って少し微笑む栞。しかし、その笑みはどこか無理をしているようだ。
……頼むから、そんな笑顔を見せないで欲しい……
「栞、ごめ……
謝ろうとする俺の言葉を栞が遮った。
「仕方ありませんよ、祐一さんのご両親が呼んでいるのでしょう？ 行かないとダメですよ」
そう、俺の両親が俺に来いと言っているのだ。親父とお袋は一時帰国しているらしい。
はっきり言って行く気はなかった。遠いし、第一栞と一緒に舞踏会に行きたかった。
しかし、名雪や秋子さんに説得され、俺は行く事になった。
「栞……本当にごめん……」
「謝らないで下さい。祐一さんと行けないのは残念ですけど、今回は諦めます。また来年の舞踏会に一緒に参加すればいいですし」
栞はそう言って笑顔を俺に向けた。
「はぁ〜……」
祐一さんと最後に話した日から３日……舞踏会の前日。
私は自分の部屋のベットでゴロゴロと退屈な時間を過ごしていた。
本当なら、今日は祐一さんと一緒に商店街でデートする予定だったのに……
「えぅ……祐一さんなんか嫌いです……」
約束守らないし、私の気にしている事を平気で言うし、意地悪だし……
……でも、優しい……本気で私の事を心配してくれる……
「ゆういちさん……あいたいです……さびしいです……」
私は１つのぬいぐるみを抱きかかえた。
去年のクリスマスプレゼントで祐一さんがくれた、ちょっと目つきの悪いクマのぬいぐるみ。
『こんな目つきの悪いクマの何処が可愛いんだ？』って文句を言っていた祐一さん。
私は可愛いと思いますよ。だって……このクマの目、祐一さんに似ていますから。
照れ隠しの時に、ぶっきらぼうな振りをしている時の目つき。
怒った振りをしている時の目つき。
そっくりです。怖く見せようとしているけど優しい目。私の好きな目……
「祐一さん……大好きです……」
「……はぁ……」
両親が俺を呼び出した理由は『近況報告とこれからについて』の話し合いだった。
俺は冬の出来事、栞の事、そして今の俺の思っている事を全て親父とお袋にぶつけた。
長い沈黙の後、親父からの言葉は『おまえの人生だ、好き勝手に生きろ』の一言だけだった……
その後は、久しぶりに家族３人で食卓を囲んで食べた。久しぶりに食べたお袋の味は少ししょっぱかった……
親父やお袋は泊まっていけと言っているが、俺はそれを断った。
「大事な人との約束があるからな、待たせるわけにはいかないんだよ」
そう親父とお袋に言い、俺は二人の元を後にした。
「わぁ……キレイです……」
私はクラスの友達と一緒に舞踏会に来ました。
……そこは別世界でした。
キレイに着飾った人たち、談笑する人の声、優雅に踊る人たち、豪華なお料理、キレイな音色……
声を掛けてくる人もいましたが、私は全てお断りしました。
待ち望んでいた舞踏会のはずなのに、私の心は晴れませんでした。
……だって、この空間に祐一さんは居ない……
祐一さんが居ないと楽しくない……祐一さんの居ない所なんて楽しくない……
私は友達に『体調が悪くなったから帰る』と言い、舞踏会の会場を出ました。
そして、家に帰るとそのまま眠りにつきました……
カツン、カツン……
「ん……」
少し眠っていた私は、窓ガラスに何かが当たる音で目を覚ましました。
窓ガラスを開けて、下を見てみると……
「よっ」
呑気な声を出して、私の最愛の人……祐一さんが立っていました……
「ぇ……えええぇぇぇぇっ！！ 祐一さんっ！！」
パニックです。だって、祐一さんが私の家の前に立って居るのですから。
「こら、栞。近所迷惑だぞ」
そう言って少し怒った顔をする祐一さん。
「えぅ……ごめんなさい」
謝る私……すると、祐一さんは優しい顔になって笑ってくれました……
その笑顔を見た瞬間……変です、涙が出てきました。
「祐一さん……本当に祐一さんですよね？」
「俺が北川に見えたらそりゃ重症だな」
あぁ……本当に祐一さんだ……今更ながらそう思っていまいました。
「なぁ、栞。今から外に出てこれるか？」
「えっ？ はい、大丈夫だと思いますけど……何処かへ行くんですか？」
すると祐一さんは不敵な笑顔を浮かべて……
「俺たちの一番の場所だ」
「寒いですね……」
「そりゃ外だからな……」
俺たちは噴水のある公園に来た……さすがに夜中にこんな所に来る物好きは俺たちだけだろうな。
「それにしても……栞、お前家を出てきて大丈夫だったのか？」
「大丈夫です、お姉ちゃんに頼んで抜け出してきました」
満面の笑顔で答える栞。
「そりゃ香里に悪い事をしたな……今度、昼飯でも奢らなけれりゃな」
「貸し１０回分だそうですよ、祐一さん」
そう言ってお互い見つめあった後……どちらかともなく笑い出した。
しばらく笑った後、栞が口を開いた。
「ところで、祐一さん……今日の約束破りましたね？」
「そういやそうだったな……栞はどうしたら許してくれるかな？」
すると……栞は微笑んで……
「バニラアイス……と言いたいところですけど」
「ここで一緒に踊ってくれませんか？」
雪が舞い降る公園で俺たちは踊っている……
舞台はキレイな会場じゃなく、噴水前の広場……
お互い下手くそで何度も転び、雪まみれになったけど……
お互い、笑顔でくるくる踊っている……
それは幸せな時間。
雪の上の舞台が……今、開演した。
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