SSこんぺ No.031 : 『あの日の・・・』

『あの日の・・・』

時は７年前、祐一がまだ小学生だったあの頃・・・。

『ゆういち～ぃ、待ってよぉ～』名雪と祐一が毎日のように楽しいときを過ごしていた。
『名雪、遅いぞ～ぉ』祐一はどんどん進んでゆく。雪の草原をどんどんと突き進む。
いつもの草原で雪合戦、雪だるま、かまくら・・・。たくさん遊んでいつも気がついたら
夕方遅くなっていた。『あ～面白かった！』祐一は泥まみれの笑顔でニコニコしていたが
名雪は全身泥まみれだった。『祐一・・・。私また怒られちゃうよ・・・』暗い顔をする
名雪に祐一はいつもやさしく接していたのだった。『ほら、おんぶしてやるから・・・』
祐一が名雪をおんぶして帰る。それがあたりまえのようになっていた。

ふと、名雪が草原で何かを見つけた。『ゆういち～。あれなにかな？』いつもなら気がつく
はずもない名雪が珍しくあるものを発見する。祐一は名雪をおんぶしたままその場へ行く。
目にしたものを眼前にして２人は声を失っていた。血まみれで傷ついたこぎつねであった。
『・・・』『・・・』
名雪が声を出す前に祐一は行動に移していた。『ゆういち・・・』
『言うな！』そういいながら祐一はこぎつねを抱きかかえ、動物病院へ向かっていた。
『名雪、いくら持ってる？』治療費のことを心配していたみたいだが、当然
その頃の祐一たちにはムリなものがあった。たとえお年玉があったとしても・・・。

１件の動物病院が診てくれた。『よかった・・・』２人して胸をなでおろしている。
こぎつねも回復に向かうとのことであった。『２人は財布の中身をみていた』
『足りるのかなぁ？』不安がっていた名雪とは反面、『大丈夫だよ！』お気楽な祐一の
姿があった。こぎつねを助けたい一心でやったこととはいえ、お会計を済ませるまでが
不安な２人であった。『お会計ね、１１，００円ちょうどね』お会計の額を聞いて
２人ともびっくりして、腰を抜かしていた。『ゆういち～ぃ、いくらあるの～ぉ？』
『名雪こそ・・・。おれ、お年玉入れても・・・』『わたしも・・・』
お会計の前で２人して小銭を数える姿。『ひい、ふう、みぃ・・・』
『ゆういち、足りないね・・・』『ああ・・・』不足しているのは明らかだった。

『どうしよう？』悩んでいる２人をみて受付のやさしそうな女（ひと）が
『あらあら？いくらあるのかな？』そういいながら数えてくれた。
『６，０９２円ね。コレで足りるかな？』そういいながら、お姉さんが５千円を
足してくれた。『９２円はかえすわね。大事にしてあげてね。そのこ・・・』
『ありがとうございます』２人してお礼をいって動物病院を後にしたはいいが・・・。

・・・。
『名雪、どうする？こいつ？名雪のうちで飼えるのか？』祐一の疑問に名雪も
『わからないよ・・・。でも、受付のお姉さん大事にしてあげてって・・・』
夜道をかえる２人の足取りは重かった。どうしていいか、わからなかったからだ。
いろいろ考えた末に出た案が【内緒で飼う】であった。

『とりあえず、名雪の部屋へ連れて行くぞ！』そういって名雪に言い聞かせ作戦を練る。
『じゃ、私がお母さんをひきつけておくから・・・』名雪が泥だらけなのを利用すること
を考えていたのだ。ちいさな子供ながらよく考えたものだ。そして家の扉を開ける。
「ぎ～ぃ・・・」『お母さん、ただいま～ぁ』作戦どおり名雪が秋子さんの注意をひく。
『あらあら？　名雪、また泥だらけ？』秋子さんは笑ってお風呂を沸かす用意を始める。
『ゆういちっ！』いつもぐずぐずしている名雪からの合図が出る。ゆういちはこぎつねを
つれて名雪の部屋へ・・・。名雪も『お母さん、着替えとって来るね』そういって部屋へ
むかった。ゆういちは玄関を再び出て、すっとぼけた顔で、遅れて帰ってきたフリをする。
『ただいま帰りました。名雪、帰ってます？』そういって玄関で靴を再び脱ぎ始める。
『あらあら？ゆういちさんも泥だらけ？』秋子さんはあきれたような顔をして、
『今から名雪がお風呂に入りますけど、ゆういちさんもどうですか？』そう平然な顔で
聞かれゆういちは顔を真っ赤にして言う。『あ、あの・・・。あとでいいです』
それを聞いていたのか２階から降りてきた名雪も顔を真っ赤にしていた。
『名雪、はやく入ってしまいなさい。ゆういちさんもこのままじゃ風邪をひいてしまうわ』
『うん！　お母さんわかったよ～ぉ』名雪はとことこと風呂へ向かう。ゆういちは着替
をとって居間で待っていた。『ゆういち、どうぞ～』名雪の声がしたと同時にゆういちは
風呂へむかった。すぐに風呂を済ませて２階へあがる。「とんとんとん・・・」

２階に上がった２人は名雪の部屋で会話をしていた。
『いつまでも、こいつじゃ呼びづらいな、名前付けてやろう！』
『そうだね～ぇ、ゆういち。このこは女のこだね。どんな名前がいいかな？』
『そうだな～ぁ、かわいい名前にしてやらないか？』
『そうだね～ぇ、ゆういち～ぃ』名雪とゆういちはしばらく考え込む。
・・・。
そして、２人とも考え付いて発言を同時にする。
『まこ、とさ・・・』『わたり、痛い、舌かんじゃった』
この発言中にこギツネが２回ないた。『あう～っ、あう～ぅ』
２人ともクビをかしげていた。　『？？？』　『まこが、気に入ったのかな？』
『そうかな？　ゆういち、呼んでみたら？』　名雪の発言に気を良くするゆういち、
『おいっ、まこ、まこ・・・』しかし、こギツネはあくびをするだけであった。
『名雪のうそつき！　まこ　って呼んでもなかないぞ！』ゆういちは名雪に言う。
『おかしいよ～ぉ？さっきはないたよ？２回も！』名雪の言うことも正しかった。
その後、何回名前を変えてもこギツネが、なくことはなかった。
・・・。
『だ～ぁ、もうだめ、考えつかない！』『私もだよ～ぉ』２人ともくたくたであった。
『最初になんて言ったっけ？』　『たしか・・・？まこ、とさってゆういちが
いって、そのあと私が舌をかんで、わたりって・・・』『どうでもいいか？』
ゆういちの発言が終るや否や『あうっ！』こギツネがなく。２人して耳を疑った。
『名雪、もう一回ゆっくり言うんだ』ゆういちは名雪に指示する。『うん、わかったよ』
名雪は首を縦に振ってうなづき、大きく息を吸い、しゃべり始める。
『ま・・こ・・と・・『あうっ！』さ・・わ・・た・・り・・『あうっ！』・・・』
『まこと、それと、さわたりだ！！こいつ生意気だぞ！フルネームを要求してる！』
こギツネは部屋の中を走り回っている。『あたりみたいだな、名雪』『うん』
２人は納得して、同時にいう。『さわたりまこと』『あぅ～ぅ』
・・・。
楽しい時はすぐに過ぎてゆく。そうあっという間に・・・。
『ゆういち・・・。まことちゃん、どうするの？』名雪は悲しげな顔で聞く。
『しかたないじゃないかっ。おれだって・・・』ゆういちがまた引っ越すのだ。
『まことちゃん、寂しがるね。ゆういちになついてたもん・・・。』
『いうなよっ！』普段は見せないゆういちの目に涙がうっすらにじんでいた。
『最後にお散歩つれていってあげよ。ね？ゆういち・・・。あとはまかされるから』
『絶対だぞ、名雪。』ゆういちが初めて名雪に甘えたときであった。しかし・・・。
まことは感じ取っていたのだろう。しばらく、あの草原の中でいつもどおり遊んでいた
そのはずだった。『あぅっ、あう～ぅ？』真琴が姿を消したのであった。
『まことちゃん、いないね。ゆういち・・・。』『名雪、しっかりさがせよっ！』
『まこと～ぉ・・・』『まことちゃ～ぁん・・・』２人の声はむなしく響く。
子供ながら２人の捜索は深夜にまで及んでいた。捜索願がでるくらいまで・・・。
・・・。
『どこへいったのかな？』『お母さんが迎えにきたのかな？』『だったらいいけど』
その後、２人はお説教を受けたのはいうまでもない。

７年の歳月がたってから、止まっていた時間は再び動き出す。そう、あの２人と１匹の
祐一と名雪は真琴と再会するのだ。１人の少女となり、記憶を失った真琴と・・・。

【　ｆｉｎ　】

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