栞が俺たちの前から姿を消して半年。
葬式の日以来、俺と香里はほとんど毎日栞のお墓に行っている。
そして、今日も………。
「相沢君、もう、半年が経ったのね。」
「ああ、」
「明日から、お盆よね。」
「どう言う事だ。」
「言葉通りよ。」
「だから、どうしろと？」
「家に、お線香をあげに来い。って言いたいのよ。」
「ああ、そうか。」
「じゃあ、またね、相沢君。」
「またな。」
お盆、には死んだ人の魂が家に帰るという話があったな。
だから、香里は俺に来いと。
栞、なんで、なんでお前は死んだんだ。
ごめんな、俺は奇跡を起こせなかった。
しおり しおり、しおりしおりしおりしおり……………。
あの日をもう一度
ピンポーン
「相沢君？」
「ああ、俺だ。」
「上がっていいわよ。」
「わかった。」
そして、俺は、美坂家に上がった。
香里に案内されるままに仏壇がある部屋に来た。
チ―ン、
俺は、いつもどおりお線香を仏壇にやりお祈りを。
そして、香里にコーヒーでも飲んでいかない？
と、誘われたので、飲んでいく事にした。
「相沢君コーヒーでいい？」
「ああ、」
「私は、バニラアイスがいいです。」
「はいはい。」
それから間もなく、香里がコーヒーとバニラアイスを持ってきた。
「おっ、ずいぶんと本格的だな。」
「やっぱり、おいしいです。」
「この香り、コク、砂糖の料まで完璧だ。」
「それは、どうも。」
「しかし、お前はいつでもバニラアイスだな。」
「バニラアイス、好きですから、祐一さんも一口どうですか？」
「じゃ、いただきますか。」
「はい、あーんしてください。」
「あなたたち、見せ付けてくれるじゃないの。」
「わ、お姉ちゃん、見てたんですか？」
「ずっといたわよ。って………え゛？」
「どうしたんですか、お姉ちゃん？」
「わたし、夢を見てるみたいだわ。相沢君。」
「どうしてだ。」
「だって、し、し、しおりが、」
「へ？ ………なんで栞がここにいるんだ？」
「お姉ちゃん、祐一さん、どうしたんですか。」
「これは、夢だ。夢であって、だから栞がここに。」
「祐一さん、夢じゃありませんよ。」
「じゃあ、なんで栞がここに。」
「お盆だからです。」
「祐一さんとお姉ちゃんが毎日毎日私の所へ来てくれてたからって、神様が許してくれたのです。」
「お盆の間だけ祐一さん達と暮らしていいと。」
「ほんとのドラマみたいだな。」
「そうですね。」
「でも、私がいられるのはお盆の４日間だけです。」
「祐一さん、お姉ちゃん、私を４日間だけまた、普通の女の子として扱ってくれますか？」
「もちろんだ。」
「もちろんよ、いつだって、栞は私の妹なんだから。」
「ありがとうございます。」
てなわけで、俺たちは栞との日常を手にいれた。
８月１４日
今日は、祐一さんとデートです。
ムフフ、早く来てください。
あっ、来ました。ゆういちさ〜んわたしはここで〜す。
ちょっと、すねてみましょう。
「おそいですよ、祐一さん。」
「と、言ってもまだ約束の時間まで42分あるぞ。 いったい、いつからいたんだ？」
「えっと、30分くらい前ですね。」
「やっぱり、栞の趣味はバニラアイスと待つ事、だな。」
「酷いです、祐一さん、そんな事言う人嫌いですよ。」
「あー、笑わないで下さい。」
半年前と同じ会話ですね。でも、今だけは幸せです、今だけ。
「栞、今日は何処へ行く？」
「えっと、百花屋がいいです。あのおっきなパフェをもう一度食べたいです。」
「マジか。」
「本気です。」
「とても、一人じゃ食いきれんと思うが。」
「だから、二人で一緒に食べましょう。」
「しかたないな。」
「祐一さん、これってデートですよね。」
「ちがうって言ったら。」
「そんな事言う人嫌いです。」
「ほら、早く、入るぞ。」
「あー、待ってください祐一さん。」
半年振りの栞とのデート。
めちゃくちゃ嬉しい。
でも、この先には悲しい別れが。
何とかならないのか、この奇跡を永遠のものには出来ないのか。
「…ういちさん。祐一さん？」
「おっ、な、なんだ栞？」
「いや、なんかボーっとしてましたから。」
「ああ、ご、おごめん。」
楽しい、時間ってあっという間に過ぎますね。
あれから、アイスクリームを買って私の家でお姉ちゃんと三人で食べました。
次の日、祐一さんとお姉ちゃん、北川さん、名雪さん達とプールに行きました。
その次の日、もう一度祐一さんとデートしました。そして、あの公園に行きました。
祐一さんと最後に会った公園。
悲しい、思い出がある公園、そして嬉しい思い出のある公園。
始めて祐一さんとキスをした場所。
今は、夏ですけど。お盆だからだれもいませんでした。
あと、私に残された時間は1時間。
今日と言う日が終るまで1時間。
「祐一さん、後悔していませんか。もう1度私を受け入れる事を。」
「もちろんだ。」
「私は、後悔しています。だって、もう1度別れなくっちゃならないんですよ。祐一さん、私、私……グスッ、祐一さんと………。」
きゅっ、気が付くと祐一さんが私を抱きしめていた。
「栞、俺も栞と別れたくはない。でも、会えなかったほうが辛かった。」
「祐一さん………。」
祐一さんの口が私に近づいてきました。私はそっと目をつぶりました。
そして、またあの場所で雪はありませんが。時計は１２時になろうと………。
「祐一さん、私、もうさよならなんて嫌ですずっと祐一さんの側にいたいです。」
「でも、これも運命、ですよね。」
そして、時計の針が１２時を刺し………。
あれ、
時間が止まってる？
『本当にこれで良かったの？栞ちゃん。』
「でも、これしか………。」
『栞ちゃんには祐一君が必要だよね』
『もう、祐一君と会わなくていいの？』
「だって、もうどうしようもないじゃないですか」
『１つだけ、方法があるよ。』
『祐一君も栞ちゃんといる事を望んでるから。』
『だから、これ、あげる。』
「あゆさん。何ですか、これは？」
『この人形は３つの願い事が叶えられる人形だよ。あと１つだけ願い事が叶えられるから。受け取って。』
「こんなものを私に………。いいんですか。」
『いいんだよ。祐一君の為になるなら。ボクは本望だよ』
『じゃあ、栞ちゃんボク、もう行かなくちゃ。バイバイ、栞ちゃん』
その時、あゆさんの背中に白い羽根が。
「あゆさん、ありがとう。」
『栞ちゃん、あと１つ、他の人には内緒、だよ。』
「はい。」
あゆさんを見送った後、私はこの人形に願ったのでした。
私、やっぱり生きたいです。そして、祐一さんの側にずっといたいです。
そう願った瞬間、私の体は強い光に包まれました。
気が付いたら私は病院のベッドにいました。
「あっ、栞。よかったぁ。」
「お姉ちゃん、ここは？」
「病院よ、あのあと、相沢君がここまで運んできたのよ。」
「祐一さんが。祐一さんは？」
「ここは、家族以外入れないからって言われて帰ったわ。雪でびしょびしょだったしね。」
「栞、相沢君からの誕生日プレゼントならここにあるわよ。」
「えっ、今日は。」
「２月１日よ栞の誕生日でしょ。」
私、本当に帰ってこられたんだ。祐一さんの所へお姉ちゃんの所へ
良かった。あれ、私、泣いてる。嬉しいのに泣いてるよ。
「おねえちゃぁぁぁぁぁん、ひぐっ、ぐずっ。私、生きてるんだ。」
「そうよ、栞、あなたは誕生日を越えられたのよ。」
「お姉ちゃん、祐一さんには何も言わないで下さい。」
「いつも、意地悪されてたからびっくりさせたいです。」
その次の日に分かった事だが、私の病気は不思議な事にすっかり治っていたそうです。
お医者様が「これこそ、奇跡だ、あの病気が治ってるなんて。」驚いてました。
しかし、検査の為に、しばらくは入院していましたが………。
季節はもう３月、お医者様からもお許しが出て、いよいよ学業再開です。
昼休み、約束をしてないけど、きっとあの人は来てくれるはず。
二人の心はいつでも……なんて、ドラマみたいですね。
あっ、来ました。
自然に話し掛ければ………。
「で、何してるんだ。こんな所で。」
いつもどおりのあの人、そして、私の新たな人生。
「来たら、だめなんですか？」
神様、あゆさん、祐一さん、私に生きる力をくれて、ありがとう。
終わり。
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