希望を抱いて
「・・・栞」
「・・・祐一さん」
今日は栞の誕生日医者の話しでは栞の命日になる日
「・・・祐一さん」
「もう喋るな！栞！！今救急車をよんだから直ぐに助かる」
「もう駄目なんです、自分の体ですし・・・わかります」
栞の体は雪のじゅうたんの上で雪よりも白くなって血の気が引いてきていた
「栞！死ぬなよ！死ぬんじゃない」
「祐一さん・・・貴方に会えて、恋人になれて・・・本当に良かった」
栞の体がゆっくりと力を失ってゆく
「栞ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
祐一は目からあふれ出る涙で栞が見えなくなっていくことに苛立ちを感じた
ピーポーピーポーピーポーピーポー
その時やっと祐一が待ち望んだ救急車がやってきた
もう手遅れだとも知らずに・・・
病院について直ぐに栞は手術室に運ばれた
だが栞は素人の祐一が見てももう助からないだろうことはみてとれた
「先生何とかならないんですか」
祐一は医者に殴りかからん勢いで詰め寄った
「彼女の発作は心臓に害があるせいだ、だから新しく心臓を移植すれば助かるかもしれない
だが彼女はそれをもう何年も待っているのだ、そう都合よく体に合う心臓が見つかるはずが無い」
「・・・じゃあ栞に合う心臓さえ見つかれば栞は助かるんだな」
「ああそうだ、だが今更都合よく見つかるはずが無いと何度も言っているだろう」
祐一はおもむろにズボンのポケットからカッターを取り出す
「栞に伝えてください・・・俺はお前の中で生き続けると」
「き、君何をする気だやめなさい！第一君の心臓が彼女に合うとも限らないいんだぞ」
「大丈夫ですあいつとは血液型も同じだし無理でも俺と栞の愛の力で何とかしますよ」
少しおどける様に言いながら祐一は刃を自分の手首に持っていきためらわずに引いた
「グッ」
「き、君」
「先生何とか栞を助けてくださいよじゃないと俺が・・・無駄・・・じ・・に」
祐一の手首はものの見事にぱっくりとさけ
出血がひどく直ぐに祐一は意識を失ってしまった
「おい、しっかりしろ！」
だが祐一の心臓は直ぐにその鼓動を止めてしまった
「緊急移植だ！！彼の死を無駄にするんじゃない」
直ぐに手術は開始され
栞の心臓と祐一の心臓は交換された
その後拒絶反応も無く三日が過ぎた
(暗い・・・暗いなこれが死ぬってことなのか
良かった栞をこんな世界に行かせるようなことにならなくて
けどあの医者ちゃんと手術成功したのかな・・・無駄死にになってないだろうなぁ)
「・・・栞」
(なんだぁ何か人の声が聞こえてきた
おかしいな俺は死んだんだからそんなの聞こえないはずなのにどこからしたんだろう
目をあけてみるか・・・目をあけてみる？死んだのにそんなのはちゃんとあるんだな)
「栞・・・起きなさいよ！手術は成功したのよ！相沢君の命を無駄にする気なの」
「なんだよ香里・・・もっと寝かせてくれよそれに今日は日曜日のはずだろ」
「しっ栞起きたのねぇ起きたの」
「なんだよ香里第一俺は栞じゃなくて祐一でもう・・・死んだ・・・」
ガバッ
祐一が跳ね起きてあたりをグルっと見回す
(ここはどこだ・・・病室だどこかの病院の病室だ
それでやたら驚いている目の前のこいつは・・・美坂香里だ
それで俺は相沢祐一１７歳自他共に認めるナイスガイで栞を助けるために
死んじゃたっけど生きている？)
どうやら祐一はかなり混乱しているらしい
ちなみにさらに混乱している香里はいきなり祐一に抱きついた
「しおるぃ〜〜〜良かったやっと起きた〜〜〜〜」
涙と鼻水と涎でべとべとな顔を惜しげもなく披露し擦り寄ってくる香里はかなり不気味
「おい香里やめろ第一俺は栞じゃなくて祐一だ」
「ごめんごめんね〜私はお姉ちゃん失格だわ〜」
「だ〜〜〜とにかく離れろ〜〜」
その後興奮した香里をなだめるのにとてつもない労力をつかって祐一は息も絶え絶えになっていた
「・・・じゃあ貴方は相沢君だっていうの」
「そうだよ・・・なんで俺と栞をお前が間違えるんだ、姉として恥ずかしくないのか」
「そんな馬鹿なこと言わないでよよく自分の姿を見てみなさい」
香里が横にずれると大きな鏡があった
そこにはなぜか栞の姿が映っていて祐一の姿などどこにも無い
「あっあれ、あれれ」
祐一が右手を上げると栞も右手を上げる
祐一が右を向くと栞も右を向く
「どっどうなってるんだこりゃ〜〜〜」
祐一の叫びが病院内に響き渡った
「あ〜〜つまり祐一君の人格が栞さんに心臓を移植した時に一緒に移植されてしまったという事です」
医者が淡々となんでもないかのように言った
「じゃあ俺は相沢祐一なのかそれとも美坂栞なのか？」
「定義は難しいが今の君は祐一君であって祐一君じゃあない魂というものが本当にあるのなら今頃三途の川で途方にくれているか
その辺に漂っているだろう・・・つまり君は祐一君の人格をコピーしただけであって厳密に言えば祐一君ではない」
「じゃあ何何だよ俺は」
「もうそんなことより私の妹の栞はどうなったのよ」
(そんなことって俺にとっては大問題なのだが)
「栞ちゃんは多分まだ眠っている状態なんだと思うよこんな事は初めてだからなんともいえないが」
「じゃあ俺はこの後どうすればいいんだよ」
「まあ僕にもこれからの事はわからないしなるようにしかならないんじゃない」
「んな無責任な」
祐一と医者が激しい口論をしている中香里はやっぱりまだ起きていない妹の事を考え涙を流していた
バタンッ
いきなり病室の部屋が開いて祐一も医者もビックリして一瞬口論を止めた
「香里〜栞ちゃんが祐一になって起きたってほんと〜」
名雪である
なぜか黒い礼服に身を包み元気一杯に部屋に入ってきた
元気一杯な様子なのだが少しやつれて見える
「あっほんとに起きてる、ねぇ祐一それとも栞ちゃん」
「私は美坂栞１６歳１日三食アイスを食べて、真夏にストールを羽織っている
謎多き美少女とは私のことです」
祐一はとりあえずボケてみた
「ほんとに祐一だ〜心配したんだよ〜祐一〜」
バキッ
名雪が祐一に勢いよく抱きついた
流石は陸上部だけあり見事なダッシュから繰り出される体当たりだった
「グハッ」
何時もの祐一の体ではなく栞の体である体重が軽く勢いよく窓を突き破った
ちなみにここは８階の部屋である
「のーーーーーーーーーーーーーー」
「あっごめん祐一」
そんなときでもこの娘はのんびりマイペース
人生色々というが二度も死ぬ目にあった人間は彼がはじめてかもしれない
「ああ〜死ぬかと思ったこの話しがギャグ調になってなかったら死んでたぞバカ！」
ちなみに祐一は頭にでかいたんこぶがあるだけでほとんど無傷である
「ごめんね祐一あんまり嬉しかったから」
あまり悪びれたようでもなく名雪が言う
「まぁそんなことはいいわ名雪、貴方なんで礼服なんか着てるの？」
「うん祐一のお葬式が今日あるんだよ」
その言葉に祐一が食って掛かる
「そっ葬式だって〜〜って俺、やっぱり死んだんだなぁなんか全然実感が無いけど」
「うん生きてて良かったよ祐一、さっ早く家に帰ろう」
何となく祐一と名雪は話がかみ合っていない
「いいえ相沢君は死んだのだから葬式があるんじゃないの
さぁ栞ぐずぐずしてないで命の恩人のお葬式に行かなくちゃだめでしょ」
もう何がなんだかわからない香里はとりあえず祐一を栞とみなしたようだ
「違うよ祐一だよ」
「いいえ栞よ」
香里と名雪の間で火花が散っている
「とりあえず俺の葬式に行かないか？自分の葬式って興味あるし」
「「わかった(わ、よ)」」
「よしじゃ行くか」
祐一たち三人は病室から出て行った
「なんか無視されてる気がする」
医者がちょっといじけていたが祐一はあえて無視した
「ほへーこれがおれの葬式場か〜、なんか無駄に広い気がするが・・・」
「うん叔父さんと叔母さんが息子の最後の晴れ舞台って気合入れてたから」
「晴れ舞台って葬式の事はそうは言わないような気がするわ」
祐一たちが小一時間ほどかけてきた葬式場はどこぞのタレントが死んだとかで使われるようなやたらと広い建物であった
「まぁいいや皆の顔でも見てくるかな」
「多分皆はもう中にいると思うよ、私達は準備があるから先に行くね」
「ああ解かった」
名雪たちと別れた祐一はとりあえず中に入っていった
「こりゃ直ぐに迷子になりそうだな」
ピンポンパンポン
「なんだ」
葬式場には全然似合わないチャイムが響き渡った
「迷子のお知らせです。倉田佐祐理様倉田佐祐理様お友達の川澄舞様が玄関フロアでお待ちです
至急迎えに来て下さい」
ズコッ
祐一は思いっきりずっこけた
「ぐっこのままでは只でさえ洗濯板なこの胸がさら縮んでしまう」
(そんなこと言う人嫌いです)
そんな声が聞こえたような気がしたが祐一は無視した
「とりあえず舞を見に行ってみるか」
祐一がいるのは玄関フロアだったので舞は直ぐに見付かった
なにをするのではなくボ〜っとしているようだ
「舞〜ごめんね〜はぐれちゃって」
佐祐理が迎えに来たようだ
「佐祐理・・・遅い」
「あははーごめんごめん、こことっても広いから迷っちゃって」
「それにしても今日のお葬式凄いよね〜学校の人皆呼んじゃうんだもん」
「私も祐一の事あまり知らないからお葬式なんて来る気なかった」
「あはは、それはひどいよ舞、来たからにはちゃんとお線香上げないと化けて出てくるよ」
「問題ない・・・返り討ち」
ズシャーーーー
(いくらなんでもそれはひどいんじゃないか舞に佐祐理さん、絶対化けて出てやる
まぁ彼女達とはあまり親しくしてなかったしこんなもんなのかな)
はぁっと一つため息をついて祐一はその場を後にした
栞ルートを通った祐一にはとことん冷たい彼女達であった
「うわっ何だよこれは何人いるんだ？」
祐一は自分の亡骸でも見てみようと祭壇のある部屋まで着てみてビックリ
その部屋は祐一の学校の体育館くらいの大きさでさらに人が何百人単位でいるのだから
驚くなという方が無理があった
「ほんとに学校中の人を呼んだのかよ・・・なに考えてるんだ家の親は」
しかもほとんどの人が悲壮感もあまり無くただいるだけのように見える
実際そうなのだから仕方が無いがこれじゃあ祐一も天国にはいけないだろう
「はぁもう帰ろうかな」
もちろん悲しんでいる人もいるのだが
この人ごみでは祐一に分かるはずもなかった
そのまま祐一は線香も上げずに外に出た
「「ジャンケンポン」」
外では祐一をどちらが引き取るかでもめた香里と名雪がジャンケン１０１回戦目を始めていた
さっき言っていた準備とはこの事である
両者の戦績は５０勝５０敗この一戦で勝者が決まるのである
「「ジャンケンポン」」
「勝った！勝ったわ〜栞私は勝ったわよ〜」
「・・・負けちゃった・・・祐一ゴメンネ」
そこに玄関から祐一が出てきた
「さっ栞帰るわよ」
「う〜祐一〜行かないで〜」
「うわっ何だよお前ら」
祐一が出てくるやいなや凄まじいパワーで祐一を引っ張る香里と名雪
口々に言い争いをしている
「痛いって解かったお前が香里のうちに泊まりにくればいいだろうが！それでいいな香里も」
「仕方が無いわねじゃあ行くわよ名雪、栞」
「やった〜やった〜」
「はぁとにかく無事に着ければそれでいいよ」
なぜかこの数時間でとてつもなく疲れた祐一であった
「ただいま〜」
「「お邪魔しま〜す」」
三人が玄関から声をかけると直ぐに香里母がやってきた
「あらあらいら・・・しゃ・・・い」
声をかけてきたと思ったらいきなり石造のように固まる香里母
「あの〜叔母さん」
「しっしっ栞が歩いてる！喋ってる！おおおお父さん大変よ栞が化けて出たわ〜〜」
「なっ何だと〜栞が化けてでただと〜」
バタンガタンドカン・・・シ〜〜〜ン
「叔母さん達栞にいったいなにやったんだよ」
「あっあはは多分とっても混乱してるだけだと思うわまぁとにかく上がってよ」
「「改めてお邪魔しま〜す」」
香里はためらいもせず母を足蹴にして居間に向かう
祐一達はそっと香里に続いた
「ううっ栞ちゃん許して冷蔵庫の中にあったアイスを食べたのはお父さんなのよ〜」
「はぁ食った食った」
あの後直ぐに香里母は復活して夕食会と相成った
祐一は久しぶりのご飯だったのでかるーくどんぶり飯五杯を平らげ
膨らんだおなかを抑えて栞の部屋のベッドで横になっていた
「ここが栞の部屋か〜、いや今は自分の部屋だよな・・・ならば」
祐一は突如起き上がるとあたりを見回し目的の物を見つけた
タンスである
「こっこれがかの有名な勝負パンツって奴か」
がさごそととりいだしたるはフリル付きのパンツである
「うーむ栞の奴こんなの履いてるのかぁふむふむ勉強になるなぁ」
そんなことなんの勉強になるのかは知らないが今度はブラジャーを取り出し悦に入っている
一見美少女の祐一が二ヘラっと笑いながら下着を見ているのはかなり不気味である
「やはりここは全国５千万の男供の代表としてやらねばならぬのかあの技を」
と祐一がさっき出したパンツを頭に被ろうとしたそのとき
ガチャッ
「栞〜お風呂沸いたわよ〜久しぶりに一緒に入りましょう〜」
香里がやってきた
香里は自分の妹が二ヘラ笑いをしながら自分のパンツを被ろうとしている現場を見て呆然としている
「テヘ」
「テヘ・・・じゃなーーーーーーーーーーい」
祐一が今日二度目のダイビングをかんこうしたのだった
「まったくなんで香里には男のロマンというものがわからんのだ」
脱衣所で服を脱ぎながら祐一はぼやくと突然洗面台の前に移動した
「やっぱり胸がないのぉこの娘はどれどれ俺が少し大きくしてやろうかの」
いきなり口調を変えて祐一は自分の胸を揉みだした
「あふんっこっこれはくせになるかもしれん」
祐一はまたもや悦にはいったようで一心不乱に胸を揉んでいる
洗面所の前で胸を揉みながら喘ぐ祐一はかなり怖い
ひとしきりもみ続け体力に限界を感じた祐一は湯船につかるべく風呂場に入った
「あれ祐一？」
先客がいた
「なッ名雪あれ、なんで」
「祐一が早くこないから私が先にお風呂を頂いたんだよ
それよりも祐一もお湯につからないと風邪ひくよ」
「なんかキャーとかイヤーとか無いといまいち調子が出ないのだが」
「なにいってるんだよ今は祐一も女の子なんだから気にしないよ」
(そういうもんなんだろうかうーん女ってのはよくわからねぇ)
もちろん名雪の考えがずれているだけである
その後背中のながっしっこをしたりなど久しぶりに一緒に入った
これから起こるであろう別れの時間を少しでも遅くするように・・・
その後夜の１０時頃を過ぎたあたりで祐一の体に異変が起こり始めていた
胸が突然痛くなってきたのだ
祐一は香里とテレビを見ていたのだが(もちろん名雪は夢の世界に旅立った後だ)
香里に寝るといって栞の部屋のベッドで横になり自分の最後を悟っていた
「なあ栞俺さやっぱり死にたくなんて無かった・・・まだまだお前と一緒に生きたかったよ」
(祐一さん)
祐一の体の異変は栞が起きてしまった事に起因する
「あははもう俺は死んじまったらしいんだけどさ実感がわかねえんだ
けど多分これが最後になるだろうから
栞・・・最後に俺からの伝言聞いてくれるか」
(祐一さん)
「名雪と秋子さんに今まで世話になりましたって
香里にはこれからもお前のこと頼むって伝えてくれ」
(祐一さん)
栞はまだ完全に覚醒したわけではなく夢見ごこちで祐一の話を聞いていた
「そして・・・お前に最後の言葉だ
栞・・・お前のお腹の中には俺とお前の子供が出来てるみたいなんだ、多分あの時の子供さ
栞、無茶を言ってすまんが生んでくれないだろうか・・・俺の生きた証がほしいんだ
凄く大変だろうけど俺は何時までも見守ってる多分俺の事だからその子供に生まれ変われるように
神様にケンカ売ってるかもしれないしな、男の子だったら祐一って名づけてくれ俺がいつでもそばにいられるようにさ・・・あ〜あまだまだ栞の体で一杯やりたいことあったんだけどなお別れみたいだ
じゃあまたな栞な〜にまた直ぐに会えるさ」
(祐一さん・・・祐一さん)
その問いかけに答えるものはもう誰もいなかった
チュンチュン チュンチュン
雀の鳴き声が聞こえるもう朝のようだ
栞はゆっくりと自分のベッドから立ち上がる
(あれっなんで私ベッドに寝てるんだろう
私は死んだんじゃないの？あの後もしかして助かったの)
栞は今の自分の境遇がわからず頭を捻った
(そうだ夢の中で祐一さんが出てきて何か言ってた
死ぬとかなんとか・・・)
その時ほんの一瞬祐一の言葉を思い出した
(じゃあな栞)
(祐一さん・・・祐一さん)
「祐一さーーーん」
栞はもう祐一とは会えないのだと解かり涙が枯れるまで泣いた
それから１週間が過ぎた
栞はまだ泣いているようだった
「栞・・・ドアを開けて貴方相沢君の死を無駄にする気なの！」
「おねいちゃんには解からないよ！自分のせいで一番大切な人が死んでしまった苦しみは
おねいちゃんには解からないよ！！」
栞はさらに激しく泣き出す
ここ１週間ほとんど何も食べていない
元々体の弱い栞にはそろそろ限界だった
「このまま死んだら祐一さんの所に行けるかな」
そんなことまで考えるほど栞は祐一に依存していた
「祐一さん・・・祐一さん」
栞はカッターを机の上から取り刃を出す
チキチキチキ
(今まで何度も死のうと試みけど駄目だった
けど今なら出来るかもしれない・・・死ぬことが)
そっと手首に刃が添えられる
皮肉にもそれは祐一の死に方と同じであった
そしていざ刃を引こうとした時
また祐一が言っていた言葉を思い出した
(俺の生きた証を俺と栞の子供を生んでくれ)
「うっうううう・・・うわーーーーーーーーーん」
(祐一さん貴方はひどい人ですそんなこと言われたら死ねないじゃ無いですか
わかりました祐一さんの最後の言葉信じますよ)
(もしかしたらその子は俺の生まれ変わりかもしれないぞ)
「ええ信じますよ・・・祐一さん・・・それならこうしては居られませんね」
栞はよろよろとしながらけれど生気に満ち溢れた顔で未来へのドアを開けた
それから約一年が過ぎ去った
栞の子供も順調に育ち何事もなく出産できた
男の子だった、栞はその子供に祐一と名づけそれからの時をその子供と過ごす事となる
その子が祐一の生まれ変わりだと信じて
栞は希望を抱いて今日を生きる
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