Anniversary Days
午前零時を過ぎたら一番に伝えよう
沢山の優しさと感謝を込めて
この言葉を伝えよう
今日は貴方がこの世に生まれた日だから
今の俺に出来る最高の贈り物
この思いが貴方の心に届くように
この言葉を伝えよう
優しい笑顔が曇る事のないように
この言葉を伝えます
悲しい時も寂しい時もあるかもしれないけど
貴方が貴方らしくいてくれる事を願いながら
今の俺に出来る最高の贈り物
この言葉を伝えよう・・・・・・
９月に入り夏休みも終わり、学校の生活にまた慣れてきた頃に名雪に言われた。
「祐一、もう決めた？」
文法も何もない言葉だな・・・・・・
「決めたって何がだ？」
「もう、何言ってんだよ〜」
どうも俺の答えが気に食わないらしい
しかし、今の言葉の内容で意味を分かれっていう事ほど無理な事もないだろう・・・・・・
「お母さんの誕生日プレゼントだよ〜」
「ああ、その事か」
何を隠そう９月２３日は秋子さんの誕生日だ。
俺も今月に入ってから色々とプレゼントについて考えてみたが・・・・・・
「まだ、決まってない・・・・・・」
そう、まだ決まってないのだ。
「祐一も決まってないんだ・・・・・・」
「秋子さんが何を贈れば喜んでくれるのかまったく分からないからな」
俺がプレゼントを決めかめている理由はそこにあるのだ。
秋子さんの好みが分からない事。
秋子さんの事だから、大抵の物は喜んでくれるだろうがそんな半端な事はしたくないと俺は考えていた。
いつもお世話になってる事もあるので、出来れば本当に秋子さんの喜んでくれる物が良いと思う。
しかし、秋子さんの好きな物は今のところ謎ジャムぐらいしか思いつかない・・・・・・
「名雪は去年何を贈ったんだ？」
「去年は洋服をプレゼントしたよ〜」
「まあ、洋服はプレゼントの代表格みたいなもんだからな」
「お母さんなら何を贈っても喜んでくれると思うんだけどね」
「俺もそうだとは思うんだが、出来れば本当に気に入ってくれる物を贈りたいからな」
出来るだけ早く決めたいんだがな、最後の方でバタバタするのは嫌だしな。
「プレゼントの事とは違うんだが、秋子さんの誕生日パーティーに皆を呼びたいんだが、良いかな？」
「うん、良いと思うよ。
お母さん賑やかな方が好きだしね」
「じゃあ俺は皆を誘っておくな」
「うん、でもそっちにばっかり頑張りすぎてプレゼント忘れちゃダメだよ」
「分かってるよ」
「あ、香里と栞ちゃんは私が誘っておくよ」
「そうか、分かった」
さて、じゃあ今日中に皆に声を掛けておくかな。
遅くなると皆に用事が出来ちゃうかもしれないしな。
学校の帰りまでに皆を誕生日パーティーに誘う事が出来た。
皆来てくれるみたいだし、一先ずはＯＫだな。
後は俺からのプレゼントを決めるだけか。
今までに商店街などほとんどの店は行ってみたがそれでもまだ決まっていないんだよな。
秋子さんの趣味が分からないと正直決めづらい事この上ない。
単純なところで考えれば花束なんかでも良いんだろうけど、俺としては何か形に残るものをプレゼントしたい。
でも、それだとまったく思いつかない・・・・・・
なんだが出来の悪い思考の迷路にはまってしまったようだ。
出来る事なら今日中にプレゼントを決めたいと思っているのに。
パーティーの準備もあるし、色々と凝った内容にもしたいと思うし・・・・・・
日が暮れるまで商店街を巡ってみたがこれといった成果が出なかった。
婦人服の店から、ファンシーショップまでプレゼントになりそうな物を探したが目ぼしい物がなかった。
「やっぱそう都合よく良い物が見つかる分けないか」
ため息混じりに一言呟く。
なんだか今の自分の心境を良く理解した言葉を吐けたと思う。
って、それじゃあダメじゃん！
それなりに良い物は見つかってるとは自分でも思うんだが、本当に俺が送りたいと思う物が見つからない。
そんな中途半端な気持ちでプレゼントを贈るのは違うと思う。
いつも本当にお世話になって人だから・・・・・・
俺の大切な家族だから自分でも納得出来る物贈りたい。
そんな事を考えるのは傲慢な考えなんだろうか？
「―――ん？」
そんな事を考えながら商店街を後にしようとしていた時にある物が目に入った。
それは道端に出ていた行商人の店だった。
なんの変哲もないガラス細工の店。
でも俺は何故か心を引かれる物があった。
何気なくその店を見ていると、店の前に出ていた看板の文字が目に入ってきた。
「―――これだっ！」
その時、俺は自分が最も送りたい物という物が分かったような気がした。
「あの、すいません・・・・・・」
その日の夜。
俺と名雪、あゆ、真琴は俺の部屋に集まっていた。
「ちょっと、秋子さんの誕生日パーティーの事で俺なりに考えたんだけど聞いてくれないか？」
「どんな事を考えたの？」
名雪が興味深げに聞いてきた。
あゆと真琴も同じ様で俺に興味深げな瞳を向けてきた。
「秋子さんの誕生日が土曜日だから調度良いと思ったんだが・・・・・・・・・って感じだ」
「へ〜、祐一にしては良い事を考えついたじゃない」
「うん、ボクもそれで良いと思うよ」
あゆと真琴はそれで賛成してくれたようだ。
「でも、それだと結構大変だよね」
名雪も賛成のようだが少し内容に抵抗があるようだ。
「確かに大変かもしれないが、一年に一回しかない大事な日だしなこれぐらい盛大にしても良いんじゃないか？」
俺も確かに大変だと思う。
でもそれぐらいの苦労はしても良いような気がする。
それ以上に秋子さんには感謝をしているんだから。
「秋子さんにはいつも迷惑を掛けてるし、それとは別にしても俺達の大切な家族だからな」
「そうだよね、お母さんの産まれた大切な日だもんね」
名雪も納得してくれたようだ。
「後はこれを皆に伝えるだけだな」
「そうだね」
それからしばらく経ち、俺はまた商店街の片隅の行商人の店に来ていた。
「頼んでた物は今日完成だったよな？」
「おっ！あの時の兄ちゃんか、ああもう出来てるぞ」
俺は行商人のおじさんからある物を受け取った。
「ほ〜、良い出来だな。
顔に似合わず良い仕事をしてるんだな」
「余計なお世話だよ。
大切な人に渡すんだろ？
だから余計に仕事に熱が入っちまっただけだ」
おじさんは優しい表情をしながら俺に話し掛けてきた。
「やっぱり分かった？」
「ああ、これの注文内容もそうだが、長い事こんな商売をしてると客の顔を見てれば分かってくるもんだ」
「そんなもんかね」
「そんなもんだ、だからこそ俺は俺が認めた奴にしかこれは売らないんだ」
この時のおじさんは本物の職人の顔をしていた。
「その点お前はあの時良い表情をしていたぞ。
俺が本気で作ってやりたくなるほどにな」
「そ、そうか」
なんとなく俺は気恥ずかしくなっておじさんから顔を背けてしまった。
「はははっ！照れる事はないぞ、今時あんな顔が出来る奴なんてめったに居ないんだ。
逆に誇っても良いぐらいだ」
おじさんは俺の反応が面白かったのか笑いながら話していた。
「あれだけプレゼントする人の事を思う事が出来るんだ。
きっとこれをプレゼントすれば喜んでくれるさ」
「そうかな？」
「ああ、特に俺が精魂込めて作った作品なんだからな、喜ばないはずがない」
「はははっ！そうだよな、おじさんが気合を入れて作ってくれたもんだもんな、喜んでくれるよな」
「ああ、当たり前だ」
「それじゃあ、ありがとうな。
またこの街に来る事があったらまた違う物を頼ませてもらうよ」
「俺の作品はそう特注作品はそう簡単には手に入らないんだがな。
まあお前なら大歓迎だよ、また来いよ」
「おう！それじゃあ、本当にありがとう」
そういって俺はおじさんの店から帰っていた。
おじさんの作ってくれた秋子さんへのプレゼントと共に・・・・・・
秋子さんの誕生日前日。
俺達は学校で明日の事を話し合っていた。
「秋子さんにはまだ誕生日の事は話してないから、お前達は玄関からは入ってこないでくれ」
「どうしてそんな面倒くさい事をするんだ？」
北川が俺に聞いてきた。
「そんなの決まってるだろ？
秋子さんを驚かす演出って物だ」
「はぁ、相変わらず無駄な事に一生懸命なのね相沢君は・・・・・・」
香里が呆れながら俺に言ってくる。
「それだけ秋子さんの誕生日を盛大にやりたいだけだ、明日が土曜なのが幸いしたな」
「それじゃあ佐祐理達はどうやって祐一さんの家に入れば良いんですかね〜？」
「そうだな・・・・・・
以前にあゆが俺の部屋にベランダから入って来た事があったから今回もそれで良いんじゃないか？」
「そんな事をしなくてはいけないんですか？」
「ぬ〜、おばさんくさい天野には酷かもしれないが頑張ってくれ」
「失礼ですね、私は物腰が上品なだけです、相沢さんのその物言いの方が酷ですよ」
物言いって・・・・・今時そんな言葉を使う高校生はいないだろ・・・・・・
「だったら天野は真琴の所に遊びに来た事にして始めっから家に居れば良いだろ」
「そうよ、美汐そうすれば良いわよ」
真琴もその案に乗り気なのか俺に賛同してきた。
いや、コイツは単に天野と一緒に居たいだけだろうな。
「そうですね、私はそうさせて頂きます」
「じゃあ、そういう事で今は解散だ！また後で逢おう」
「「「「「「「「「「お〜！」」」」」」」」」
トントントン・・・・・・
ドアから控えめなノックの音が聞こえました。
こんな時間に誰でしょうか？
「秋子さん起きてますか？」
あら？
この声は祐一さんですね。
「ええ、起きてますよ
こんな時間にどうしました？」
「ちょっと秋子さんに話があるんです、今良いですか？」
祐一さんがこんな時間に私に話なんて珍しいですね。
いつもなら遠慮して次の日に話そうとするのに。
でも、こんな風に遠慮しないでもらえると本当の家族になったようで嬉しいですね。
「ええ、良いですよ。入ってきて下さい」
「ちょっと込み入った話になるのでリビングで話しませんか？」
「そうですか？祐一さんがそういうならそうしましょうか」
「すいません」
「気にしなくて良いですよ。
ちょっと着替えるので待っていて下さいね」
いくら家族と思っていても男の人の前にパジャマ姿で出るのは恥かしいですからね。
「分かりました、では待ってますね」
「はい」
手早くいつもの私服に着替えて部屋を出ると部屋の前に祐一さんが待っていてくれました。
「先にリビングに行っていても良かったんですよ？」
「いえ、何となく待っていたい気分だったんですよ」
「そうですか？」
今日の祐一さんはいつもとちょっと違いますね。
なんだか嬉しそうな顔をしています。
「どうかしたんですか？なんだか嬉しそうですが？」
「ふふ、それはリビングで話しますよ」
話の内容は楽しい内容なんでしょうか。
それなら楽しみですね
「それじゃあ行きましょうか？」
「ええ」
リビングのドアの前に着き、ドアを開けると・・・・・・
パンッ！パンッ！パーンッ！
「「「「「「「「「秋子さん誕生日おめでとうございま〜す！」」」」」」」」」
「えっ！」
おっ！秋子さんがびっくりした顔をしているな。
いつも落ち着いた笑顔を崩さないからこんな風な顔は珍しいな。
「あの、祐一さんこれはどういう事ですか？」
まだちょっと放心状態の秋子さんが俺に話し掛けてきた。
「ふふっ、秋子さん話っていうのはこれの事ですよ」
「私の誕生日・・・・・」
「ええ、秋子さんの誕生日です」
「でも、私の誕生日は明日ですよ？」
やっぱりこういう答えが帰って来るよな。
「秋子さん、時計を良く見てください」
「―――あっ！」
秋子さんも意味を理解したようだ。
時計の針は長針、短針とも頂点を指していた。
「そうです、今はもう秋子さんの誕生日なんですよ
では、改めて俺からも・・・・・誕生日おめでとうございます」
そう、これが俺の考えていた事。
午前零時を過ぎたら、秋子さんの誕生日になって直ぐに秋子さんにおめでとうを言う事。
「ありがとうございます、祐一さん」
秋子さんは嬉しそうに俺にお礼を言ってくれた。
「お母さん、祐一だけにお礼を言うなんて酷いよ〜」
名雪が不満そうに話に入ってきた。
「そうだよ、ボク達も居るんだから、祐一君だけ良い思いしてずるいよ」
「あう〜、真琴だって頑張ったんだから〜」
水瀬家三姉妹はとても不満そうだ。
「あらあら、もちろん名雪達にも感謝してますよ。
皆さん、ありがとうございます」
名雪、頼むからもう少し空気を考えて喋ってくれ。
「良い雰囲気が台無しじゃないか・・・・・・」
「祐一だけ良い所持ってくなんてずるいもん」
確かに言ってる事は正論だとは思うが。
「まあまあ、名雪さんもその辺で良いじゃないですか、祐一さんも反省してると思いますよ」
栞が良い所で仲裁に入ってくれた。
「それにこれを考えたのはほとんど祐一さんなんですから」
さすが栞だ、俺の言いたい事を分かってくれてる。
「でも、忘れられたのちょっとは寂しかったですけどね」
うっ、油断したところでしっかり文句も言うとはさすがは香里の妹だ。
油断が出来ない。
「う、ごめんな皆」
ここは謝っておくのが無難だな。
「・・・・祐一、皆気にしてないから大丈夫」
「あはは〜、そうですよ祐一さん」
「そうよ、相沢君。
それに折角のパーティーなんだから楽しくやらないとね」
皆もそれほど気にしてないようだし、わざわざ暗くするのも悪いよな。
「そうだよな、暗くなるのはこれぐらいにして。
よ〜し、皆で盛り上がろうぜ！」
「「「「「「「「「お〜！」」」」」」」」」
それから暫くの間、皆で名雪や佐祐理さん達が作った料理などを食べながら会話を楽しんでいた。
皆で話をしているとあゆが秋子さんに近付いていった。
「秋子さん、これボクからのプレゼント」
あゆは持っていたプレゼントを秋子さんに渡しながらそう言った。
「あら、あゆちゃんありがとう」
秋子さんも嬉しそうにあゆからプレゼントを貰っていた。
「まさか、プレゼントにタイヤキなんて事はないよな？」
「うぐぅ、違うよ！」
それは良かった。
「お母さん私からはこれだよ」
「名雪、ありがとう」
「名雪は苺狂いだから、プレゼントが苺って可能性も否定出来ないな」
つい、同じ様に俺はからかってしまった。
「違うよ〜、いくら私でもプレゼントまで苺にはしないよ〜」
という事は、自分が苺狂いだという事は認める訳だな。
「真琴からこれ〜」
「あらあら、真琴もプレゼントを用意してくれの、ありがとう」
「真琴は肉まんか？」
「祐一、３回目まですると面白くないわよ」
「くっ」
まさか、真琴にそんなキツイ突っ込みを入れられるとは・・・・・・
それから皆も自分達のプレゼントを秋子さんに渡していった。
皆のプレゼントは服やバックなど色々な物があった。
皆が渡し終えてから俺も秋子さんにプレゼントを渡す事にした。
「秋子さん、俺からのプレゼントです」
「ありがとうございます、祐一さん」
秋子さんも嬉しそうに受け取ってくれた。
「祐一は何をプレゼントしたの？」
名雪が興味深そうに俺に聞いてきた。
「それは見てからのお楽しみだ」
俺は秋子さんが見るまではプレゼントの内容を教えたくなかったのでそう返しておいた。
「ね〜、お母さん。
祐一のプレゼント開けてみてよ〜」
俺が教えなかったので名雪は秋子さんに催促をし始めた。
「あらあら、直ぐに開けるからちょっと待っててね、名雪」
秋子さんの手がプレゼントの包みを開けていく。
包みを剥がし終え、プレゼントの入った箱を開けた時秋子さんの手が止まった。
「お母さんどうしたの？」
名雪が秋子さんの持っている箱を覗き見る。
「わっ！」
箱の中には一枚のガラス。
そのガラスには浮き彫りが施されていた。
「すごい・・・・・・」
そこには秋子さんを囲むように名雪、あゆ、真琴そして祐一が彫られていた。
そこに彫られている顔は皆幸せそうな笑顔をしていた。
そして、五人の下にたった一つの文章が彫られていた。
『forever with you（いつまでも貴方と一緒に）』
「これが俺からのプレゼントです」
このプレゼントを秋子さんは喜んでくれるだろうか？
「ガラス細工のカメオ、俺達家族の変わる事のない絆を表しています」
「祐一さん、ありがとうございます」
その時の秋子さんの顔は本当に嬉しそうな顔をしてくれていた。
瞳の端に美しく光る涙が輝いていた。
「祐一さん、ありがとうございます」
私は今、笑っている事が出来ているでしょうか？
気を抜いてしまえば今にも私の瞳からは涙が溢れてしまいそうです。
でも、それでも良いのかもしれませんね。
この涙の意味はとても幸せな物なんですから。
祐一さん、貴方は本当に不思議な人ですね。
簡単に人を惹き付けてしまう。
そして、簡単に人に暖かな温もりを与える事が出来てしまう。
貴方の笑顔にいったいどれだけ私は励まされたのでしょうか？
まるで天使のように人々に幸せを分け与える事の出来る貴方に出逢えた事が、私達にとって幸せな事なんでしょうね。
「私は今日という日に産まれ、皆さんに出会えた事。
そしてこんなに素敵な家族を持てた事をとても幸せに思います。
皆さん、本当にありがとう」
だから私に出来る最高の感謝の印。
私に出来る最高の笑顔で皆さんにお礼を言いました。
午前零時を過ぎたら一番に伝えよう
沢山の優しさと感謝を込めて
この言葉を伝えよう
今日は貴方がこの世に生まれた日だから
今の俺に出来る最高の贈り物
この思いが貴方の心に届くように
この言葉を伝えよう
優しい笑顔が曇る事のないように
この言葉を伝えます
悲しい時も寂しい時もあるかもしれないけど
貴方が貴方らしくいてくれる事を願いながら
今の俺に出来る最高の贈り物
この言葉を伝えよう・・・・・・
「Happy barthday dear 秋子さん。
貴方が産まれてきたこの記念すべき日に、いつまでも変わらぬ絆と愛情を込めて。」
Ｆｉｎ
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