家出(強制)



『朝〜、朝だよ〜。朝ごはん食べて学校行くよ〜』


爽やかな朝…が眠い…
どうしてこんなに眠いのか…それは睡眠魔神名雪のみぞ知る領域

「とりあえず起きるか…」

寝ぼけ眼をこすりながら俺はリビングルームに行った

「おはようございます。祐一さん」
「おはようございます」
「祐一さん、朝食の準備はできてますよ」
「はい、いただきます」

俺は食卓に着く。名雪はまだ起きてないようだ

「今日はパンか…」

本日はあのオレンジ色っぽいジャムはないようだ

「ふぅ…」

このトーストにオレンジのジャムが塗られると考えるだけで俺の意識は無くなってしまいそうになる
パンのときの秋子さんの行動には細心の注意を払わなければ命が危ない
怖い…はっきりいって怖い

朝ごはんを食べ終わった俺は自分の部屋に行こうとした
すると

「祐一さん。ちょっといいですか？」

秋子さんが微笑みながら話しかけてきた

マサカじゃむデスカ？(0.3秒)
食べれば今度こそ…逝く(0.7秒)

「嫌です」(1.0秒)
「……」
「………」
「そうですか…。真琴にでもしてもらうことにしましょう」

ほっ。無理やり有無を言わせぬような迫力で喰わせる様な事はしてこないから助かる

「祐一さんはそちらのほうがいいですか?」
「遠慮しておきます」

なぜ心の中をっ!!と思ったがこの際口に出さないでおいた

「そうですか…」

真琴よ…。お前の尊い犠牲を糧に俺は人間的に成長するだろう。ありがとう真琴

「では、祐一さんは物置の掃除をしていただけますか?」
「ふふふ…甘いですね、秋子さん。俺が言われるままに物置の掃除などをするものか!!ふはははは…」

高笑いをしながら、後ずさり秋子さんとの距離を広げる俺
せっかくの休日を掃除でつぶされるのははっきり言って嫌だ
秋子さんには悪いが今日はどこかで羽を伸ばすとしよう
家族たるものこうゆうやり取りはあるものだ

「あらあら…祐一さんは家出をしたいんですか？」
「へ…？」
「了承」(1.0秒)
「いや…秋子さん…」
「祐一さんがいなくなるとこの家も寂しくなりますね…
　名雪や真琴、あゆには『祐一さんは立派に戦った…』とでも伝えておきましょう」
「もしも〜し。無視ですか〜」

そのとき背後から声がかかった

「祐一は？」

この家は現在秋子さん、名雪と俺、居候２号の真琴と最近退院したあゆの５人である
この家で俺のことを祐一と呼ぶのは名雪と真琴だけである
この事により声を掛けたのは名雪か真琴という事になる
って別に声で判断できるのだが…
この声から察するに真琴か？
俺は振り返り声の主…真琴に声を掛ける

「おい、真琴」
「秋子さん、祐一は？」
「あの夜空に瞬く星になりました…」
「あうー、祐一にもう会えないのかな？」
「祐一さんは最後まで勇敢でした…」

俺の存在はナチュラルに無視ですかい

「真琴、朝ごはんの準備ができてるわよ」
「はーい」

あいつは秋子さん相手だと素直な奴だなぁ…

「祐一さん、家出の準備はできましたか？」
「まだですが…」
「祐一さんの代わりに準備をしておきました」
「いつの間に…」
「祐一さんがトーストを見ながらホッとしていた時ですよ」

かなり重量のある旅行カバンが渡される。
中を見るとあら不思議、オレンジ色の物体の詰まったビンが大量に…

「つかぬ事をお聞きしますが、秋子さんこの中にはいったい何が入ってるんでしょうか？」
「家出する身としては数日間の食料を持っていくべきだと思ったので…」
「それは分かるんですがこのジャムは失神……ゴホン!!
　いやジャムだけでどうやって食べればいいかな…と」
「それは、まずお椀にジャムを載せ、その上にジャムをかけるんですよ。
　そして飲み物はコップに注いだジャム…」
「それをジャムだけというのでは…」
「あぁ、そういう意味ですか分かりました」

秋子さんは台所へ走っていった
そしてすぐに『お椀』と『コップ』と『スプーン』を持って帰ってきた

「これが無いと確かに食べれませんね」

そういって笑顔で三種の神器を渡された

「それでは祐一さんまたいつか会えるといいですね」

俺は半ば無理やり家出をさせられることになった

「祐一君どこかに行くの？」
「あぁ…あの夜空に瞬く星になりに行く。
　だから止めないでくれあゆ…」
「祐一君、僕は止めないよ。夢にむかう人を止めるなんて僕にはできないから…。
　たとえそれが叶わぬ夢であっても奇跡を信じればどうにかなると思うよ…」
「あゆ…」
「祐一君…僕のこと…忘れないでください」
「あぁ…忘れるもんか」

俺は涙をぬぐって家を飛び出した。何で誰も止めてくれないのかと…


俺は寂しく商店街を歩いていた…
ちなみに俺の装備は今着ている服、少々の金に、カバンいっぱいのジャム(＋食器)…
今ここでス○イムに襲われたら負けそうな気がする…(ある意味ジャムは最強だが)

「はぁ…」

ん？あそこにいるのは美坂姉妹ではないか
くくく…ここに隠れて脅かしてやろう
俺はそう思い電信柱の陰に隠れた
はっきり言って怪しい人物である

「目標は刻一刻とこちらに向かっている模様。後10秒で最接近する…」

俺はタイミングを合わせ飛び出した

「お姉ちゃん!!変態がっ!!」
「栞!!後ろに下がって!!」

美坂姉のメリケンサックが俺のボディにめり込む
俺は一撃で地面にうつ伏せに倒れこんだ

「この拳聖こと美坂　香里に襲い掛かるには10年早いわ!!」
「お姉ちゃん、すごいです」
「それじゃあ帰りましょうか」

何だよ、拳聖って…
俺は変態という汚名を返上できず気を失った
最後に

「あの人、祐一さんに似てましたね…」

という声を聞きながら…


「…ろ……きろ……沢…」
「…」

…誰だ?

「起きろ相沢!!」
「う、う〜ん」
「起きろ相沢!!寝るな〜、寝たら死ぬぞ〜!!」
「後５分…」
「何つーベタなことを!!お前がそんな奴だったは思わなかったぞ」
「ふぁ…」
「それに『後５分…』と言う台詞は幼馴染のヒロインが起こしに来た時に言うべき台詞であって
　決して男なんぞに言うべき台詞ではない!!さらにお前は起こされるタイプではなく起こすタイプだ!!」
「……」

それは偏見だ、と思ったが取り敢えず俺は目覚めの挨拶代わりに北川の顔面に拳を叩き込んだ

「甘い…甘いな相沢。その程度の攻撃では俺を簀巻きにして大阪湾に捨てることなんぞできんぞ」
「北川…」
「本気でかかってこい…。そうしなければ貴様に俺は倒せん！！」

何でこいつは微妙に狂っているんだ…？
そう思いつつ俺はそこら辺に落ちていた木の枝を持って構えた

「そうだ…そうでなくては倒し甲斐がない」
「なぜだ…？何で俺とお前が戦わなくちゃならないんだぁぁぁぁっ！！」
「聞きたいか…？」
「聞きたくない」

俺はきっぱりと答えた

「分かった…教えてやろう」

しかし急に北川は昔を思い出すかのように語りだした

「あれはそう…つい３０分ほど前だった」

北川は語りに入った
俺は北川を無視してふらふらと町を散歩(徘徊)し始めた


辺りは夕焼けで真っ赤に染まっていた
こういう時は決まって七年前を思い出す
そう…あゆがあの大木から落ちたときのことを…
別れの日に『学校』に来た俺とあゆはそこで二人で遊んでいた…
そして木の上で町を眺めていたあゆは突風に煽られ地面に落ち、意識を失った…
俺は何もできなかった…手を握ってやるのが限界だった
何もできなかったという事実に耐えられなかった俺は記憶を封じた
そして七年という年月が流れこの町に戻って来た時…
俺は３時間待たされた
食い逃げの共犯にされた
真冬の中庭でアイスを食べさせられた
夜の校舎で魔物と戦った
夜中に悪戯をされたりした
いつも楽しそうに笑っている少女の過去を聞いた
ほかにも楽しい事や辛い事が…いろいろあった
すべてはこの町で起こった出来事だ…
いろいろあったけど俺はこの町が好きだ
だけど…俺は…

「もうだめだよ…だめだ父さん…。俺は…」

辺りはいつの間にか夜の帳がおりた道
凍てつくような寒さ、それに加えて空腹
これは不味い。これでは本当に死んでしまう
明日の夕刊の隅に
『家出少年　町の片隅で凍死体で発見
　警察は何らかの事件に巻き込まれたと見て捜査を(略)』
と言う事になりかねん。さらに
『家出少年は商店街の連続タイヤキ窃盗事件の首謀者と見られ(略)』
という言葉がニュースで語られるんだろう

「…それはもうゲームで言うところのバッドエンドだな…」
『ぐぅぅぅぅぅ…』
「腹減ったなぁ…。取り敢えず今晩の晩飯だけでも確保しなければ…」

俺は再び商店街へと舞い戻った



そこは夕焼けに包まれた場所だった…
そこは活気に包まれた場所…
そこで俺はあゆと再会した…

しかし今は…
そこは街灯が照らす場所…
そこは家に帰るものが通る場所…
アンテナ少年が一人舞台を繰り広げている場所…

「まだ続けてたのか…」
「ふ…相沢…分かっただろう。俺の苦悩が…」
「全然分からん」
「そうか教えてやろう」
「無限ループ？」

そう思った俺が立ち去ろうとしたとき

「それは6時間37分45秒前…いや、48秒前のことだった…」
「時間に正確だな、おい…」
「3学期になって転入してきた男「相沢祐一」は前の席に座った…
　奴とは仲良くなれそうな気がした…」
「目の前にいる奴に向かって奴とは失礼な！！相沢様と言い直せ！！」
「…3学期になって転入してきた男「相沢祐一」は前の席に座った…
　相沢様とは仲良くなれそうな気がした…」
「お…呼び方が変わったぞ」
「しかし相沢様は敵だったのだ！！この世紀の美男子「北川潤」が心を寄せる
　美坂香里に不埒な行為をしようとする腐れ外道だったのだ！！」
「敵はエージェント、美男子は愚か者、不埒な行為をしようは北川の魔の手から守ろう
　腐れ外道はニヒルなナイスガイ、これぐらいか…に変更」
「…しかし相沢様はエージェントだったのだ！！この世紀の愚か者「北川潤」が心を寄せる
　美坂香里を北川の魔の手から守ろうとするニヒルなナイスガイだったのだ！！」
「接続詞もちゃんと変えるとは…応用がきく奴だな…」
「商店街で相沢様が取った行動は俺を仰天させた！！」
「相沢様と俺の位置を変換」
「…商店街で俺が取った行動は相沢様を仰天させた！」
「感嘆符がひとつ足りないぞ！！」
「…商店街で俺が取った行動は相沢様を仰天させた！！
　なんと俺は美坂姉妹の前に飛び出したのだ！！」
「なんかあほらしい…が楽しい」

俺は空腹を忘れ北川をからかった

「最初から言ってみたまえ…」
「…3学期になって転入してきた男「相沢祐一」は前の席に座った…
　相沢様とは仲良くなれそうな気がした…
　しかし相沢様はエージェントだったのだ！！この世紀の愚か者「北川潤」が心を寄せる
　美坂香里を北川の魔の手から守ろうとするニヒルなナイスガイだったのだ！！
　商店街で俺が取った行動は相沢様を仰天させた！！
　なんと俺は美坂姉妹の前に飛び出したのだ！！
　相沢様の目の前で一発で倒れる俺…
　　　　　　　　　　〜〜中略〜〜
　こうして相沢様は雪の美女美坂香里に害をなす俺を倒そうと心に誓ったのであった…」
「完璧。これなら満点だな」
「分かったか！！相沢様の苦悩と誓いが！！」
「あぁ…相沢様の活躍の様がな」
「そうか…相沢様の苦悩と誓いをやっと分かってくれたか…」

このとき俺は不覚にもこいつは寒さにやられてしまったんだな…と同情しそうになった

「相沢様の8時間45分6…8秒の説明も無駄にならなかったということか…」
「何！？もうそんなに経ってたのか…俺の晩飯は…」
「そういうわけで俺！！相沢様の手によって夜空の星となれ！！」

訳すと…『そういうわけで奴！！俺の手によって夜空の星となれ！！』
おかしいぞ…北川
間違いに気づいたが訂正する暇も義理もないので

「お前の言った通り夜空の星となれぇぇぇぇぇぇい！！」

ドゴーンッ！！
ヒューッ！！
キラ〜ン！！

そのとき幼い頃聞いた母の言葉がよみがえる

『お母さん…死んだ人はどうなっちゃうの？』
『死んじゃった人はね…空高く昇っていってお星様になるの…。
　そして一生懸命生きている祐一達をお空高くから見守るのよ』
『へー、そうなんだ』

そして俺は理解した

「北川…威張ってもいいんだぜ…。多分お前が人類で初めて生きた状態で星になれたんだ」

北川…俺のことを見守ってくれるよな？
俺は心の中で呟いた
星が一段と輝いた…ような気がした…


俺は商店街を食べ物を探して歩いた…
しかし大抵の店は閉まっており、コンビニに行ってもなぜか食料はなかった

「ははは…なんで食い物がないんだ？」
「あ、相沢ぁぁぁぁ…」

今日はエンカウント率が高いな
だが、取り敢えず聞いてみる

「どうした、北川！！そんなに死にそうな声を出して！！何があったんだ！？」
「相沢…宇宙は広かった…あれは俺の知識では理解できない…」
「当然だろ！！俺にもできないんだ、お前にできるわけがない！！」
「大気圏突入するときに俺はエネルギーを使いすぎた…」
「お前…気付けば普通の言葉に戻ってるじゃないか」
「あぁ…爆発のショックでな」
「(爆発？)た、大変だったようだな…」
「あれは流石に俺と言えど挫けそうになった…
　だが俺には「打倒！！相沢」の誓いがあったからここまでやって来れた」
「北川…無理だ。お前に俺は倒せない、それはなぜか！！」
「なぜだ？」
「お前の登場が三度目だからさ
　ライバルとラスボス以外で三度目の登場は大体雑魚と相場が決まっている」
「そんなぁぁぁぁ！！」
「あと、三度目はギャグキャラ要素を加えられたりするぞ。お前の場合元々だが…」

『ぐぅぅぅぅ…』

「うぐぅ…」
「相沢…お前腹減ってるのか？」
「く…そうだ。何か悪いところでもある…いや、何かくれるのか？」
「まぁ待て」

そう言って北川はおもむろにポケットをあさり始める
手に持ちたるは長方形の黒い物体

「い…板チョコだと！？」
「これは美味いぞ…空腹の時は言わずもがな満腹時でも顔がほころんでしまう味だ…」
「よ、よこせ！！俺によこせ！！」

その時の俺はまるで飢えたハイエナのように見えただろう…

「嫌だよ」
「な…」
「俺だって腹減ってるんだから…」

北川はとてつもなくいやらしい口調でそういい、チョコを少しかじった

「う〜ん…デリ〜シャスッ！！ワンダホ〜！！」

北川はとてつもなく幸福な顔をしてこちらを向いて微笑んだ
俺は自らの中に殺意という物を感じた
だが怒りを通り越して冷静になっていた俺は無理やり奪おうとして全部食われるよりは
どうにか恵んでもらうかのように近づいてチョコを恵んでもらいその後『滅殺』しようと考えた

「あの…北川君…今までのことは僕が悪かった。謝るよ。だから君のチョコを恵んでくれないかい？」
「はぁ…？聞こえないなぁ…」

俺は北川の耳元で言った

「北川君…今までのことは僕が悪かった。謝るよ。だから君のチョコを恵んでくれないかい？」
「北川君…？僕の聞き間違えかなぁ…様じゃないのかな…？」

冷静さを保つんだ祐一。ここで奴の挑発に乗ってはいけない

「北川様…今までのことは僕が悪かったです。謝まります。だから北川様のチョコを恵んでくれませんか？」
「お前の言いたいことは分かった…」

そういうと北川はチョコを半分に割った

「ほら…」

北川はそれを俺にくれると思いきや、一口で食べた

「キサマァァァ！！喰いやがったなぁぁぁ！！しかも一口で！！」

俺の怒りゲージは一周して『怒』の部分に突入した

「残リ半分ヲ…ヨコセェェェェェ！！」
「相沢！！お前に盗られる位だったらドブに落としたほうがましだ！！」
「き、貴様！！言って良い事と悪い事があるぞ。作った人の事を考えろ！！」

チョコの取り合いをする俺達にショッキングな出来事が！！

「「チョ、チョコがぁぁぁぁ！！」」

俺が北川の手を弾くと北川の手からするりとチョコが抜け出し…
横の川に…
　　　　　　　　『ポチャン…』
と、落ちた…

「北川〜〜！！やりやがったな手前ぇぇぇ！！よくギャグ漫画とかで
　『無人島とかで遭難して食べ物がなくて片方が持ってきていた食料を二人で取り合いなくしてしまう…』
　というシチュエーションを実行しやがったな！！ありがちじゃねえか！！
　やるんならもっと別なことをしろ！！って言うより今するな！！」

俺は目に涙を浮かべながら言った
怒りの度数より悲しみの度数のほうが上回ったのだ

「俺の大事な食料が…」

北川は泣いていた…

　　　　　　〜数十分後〜

「相沢…食い物持ってないか…？」
「持ってたとしても、とうの昔に食べてる…」
「コンビニに何か買いにいくか？」
「無駄だ…。何も無かった」
「相沢…俺はもう帰るぞ」
「は？」
「家にはあったかいご飯が…」
「北川、俺たち親友だよな？」
「ああ、親友だ」

俺たちは手を取り合い握手した

「そこで…だ。北川…」
「分かっている。みなまで言うな」

北川はポケットを漁りある物を俺に手渡した

「これは…なんだ」
「見てのとおりマッチだが」
「これで俺に何をしろと？いや、その前になんでこんなもの持ち歩いてるんだ？」
「たまたま持ってたんだ」
「お前のポッケはドラちゃんのものですか？」

北川はマッチに火をつけた。

「こうやってると…美味しい晩御飯が見えてくるかもしれないぞ」
「…」
「そのうち家族の姿が見えてくるはずさ…。ちなみにその時、マッチはいりませんか〜？って言うとグッドだぞ」
「そんなことしてたら死んでしまうような気が…」
「お前にこのマッチを譲ろう。立派な『マッチ売りの少年』になってくれ」

俺は自らのカバンを漁りジャムを取り出した

「ん？相沢どこにカバンなんか持ってたんだ？」
「貴様に知る必要はない」

そう言ってジャムを一瞬にして北川の口の中に放り込んだ

「あいざ…ごぶふっ」
「喰らうがいい、北川。そしてこの俺を敵に回した事を一生悔やむが良い」
「(モゴモゴ)」
「飲み込めぇぇぇぇ！！」
「………(ゴクン)」
「…」
「……」
「………」
「あぁ…おじいちゃん、星が、星が降ってくるよ…。このままでは物価が…暴走を始めちゃうよ…止めなきゃ…」
「…」
「＄＃＊＠￥…」

北川は訳の分からないことをいって倒れた

「ひ魔人北川…滅殺完了」

俺は決めポーズを決めて北川の所持品を漁り始めた

「ちっ、しけてるなぁ…」
「祐一…何してるの？」
「何か食い物がないかなぁ…と」
「祐一…そんなことやってないで帰ろうよ〜」
「勝者が敗者の所持品を漁るのは勝負の鉄則だろ」
「そんなの鉄則じゃないよ〜」
「少なくとも魔物がアイテム落とすときは漁ってるはずだ」
「…く〜」
「祐一は布の服を見つけた。
　祐一は布の服を手に入れた」
「祐一〜、そんなの手に入れたらだめだお〜」
「祐一は布の服を元の場所に戻した」
「…く〜」
「…起きろっ！！」
「う〜ん…祐一おはよう…」
「おはよう、名雪」
「そういえば祐一〜、早く帰ろうよ」
「俺はもう帰れないんだ…俺は居候の身だから家主の命には逆らえない」
「祐一…私…祐一を連れて帰らないと…」
「連れて帰らないと…？」
「『祐一さん共々名雪もジャムの刑に処します』って言われたんだよ…」
「…」
「私…そんな事になったらもう笑えないよ…」
「帰ろう名雪…俺も死ぬのはいやだ」



「ただいま〜、お母さん」

無事に家に帰りついた俺と名雪

「お帰りなさい、名雪、祐一さん。祐一さん…今までどこに行ってたんですか？心配したんですよ」

秋子さん…あなたに追い出されたんですが…と思ったのだが敢えて言わないことにした

「…く〜」
「名雪も眠たいところを俺を探してくれたんですね…」
「そうですよ、祐一さん」
「そういえば…あゆと真琴は俺の事を探してくれなかったんですか？」
「いえ、あゆちゃんと真琴は朝食を食べた後気分が悪いって部屋で休みましたよ…」
「…(ジャム？)」
「ところで、祐一さん。カバンの中のものは制覇しましたか？」
「いえ、全く…そういえば、北川が少々」
「祐一さん…作ってくれた食べ物を残すなんて許せませんよ」
「秋子さんのそのジャムは食べ物では……ゴホン」
「祐一さん…何か言いましたか？」
「…なんでもありません」
「祐一さん…今回のことは名雪に免じて許してあげます。でも、次はありませんよ」
「はい、分かりました」

俺…なんか悪いことしましたか？


次の日…北川は学校に来ていなかった
その日の夕刊の隅に大地に口付けをするかの様な格好で倒れていた少年の話が載っていた…かどうかは定かではない


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