第四幕
(３人、水瀬邸前に立つ。)
名「あゆちゃん。ここがわたしの家だよっ」
あ「知ってるよ。」
潤「て言うか、もしかしてそのセリフ誰にでも言ってるのか？」
名「そんなことないよ、今だけだよ。さあ。再突入だよっ！」
(祐一、家の中から出てくる。)
あ「あ、祐一君だ。」
祐「お、なんだお前ら。家の前で何やってるんだ？」
名「わ、裏切り者の祐一だ。よくもわたしの前に顔が出せたね。でも、泣いて過去を悔いてわたしに愛と忠誠を誓うなら許してあげてもいいよ。」
祐「な、何の話だ？」
名「とぼけないで。正義の為に闘おうという香里の誘いを断って、お母さんの元に下ったそうじゃない。このヘタレ！」
祐「なんだと。何の話かよく分からんが、ヘタレとはなんだヘタレとは！ 全国１億２千万人の相沢祐一ファンに謝れ」
名「じゃあ百歩譲って甲斐性なしのいそーろー」
祐「なんだとぉ！ それを言うなあぁぁ！」
あ「あ、祐一君泣いてる。」
(祐一、泣きながら名雪の頬を引っ張る。北川一度退場。)
名「ひふぁいよゆういひ、ほっへふねあないふぇ。」
あ「わあっ、名雪さんも痛がってるよっ。どうしよう、どうしよう、うぐぅ。」
(潤)『そこまでだっ！』
あ「あ、バラの花。」
(潤)『真実の光が地上を照らさんとするとき、悪しき心の雲がそれを覆い隠さんと少女の体を傷つける。ならば我は、その雲を吹き飛ばす一陣の風とならん！ 愛と正義と友情の使者、タキシード潤参上！』
(北川再登場。塀の上。タキシード姿。)
祐「何やってんだ北川。」
潤「今のオレは北川ではない。タキシード潤と呼んでくれたまえ！」
祐「呼ぶのはかまわんが、後になって文句言うなよ？」
名「ねえ、タキシード着てるからタキシード潤なの？ いつの間に着替えたの？」
あ「と言うか、塀の上からそんなせりふ吐かれても全然かっこよくないよ・・・」
潤「屋根に登ってる時間は無かったのだ。」
祐「だから何で登る必要があるんだよ」
潤「さあ、行きたまえ可憐な少女達よ！ ここは私が敵を食い止めよう。」
祐「無視かい。」
あ「可憐な少女達って、ボク達のこと？」
名「と言うかそのもったいぶった言い方やめない？ にあわないよ。」
潤「・・・・・。」
あ「あ、ショック受けてる。」
名「わ、傷つけちゃったかな。まさか本気でかっこいいと思ってるなんて思わなかったんだよ。」
あ「名雪さん、それ追い打ち追い打ち。」
潤「・・・フ。別にいいさ、もはやある意味慣れっこだからな。それよぉり！ 相沢、貴様だけは許さん。」
祐「な、なんでだよ。俺、今はお前のこと笑ったりしてないし。」
潤「貴様がジャムに魂を売ったからだっ！ いくら秋子さんが若くて美しいからと言って。オレ達を見捨てて手下になるなんて。しかも手下なのをいいことに、秋子さんから用事など仰せつかったりしているのだろう？ そいでもって、うまくいったら頭なんかなでなでしてもらってるんだ、チクショぉウなんて羨ましいぃ！ 許せん。」
名「北川君、論点かなりずれてるよ。」
潤「ああ、確かにずれている！ だがしかし！ オレは敢えて言いたい！ なぜ相沢が！ 相沢に！ 相沢と！ 相沢をして！ 相沢であり！」
祐「なにが言いたいのかさっぱり判らんが、一つだけ忠告しておこう。足下に猫が来てるから気をつけろよ。」
名「え、ねこ？ どこ？ ねこねこねこねこねくぉー！」
(名雪、塀に突進。)
あ「あ、塀にぶつかった。痛そう。」
名「うん、痛い・・・」
祐「痛い程度ですむんか・・・」
潤「ていうか、今揺れたんですけど。おかげでなんか足下ふらついてるんですけど。」
名「え、ちょ、ちょっと北川君、わたしの上に落ちてこないでよ？」
潤「落ちてこないでと言われても既に体勢が限界なので無理っす」
名「ええっ、ホントに落ちてくるつもりなのっ？！ わ、ちょっと待ってよ、あゆちゃん代わって」
あ「って強制的に入れ替わらないでよ、ボクは身軽さが売りなだけで、重いものを支えるのは苦手なんだよっ！ そうだ、祐一君チェンジ」
祐「て言うか、そんな訳の分からん事してないで、向こう側に降りてもらえばいいだろ」
潤「こら、バカ押すな相沢、何をする」
あ「あ、落ちた。」
名「すごい音がしたけど、頭打ったのかな？ 大丈夫かな」
潤「・・・・。」
あ「ねえ、北川君のびてるよ」
祐「タキシード姿でこんな格好してると、余計無様だな・・・」
名「北川君、北川君死なないで！ ううう、これから一年間、百科屋で好きなものおごってくれるって約束したじゃない・・・！」
あ「そんな約束したんだ。」
名「うう、北川君のバカ、落ちたふりしてわたしに抱きつこうとしたりするから・・・」
潤「・・・そうか、いっそそうすればよかったな・・・」
名「北川君、生きてるの？」
潤「ああ。だが、もう長くは保ちそうにないぜ・・・」
名「うう、北川君、こんな事ならもっとたかっておく・・・じゃないよ、優しくしてあげれば良かったよ。」
潤「そうか。じゃあ一つ、オレの願いを聞いてくれるか？」
名「うん。なあに北川君？」
潤「その、北川君じゃなくて。名前で呼んでくれないか？ 潤と。」
名「うん、わかったよ准。CLANNAD早く出してね」
潤「なんか字違うんじゃないですか？」
名「ああ潤、苦しみのあまりうわごとまで言って・・・。わかったよ、これ以上苦しまないように、わたしがとどめを刺してあげるよ。」
(名雪、北川にかかと落とし。)
潤「ぐはっ」
あ「うわ。何もそこまで。」
名「うっうっうっ、潤の尊い犠牲は無駄にしないからね。」
あ「どう考えても犬死にっぽいのは気のせい？」
名「さて。祐一、よくも北川君をこんな目に遭わせてくれたね。」
祐「え、ちょっと待て。これって俺の所為なのか？」
名「当たり前だよ。何言ってるの。祐一が、北川君を塀から突き落としたんじゃない。忘れたの？」
あ「でもトドメさしたのは名雪さん・・・」
祐「そ、そうだっ。それにあれは、突き落としたんじゃなくて、こっちに降りてもらおうと」
名「見苦しいよ祐一、そんな言い訳するなんて。そういうことするからヘタレとか言われるんだよ。わたしを裏切ったことはもう問うつもりはないから、せめて今の主人であるお母さんに恥をかかせるまねはやめたら？」
祐「だからその、秋子さんが主人とかいう話は一体何なんだ。そりゃあ、確かに俺は居候だが・・・」
名「しらばっくれないで。香里が一緒にジャムと闘おうって誘ったのに、断ってお母さんの元に走ったそうじゃない！」
祐「香里が？ まさか、昨日秋子さんと買い物してるときにいきなり現れて訳の分からん演説始めたときのことか？」
名「え？」
祐「人が見てるし恥ずかしいから、秋子さん連れて逃げたんだが」
名「ちょ、ちょっと待って。その話詳しく聞かせて」
あ「名雪さん、通信機がピーピーいってるよ」
名「え、何だろ香里、こんな大事なときに」
(香)『名雪、相沢君の弱点が分かったわ。右下腹部よ！』
あ「うわ、声大きい。これって香里さんのクセ？」
名「香里、今それどころじゃないんだよ。祐一、もしかしたらわたし達を裏切ったんじゃないかもしれないんだよ。」
(香)『騙されてはいけないわ名雪。相沢君はあなた達を足止めする為に、適当なことを言っているだけよ！』
名「えー、でも」
(香)『忘れたの名雪。女の子を騙すのは、彼の悪い癖だということを。そう、七年前だってあなた、相沢君にひどい目に遭わされたって言ってたじゃないの』
名「そういえばそうだったよ。あのときの千円もまだ返してもらってないし。」
祐「え、千円？ やべ、忘れてた・・・」
あ「あ、祐一君がうろたえてる。」
(香)『そらみなさい。自分の企みがばれてしまったから、動揺してるのよ！』
あ「そういう事とは違うと思うな、ボクは・・・」
名「そういう事だったんだ！ ゆるせないよ祐一！！」
あ「って信じてるし名雪さん！」
(香)『さあやりなさい名雪！ 右下腹部を攻撃よ！ もしもやりづらかったら裸にすることも許可するわ』
名「うん、わかった。あゆちゃん、服脱がせるから祐一押さえてて。」
あ「ええっ、いきなり脱がせるのっ？！」
(香)『ちょっと待って、それなら通信機の動画転送機能をＯＮにして』
名「そんな余裕はないよ。あゆちゃん早く押さえてよ、祐一逃げちゃうよ。」
祐「いや逃げるというかその、これってちょっと非常識だぞ、おいやめろって」
名「別に非常識じゃないよ、映画でもよくある濡れ場シーンだよ、ファンサービスだよ。」
祐「誰に対する何のサービスだ、いや、ちょっと待って、！」
(香)『ねえ、動画転送機能ＯＮにしてよ！ 何の為に最大伝送速度20Mbpsの第４世代携帯電話をベースに通信機作ったのかわからないじゃない！ ちょっと、聞いてるの？！』
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