ぜろぜろなゆちゃん〜凶悪兵器を破壊せよ！〜


※台詞略語
名雪＝名
香里＝香
北川＝潤
あゆ＝あ
秋子＝秋
祐一＝祐


第一幕

(喫茶店の中。香里、名雪、北川の３人が同じ席に着いている。香里は立ち上がって演説している。)
香「テロリズムの卑劣さは、その対象が抵抗するすべのない弱きものとなることである。テロリズムの厄介なところは、それを実行する人間に悪の意識が存在しないところである。テロリズムの恐ろしさは、それに対する抵抗の意志を奪い取ってしまうことにある。立ち向かわなくてはならない。我々は決して、暴力を許してはならない！」
名「香里。演説するのはいいけど、テーブルにのぼるのはやめてよね。はずかしいから。」
香「・・・・。」
潤「美坂香里は拳を握りしめたまま辺りを見渡し、自分に向けられた視線の性質に気づき、俯きながらテーブルにかけていた右足を降ろした。期待を込めてさりげなく顎をテーブルの上に乗せていた北川潤は、どんなに仰角を確保しても望んだものは見れなくなったと悟り、心の中で舌打ちした、水瀬、余計なこと言いやがって。」
名「北川君、声出てるんだけど。」
潤「わざと出してたからな。」
名「どうしてそうやって、自分に不利にしかならない事するの？」
潤「男の子というのは暫し、否むしろ常時、何の益にもならないとてつもなくバカな事をしでかしてみたくなるものなのさ。」
名「・・・もう、どうしてわたしの周りって、こう恥ずかしい人ばっかりなんだろ」
香「ばっかりって・・・その恥ずかしい人の中にはもしかして、あたしも入ってるの・・・？」
名「当然だよ。何言ってるの。さっき自分が何やったかわかってる？わかんないなら教えてあげようか。ほら、さっき香里がテーブルにのぼったとき、デジカメで撮ったんだよ。この画像。香里、こぶし突き上げてテーブルに足乗っけてるでしょ。ちゃんと見て。目逸らさないで。」
潤「て言うか、撮るなよそんなもの」
香「そ、そうよ！ そんな写真隠し撮りするなんて、名雪、あなただって人として恥ずかしいと思うわ！」
名「なんの話だっけ、テロリズムがどーとかいう話だったよね？」
潤「うわ、逃げやがった。ひでー。」
名「北川君、さっき水瀬余計なこと言いやがってとか言ってたよね。あの言いかた、わたし結構傷ついたな。」
潤「テロリズムの話を続けてくれ美坂。」
香「・・・まあいいわ。ところであたし思うんだけど。この御町内にも、テロ行為って潜んでると思うのよね。」
名「わかった。お母さんのジャムだね。」
香「あら、やっぱりわかる？そう思う？　思うわよねー。」
潤「まあ、この手の話のお約束だしな。」
名「そうだね。でも、お約束もあんまり長々と続けられると、ちょっと滅入るよね。そろそろ由美かおるより西田ひかるって気分になってくるよ。」
香「何の話・・・？」
名「なんでもないよ。香里は老けてるからこの手のドラマ好きそうだなーなんて思ってないよ。」
香「・・・・。」
潤「ジャ、ジャムテロはやっぱひどいと思うよな！」
名「うん、立場が上なのを利用してあんなもの食べさせようとするなんて、人として間違ってるよ。と言うか作ること自体間違ってるよ。国際条約で禁止されてないのが不思議だよ。」
潤「国内法でも県条例でも町内会の約束事でも禁止されてないよな。これってやっぱり、あの人の影響力ってやつかな」
香「そういう幻想を抱かせてしまうところが、あれの恐ろしさの一つよ。このまま野放しにしておいたら、あたし達みんな、言いたいことも言えず恐怖に身をすくめ人間らしさをすり減らして生きていくことになってしまうわ。それでもいい、命があるんだからまし、と言うか強者に従って生きていく方がむしろ楽、と言うならそれでもいいわ。でもあたしは嫌。愛想笑い浮かべながら食べたくないもの食べるなんて、そんな生活もう嫌。あたしは自分を偽りたくない、あたしはもっとあたしらしく生きていたい！」
名「香里、気づいてないといけないから言うけど、またテーブルのぼろうとしてるよ」
香「・・・・・。」
潤「全く美坂も好きだよな。いっそ最初からテーブルの上にいといたらどうだ？　テーブルの上の女王様、ってな。」
香「北川君、あとで公民館の裏までいらっしゃい。」
潤「あそこはヤンキーのたまり場になってるから嫌です」
香「来れないって言うの？　」
名「やめようよ香里。そんなことより、さっきの話の続きしてよ。」
潤「ありがとう水瀬、かばってくれて。」
名「うん。で、当然このお礼はしてくれるよね。すみませーん、いちごパフェ３つ」
潤「え、ちょっと待って。それってさっきオレが水瀬かばったのと帳消しじゃないの？！」
名「なに言ってるの。帳消しにしたかったらあと１８回わたしの役に立ってよ。それくらいしてもらわないと割に合わないよ。」
潤「ひでえ、なんでそんな差がつくんだ！」
香「・・・あたし、さっきの件 無かったことにしてあげるわ・・・。」
名「えー、それはこまるよ。わたしがかばったのが無効になっちゃうよ。」
潤「・・・・。」
香「で、さっきの続きだけど」
名「うん、御町内のテロ行為をこれ以上繰り返させない為にも、テロの元凶であるジャムを香里が全部食べてくれるって話だよね。」
香「そう、あのジャムを始末しないことにはこの町内に平和は訪れない・・・って、ちょっと待って、何であたしが食べる話になってるのよ！」
名「えー。じゃあどうするつもり？」
香「うん、それはね、名雪と北川君に」
名「わ。聞いた北川君？　香里ってば、わたし達二人にジャム食べさせて、自分だけ身の安全を図るつもりだよ」
香「そうじゃないの！ 話はちゃんと最後まで聞きなさい！ て言うか名雪にだけは言われたくないわ！」
潤「オレだったら言ってもいいんだな」
香「もういいから二人とも黙ってて！ あたしの話聞いてよ！ 誰の奢りだと思ってるの！」
名「かおりのおごりー。」
香「わかってるならもう少しおとなしく言うこと聞きなさい何で奢ってるのにさんざんコケにされなきゃいけないのよやってられないわあたしがなにしたっていうのよぉ」
名「わ、涙目。」
潤「ここまでバカにされればな。なあ美坂、オレも水瀬もやりすぎたと思ってるよ、悪かった。」
名「うん、お詫びに何でも言うこときくよ。」
香「・・・ホントに？」
名「うん。」
香「嘘偽り無く？」
名「正直者のなゆちゃんと呼んでよ。」
香「じゃあまずはあたしのことを長官と呼びなさい。」
名/潤「・・・は？」
香「そしてあなた達は今から、特務機関ＪＴＡのメンバーよ！」
名「北海道国際航空？！」
潤「いや、そのボケ無理ありすぎだって」
香「ちなみにＪＴＡはJamu wo Tabetakunai Atashitachiの略よ。」
潤「なんか弱そうな組織名だな、どちらかというと駅前でギター弾きながら歌ってそうな」
名「反ジャム歌でも歌うの？」
香「歌いたければ別に止めないわ。でもその前に、あなた達にはやってもらわなければいけない事があるの」
名「え、まさか」
潤「話の流れから言って」
名「『香里がテーブル上りたがるのは昔そういう踊りをしてたからじゃなくて征服感が味わえるからだ』ってみんなに説明してあげるんだね！」
香「・・・・。」
潤「そ、そうじゃないだろ水瀬。秋子さんのジャムを俺達でなんとかしろって事だろ、要は。」
香「あら北川君、わかってるじゃない。そうよ、あなた達はこれから水瀬邸に潜入し、件のジャムを処分しなければならないのよ！」
名「えー、何でわたしが。香里がやってよ。」
香「そうね、本来ならあたし自ら乗り込んで、任務を完璧に遂行させたいところだわ。でも、あたしにはＪＴＡ長官として後方からエージェントを支援する責務があるの。」
名「代わってあげるよ、遠慮しなくていいよ」
香「それに、万一任務に失敗して、命を落とすようなことがあったら、残された栞が・・・」
名「お姉ちゃん死なないで〜とか泣きつつも心の中で『やりましたこれで掛け捨てと割り切って契約しておいた一年組立型生命保険が無駄にならずに済みます〜』とかほくそ笑むのがいやなんだね。」
香「そうなのよ、あの子ってば意外と打算的で・・・って何言うのよ！ 栞はそんな子じゃないわ！！」
名「えー。栞ちゃんって、生命保険嫌いなんだ。」
潤「そうじゃないだろ。」
香「・・・とにかく。水瀬邸に全く怪しまれることなく潜入できるのは、名雪しかいないの。これはわかるわね？」
潤「オレは？」
香「あなたはおまけ。・・・じゃなくて、名雪のサポート役よ。一人でやらせるのは酷でしょう？」
潤「でもそれを言ったら、相沢の方が適任じゃないか？　今ここにいないけど」
香「そうね。実際あたしもそう思うわ。だから最初は、名雪と相沢君でコンビを組ませるつもりだったんだけど」
名「どうしてそうしないの？」
香「彼の身柄は・・・敵側に渡ってしまったのよ。」
名「どういうこと？」
香「正確に言うと、彼はあたし達を裏切ったのよ。同じジャムの被害に苦しむ同士にもかかわらず、あいつは秋子さんの元に走ったのよ！」
潤「ま、しょうがないよな。あいつ居候の身だし。家主には逆らえんだろ。」
名「でも、祐一わたしの言うことは全然聞かないよ？　わたしだって居候先の家主の娘なのに。」
潤「娘の世話になるつもりはないから別にいいやとか思ってんだろ」
名「ゆ、許せないよ祐一！！」
潤「いや、痛い痛い、オレを殴るなって、当たるなら相沢に当たれよ！」
名「だってだって、悔しいよ！」
香「じゃあその悔しさを、任務遂行のバネにしなさい。相沢君が向こう側についている以上、必ず彼と対決するときも来るはずだから。」
名「らじゃー！ さっそく行くよー！」
潤「いやだから、痛いって、髪引っ張らないで、これ大事なんだってば。」


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