暖かな日差しのなか、鐘の音が響いた。
皆に祝福されて、ライスシャワーの中を新郎と新婦が歩いてくる。
歩いてくるなか新郎が新婦をみて優しい笑みをたたえていた。
新婦はとても幸せそうだった。
そんな幸せそうな新婦の顔と共に、忘れられない少年時代の思い出が頭に蘇った……。
届け、この想い
あなたは一目惚れを信じるだろうか？
そう聞かれたら、それは信じないと答える人が多いかもしれない。
けれど、俺は一目惚れをしてしまった……。
それは、秋もふかまり木々も色づく季節、学校から家に帰っている時のことだった。
「どうした？祐一……」
学校の授業も終わり家の近い友達と一緒に帰っていた途中、その人を見た僕の目と足はとまってしまっていた。
その人も学校帰りだと思うけど、２人の女性が歩いていたうちの１人だった。
目が留まったというよりも、その人以外見ていなくて、直前まで盛り上がっていた話なんてどうでもいいというか、忘れてしまうぐらい見惚れていた。
「ああ、あの人ね」
と、その人のことを知っている友達が何か言っていたようだけど、その時はまったく聞こえていなかった。
後で聞いた話によると友達の近くに最近越してきた人らしく、名前まで解った。
その人は、沢渡真琴さん、というらしい。
完全に一目惚れだった。
凝視していたことで言い逃れもできず、後で散々友達にからかわれた……。
あまりにからかわれすぎて怒ってしまい、友達と喧嘩することとなったけど……。
しかし、その後その友達も真琴さんと一緒にいた人に憧れていたということが解った。
それから、友達と共に真琴さん達を追う日がはじまった。
それは、主に学校帰りだった。
いつ通るかは解らなかったけれど、最初に見かけた場所に早くから行ってずっと待っていた。
そこに居れば真琴さん達が通るからだ。
そのうち真琴さん達が見えると僕達も学校帰りを装って何気なくすれ違う。
その後、僕が真琴さんの２つに分かれた髪型がいいと言ったら、友達がそれよりも分けずに髪をそのまま流しているあの人のほうがいいと言ったり、
あるときは、友達があの人のほうが優しそうな感じがしていいと言ったら、それだったら、真琴さんのほうがどこかのお嬢様みたいな感じがいいと言ったりとかと、
お互いに好きな人のことを友達と言い合ったりして議論を繰り返す、そんな日が続いた。
そのうち変化がおきた。
いつもは２人で帰ってるところに１人男の人が加わってきた。
互いにむっとしながらも、いつものようにすれ違い、いつものように議論した。
議論の内容は、もちろんあの男の人はなんだという話だった。
そんなある日のこと、友達の家に行く途中、真琴さんを見かけた。
誰かを待っているみたいだけど、少し様子がおかしい。
なんでだろうと思っているところに、あの男の人が来た。
友達の家に行くのを忘れて、そのまま隠れて後をつけて行った。
街の中を２人で歩いて服を見てたりしてたけれど、驚いたのは真琴さんがいつも見るときよりも行動的というか、そういった風に見えたことだった。
学校帰りとかでは大人しく見えたけど、実際はもっと活動的な人だったんだな、と思った。
友達に言っていた、真琴さんのお嬢様みないな感じがいいと言ったことはちょっと違ったけれど、それでも、真琴さんはとてもステキだった。
たとえそれが、男の人と一緒だったとしても。
何か楽しそうな真琴さんをみて、今までとは違った気持ちになった。
この気持ちはよく解らないけど、最初男の人を見たときよりも気分は良かった。
気分がよくなったところで帰ろうと思ったその時に、友達との約束を思い出した……。
その後、約束をすっぽかした友達に誤りに行ったけど、色々と言われたのは言うまでもないことだった……。
そんなことをしながら冬休みが来た。
毎年冬休みには従姉妹がいる家に行く。
今年も行った。
こっちでは雪が降らないので、向こうでは当たり前の雪もとても新鮮だった。
もう少し、暖かければ文句も無いんだけど……。
買い物とか行くのが寒くてとても辛かった……。
それでも、従姉妹の女の子と雪だるまとか雪兎とかを作ってとても楽しかった。
冬休みがあけ、また学校に行きはじめた。
それと同時に学校帰りに友達と真琴さんを見に行くようになった。
でも、冬休み前に街に見た街での出来事から、以前よりも見る感じが変わった。
うまく説明できないけど、最初のころはすれ違える場所に早く行こう行こうと思っていたけど、このごろはそこまで急いでいこうとか思わなくなった。
それこそ、最初は友達よりも僕のほうが乗る気だったのに対し、今では友達のほうが乗る気だった。
なんでこんなに変わったのだろう……。
結論がでないまま月日は流れ、おかしなことが起こっていた……。
真琴さんが、公園に居るようになった。
ただ、公園に居るだけなら別に普通なんだけど、おかしいのは、公園にずっと居る、ということだった。
見かけたのは友達の家に行く途中、公園を通っていったら人を待っている真琴さんを見かけた。
誰かを待ってるみたいだったけど、友達の家に行く予定だったのし、この前みたいにつけて行こうとは思わなかったので、そのまま友達の家に行った。
その帰り、行きと同じように公園を通って帰ると行く時と同じ場所に、まだ真琴さんは居た。
最初のころは、真琴さんを待たせるなんて酷い人も居るもんだと思っていたけれど、２度３度と同じような光景が続いていた。
ここまでくると、ずっとあの場所に居るとしか考えられなかった。
なんで、あそこにずっと居るのだろう。
誰かを待っているにしても、待ちすぎではないか……。
いった何をしているのだろう……。
考えても解らなかった。
それから、真琴さんの公園にたたずむ日が始まったのだった。
春。
桜の木の下で一人立っていた。
公園で、一緒の場所にずっと立っている女の子が居る。
近所ではかなり有名な話となっていた。
なかには陰で頭がおかしいんじゃないかと言ってる人がいたので、頭にきてその人の家にいたずらしてやった。
少しすっきりした。
僕の頭の中ではお姫様を守るナイトみたいな感じで少し気分が良かった。
夏。
強い日差しの中、汗を拭きながら木の陰で一人立っていた。
春にでていた噂はすっかりなくなっていて、真琴さんが立ってることに対してもう何も言わなくなった。
言わなくなったというよりも、誰も気に留めなくなった。
別に僕がやったことによってではなく、それだけ時間がたったということなのだろう……。
もう、真琴さんが立っているのは普通なんだと思った。
前に感じた真琴さんを守っているみたいなことはすっかりとなくなっていた……。
秋
色づいた木々の中、舞い落ちる葉にも気にせず一人立っていた。
僕が見ていることは、友達以外も知っていたみたいで変わり者ということになっているみたいだった。
でも、そんなことはどうでもよかった。
冬
冷たい風が吹く中、そんな風を気にすることなく一人立っていた。
もうすぐ真琴さんが立ち始めたから１年がたつ……。
こんな状況を見ていても何も出来ない……。
子供の僕に何が出来るかを考えても何も思い浮かばなかった……。
こんな時、大人だったら話しかけたりとか色々なことが出来るのかもしれない……。
子供は無力だ……そう感じた。
そして、何も変わらないまま冬休みとなった。
前の年と同じように今年も従姉妹の住む街に行ったけど、実は何をしたかを余りよく覚えていなかった。
覚えていた中で印象的だったのが、怪我した子狐を叔母さんに隠れて世話したことだろうか。
あの子狐には普段人には言えないことを色々なことをしゃべったと思う。
なかでも、特に真琴さんのことが多かった気がする。
一目惚れなんて考えたこと無かったけど、実際にはあるもので、物凄く突然やってくるものだってことや。
今は違うけれど、髪形は二つにわかれてて、リボンで結んであってとても可愛かったってことや。
普段は静かなところもあるけれど、とても活発な人だったとか。
活発だけど、実は人をずっと待って居るように純粋な人だとか。
本当に色々としゃべったと思う。
できれば、もっと一緒に居たかったけど、こっちにつれて帰ることが出来ないし、それに、怪我も治ったので見つけてきた場所に帰してきた。
帰してきたときに寂しそうに鳴いたこともあって、心配だった……。
いまごろどうしているだろうか……。
そんなことを思いながら、あの場所へと向かった。
そこにはいつものように人を待っている真琴さんが居た。
従姉妹の住む街に比べれば空気自体が暖かく感じるからまだ寒くないとは思うけど、それでもこの中でじっと立っているのは辛いだろうに……。
いつまで真琴さんは待っているのだろう。
ある日、日が暮れ始めるまで友達と遊び家に帰る途中、公園の様子を見て帰ろうと思い公園に寄った。
その日の真琴さんはどこかが違って見えた。
立っているのはいつもと同じだけど、顔がいつもよりも暗い感じがした。
あそこでは誰か人を待っているのだと思う。
待っている人が来ないから寂しげな顔をしているのだと思うけど、さっきも感じたようにいつもより暗くみえた……。
空が夕日に染まってきたのも、よりいっそう寂しげに見える理由だと思うけど、それ以上に何か違った……。
なんだろう。
とても苦しそうに立っている。
体の具合でも悪いのだろうか。
いや、そうじゃなさそうだ。
なら、なんで？
そう考えていたら風にのって真琴さんの声が聞こえてきた。
「引っ越すことになったから、ここで待てるのも今日までだっていうのに……。
なんで、なんで帰ってこないのよ！！」
引越し？
そういえば、友達が言ってた。
真琴さんは元々居た人じゃなくて、引っ越してきた人だって。
俺のクラスにも各地を転々としてきた子が前にいたし、引っ越して来た真琴さんの家がそういった家だっていうのか？
「今日も来なかった。
約束したでしょ。」
約束？
約束という言葉がなぜか心のなかに残った。
「いったいいつになったら来るのよ。
守るつもりもない約束なんかしないでよ。」
まただ……なんでか解らないけど、約束って言葉がひっかかる。
でも、なんだろう、なんで約束っていう言葉にここまで動揺するんだろう。
真琴さんの顔が悲しそうに見えたから？
夕日のなかでよりいっそう寂しく見えたから？
夕日？
夕日での約束……。
悲しそうな顔……。
……昔どこかで見たような光景のような気がする。
赤く染まった空に大地？
僕は何を想像しているんだ？
気分が悪くなってきた。
どこだったかは思い出せない……。
なにが起きたのかも思い出せない……。
だけど……とにかく気分が悪い……。
どこかで休みたい。
ふらついた体で目一杯の力を振り絞って家に帰った。
その後のことは余りよく覚えていない、気が付いたら自分のベットの上で寝ていて、起きたら次の日の朝だった。
次の朝、体調は良くなった。
なにか悲しい夢を見た気がするけど気がするだけだと自分に言い聞かせて、学校に行った。
その日の学校帰り、あの公園に行って僕は愕然とした。
そこに真琴さんがこなかったからだ。
考えてみれば、昨日ここに居られるのは今日まだだって言ってた。
そのことを忘れていた。
脱力感とは違うけど、なにかが抜けた気がした。
近くに来た友達が、真琴さんの行き先を教えてくれたけど、どうでもよかった。
しょせん、子供の僕にはどうすることもできないのだから。
それから、冬のような冷たい風が少しずつ変わり、暖かい春が近づいてきた。
そんな日のことだった。
真琴さんが居なくなって以来行かなくなったけど、ちょっと寄ってみたら公園に変化が訪れていた。
男の人が立っていた。
そう。
真琴さんが待ち続けたあの場所に……。
見覚えがある、真琴さんと一緒にいた人だ。
帰ってきたんだ。
でも……。
もう……真琴さんは待っていないというのに……。
なぜ。
なぜもう少し……少しでいいのに、早くあの場所に来ることが出来なかったのだろう。
もう真琴さんは来ない。
どこか別の場所に行ってしまったからだ。
あの人はそれを知らない。
あの人が今まで何をしていたのかは解らないけど、真琴さんも待ってたんだ、あの人も待ち続けて裏切られた真琴さんと同じ思いをすればいい。
いや、真琴さんと同じ思いを味わうべきだ。
それに、真琴さんはもう来ない。
来ないと思えば諦めて来なくなるだろう。
僕はそう思った。
それから、１ヶ月たち、その予想は違うものとなっていた。
もう、真琴さんは来ないというのに、男の人は毎日ここに来て真琴さんを待っていた。
ここまで待っているなら、なんでもう少し早くこれなかったのだろう。
そうすれば、真琴さんもあんなに悲しむことはなかったはずだ。
そう、真琴さんは１年くらいずっと待ってたんだ。
その間ずっと悲しいおもいをしていたはずだ。
だから、待たせていたあの人が待つのは当然で、もっと待ってても、苦しんでもいいはずだ。
そう思うのに、思ってるのに。
なのに……。
なのに、なんでこんなにすっきりしない感じがするんだろう……。
わからない。
その日は、もんもんとしながら家に帰った。
次の日、いつものように僕は公園に行った。
そして、いつものように男の人はあの場所で待っていた。
丁度１年前の真琴さんと同じように桜の中に一人たたずんでいる。
男の人に気になってて余り見てなかったけど、そういえば、もう桜が散ってきていた。
１ヶ月たってるから、散ってきていてもあたりまえかもしれない。
そして、昨日も思ったことをまた考えてる自分がいた。
どんな理由があったにしても、真琴さんはあそこでずっと来ないあの人を待っていた。
そして、あの人が来る前に、あの場所を去って行った。
あの日、悲しそうな顔をしていた真琴さんを今でもはっきりと思いだせる。
それだけ待っていた人の所になんでもう少し早く来ることが出来なかったのだろう……。
そして、どうしてこうもすっきりしない気持ちになるんだろう……。
そんなことを考えていたら時間が過ぎていき、すっかり日が暮れてきた。
約束……真琴さんがそう言っていた最後の日と同じような感じだった。
ただ、あの時と違って桜が咲いているけれど。
桜が咲いている……。
一瞬舞っている桜が雪が舞っているように見えた。
自分の目を疑ってすぐに思いなおしたけれど、夕日に照らされながら舞っている姿は幻想的で、冬に見てきた雪のように見えた。
そんな中を一人立って待っているあの人。
光の加減であの人の顔は見えないけれど、どんな顔して立ってるのだろう。
顔が見えないので、視線をずらしてみたら、あの人の足元に桜の花びらが集まって少し山みたいにできていた。
なぜか……それが何かが崩れた雪のように見えた。
崩れた雪……。
約束……。
約束という言葉に動揺すると共に、落ちている桜の花が夕日に照らされて大地をみて、あの時と同じように赤く染まった大地に見える。
あの時？
あの時とはいつ？
そこでなにがあった？
そう、約束があった……。
交わされた約束。
届かない約束。
届かない想い。
まただ……。
あの時と同じような感じがする……。
また、また気分が悪くなってきた。
やっぱり、何かあったのかもしれない。
何かあったのかもしれないけれど本当に気分が悪い。
ここに居るのは辛い。
でも、何があったんだ？
真琴さんが言っていた約束のこと？
それとも、違う何か？
なんだろう……解らない……。
解らない……。
それより、日も暮れてきたし、今日は家に帰ろう。
家に帰ろう。
帰……。
そこで、僕の意識は途切れた。
夢をみた。
とても悲しい夢を。
夢の中で誰かが、誰かに気持ちを伝えようとしていた。
伝えようとしていた人は、とても必死だった。
なんで必死なのかは解らない。
けど、その伝えたい相手に想いは届かなかった。
そんな、悲しい夢をみた。
気が付いたら、ベットで寝て驚いた。
驚いたのは寝ていたことじゃなくて、寝ていた場所が病院のベットだったってことだ。
あの日、公園で倒れていた僕を誰かが病院に連絡して救急車を呼んでくれたらしい。
余り意識が無くても家に帰れた時もあったのに、今回は家に着く前に倒れて病院に運ばれたみたいだった。
お医者さんが何ともないと言っていたと、お母さんが教えてくれた。
でも、念のためもう一度検査してから退院することになっているみたいだった。
夢で見たことを思い出していた。
誰だったかは思い出せない。
夢の場所もあやふやで、電話で話しながらだったのか、直接会ってのことなのか、とにかくほとんど思い出せなかった。
さらに、その夢に自分がでていたかどうかも解らない。
まったく別な人のことだったかもしれない。
でも、これだけははっきりと覚えている。
想いを伝えられないことは、とても、悲しいことだ、ってことは。
そう、今まで子供だからとか色々と考えていたけれど、今僕に出来ることがある。
それが解ってても気が付かないふりをしていたからすっきりしない気分になってたんだ……。
だったら、どうする……？
伝えよう。
何を？
真琴さんの行く先を。
誰に？
あの人に。
病院のベットで寝ながらそう決意した。
でも、問題がある。
どうやってそれを伝えるか、だ。
一度も話たことはないし、まして会ったこともない。
いきなり話しかけて言って、
「お兄さんが待っている人の居場所を知ってます」、って言っても、初めて会う人にそんなこと言われて信じるほうがおかしい気がする。
それよりも、僕がまだ子供だってことのほうが問題かも。
子供の悪戯と思われることのほうが大きい気がする。
直接がダメなら、電話ではどうだろうか……。
「僕はあなたが公園で待っている人の居る場所を知っています」
って、僕はじゃダメだな。
直接会いに行くって考えた時に、子供だと悪戯だと思われるからダメだと思ったのに、僕は、で話始めたら子供だと思われる。
ここは、僕は、じゃなくて、私は、だ。
「私はあなたが公園で待っている人の居場所を知っています」
……なんだろう、学校の先生が言っていた誘拐した犯人の言葉に聞こえる。
これもダメかな。
それよりも、まず電話番号を知らないな。
電話番号を知らなきゃ電話かけられないよ……。
考えてみれば、名前も知らない。
電話番号自体調べようがない気がする。
電話番号を調べるために、一回会って名前を聞こう……か？
「お兄さんの名前なんていうんですか？」
初対面の子供に名前を聞かれるってのも不自然かも……。
そう考えると、やっぱり直接会ったほうが……。
いや、直接会ったら信じてもらえなさそうだし……。
いったいどうやって伝えれば、本当のことを伝えられるんだろう。
そんなことを考えながら、その日は寝てしまった。
そんなことを考えながら病院での検査も終わり、退院することとなった。
でも、病院に居たことはある意味よかった。
あの人に伝える方法を思いついたからだ。
手紙だ。
手紙を使えば余り怪しまれずに伝えられるかもしれない。
同室に僕よりも早く入院してた人が、手紙を使って知り合いと連絡をとっているのを見たけど、あの方法なら直接会うよりもしっかりと伝えられるはず。
そうと決まれば、さっそく手紙を書こう。
そして、家に帰ってから机とむきあった。
…。
……。
………。
平仮名が多いと子供っぽくみえるから、辞書で調べて漢字を増やそう。
辞書が欲しいってお父さんに言ったら、とても驚かれた……。
……。
まあ、いいや、続きを書こう。
…。
……。
………。
もっと字を綺麗に書いたほうがよさそう……。
本番を書く前に、少しずつ普段の字を上手く見えるように気をつけながら書いていこう……。
でも、どうやったら綺麗に書けるんだろう……。
国語の教科書でも見てみるか。
部屋に来たお父さんが机に座って教科書を見ている僕をみて、本日２度目の驚きをみせた……。
丁寧に病院に行こうかとも言ってくれた……。
……。
余り気にしないようにしよう。
そんなことよりも、手紙だ……。
…。
……。
………。
ああでもない、こうでもないと考えながら下書きを書いていった。
その日のうちに下書きが書き終わることはなかった。
それから、学校でも手紙の内容を考え、先生に怒られながらも何とか内容がまとまった。
さて、本番だ。
学校帰りに手紙も買ってきた。
シンプルなやつだ。
間違えてもいいように、１０枚セットのやつを買ってきた。
準備は万端。
…。
……。
………。
あ、間違えた。
消しゴムで消してみたけど後が残ってる。
あんまりよくないな。
よし、書き直そう。
…。
……。
………。
出来た。
最初下書きを書いていた時の字と比べると上手く書けてるし、漢字も増えてる。
これなら、どっから見ても僕が書いた、子供が書いたとは思わないだろう。
かなりおそくまで掛かった上に、後１セットしか残ってなくてかなり危なかったけど……。
完成したからそれでよし。
後はこれをあの人に渡すだけ……。
そういえば、あの場所に行って大丈夫だろうか……。
あそこはよく行く場所だけど、もう２回ほど倒れかけてる。
というか、１回は倒れてる。
……いや、行くんだ。
このことを知ってるのは僕だけ。
真琴さんは１年間も待ってたんだ、場所を離れたからといってすぐに忘れることができるとは思えない。
それに、あの人だってあの場所でずっと真琴さんを待っていたんだ。
お互いが再開できればきっとうまくいくはずだ。
なによりも、想いが届かないってのは、凄く悲しいことだと思うから。
次の日学校が終わってから、公園に向かった。
そして、公園についた。
あの人は今日もあの場所に立っている。
渡しに行こう、この手紙を。
あの人に近づくにつれて緊張するのがわかる。
しっかりと渡せるだろうか……。
手紙を受けとってもらえるだろうか……。
「こんにちは」
そういって僕はあの人に話しかけた。
話しかけられたあの人は驚いた顔で、僕の顔を見た。
それはそうだろう、いきなり子供が話しかけてくるのだから。
「どうした？」
驚きながらもあの人は優しく返してくれた。
「あの……、向こうで会った人に、お兄さんに手紙を渡して欲しいって頼まれた」
公園の外を指差してそう言った。
「手紙を？」
「うん」
考えたうえの手紙の渡し方は、他人から頼まれた、ということを言って渡す方法だった。
それなら、いきなり初対面の人間から話しかけられても受け取ってもらえると思ったから。
「これを」
そういって、書いた手紙を渡す。
「ありがとう」
渡した後、男の人は手紙の中身を読み始めた。
−はじめまして。
−これを読んでるということは、あなたの手にこの手紙が渡ったんですね。
−一安心です。
手紙を読み始めたあの人の顔を見る。
真剣に読んでいる。
−落ち着いて読んでください。
−あなたが待っている人が今居る場所を知ってます。
僕が渡したけれど、僕が書いたと思われないだろうか。
それよりも、悪戯だと思われないだろうか。
−なぜ、このようなことをしたのかと疑問に思うと思います。
−私はこの１年間、あなたの今居る場所でずっと待っていた人を見てきました。
−誰を待っているのか解りませんでしたけど、あの人はずっとここで待っていました。
−ここに居られる限り。
字の使い方は間違っていないだろうか。
子供の字と思われないだろうか。
−ずっと一緒の場所で待ってるということは、余りいい噂がたたないもので、中には酷いことを言う人も居ました。
−そんな中、彼女を守ってあげようと思っても、私はなにも出来なくて、とても無力でした。
−それでも、彼女はあなたを待ち続けました。
真剣に手紙を読んでいる。
表情を見逃すまいと僕も真剣に見ていた。
−そして、彼女は去りましたが、その後にあなたが来ました。
−正直に言うと、最初は、ずっと待っていた彼女と同じように待ち続ければいいと思うときもありました。
−それに、来なければ諦めるとも思ってました。
−けれど、あなたは待ち続けた。
なによりも、真琴さんがどれだけあなたを待っていたかが伝わっているだろうか。
−だから、伝えます。
−彼女が行った場所を。
−そこに行って、自分の想いを彼女に伝えてください。
−彼女の行った場所は……。
今はもう、目が動いていない。
ということは、文を読んでいないということだと思う。
読み終わって何を考えているのだろう。
「君」
あの人は突然話しかけてきた。
「え？ な、なに？」
いきなり話しかけられて驚いたけれど、なんとか返すことが出来た。
「君に手紙を渡して人をまだ覚えてるかい？」
なにを言い出すのだろう……。
とにかく答えないと。
「うん、まだ覚えてるよ」
覚えてるも何も、書いたのは僕だから。
「それじゃ、その人に会ったら伝えて欲しいことがある」
伝えて欲しいこと？
「うん、解った」
あの人は、にっこりと微笑んだ後僕に言った。
「彼女の行き先を教えてくれてありがとう。
俺は今からあいつを追いに行きます。
たとえ彼女に断られても、俺の想いをしっかりと伝えに行って来る。
多分ここには戻ってこないと思うから、言います」
「今まで俺の変わりにあいつを守ってくれてありがとう」
あの人は、真剣に僕の顔をみてそう言った。
伝わった。
僕が言いたいことが伝わったと思った。
「うん、わかった。
絶対に見つけて伝える」
「よし、男と男の約束だぞ」
そう言って、あの人は僕の手をとって手を握らせた。
その後に、自分も手を握ってお互いの拳をこつんと合わせた。
そして、あの人は夕日に照らされた桜散る中、走って行った。
気が付いたらもう夕方で気分が悪くなった時と同じような感じだったけれど、不思議と前みたいに気分が悪くなることは無かった。
あの人は、真琴さんの居る場所に向かっている。
僕はここまでしか出来ない。
あの人は、もう帰ってこないと言っていた。
だから、どうなるか解らない。
解らないけど……、届け……、届け、この想い。
そして、十年の月日が流れた。
俺の想いは……届いた。
今ヴァージンロードを歩いている２人はあの２人だ。
十年ぶりだけど、しっかりと覚えてる。
今になって考えてみれば、あの時いくら頑張っても、字とかを大人っぽくみせるのはかなり難しいはず。
ということは、あの人は気づいていたのかもしれないな……。
本当に見ていたのは、手紙を書いたのは俺だってことを。
だから、旅立つ前にあそこまで真剣な顔で言ったのかもしれない。
本人に聞かないと解らないけど。
ここであの２人のしかも結婚式を見れたのは物凄い偶然というか奇跡に近いけれど、少年時代の俺の想いが届いたのがしっかりと解ってとても良かった。
２人の姿と見ながら、おめで……。
「ー！？」
声にならない痛みを太ももに感じた……。
かなり痛い。
「ー」
「え？ じっと花嫁を見てなにしてるんだって？」
どうやら、結構な時間あの２人を見ていたらしい……。
少しの間なら結婚式だね〜という感じで終わったのだけど、見ている時間が長すぎて隣にいる彼女が不信に思ったようだ……。
その不信な思いが、今の太ももへのつねりになったのか……。
「いや、見惚れてたわけじゃないぞ」
「ー」
そのことに、俺の彼女はご不満らしい……。
「いや、本当だって……。
少し綺麗だな〜とは思ってたけど」
「ー」
「そんな風に見えてるように見えたのか？
まあ、結婚式だし少しぐらいそんな感じで見てもいいんじゃない？」
と言って、また結婚式に顔を向ける。
「ー」
「へ？
もう知らないって……。
おいおい、結婚式に焼きもちやくなよ……」
本当に知らない、そい言いながら彼女は先に行ってしまった……。
また式に目を向けた俺に対してかなりのご立腹のようだ……。
ち、しかたない。
結婚式に焼きもちやくこももないだろうに……。
とは言ったのもの、早く追いかけないとな。
２人の想いは届いたけど、今度は俺の想いが彼女に届かなくなったら困るからな。
さて、追いかけるか。
でも、その前に、もう一度だけ２人のほうを向いた。
そして、心からおめでとうを言った。
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